かい 後編
飯田君は、井手君に、
「僕が捨てられたんじゃないって、どういうこと?」
と聞きました。
井手君は、
「俺はさ、デスティニーランドに来るの、めちゃくちゃ楽しみにしてたんだ。どのアトラクションに乗ろうとか、どの店で、昼飯食べようとか、どういう順番でまわったら、効率がいいかとか。めちゃくちゃ調べたんだ。でさ、その、余計なことも、調べるわけよ」
「余計なこと?」と飯田君。
「楽しむためにはさ、楽しめなかった、っていうのを避けることも大事だなって、思ったんだ。デスティニーランド 面白くない。デスティニーランド つまらない。デスティニーランド 悪いところ。デスティニーランド アトラクション 死亡事故。デスティニーランド 事件 隠蔽。とか」
「余計なことだね、知らなくていいことだ」と飯田君。
「もちろん、楽しいことも、調べたさ。デスティニーランド 夜まで 隠れたら どうなる。とか」
「うーん、何が言いたいのさ、余計なことが、ちょっと多すぎやしないか」
「これだよ」
と井手君は、自分の左手の甲を指さします。
「何も、ないけど」
「カリブのハニーハントの時、思い出してみろよ。最後のパーティーの時。ここに、紋章みたいなのが浮かんだろ」
「ああ、入場の時に押してもらったスタンプ。ブラックライトで光るやつだね」
「ブラックライトで光るやつ、ってあの時は言ったけど。これ、光らねえところがあるんだよ」
「どうゆうこと?」
「バーコード。みたいなもんって言えばいいのかな。ほら、年間パスポートもらった時、名前とか住所とか、いろいろ書いただろ」
「うん」
「あれ、入場チケットの時もそうなんだよ。転売防止のため、なのか知らないけど、この左手の甲の紋章には、見えないバーコードみたいなのがあって、個人情報と紐づいているんだ。んでだ、デスティニーランドは、退園する時、このバーコードを読み取るんだ」
「ああ。デスティニーランドに、夜まで隠れていても。誰がパーク内にいるか、分かるってことだ」
「この誰が、っていうのは、どこどこのだれだれ、っていうのが残っているだけじゃなくて。誰と来た誰か、ってところまで分かるんだ。団体で来た。友達と来た。家族で来た」
「当然。親子で来た、ってことも?」
「俺が調べた範囲だが、デスティニーランドで子供が置き去りにされ、母親は行方不明。なんて事件はなかった。出口で分かるんだ。止められるんだよ。一緒に来たお子様はどうしましたか? って。余計なことだが、遊園地に行った後、一家心中。なんてのは、結構あるらしい。デスティニーランドで楽しむ子供を見て、殺すことをためらって、仕方なく置き去りにするも、出口で発覚。なんて事件はあったが」
「じゃあ、お母さんは、僕を残して、自殺して、僕だけが残って、」
「違う、その手の話は、実は結構ある。客だけじゃなく、従業員が自殺を、なんて事件と同じだ。過労を苦にみたいな、デスティニーランドに責任がある事件ならまだしも。外からやってきた人間が勝手に自殺をしました、みたいな事件は、隠蔽をするまでには、多分いかないんだ。隠蔽したい、隠したいのは、デスティニーランドに100パーセント責任がある、例えば、アトラクションの死亡事故だ」
「僕の、お母さんは、デスティニーランドに殺された?」
「飯田。お前は、お母さんに捨てられた、って言ったな。お母さんは、その、なんだ。シングルマザーで、頼る身内もいなかったんじゃないか? 入場の時に書いた個人情報と少しの人手があれば、そういうことは、すぐに分かる。デスティニーランド、スカイ、シーの従業員は合わせると、三万人をゆうに超えるらしい。個人じゃできないけど、組織ならできる。身寄りのない女性一人を消すことくらい」
「そ、そんな」
「つまりだ。お前のお母さんは、お前のことが嫌いになったとか、うっとうしくなったとか、そういった理由でお前を捨てたんじゃない。全ては、デスティニーランドが悪い。デスティニーランドを倒せ。デスティニーランドを、遊び倒せ」
井手君は、デスティニーランドのキャストのような、お芝居がかった声で叫びました。
「ふ、ふふ、はははははははははははは。ありがとう。井手君」
「余計な一言だったかな」




