大したことのない?スキル群
「はぁ…………」
「レ、レイ君!元気だそ!ね?」
本日2度目の期待外れ。
結果だけで言えば魔法を使うことは出来た。
但しまともに発動出来たのは中級魔法まで。
それ以降の魔法はティルファさん曰く、
「レイ君は元々が剣聖……魔法にあまり適性のない剣士が職業として魂に刻み込まれているからちょっと難しいのかも……」
とのこと。
一応能力のおかげで上級魔法以降の魔法を発動することはできる。
でも、その魔法の威力・効果は本当に扱える者に比べて格段に落ちている。
例えば前に僕がリシェンに使おうとした炎皇の舞い。
これは最上級魔法で、その威力は自身を中心に直径30mの範囲にあるものを焼き尽くすというもの。
しかし僕がこれを改めて使ってみたら、焚き火に風が吹いてちょっと火の粉が舞うくらいの威力しか発揮できなかった。
他にも詠唱が面倒だった古代魔法。
その中でも特に魅力的だった時間停止の魔法。
試しに使ってみたが、本当に使ったの?
というくらい短かった。
多分0.1秒以下。
下手をしたら0.0001秒以下かもしれない。
にも関わらず魔力の消費量は異常なまでに膨大で、たった一度使っただけなのに魔力が底をついてしまった。
正直使う意味のない魔法。
それどころか使うことで命の危険にもなりかねない。
こうして体験したことで初めて理解できたのだが、小説等でよく描写をされている「魔力が尽きたら倦怠感に襲われてしまう」というのは本当のことのようで、例えるならインフルエンザにかかった時の数十倍の怠さ。
倦怠感とかそんな生易しいもんじゃない。
魔力を使いきってしまったことを後悔した程だ。
それどころか唐だの怠さだけで死んでしまうのではないかと憂いもした。
とにかく酷かった。
もし、僕に神の寵愛の能力が無ければ今頃自殺を図っていたことだろう。
……まぁとにかく僕にとっては魔法はロマンでもなんでもなく、自らの首を絞めかねないことだということが分かった。
魔法に特化した訓練をすればいいのだろうけどそこまでして欲しいものではなくなったからなぁ。
そんな感じで僕の魔法デビューは残念な結果として終わった。
「もういいです。魔法にはもう興味が無くなったので。次の能力にいきましょう」
「う、うん!そうだね!」
さて次はと。
この創造者の能力が気になっているんだよな。
世界の理に反する物質を精製可能って。
どんな物質だ?
「ティルファさん、世界の理に反する物質ってどんな物のことか分かりますか?」
「世界の理に反する物質……?ごめん。私じゃちょっと分からないかな。ペガサス支部にその手の話に詳しい人がいるから明日案内するよ」
なるほど。
ならこれと錬精術士の能力は保留だな。
効果を見た感じ併用して使うのが正しそうだし。
それなら後は……大切断だな。
「ティルファさん。この近くに大きな岩とかある場所ってありますか?」
「うん。あるよ。ついてきて」
僕達が居たところから数分歩いた場所に、僕が求めていた大きさの岩が陳列していた。
大きさは横に2m弱、縦に4m弱。
能力を試すのに申し分のない大きさだった。
ついでに他の能力も試してしまおうか。
職業能力と称号能力にある剣聖の能力。
前者は剣の重さが無効になるというもの。
後者は剣の耐久性が無限になるというもの。
実のところまだ僕は剣というものを持ったことがなかった。
リシェンの時に装備していたのは刃が少し長い短剣で、これはどうやら剣と認識されることがなく、分類的にはナイフに入るようだったのでその効果がちゃんと発動することはなかった。
だからそれも確かめておかなければいけない。
「何度もすみませんが、古いボロボロになった剣を持ってはいませんか?」
「私は持ってないけど、多分そこら辺に落ちていると思うよ。元々この付近はは王国の戦士の訓練場だったから使えなくなった剣がどこかに……あ!ほら!レイ君の足下!」
「ん?」
ティルファさんに言われて足下を見てみると、確かに剣の切っ先のようなものが地面から飛び出ている。
僕は魔法を使い、回りの土を除去してから埋まっていた剣を掘り起こす。
…………うん。
見事なまでにボロボロだ。
刃は錆び付き、ギザギザに欠け落ち、柄にはヒビが入り、持っただけで壊れそうだ。
「でもそんな剣何に使うの?」
「剣聖の能力に剣の重さを無効と剣の耐久性を無限大というものがあるんです。それがどのくらいの効果で発動するのかを確かめたくて」
因みに職業能力の方の剣聖の効果はちゃんと発動しているらしく、手に剣を持っている感触は確かにあるが重さはまるでない。
本当に持っているのか心配になるくらいだ。
なんとも言えない不思議な感覚だな。
とりあえずこっちの能力は問題ないとして、称号能力の方かな。
まずは大切断を使用せず、剣を大きく振りかぶって岩に斬りつけてみる。
「せぇのっ!」
「……え?」
「え?」
カキーンという剣が岩に弾かれた甲高い音が響き渡る。
……と、思っていたのだが僕の予想に反してそのような音が響くことはなかった。
代わりにズズズズズ……ズドン!
という岩が真っ二つに切断されて倒れる音が響いた。
大切断。
どうやら任意で発動する能力ではなく自動で発動する能力のようだ。
一定確率で発動とはあったがまさか一発目から発動するとは……
「…………!?」
ティルファさんも何が起こったのかまだ理解できていないようで、呆気に取られている。
まぁ、そうだよな。
あんなボロボロの剣でここまで見事に岩が割れるとは思えないからな。
切断面を見てみると、完璧な平らで触ってみた感じ岩の感触はない。
むしろスベスベで気持ちいいくらいだ。
でもこれじゃ残りの剣聖の能力が分からないな。
もう一度岩を剣で斬りつけてみる。
次はカキーンという音がちゃんと鳴り響き、岩はびくともしなかった。
ほんの少し。
ほんの少しだけ岩が欠けたような気がする。
もう一度やってみよう。
カキーン。
もう一度。
カキーン。
もう一度。
カキーン。
岩は少しずつ欠けていっているが、剣の方は特に欠けた様子はない。
元々がボロボロなのでなんとも言えないが、ここまで古いと流石に折れてもおかしくはないと思う。
剣の耐久性が無限ということは、多分剣が傷つく・壊れることはないという解釈で間違いないのだろう。
一応最後の確認の為ティルファさんに斬りつけてもらおうと剣を渡したその瞬間、刃の部分がパッキリと折れてしまった。
「あ、あ、……ごめんなさい!」
「謝らないで下さい!なんとなくの予想はできていたので」
確かにボロボロの剣でも「僕が持っている間」はどんなに雑な扱いをしても壊れることはないのだろう。
でもそれはどうやら持っている間だけの効果のようで、手放したらその効果外になるようだ。
しかもその間に受けた衝撃・ダメージなどはそのまま剣に蓄積され続け、元々の剣の耐久力をオーバーしていたら今回のように壊れてしまう。
欠点、のように思えるが考えようによってはこの効果は使えるかもしれないな。
「でもこれで大体の能力の確認が終わりました」
駆け出し勇者やVS魔族は魔物が居ないと試すことはできないし、そもそも何を持ってして何倍と決めるのかが分からないから確かめる必要はなし。
勇者の能力は今は確認出来ないから保留。
乱獲者の能力も次に魔物と戦うときには分かるだろうから保留。
それと同じく精霊皇の加護も保留だな。
ティルファさんに魔法か何かで僕を攻撃してみてもらえばすぐに分かるのだろうが、わざわざ自分を傷つけたいと思う程僕はマゾじゃない。
戦闘中に攻撃を受けてしまった時に検証してみるとしよう。
そして母親の知恵はそもそも戦闘に使用する能力じゃないから保留。
野戦の時とかには使うことになるだろうから今日の晩にでも試してみよう。
「となると残りは……」
未知の侵略者。
ブラックホールが出現するという一番自爆臭のある能力。
改めて使うとなると尋常じゃなく怖いな。
ブラックホールだろ?
周囲の物、消滅したりしないのか?
使った本人に被害が及んだりしないのか?
…………。
いやでもこれまでもチート能力とかなんとかいいながらあんまり大したことなかったし、案外これも大したことないんじゃないか?
名前だけ名前だけ。
ちょっとだけ強い普通の能力。
…………。
「レイ君?大丈夫?顔がちょっと青ざめてるよ?」
「……多分」
なんだろう。
本能がこの能力を使うことを拒否している。
冗談無しにヤバイ気がする。
…………。
「…………ティルファさん」
「ん?何?」
「逃げて下さい」
「え?」
「多分これから僕が使う能力は今までの能力とは比べものになら程に強力です。もしかしたら、関係のないティルファさんにまで被害が及ぶかもしれません」
「使ったことは、ないんだよね?」
「使ったことはありません。でも本能が危険だと告げているんです」
多分、じゃない。
もう確信をしている。
この能力は危険だ。
範囲が分からない以上、できるだけティルファさんを遠ざけるのが最善だろう。
幸いこの山岳の近くには建物はない。
人が住んでいる気配もない。
最悪何が起こっても人的被害だけはないだろう。
「……分かった。なら私は先にギルドに帰っているね。でも、無理はしないで。あんまりにも危険そうなら別に試す必要なんてないからね」
「はい。ありがとうございます」
「うん。それじゃあまた後でね」
☆★☆★☆
ティルファさんに帰ってもらってから凡そ一時間。
ここに来るまでが30分近くかかったから多分もう安全な場所にはいるだろう。
…………。
心なしか能力からピリピリと威圧感を感じる。
この不安が気のせいであればいい。
超新星爆発のように不発でもいい。
それならそれで、何も問題はない。
周りに被害を及ばさないうちに、後悔する前に試してみよう。
「未知の侵略者!」