姫のおでこに落書き
その頃アジトでは、お店の様子をモニタリングしていたみかかがウズウズしていた。
「そんなに行きたいなら行ってきたら?」
「!?。しかしアジトを開ける訳には行かないわ」
「私が残るわ」
「そんな訳に行くか!また良からぬことを企みかねん」
「良からぬことって何よ?」
「いくるみ達にお店を襲撃させたり」
「しないわ、そんなこと」
「冷蔵庫の私のプリンを食べたり」
「そのくらい大目に見てよ」
「まぁ、確かに。よしっいくるみ、私もこれからお店の様子を見に行くゾ」
「えっでも、博士が一人になっちゃうよ」
「留守番してくれると」
「いや、そうじゃなくてネ。博士が寂しいでショ」
「全然寂しくない」
「あー言っている訳だが」
「それに、いくるみと私が行ってもまだアジトにはお前が100人くらい残るでしょ」
「そうだけど〜〜」
「はい、博士これ」
「なによ、これ」
「哲子ちゃん抱きまくら。博士が寂しくないように」
「ありがとう」
私に哲子抱きまくらを押し付けて店舗の様子を見にみかかと数名のいくるみちゃんが出かけた。これでこのアジトに残っているのは私と沢山のいくるみ達だけになった訳だ。いくるみに囲まれた生活では、私だけが異分子だ。沢山のいくるみ達には個性がある。よって、同じことを同じように考えたり話たりする訳ではない。例えるなら、複数の地デジテレビで同じチャンネルを視聴した時にテレビのチューナーの性能によって音声がシンクロせずに聞き取り辛い状態という訳ではなく、ちゃんとそれぞれ違うチャンネルといったような状態。勿論後者の方が聞き取り易い。
ただ、私が異分子であることは明白であり、いくるみ達の輪に入っていくことは難しい。私のプライドが許さないといった部分もあるか?勿論、いくるみは優しい子達なので、私に気を使って声をかけてくれるのだが、私の心に届かな無いと言うか場合によってはまた無双したくなったりする可能性もわずかに私の中に残っている。
「大丈夫博士?」
「ん?何が」
「地の文が多くね?」「博士は一体何が言いたいの?」
私は手をパシンと叩くとこう言った。
「はい、シンクロモード」私がこう宣言すると。あちこちから好き勝手に喋りかけていたいくるみ達が完璧にシンクロして同じ動きを始めた。
「ラジオ体操第一」私がそう言うとアジト内にはラジオ体操の音楽が流れ始め、それに合わせてくるみ達がラジオ体操を始める。ダンスは人間が整然とシンクロするから見事なのであって、元々シンクロして動くいくるみのダンスを見ても人間がそうするような感動は皆無。そう思いながらラジオ体操を見守っていると、一人だけ微妙に動きがシンクロしていないいくるみを私は目ざとく見つけた。
ラジオ体操が終わると、私はそのいくるみちゃんのところに行き、ほっぺたをぷにぷにしたりして確認した。
「や、止めてく〜だ〜さ〜い〜」
「不良品かしら」
「「博士、そうじゃなくてネ」」
「あ、お前が姫子か!」ウンウン頷く動作は他のいくるみ達とも見事にシンクロ。
「わかりにくいから目印付けトコ」私はポケットからマジックペンを取り出すと姫のおでこに『姫』と書き込んだ。
「わっちょっとひどいヨ」
「大丈夫どうせ髪の毛で隠れるから」そう言って私は涙ぐむ姫にデコピンを放ち、上機嫌で元のお留守番の仕事に戻ったのだ。




