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受注期限の切れたクエスト

 ~世界連盟勇者斡旋ギルド・ペガサス支部~


「こんにちは」


「ん?ティルファじゃないか。久しぶりだな」


「お久しぶりですローグさん」



 このペガサス支部と呼ばれるギルドは前のグリフォン支部に比べてやや小さい。

 内装はあまり違いがないが、見た感じどうやら主に職員に違いがあるらしい。

 あの忌々しい受付嬢を初め、グリフォン支部は女性の職員が多かったが、ここではその逆に男性の職員の方が多いみたいだ。

 事実この支部の受付は全員男性であり、目につく限りの職員を見たら女性の職員は一人か二人だ。

 何か理由があるのだろうか?

 もしかしたら偶々かもしれないが、そのうち聞いてみるのもいいかもしれない。



「何かクエストを受けにきたのか?それならお前に丁度良いのがあるんだ。最近また近くの霊峰で―――」


「ごめんなさい。今日は私じゃなくて、レイ君のクエストを手伝う為に来たんです」


「レイ君?」


「初めまして。一週間程前にこの世界に転生してきたレイ=キリサトと言います」


「ほぉ……新しい転生者か。俺の名前はローグ・アウグスト。よろしくな」


「はい。こちらこそよろしくお願いします」



 こうして簡単に挨拶を交わしてみた限り、悪い人ではないように思える。

 少なくともあの受付嬢みたいに人を陥れるような卑劣な人間ではないだろう。

 それになんか、凄いオーラ?存在感?を感じる。

 



「おう。ところでお前が所持している能力スキルはどんな感じなんだ?転生者なら、中々に面白い能力スキルを持っているんじゃないか?」


「そう…ですね。基本的には戦闘向きみたいです。まだちゃんと使えてないのでなんとも言えないんですけど」


「ちゃんと使えてない?能力(スキル)の使い方が分からないのか?」


「あ、いえ、使い方は分かるんですけど能力(スキル)を敵に使おうとしたら能力封印(スキルブロック)をされてしまいまして。それでどんな能力(スキル)なのか確認しようにも、ちゃんと把握してないのに適当に使って無駄な被害を出したくなかったのでまだ確認が出来てないんです」



 特に未知の侵略者。

 能力の説明を見るとブラックホールが出現って書いてあったな。

 ブラックホールってあのブラックホールだよな?

 光をも飲み込む超重力の天体。

 あの時はかなり焦っていたから何も思わなかったけど、そんなものが本当に出現していたら僕自身も危なかったんじゃないか……?

 ざっくりとした説明しかないから何も分からないんだよな。



能力封印(スキルブロック)って、あれはそこら辺の魔物には使えない能力(スキル)だぞ?まさか転生一週間目で聖魔混沌騎士団(カオスドール)に挑んだのか!?」



 今回は能力封印(スキルブロック)のおかげで何事もなく終わることができたが、もしも使用できていたらどうなっていたか分からないな。

 勿論だからと言って僕を陥れた受付嬢に恨みがないわけじゃないが。

 何が楽勝だ。

 まだ、もしかしたらあれが普通なのかもしれないという考えはよぎっていたが、ローグさんの反応を見てそれが確信に変わった。

この驚きようは間違いなく普通ではない事のようだ。

 あの受付嬢……

 次に会ったらティルファさんの制止を振り切ってでも全ての能力(スキル)をぶつけてやろうかな……?



「あの、ごめんなさい」


「別に謝ることじゃないけどよ、命が惜しいならもう少し経験を積んでからにしておけ。それかせめて「アンチ系」の能力(スキル)を会得してから……ん?それじゃもしかしてそれが目的で来たのか?」


「そうなんです。もしここにアンティノイド討伐・捜索のクエストがあれば受注させてもらおうと思いまして」


「なるほど。それなら是非ともクエストを受注してもらいたいところなんだが、生憎今はアンティノイド関連のクエストは依頼されていないんだ」


「そう、ですか……」



 やっぱりそんなに上手くことが運ぶ訳がなかったか。

 まぁまだ最初のギルドだし、少々遠いが他のギルドを回ってみたらあるかもしれない。


 そうしてペガサス支部を後にしようと退室しようとしたらローグさんに呼び止められた。



「あ、いや!ちょっと待て!前に確か……おーい!サクラギ!聞きたいことがあるんだが!来てくれるか!」


「どうかしましたか?」


「このクエストって今どうなってるんだ?」


「どうなっているとは?」


「このクエスト、もう随分と前に受注期限が切れているよな?でもここにあるってことはまだ未達成なんだろう?」


「そうでしょうね。それがどうかしましたか?」


「こういう受注期限が切れたクエストを受注させた場合、どうなるんだ?」


「どうなるも何も、何もありませんよ。受注期限が切れている以上ギルドから何かを支援することはありませんし、そのクエストを達成したからといって報酬が出るわけでもありません。正直やるだけ無駄なクエストです。基本的にはそのまま放置ですね。わざわざ命の危険を侵してまで何の利益もないクエストを受注する人は居ませんし」


「そうか。ありがとな」


「いえ。それでは」


「…………だ、そうだ。それでどうする?このクエスト、受けてみるか?」



 ローグさんが取り出した張り紙にはこう書かれている。


『己の力に自信のある勇者・冒険者を急募!職業、能力(スキル)は問いません!近くの洞窟にアンティノイドという魔物が住み着いておちおち外に出ることさえできません!どなたでも構いませんのでどうか討伐をよろしくお願いします!』


 ランクと報酬金が書かれていないのは多分受注期限が切れているせいだろう。

 一応聞いてみるか?



「本来ならこのクエストってどのくらいのランクでどれくらいの報酬金が支払われる予定だったんですか?」


「ランクはAA(ダブルエー)だな。報酬金は金貨100枚くらいだ」


「金貨100枚!?草王リシェンの10倍じゃないですか!?」



 まさかあの受付嬢報酬金を横領して……

 あいつならやりかねない。



「ん?あぁそんなもんだぞ。草王リシェンは討伐の方法がちゃんと確立されてからは勇者じゃなくても上位の冒険者なら簡単に討伐できるようになったからな。最初こそ金貨1000枚超えのクエストだったらしいが、簡単に討伐されるようになってからは本部の方も草王リシェンを驚異的な存在として見なくなって、それに比例して報酬金も下がっているんだ。討伐されるごとに報酬金が下がるから、多分次は更に減っていると思うぞ」



 なんだ。

 横領したわけじゃないのか。

 もしそうならそれを理由に合法的に罰を加えることができたのに。

 残念だ。



「勿論草王リシェンに限らず、本部が驚異的ではない、あまり必要ではないと判断されたクエストは報酬金が下がっていく。最悪世界連盟勇者斡旋ギルドから冒険者向けの下部のギルドへ流れていくな」


『クエェェェェェ!!!!』


「ん?」


「噂をすればだな」



 鷲のような大きな鳥が紙の束を運んできた。

 なんだこれ?



「なんです?これ?」


「ちょっと待てよ…………ほら。これを見てみろ」


「?」



 ローグさんに渡された紙に書いてあることを読んでみる。

 そこには、


『本日未明、草王リシェンが討伐されたとの報告がありました。これまでのパターンより、草王リシェンが復活するのは約2ヶ月後、復活地点は魔瘴(ましょう)草原付近であると予想されています。報酬金は金貨3枚。各ギルドマスターは1ヶ月後に依頼書を張り出して下さい』


 僕が……ティルファさんが倒したリシェンのことが書かれていた。

 確かに報酬金が下がっている。

 だけどここまで報酬金を下げて受注する勇者はいるのだろうか?

 最悪下部のギルドにクエストが流れると言っていたが、流石に聖魔混沌騎士団(カオスドール)のクエストは流れないだろう。

 ある程度力をつけた人なら簡単に討伐できるとはいえ、今の僕のように完全な未熟者では敵わないからな。



「情報が早いんですね。リシェンを倒したのはついさっきの話ですのに」


「今のこの世界、如何に情報を早く入手してそれを他のギルド・王国等に伝達できるかが重要になっているからな。3年程前にも情報さえ手に入っていれば救うことのできた王国が滅亡してしまったしな。それ以来情報伝達は更に迅速に強化されたよ」



 情報が重要視されているのは現代日本と一緒か。

 でも、その意味合いは天と地程の差がある。

 ローグさんはさらっと流したけど王国1つが滅亡するのはかなりの大事件だ。

 僕もその辺の意識をもっと強く持った方が良さそうだな。



「……ふむ。後はどれもそこら辺に巣食う上級魔族の討伐依頼ばかりだな。っと、話が少し反れたがどうする?報酬金も援助も何もできないが受けてみるか?」



 そんなの考えるまでもない。

 折角のチャンスなんだ。

 それを逃すわけにはいかない。



「勿論です。是非とも受けさせて下さい」


「分かった。ただ何度も言うようにギルドからは何も出ないぞ。それにお前が勇者だからといって、アンティノイドは簡単に討伐できるような魔物じゃない。聖魔混沌騎士団(カオスドール)に匹敵はしないまでも、それに近い力は持っている。命の危険があることもちゃんと考慮して欲しい。それでも受けるか?」


「構いません」


「ティルファも同じ考えか?」


「はい。私はレイ君がそれでいいと言うのなら問題ありません。是非ともそのクエストを受注させて下さい」


「よし。分かった。それなら受注の許可を出そう。ただ期限切れのクエストは本部の方に申請書を出さないといけないから明日またきてくれ。それまでは装備を整えるなり、出発の準備をするなりしていてくれ。このクエストの場所が……あった。この地図を持っていけ。丸で囲まれている所が討伐依頼があった洞窟だ」



 場所はここからあまり遠くないのかな?

 地形が分からないから何とも言えないが、多分地図の中央にあるのがペガサス支部で、左上の一番隅っこに丸してあるのがその洞窟なのだろう。

 地図上は近く見えるが、実際の距離がどれくらいか分からない。

 地球みたいに縮尺なんかは当然書いてないし。

 多分歩いて行くことになるだろうから距離はちゃんと把握しておきたいな。

 後でティルファさんに聞いてみよう。



「ただし、1つだけ言わせてくれ」


「なんでしょうか?」


「受注期限が切れている以上その場所に行ってもアンティノイドはもうそこには居ないかもしれない。もし、そこに居なくてもそれはしょうがないと思って諦めてくれ」


「分かりました」


「まぁもし本当に居なければまたここに来てくれ。ここに依頼がなくても他の支部には依頼があるかもしれないからな。一応お前達が行っている間に俺の方でも聞いてみるよ」


「ありがとうございます」


「何、気にするな。魔物は少しでも少ない方がいいし、若い奴にはドンドン強くなってもらわなければな!俺も仕事があるから、また明日の昼にでも来てくれ。それじゃあな!」



 ☆★☆★☆



「ペガサス支部の受付の人、いい人ですね」


「うん。私がこの世界に来て間もない時から親切にしてもらってる。信頼できるいい人だよ。それにね、あの人ただの受付じゃないんだ」


「どういうことです?」


「実はね、ペガサス支部のギルドマスターなの」


「ギルドマスター!?ギルドマスターって、そのギルドで一番偉い人のことですよね?」


「そう。それも各支部のギルドマスターの中でも1、2を争う程の実力者。昔は王国の騎士団に所属していたらしいんだけど、なんか肌に合わなくて転職したみたい。因みにレイ君と同じ転生勇者だよ」



 なるほど。

 納得がいった。

 僕があの時感じたオーラはそのせいか。

 ギルドマスターって。

 それも各支部で1、2を争うなんて相当な実力者じゃないか。

 もし機会があれば是非とも僕に稽古をしてもらいたいな。



「そうだったんですね。初めてあったときに凄いオーラを感じたのでただ者ではないと思っていましたけど……でもあれ?転生者って転職することって出来ましたっけ?」


「基本的には就けるよ。ただ、レイ君みたいに転生した時点でその職が魂に刻まれている人は出来ないみたいだけど」


「あ、そうなんですね」


おい……なんだそれは。

僕が知ってる情報となんか違うじゃないか。

出来るのかよ。

転生者の転職って。

しかもここでも分かれるのかよ。

職業が魂に刻まれている転生者と刻まれてない転生者って……

 どうやら本当に僕は主人公属性が無いらしい。

転職すら叶わないとは。

 いや、わざわざ別の職業に就こうとは思わないけどあれでも嫌気が差した時に1つくらいは逃げ道が欲しいじゃん。

 それさえも与えられないってどういうことだよ。

 死ぬまで戦って下さいってか。

 そうですか。



「……レイ君なんかいじけてる?」


「あ、いえ!そんなことはありませんよ!ちょっと考えごとをしていただけです!」



 危ない危ない。

 折角頑張るって決めたのに早くも心が折れるところだった。

 てか折れてた。

 まだちょっと情緒不安定だなぁ……



「……?ならいいんだけど」


「はい。すいません。……それでこれからは特に何もやることはないんですよね?」


「うん。そうだね。何かやりたいことがあるのかな?」


「自分が所持している能力(スキル)の効果をちゃんと把握しておきたいのでちょっと立ち会ってもらえないかなと」


「勿論いいよ。どんな能力か分からないと不安だもんね。それならいい場所があるからそこでやろっか」


「お願いします」

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