ジャルグーン樹海
~ジャルグーン樹海~
「おぉぉぉぉぉ!!?」
「きゃぁぁぁぁ!!?」
ガサガサガサガサ!
と、大きな音を立てながらレイとティルファは落下している。
その高さはゆうに100mを越えている。
このまま落下して地面に直撃すれば死ぬか、もしくは再起不能になるだけの大怪我は免れない。
「くっ……!」
そして重力加速度も手伝い、レイ達と地面までの差はみるみるうちに縮まっていく。
衝突まで残り数秒。
突然の危機的状況に陥った中、レイは自身の生存本能をフルに活用し、神速の如くこの状況を切り抜ける魔法を世界の理を知る者から弾き出す。
「過激中成長!」
レイがこの魔法を使うのと地面に衝突したのはほぼ同時であった。
レイ達が衝突した場所には大きな穴が空き、そこに二人の姿は無い。
シーンと樹海の中に静寂が訪れる。
しかし、その静寂はすぐに破られる。
「あっ……ぶな!」
「流石にちょっと……死を覚悟したよ……!」
レイとティルファが生きて穴の中から這い上がって来たからだ。
何故二人は生きていたのか?
その答えは簡単で、レイが直前に使用した中級魔法、過激中成長おかげである。
この魔法は対象となる生物を急激に成長させる力を持つ。
しかし、その成長の度合いは治癒魔法のようになだらかなものではなく、ミクロ単位の時間で細胞が分裂、増殖、破壊、再生を強制的に繰り返させる異常なものだ。
そんな速度で成長を行えば、その生物が持つ成長の限度はすぐに訪れる。
レイはそれを利用して、過激中成長を地面に使うことで固い地面を柔らかい腐葉土に変化させ、それをクッション代わりにすることで難を逃れたのだ。
とはいえあの一瞬でクッションとする為に必要な量の腐葉土を作ることは中級魔法では無理があり、必要量の半分しか出来なかった。
その為怪我をしない程度には衝撃を和らげることは出来たが、吸収しきれなかった衝撃を体に受けビリビリと体が痺れてしまい少しの間動くことが出来なかったのだ。
「それにしても……なんて所に転送するんだ!?危ないじゃないか!?」
「あれ?レイ君はまだここに来たことがないのかな?」
「どういうことです?」
「ここはジャルグーン樹海っていう数ある秘境と呼ばれるうちの1つ。ここが秘境と呼ばれる理由は沢山あるんだけど、その一番の理由が異常な魔力磁場なの」
「魔力磁場?」
魔力磁場とは大地の奥深くから発生する魔素がある一定量を超えるとその場に磁場を形成するというものである。
魔力磁場が発生すると、周辺の植物が急激に進化したり、天候をめちゃくちゃにしたり、魔法を正常に発動出来なくなったりと周辺のものに様々な影響を及ぼしてしまう。
ただ、通常は仮に魔力磁場が発生したとしてもそれはその場に魔素が溜まり過ぎているだけなのでその付近で魔法を使用したり、少しの時間が経てば周辺の植物や動物に魔素が体内に吸収され自然と魔力磁場は消滅する。
が、このジャルグーン樹海においてはその限りではない。
ジャルグーン樹海が存在する大地から漏れ出す魔素の量はこの世界でも最も多く、どれだけ強大な力を持つ魔法使いが大勢集まって3日3晩全力で魔法を行使しようとも、どれだけ多くの生物をこの樹海に投入しようとも、ジャルグーン樹海に発生している魔力磁場が消滅することはない。
それだけ多くの魔素がここには溢れ出ているのだ。
「なるほど………だからその魔力磁場の影響で転送場所がズれてしまったんですね?」
「多分そうだと思う。私が前に来たときは普通に地面に立っていたから。ありがとね。レイ君が機転を効かせてくれなかったら無事じゃ済まなかったよ」
「いえ。僕も死にたくはありませんし、当たり前のことですから」
「うん。ありがとね。………ところでレイ君はこれから何を探しに行くの?ついてきたのはいいんだけど、まだ目的を聞いてなかったね」
ティルファはたはは、と苦笑いをしレイに尋ねる。
レイはフェルグランにもらった紙に書いてあることをそのまま説明し、その紙を見せる。
その際まだ読んでいなかったもう一枚の紙も見せるとティルファは驚愕の表情を浮かべた。
一体何が書いてあったんだ?
気になったレイは紙に書いてあることを読んでみる。
その内容はと言うと、
『フワラリアは主にジャルグーン樹海、カットロピル湿地に群生し、人間を主食としている。
しかし、ジャルグーン樹海とカットロピル湿地はどちらも秘境認定されおり、近年その場所に立ち入る人間が少なくなった為か、フワラリアの生態になんらかの変化が発生している模様。
先日ジャルグーン樹海に赴いた勇者の話によると、フワラリアの移動速度が尋常ではないほどに向上しており逃げるだけでも精一杯なのに胞子の攻撃も健在で死を覚悟したという報告が来ている。
他にもカットロピル湿地のフワラリアは魔法を使う、ジャルグーン樹海のフワラリアは群れを為して襲ってくるなど数々の報告が寄せられている。
ただ、これらの証言は秘境での過酷な環境がその人にもたらした幻覚の可能性もある為真実は定かではない。
もしもカットロピル湿地・ジャルグーン樹海に赴く勇者が入れば必ずこの報告書を配付するようにお願いしたい。
カイゼル王国調査団団長アスペクト・シアポフ』
「………ティルファさん?」
「あ、ううん。ごめん。どうかしたの?」
「いや、なんか凄い驚いていたようなので。そんなに驚くようなことが書いてあるのでしょうか?」
「驚くに決まってるじゃない!レイ君は知らないのかな?魔法が使えるのは人間と魔族、それに一部の魔物だけ。いくら聖魔混沌騎士団が作り出した植物だと言っても植物が魔法を使うなんて古代文献にも載ってない異例のこと。ここに書かれているのことが本当なら大変なことだよ!」
「そんなに、ですか?」
魔法を使うために必要な要素は大きく分けて2つ。
1つ目は魔法の源になる魔力を体内に溜めることができること。
2つ目は使いたい魔法のイメージができる想像力があること。
1つ目はともかく、2つ目は意識のない植物には絶対に叶わないことである。
もし、フワラリアが本当に魔法を使ったのならそれはフワラリアが魔法を使うだけの想像力が………自我が生まれていることになる。
ただの植物が人間と同じような進化を遂げたというのだ。
だからティルファが驚くのも無理はない。
もっとも草王リシェンのように植物型の魔族・魔物がいる以上、植物が進化して自我を持ったということを考えなければなんの不思議なことではないのであるが。
「………これはなんとしてでもフワラリアを見つけないとね。ちゃんとした報告を持ち帰らないと」
「でもこの報告書を見る限りじゃ例え本当のことを言っても信じてもらえないんじゃないですか?」
「大丈夫!」
ティルファはポン、と胸を軽く叩くと背負っていたカバンから手のひらに収まる大きさのガラス玉を取り出した。
「これは?」
「映像球っていう魔導具の1つ!これに魔力を込めるとガラス玉を通じて見た景色を記録することができるの!これなられっきとした証拠になるからね!」
なるほど、とレイは感心する。
「なら大丈夫ですね」
「うん!バッチリ記録するんだからねぇ!バリバリ撮っちゃうよぉぉぉ!!!」
突然のティルファの妙に高いテンションにレイは違和感を感じる。
秘境にきたせいなのだろうか?
何が原因なのか考えていると、その原因がなんだったのかはすぐに理解することになる。
『キシキシキシキシキシ!!!』
植物型の魔物がティルファの後ろに立っていたからだ。
全長は約2~3m。
体は人形。
武器は手にしておらず、代わりに体の回りにツタがグルグルとまるで締め付けるように蠢いている。
全身にツタをまとうその姿は一言で言うなら雪男ならぬ草男だ。
そして頭の部分に小さな白い花が咲いている。
「な、なんだこいつは!?ティルファさん!」
「あっはっはっはっ!秘境~探索~フワラリア~撮影~行っくよー!」
ティルファは完全に惑わされいるようで、レイの声に聞く耳を持たない。
それどころか辺り構わず手にした剣を振り回し、暴れる。
「わっとと………!ティルファさん!」
「さがしにーいくよーらんららんららーん」
「参ったな……どうしたら元に……そうだ!観察眼!」
レイは咄嗟に植物型の魔物に観察眼を使う。
観察眼は本来物質の本質を知る為の能力であるが、生き物や植物に使うことでもその効果を発揮できる。
レイはそのことを試したことがあるわけでも、教わったことがあるわけでもないが、本能的に観察眼を魔物へと使っていた。
恐らく前世で培った知識のお陰だろう。
レイが観察眼を使ったことで、植物型の魔物の詳細がレイの脳裏に表示される。
『ジャルグーンマン
ジャルグーン樹海にのみ生息する植物型の魔物。
温暖な気候を好み、寒冷の気候を嫌う。
基本的に単体で行動し群れることはあまりない。
体の表面を這うように動く触手を使うことで獲物を捕獲し、体内で生成される溶解液を使うことで捕獲した獲物を溶かしてそれを養分として捕食する。
また、頭に生えた花から放つ胞子で近くにいる生物の思考を掌握し、意のままに操ることができる。
ただし、頭に生えた花1輪につき1体の生物のみ』
レイはこの表示を確認して、ティルファを元に戻すにはジャルグーンマンの頭にある花を散らせばいいのだなと理解する。
ジャルグーンマンの頭に生えている花は対象となる生物を操る為の胞子を放つ役割を持つと同時に、その対象となった生物を操るアンテナの役割も持っているのでレイのその解釈は正しかった。
レイはそうとなればと魔法を花に向けて連発する。
「火球!火球!火球!火球!」
『キシキシ?ギシシシシシ!』
が、その魔法がジャルグーンマンに当たることはなく、全て体を捻らせて避けてしまった。
「何!?」
レイはまだ勘違いしているようだが、このジャルグーン樹海は秘境認定された場所であり、その危険性故に勇者にしか来れない場所。
正確には勇者と呼ばれるだけの実力が無いと生きて帰ることは出来ない場所。
そんな場所に生息している魔物が下級魔法で倒せるわけがなく、本来レイの戦闘経験値を考えれば真っ先に逃げるべき状況なのだ。
ジャルグーンマン1体で考えたとしても、仮にジャルグーンマンがこの樹海を出て、人里に降りてきたとしたらその時にギルドから出されるクエストのランクはA+。勇者でない普通の冒険者の中でも勇者に匹敵するかしないかの実力者が受注するレベルの敵だ。
にもかかわらずレイが逃げないのは、単に戦闘経験値が低いが為に危機感をあまり持っておらず、実力的には余裕で勝てる敵だと確信しているからである。
そしてそれは事実なわけで………
『ギシシシシシ!ギシシシシシ!』
「おっと!」
ジャルグーンマンが伸ばしてきたツタの触手を避けると全力で走り、ある程度の距離をとる。
ジャルグーンマンは植物型の魔物であるが為にその移動速度はお世辞にも速いとは言えない。
レイはジャルグーンマンが自身のいる場所に到達する前に呪文の詠唱を完了させ、発動する。
「罪を償え。咎を認めよ。汝に降りかかるは天星よりの裁き。1を0としその身を清めたまえ。我は汝の罪を赦す者。『業カルマ』!」
黒い煙がジャルグーンマンを包み込み、黒い剣がその体を切り刻む。
そして黒い煙から解放されるとバラバラになった体全てに楔が打ち込まれ、行動不能にする。
この時点でまだジャルグーンマンは生きていたので、レイは頭の花を焼き払うついでに頭部に向けて魔法を放つ。
「火球」
ジャルグーンマンの頭部はボシュンという音と共に灰となり、活動を停止する。
そして人知れず暴れていたティルファも正気に戻る。
「………は?え?あれ?………えっと、その………」
自分がどのような状態になっていたのかを悟り、ティルファの顔はみるみるうちに赤くなる。
当たり前だ。
足手まといにならないと宣言した側からこの様なのだ。
しかも暴れていた間の記憶は鮮明に残っている。
ティルファの心は羞恥で一杯一杯だ。
しかし、そんなことは気にする程のことではないとティルファをなだめる。
「ごめんなさい………」
「大丈夫です。こんなこともありますよ」
レイは軽くそう言うが、普通の冒険者なら既に満身創痍になるだけの攻撃を受けていてもおかしくはない。
戦闘に関してあまり経験のないレイがここまで冷静に自らの置かれている状況を理解し、それを打破するだけの行動をとることが出来たのはひとえにレイの才能に他ならない。
勿論世界の理を知る者の能力が無ければもう少し苦戦はしていたかもしれないが、誤差の範囲であっただろう。
レイがティルファがちゃんと元に戻ったのを確認すると、樹海の奥深くへと再び歩みを進めた。
ここまで読んで下さりありがとうございます!
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