とある洞窟にて
「うっ………あぁ……おぅっ………えぇ…………!」
ジャルグーン樹海に数ある洞窟のうちの1つで、レイは嗚咽を漏らしその場に四つん這いになっている。
そしてそんなレイを介抱しようとティルファは背中をさする。
「わーーー!?大丈夫レイ君!?ごめん!えっと、えっと!」
ティルファの使用した魔法、身体之極化は身体強化の魔法の中でも最高位に位置する最上級魔法である。
その効力は絶大で、たった10数分程度しか効力を発揮出来ないものの、視力・聴力・握力・脚力・腕力・思考などその他全ての身体能力を自身の限界にまで引き上げることができる。
これにより爆発的な脚力を得たティルファはレイが未知の侵略者で空けた魔物の壁の穴をレイを担いで突破し、全力で樹海を駆け抜けこの洞窟へと身を潜めたのだ。
「治癒魔法は得意じゃないんだけど………木々の音を聞け。その身を自然に委ねたまえ。酔覚!」
しかし、安全な場所に身を潜めたまでは良かったがその道中にレイは深刻なダメージを受けてしまう。
それは急激な加速移動による体にかかるG、つまり重力だ。
ティルファは身体之極化によりその程度の重力などかかってないも同然だが、レイは違う。
完全に生身の状態で強いGを全身で受けたのだ。
それも魔力全消費による満身創痍のままで。
………酔ってしまうのも無理はない。
「お、おぉぉう………………ぅふっ………!」
「ホントにごめんね!?そこまで頭が回らなくて!」
ティルファの酔覚にあまり効果はみられず、未だ辛そうに嗚咽を漏らしている。
悲惨である。
「ティル、ファ、さん」
「なに!?大丈夫!?」
「次は前もって言ってくれると、助かり、ま………」
それだけ言うとレイは意識を失い、倒れてしまった。
「レイ君!レイ君ーーー!!!」
☆★☆★☆★☆★☆★
「ごめんね!ホントにごめんね!!!」
「気にしないで下さい。ティルファさんの魔法がなければ今頃無事で済んではいなかったでしょうから。ありがとうございます。助かりました」
レイが目を覚ましてからティルファはずっとレイに謝っていた。
先のジャルグーンマンの一件然り、またレイに迷惑をかけてしまったと思っているからだ。
しかし、当然レイはそんなことを気にしない。
確かにあの酔いは堪えがたい辛さではあったが、ティルファの魔法がなければ死んでいたのは事実。
だからそれに対して感謝こそすれ、文句を言うつもりなど毛頭ない。
レイはティルファに何度も気にしないで下さいと言い、なんとかティルファをなだめる。
「ふぅ………それでティルファさんのあの魔法は何だったんですか?」
「えっとね………」
一息付くとレイはティルファの使用した魔法に興味を持ち、尋ねてみる。
ティルファは身体極化のことを説明する。
「………なるほど。でも、そう言えばティルファさんの職業って何なんですか?剣を持っているから僕と同じ剣士なのかと思いましたが、最上級魔法を使えるのならただの剣士ではないですよね?」
「あれ?レイ君には私の職業が何なのか言ってなかったっけ?」
「………多分。聞いた覚えがないですね」
「あ、そうだっけ?なら改めて紹介させてもらうね。私は魔導剣士っていう剣士と魔法使いを足して2で割ったような職業に就いているの。
剣士でありながら魔法も使える少し珍しい職業なんだけど、最初から剣士として剣術を、魔法使いとして魔法を自分の専門となる力を磨いてきた人には敵わないちょっと中途半端な職業なの。それでも使い勝手はいいからわりと気に入っているんだけどね」
魔導剣士というのは剣士でありながら魔法を使える珍しい職業の1つである。
レイが剣士でありながら、能力により魔法を連発している為何も知らない人が見たら大したことではないように見えてしまうかもしれないが、実際には違う。
ティルファは謙遜するようにああ言ったが、普通の魔導剣士が扱える魔法は精々中級魔法まで。
良くて上級魔法だ。
能力無しに最上級魔法まで使える魔導剣士はこの世界に5人居るか居ないかというぐらいに稀有なのだ。
本来最上級魔法は才能だけで習得出来る力ではなく、限りない努力を積み重ねた者のみが扱うことの出来る至高の魔法である。
このことからティルファが如何に厳しい鍛練を積んできたのかが伺える。
「魔導剣士か………他にも僕が知らないような職業は沢山あるのかも知れませんね」
「あると思うよ。私だってまだ把握しきれてないもん。100を過ぎた辺りから数えるのを止めちゃってそれ以来数えてないんだ」
あはは、とティルファは笑う。
とは言えその数多くある職業全てが実用化され、多くの人がその職についているわけではない。
大体20前後の名の知れた職業の1つに就く者が主であり、その他80近くの職業は誰も見向きもしない人気も意味も無い残念な職業が殆どである。
稀にそんな職業に興味を持ってその職業に就きたがる物好きもいるのだが、剣士や魔法使いといったようにこの世界で主流となっている職業に就いている者のように活躍することはまずない。
もしもそんな者が出てくれば英雄扱いされるぐらいには生きていく上で困難で、力の無い職業ばかりなのだから。
俗に言うたった一度しか無い人生の縛りゲーと言うやつである。
「そんなにあるんですね………。そんなにあるのなら僕もその中から自分に合った職業を選んで修行を積み重ねて行きたかったです」
「レイ君は初めからある程度肉体が出来上がっている転生者だからね。こればっかりはどうしようもないよ。あ!でも、この世界のどこかには自身の職業を変えることが出来る神秘の宮殿があるって伝説があるよ」
「○ーマ神殿ですか?」
「ダー○神殿?いや、名前は聞いたことがないけど古代の文献にはそんな場所があったって記されているんだって。伝説だからあまりあてにならないけど、本当に自分の職業が嫌になったらその宮殿を探す旅に出てもいいかも知れない。今も実際にそこを探している民間の冒険者や調査団とかいるくらいだし」
そんな伝説が残っているのかと考えるが所詮は伝説。
地球に比べるとその伝説の信憑性は高いのかも知れないが、別にそこまで自分の職業が嫌なわけではないので探しに行こうとは思わない。
ただ、自分がちょっとショックを受けているのを見て、ティルファさんが自分を慰めようとしてくれたということは素直に嬉しかった。
やっぱりいい人だなとレイは思う。
「そうなんですか。なら、魔王が倒されて世界に平和が訪れる日が来たらその宮殿を探しに出るのもいいかも知れませんね。………その為にもワラリアを探して早く帰還しましょう」
「うん。そうだね。でも、探しに行くのはまた明日にしない?」
「え?」
「ほら。外」
ティルファに言われて外を見てみると、辺りは既に日が落ち、暗くなり始めていた。
これでは確かに外に出るのは危険だなと判断する。
「何時の間にかこんなに日が落ちていたんですね」
「うん。夜は魔物の凶暴性が増すし、視界が悪くてロクに戦えたものじゃない。レイ君さえ良ければこの洞窟で今日は野宿にしようかなと思うんだけど……どうかな?」
「僕は大丈夫ですけど……!?ティルファさんこそ大丈夫なんですか!?」
「あはは。そんなに慌てることじゃないよ?私だって何度も野営や野宿は経験したことがあるし、慣れっこなんだから」
(そう言う意味で言ったんじゃないんだけどな………)
レイはこんな暗いところに若い男女が二人きりになるのはマズイのではないかと言いたかったのだが、どうやらそれはティルファには伝わらなかったらしい。
と言うのもこの世界でもティルファの居た世界でも日本にあるような貞操観念は存在せず、そのようなことが決して珍しいわけではないのだ。
それが故にティルファは普通にここで一緒に野宿をしようと言ったのだが、如何せんレイも元は健康な男子だ。
綺麗な女性と暗く狭い所で二人きり。
良からぬことを考えてしまうぐらいには盛んである。
レイはこの雑念を消そうとティルファから少し距離を置く為に、洞窟の奥へ一人で探索をしに行くことを提案する。
「あの、ティルファさん」
「ん?何かな?」
「僕思ったんですけど、この洞窟ってまだまだ奥に進めそうですよね?もしかしたらこの奥に何か野宿をするのに役立つものがあるかもしれませんし、ちょっと見てきますね」
「あ、それなら私も行くよ」
「いえ!ティルファさんはここに居てください!」
ビシッと手のひらをティルファに突きだし、絶対に来ないで下さいと意思表示をする。
それに対してティルファは少し驚き、ビクッと体を震わせる。
何故かレイが必至になって自分一人で行くので大丈夫です!と言わんばかりの強い意思を感じとったからだ。
「さっきのジャルグーンベアーじゃありませんが、この洞窟を棲みかにしている魔物が居ないとも限りませんし、その魔物が中に入ってきて、僕達二人が奥に行っていたら敵の縄張りで苦戦を強いられることになるかもしれないでしょう?だからティルファさんはここで見張っておいて下さい。それにここまで走ってくるのに疲れたでしょうからゆっくり休んで探索は僕に任せて下さい」
レイの言い分は少し無理があるのではないか?
と、ティルファの頭をよぎったが、レイの言う通り身体極化による負荷で体に倦怠感を覚えていたのも事実。
ティルファはここで見張っているから安心して探索してきてねと言う。
「ありがとうございます。一応入口に魔法を張っておきますね。……助けてくれ。私はまだ死にたくない。おぞましき環境、おぞましき怪物、私が何をしたと言うのか。私はただただ、平穏に暮らしたかっただけ。せめてどうか、一時の安らぎを私に与えたまえ。遮絶界!」
「?」
レイは洞窟の入口に向かい、魔法を使用する。
しかし、何か変化が現れたわけではなく、洞窟の入口は先程と変わらずそのままだ。
ティルファはレイが何をしたのか分からず首を右に「ん?」と傾げる。
今レイが使用した魔法は特定の条件下において発動できる隠密系の異世界魔法だ。
その特定の条件下というのは、使用者の存在する空間に出入口が1つしかないこと。
そして魔法の効果はその出入口に魔法を使った時点で使用者が存在する空間を中とし、使用者が存在しない空間を外とした時に、外側に居る生物からは魔法を使った出入口を如何なる能力、魔法においても発見することが出来ないよう完璧にカモフラージュするというものだ。
制限が付いているとは言え、敵の目を欺くのにこれほどうってつけの魔法はそう無い。
現在レイ達から見た洞窟の出入口は先程と変わりなく外を見ることが出来るが、一度外に出て後ろを振り替えればそこに出入口があるとは信じられない程に完璧に出入口が隠され、内部を視認することは出来なくなっている。
能力と魔法で発見することが出来ない以上、遮絶界は隠密系の魔法の中でも上位の能力を誇るが、出入口が隠されているだけで、結界のように外敵を拒むわけではないので極稀に侵入者を許してしまうという欠点がある。
………が、ティルファにとっては侵入者が来ようとあまり関係がないので特に気にはしなかった。
倦怠感があるとは言え、傷は無く、魔力も全快。
普通の敵なら難なく倒せるコンディションだからだ。
ただ、外からこの洞窟への入口が見えていないと考えると少し気を楽にして見張りに専念することが出来る。
ティルファはつくづくレイの異世界魔法はズルいと思い、そしてやっぱり頼もしいと思う。
「よしっと。多分これで外からは中の様子が見れないと思うのでティルファさんはゆっくりしていて下さい」
「うん。ありがとう。レイ君も気を付けてね。この洞窟の中にも何が居るか分かったものじゃないんだから。それでどれくらいの時間探索をしてくるつもりなの?」
「そうですね………この洞窟の広さにもよりますけど、とりあえず行ける所まで行ってみようかなと思ってます。行き止まりまで行ったら帰ってくるつもりです」
「そっか。この洞窟わりと広そうだし、時間がかかりそうだね。それならレイ君が探索に行っている間に夕飯を作っておくから、しっかりお腹を空かしてきてね」
「本当ですか!」
夕飯、という響きにレイは反応する。
思えばレイが勇者となってからロクにご飯というものを食べていなかった。
グリフィン支部で勇者として登録し、草王リシェンと戦い、期待外れの山岳で騒ぎをおこし、リフレクティノイドとの戦闘で気絶し、本部へ行き、ロボットに追いかけ回され、ジャルグーンベアーから逃走し、今に至る。
今更ながらにそのことに気づいたレイのお腹がぐぅ~と鳴り、空腹を自覚するが、久々のご飯。
それもティルファさんが作ってくれたもの。
きっと美味しいに違いない。
そう考えたレイはティルファの作る夕飯を自身のモチベーションにし、探索への気合いを入れる。
正直ワクワクが止まらないレイである。
どこの世界でも食というのは生きる上で最高の娯楽の1つなのだ。
レイは「ぃよしっ!」、と体に活を入れ、探索を開始する。
「行ってらっしゃい」
「はい!」
ティルファにヒラヒラと手をふると、この世界でランタンと同じ役割を持つ魔法、灯火を使い、暗い洞窟の奥へと歩みを進めていった。
ようやく投稿が出来ました。
自分で投稿日を決めておいてなんですが、1週間は少し長過ぎたかなと感じました。
これから書いていく中で丁度いい間隔を見つけていく必要がありそうです………
さて、それとは別に前回の「王の資格を持つ者」の話について補足説明を少し入れさせて頂きます。
この小説の主人公であるレイには現在「未知の侵略者」と「異世界魔法」という他を圧倒する強大な力を持っていますが、フェルグランとの模擬戦で判明した通り自身より格上の相手には負けてしまうことがあるということが分かりました。
そして一対一なら格上の聖魔混沌騎士団にも勝つことは出来るが、前回のように一対多勢ではまだレイの手には余る。
つまり、どれだけ未知の侵略者のような絶大な破壊力を持っているとしてもその力は万能ではない、ということを現したくて書きました。
その意図が伝わっていれば良いのですが、伝わっていらっしゃった方には余計なお世話でしたね(汗)
まだまだレイは弱く、これからグンッと急成長していく予定ですのでこれからも皆様の暖かい目で見守って頂けると嬉しいです。
長々と長文失礼致しました!
今度の投稿は次の木曜日を予定しています!
感想・評価・批評・ブックマークなどなんでも受け付けておりますのでこれからもよろしくお願いします!




