15.俺は断ることができない
「お風呂、出たよー」
「あぁ、俺も入ろうかなって、おいおい結愛さんや」
「なぁに?」
「それ、俺のTシャツ」
「てへへ」
心春と結愛がご飯を作りに来た当初こそ、ちゃんと駅まで送って帰らせた。
だが、次の日の講義が一限からあると言って泊まるようになり、それが常態化していった。
部屋のクローゼットに女ものが増え始め、今や半分近く占めるようになった。洗面所には二人の化粧品やら洗面用具が所せましと並べられている。
また、籠付きカラーボックスを置いて、一人一段ずつ下着と部屋着を収納している。
だが、しばしば二人は俺の服を勝手に着るのだ。
「ちょうどいいんだもん」
「まったく」
頭にタオルを巻いた結愛は、黄色いヘルメットを被って指さしている猫がプリントされた俺のTシャツを勝手に着て出てきた。結愛には丈が長いのでお尻は隠れているが、下は下着だけなんじゃないか。すらりとした生足が伸びている。
制服のブレザーでは目立たなかったが、結愛は胸があってスタイルがいいことを知っている。本人曰く、高二の4月にDカップだったのが、一年後に測ったらEに成長したとか。まるで俺が育てたみたいに言われた。
ともかく、Tシャツの猫の顔が描かれた胸のあたりは大きく盛り上がっている。それに、同じシャンプーとボディソープなのに、いい匂いさせているし……。
入れ替わるように俺が風呂に向かうと、背中越しに言われた。
「この部屋に私と心春以外の女の子は来たことないんだ?」
「ないよ。美咲さんを除けば、大学とバイト先で仲良くなった男の友達や先輩が何回か来ただけ。っていうか、女の子が来るわけない」
「うふふ。そっかぁ」
やけに結愛が嬉しそうに笑う。引っ越しを手伝ってくれた兄の彼女である美咲さんはノーカンだろう。
こんな俺でも、大学に入ってから夏くらいまで親しくなった女友達はいた。中には友達以上恋人未満という関係の子もいた。
心春と結愛が通ってくるようになった後、大学やバイト先の友達が来たことがある。それ以来、俺には「美人の通い妻が二人いる」と大学とバイト先で知れ渡ってしまった。
二人が置いていった、いかにも女の子の私物の他、わざわざ印刷した名前入りの献立表が冷蔵庫に貼られ、結愛と心春とそれぞれツーショットで撮った写真、俺を真ん中にして三人で撮った写真が目立つところに飾られていたからだ。
二股していると噂されるよりマシだったが、女子からは距離を取られるようになってしまった。
もう俺は新たな出会いは諦めている。
「明日は一限から必修なの」
「俺も同じだよ」
「駅まで一緒に行こ?」
「俺の方が早いよ」
「いいの。一緒に行きたい」
一つしかない布団を二人で分け合う。最初に泊まった時は俺が床に寝ていたけど、やっぱり節々が痛くなる。
「寝るくらい、いいじゃん。友達なんだから」という謎の理屈で一緒に寝るようになった。その際に体に触れても、どうってことない。朝起きると、なぜか腕枕していて顔が近い位置にあったけど、寝返った拍子にそうなってしまったのだろう。
朝も早いし、寝るだけだ。
「ねぇ、祥真。おやすみの……」
「はいよ」
全部言う前に俺は結愛を抱き寄せて、軽く口づけする。これも寝る前の挨拶だ。あくまでも挨拶だ。「むふふー」と結愛が機嫌良く笑う。
「おやすみ、結愛」
「おやすみ、祥真」
背中合わせになって眠りに入る。
俺が寝付く寸前、結愛が寝返りをうって、俺の背中にぴたっとくっついてきたのを感じた。
「祥真、こんな私を友達として受け入れてくれてありがとう。大好きだよ。これからは祥真のために生きたいと思ってるから」
俺は寝入って、その言葉が聞こえていないふりをしていた。
土曜日の午後。心春と結愛の二人と待ち合わせた。
俺が行くと、駅の改札を出てすぐのところに二人が立っていた。背の高い心春と小柄な結愛が仲良さそうに話している。
心春はいつものように男っぽいパンツスタイルでキャップを目深に被り、結愛は白いワンピースにオレンジのカーディガンというガーリーな服装。遠目にはカップルのように見えなくもない。
俺を認めると、二人はぱっと花が咲いたような笑顔を見せる。
「ごめん。待たせて」
「いいの。早めに着いたから」
「楽しみで早起きしちゃったもんね」
心春も結愛も、大学ではちゃんと友達はできているという。彩乃を含めた地元の友達ともたまに会っている。
でも、俺を一番優先してくれている。俺も二人と会うと、心が浮き立つほど嬉しいのを認めざるを得ない。
俺を真ん中にして右に心春、左に結愛が並んで歩きだす。道が狭いところや人が多いところでは俺のすぐ後ろを二人が並ぶ。はぐれないように袖か裾を掴まれる。
今日は近くの緑地公園を見て回った後、昔ながらの商店街で買い物してアパートに帰る予定だ。
「今日の夕飯は俺が作るから」
「「えー」」
買い物前に俺が意を決して言ったら、二人は意外な顔をした。
「いつも美味しい料理を作ってくれるお礼というか……俺だって役立ちたいというか」
「祥真が美味しそうに食べてくれるだけで嬉しいんだよ」
「そうそう。祥真の部屋の方が大学に近くて、助かってるのは私たちの方。ご飯作るくらい当たり前」
「「私たち、友達だもんね!」」
「最近、友達の概念がよくわからなくなる」
心春と結愛は笑いながら俺の背中を叩く。
なんだろうな。この両手に花な感じに慣れてしまっている自分が怖い。
夕飯はカレーだ。カレーなら俺でも作れるし、人数がいても問題ない。
包丁で切っている間に宅配が届いた。前もって頼んだ布団セットだ。これからも二人が泊まるだろうし、季節は秋に入り、寒くなってくるので必要だと思って買った。
俺が料理している間、二人に梱包を解いてもらい、圧縮されている布団を使えるように準備をお願いした。
市販のルーを使ったカレーはそこそこうまく出来上がった。
「祥真が作ってくれると、すごい美味しく感じる!」
「祥真はやればそつなくこなせるのがすごいよね」
と褒めてくれた。女の子が褒めてくれるとやる気が出るな。これからも料理してみよう。
食後は最近撮った写真をネタに三人で笑い合ったり、高校卒業後の友達の噂とか、だらだらと喋って過ごして交代で風呂に入り、寝ることにした。
部屋を片付けてスペースを取り、二つの布団を並べる。強制的に俺が真ん中になる。二つの布団が重なっている部分に当たるので、やや居座りが悪い。
「なぁ、もう10月半ばだぞ。そんな薄着で風邪ひかないか?」
「だって暑いんだもん」
「三人一緒だもんね」
心春は持参したTシャツにショートパンツ。結愛はいつものように俺の猫プリントTシャツで下は履いていない。
「そういう祥真だって半袖じゃん」
「うん。やっぱ暑かったわ」
始めは長袖にしたけど、いざ布団に入ってみたら暑かった。
どちらか一人が泊まる時はまだ良かった。しかし、今夜は両側を挟まれている。仰向けとなった俺の腕にぴたっとくっついてくる。逃げ場がなくて、温度が高まっている気がする。これで寝られるだろうか?
「こういうのも楽しいね」
俺を挟んで心春が結愛に微笑みかける。
「高校の時に彩乃と三人でお泊りしたのを思い出すよ」
「あの頃は、まさか祥真と私たちでお泊りするとは思わなかったねー」
「俺も高校の時にこんなことになるとは思わなかったわ。とりあえず、電気消すのをお願いできるか?」
さっきから左右の腕に当たっているのは胸の感触だ。足にも二人の生足が触れてきている。
すぐに眠れそうにないが、とりあえず暗くすれば寝られるかな……どうだろ?
暗くなって「おやすみ」と言い、しばらく静かになった。
ごそごそと音がする。結愛が顔を近づけてきて耳元で囁いた。
「ねぇ、祥真」
「うん……なに?」
「前から気になっていたの。あのね……溜まってない?」
「は?」
そこで心春が身じろぎする気配がした。結愛に負けじと顔を寄せてくる。
「私も大学の友達に聞いたことがある。男子は時々、その……出した方がいいって」
「だって、私か心春が泊まることが多いでしょ? だから……祥真が自分でできる日がないかなって。ほら、付き合っていた頃はさ、祥真すごかったし……」
思い当たる節はある。9月後半から心春か結愛、あるいは今日みたいに二人が泊まるようになった。週に5,6日は女の子がいる状態だ。せっかく一人の夜があっても、そういう時にかぎってバイトで遅かったり、次の日が早くてさっさと寝てしまう。最後に自分で処理したのはいつだろう?ってレベルだ。
今日、帰宅して挨拶で抱いた時、つい男の部分が反応したのに気づかれてしまったか。
「あのね、祥真ぁ」
結愛はさらに身を寄せてきた。いろいろ当たってる。やばいって、それ以上は。
だが、反対側には心春もいるので逃げ場はない。女の子のいい匂いと柔らかな感触に反応し、下半身に血が集まってくる。
「祥真が辛いなら、手伝ってあげるよ。手とかお口で」
「私も、そういうのしたことないけど、祥真のためなら頑張る」
「「だって、友達だから」」
友達の関係でそういうのは……いろいろ疑念が沸いたけど、頭が回らなくなってきた。二人の顔が近くにあって、その手は俺の頬や胸を慈しむように優しく撫でる。理性が崩れそうになっていく。
抱き着いている結愛の太腿が股間に当たり、硬くなっているのがバレてしまった。すぐに掛け布団を剥がされ、テント張っているのを心春にも見られた。
パンツまで脱がされた俺は、結愛の献身的な奉仕によって果ててしまった。最初は止めようと思ったけど、両側から抱き付かれた上、女の子の柔らかい手で握られたら無理だったよ。もう、されるがまま。フィニッシュは咥えられた状態で、すごい量が出た。
しかし、放置されていた息子は一度では機嫌を直してくれなくて、怒張したままだった。
一度目は目を丸くしながら見学していた心春が、今度は自分の番とばかりにぎこちないながらも懸命に奉仕してくれた。そんな心春に興奮したのか、二回目もいっぱい出た。
すっきりしたというか、腰が抜けたような気分。今度こそは寝られそうだ。
いったい俺たちの関係は何なのだろうか。友達という範疇を超えているのは確かだ。だからと言って、付き合っているとはっきり口にしない。二人からの好意は明確に感じているのに。
結愛は何度も「大好き」と口にしている。心春ははっきり言わないが、俺のことが好きなのだといくら鈍感な俺でもわかる。
二人は大学でもプライベートでも、会っている男は俺だけで、他の男は眼中に無いと言っている。確実に友達以上の関係。大学やバイト先で言われている通い妻というのも大袈裟じゃない。
でも、俺ははっきり意思を示していない。傍目には優柔不断、二股しているクズ男と言われても仕方ない。
本心では心春を友達以上に大事な存在として想っている。結愛もかつてとは少し違う感覚だけど、前みたいに会えて一緒に過ごせるのが嬉しい。好きかどうかと聞かれたら、大好きだ。ただし、二人とも同じくらいなので困っている。
結局、友達という免罪符を使って二人との関係を維持したい。どちらかを「好き」と言って付き合ったら、どちらかと離れなきゃいけないのが嫌なのだ。
かつて結愛が断れなくて過ちを犯したから別れた俺なのに、おかしいものだ。人を責める資格なんて無いよな。
両側から挟まれた状態でいろんなことを考えていたら、いつの間にか寝入って朝になったらしい。
窓の外が明るくなり、チュン、チュンと鳥が鳴いているのが聞こえる。
日曜なのに早起きしちゃったようだ。同時に身動きが取れないことに気付いた。両側から抱きしめられて、腕も足も絡めとられている。
「あれ、祥真、起きてる?」
「うん。なんかね。起きちゃった」
「ふわぁ……祥真がいるぅ……えへへ、幸せぇ」
朝に強い心春が俺と目が合って微笑む。声を聞いて結愛も反応したが、まだ寝ぼけているようだ。俺の肩に顔を摺り寄せてくる。
「起きちゃったんなら、朝の挨拶ねっ」
「ん」
「あぁー、ずるいぃー私もぉ」
心春と口づけを交わす。いつもの挨拶より長く、互いの唇の感触を確かめるようなキスだった。
結愛もすぐに気づいて顔を寄せてきたので頭を撫でながらキスする。軽く接しただけで離したが、寝ぼけていた結愛は自分から何度も唇を押し付けてきた。それを目にした心春も「もう一度」と言って自分からキスしてくる。
そうすると繰り返しになってしまい、なかなか終わりそうにない。最後に俺の方から二人の額にキスしてやり、両手で抱き寄せた。心春はとても嬉しそうに、結愛は蕩けそうな顔で俺の胸に顔を埋めている。
「うふふ……祥真とこうしているだけで私幸せ」
「う~ん……祥真、あったかーい」
いろいろと考えるところはあるけど、俺は決断することができないでいる。心春と結愛が俺の元に来てくれる現状に満足し、今の幸せを手放したくない。
結局、俺こそが押しに弱くて断れない男だった。
【完】
最後までお読みいただきありがとうございます。
好きになった女の子が押しに弱くて断れないヒロインで始まり、寝取られて破局後、女友達といい関係になり、結局押しに弱くて断れないのは主人公になってしまったオチでした。
実質レイプで寝取った大坪の後始末とか、物足りない点はあったかと思います。
近況ノートに書いた通り、私がある作品を読み終えた時に物足りなくて、「自分ならこうする!」と勢いのまま書き始めたこともあって、主人公周り以外はあえて細かく触れずに完結まで持っていこうと決めていました。
前作『今頃になって高校時代の彼女がNTRされていたと知ったけど、今の僕にはノーダメージ』もそうでしたが、責められる理由があったとしても、NTRヒロインには不幸になるより幸せな状態で終わらせたい作者でした。
この後はずっと三人でイチャイチャして過ごせばいいんじゃないですかね!




