かい 前編
井手君と飯田君は、永田さんと美作さんと椎名さんと、イーストシー港で合流しました。
「ごめん、本当にごめん、悪かった」
井手君は頭を下げて謝りました。飯田君にそう、言われたからです。
誠意はないけれど、誠意は見せられたようで、永田さんと美作さんと椎名さんは、井手君を許してあげました。
イーストシー港からは、西にあるウィードサンダーマウンテンまでフェリーが出ています。パークの東から西へ、パークを大きく迂回して、ゆっくりと船は進んでいきます。
永田さんは、
「風が気持ちー」
美作さんは、
「なんだか眠くなっちゃう」
椎名さんは、
「こんなところでゆっくりしてていいの? ウィードサンダーマウンテンに乗るんじゃなかったの?」
井手君が何か言おうとすると、飯田君が脇腹を、ちょん、とつつきました。
「余計なことは、言わないように、よくよく、よく考えてから発言すること」
電話で謝った後の井手君に、飯田君はそう言いました。ちょん、とつつかれた井手君は、そのことを思い出して。よくよく、よく考えてから言いました。
「急がば回れって、言うだろ。これが、ファストパスなんだよ。パークの西側にあるウィードサンダーマウンテンに直接行かずに、東側のイーストシーフェリーを経由する。降りた港で、このパスを見せれば、ウィードサンダーマウンテンに並ぶのが短く済む、ファストパス・エントランスから入場できるんだ」
「へー知らなかった、飯田君は知ってたの?」
と椎名さんは飯田君に尋ねます。
飯田君は、
「いや、知らなかった」
井手君が、
「いや、みんなに悪いことしたなと思ってさ、お詫びに、みんなが楽しめる何かがないかなって、調べたんだ」
「やるじゃん、井手」
と永田さんが言いました。その肩に寄りかかって美作さんが眠っています。
「みーちゃん寝ちゃってる」
と椎名さんが起こそうか迷ってます。
井手君は、
「起こさなていいよ。これ二十分くらい動いてるから。二十分立って並ばずにすんでんだから。今は座って休む時なんだよ。ちょっと考え、」
飯田君は井手君を、ちょん、とつつきます。
井手君は、
「休める時に休んどこう」
それだけ言いました。
疲れていたのか、飯田君と永田さんと美作さんと椎名さんは、眠ってしまいました。
一人、実は一番、デスティニーランドを楽しみにしていた井手君は、興奮で眠れずに、余計なことを考えていました。
イーストシーフェリーを降り、ウィードサンダーマウンテンのファストパス・エントランスから入場しました。
ファストパス・エントランスから入場した、他の人たちはどんどんと進んでいきます。
永田さんは、
「これってさ、最後に並んだら、後ろの人、二十分来ないってこと」
「多分」
と飯田君は、井手君に目をくばせます。
井手君は何も言いません。
「じゃあ、列を行ったり来たり、好き放題できるってことじゃん」
永田さんが言うと、美作さんも気づきました。
「通りすぎちゃって、今のもう一度見たい、っていう仕掛けも何度も見れるってこと?」
椎名さんも、
「なるほど、すごっ」
三人は誰も並んでいない、待機列の中を行ったり来たり。
途中、通るたびに、動物の声がして、ガサゴソする薮の前を行ったり来たり。
「隊長、象です」
「隊長、ライオンです」
「隊長、何だろう、このなき声?」
永田さんと美作さんと椎名さんがはしゃいでいるのを、「人感センサーに反応して、藪の中のスピーカーとモーターが動いているんだな」と井手君は言うかな、と飯田君は思いましたが、井手君は何も言いません。
ただ、じっと、井手君は飯田君を見つめます。
「なあ、余計なことかもしれないんだけど。飯田、お前、捨てられたんじゃ、ないんじゃないかな」




