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「結局、何の情報も得られなかったね。でも、誰も聞いていないだなんて……銃声音って、案外響かないものなのかな?」
「そうだねぇ……まぁ、周辺の建物の高度だったり、風向きや湿度なんかの気象条件でも響き方は変わってくるだろうから、今ここではっきりとした結論を出すのは難しいだろうね」
「そっか……確かに」
「けれど、鈴木さん宅との距離的に考えると、聞こえなかったとしてもおかしくはないからね。それに銃声音が偽物だという可能性も、十分に考えられる」
「偽物の銃ってこと?」
千晴が首をかしげれば、先ほどの三原さん宅の聞き込み調査から幾分か機嫌を直したらしい悠叶が、スマホを操作しながら答える。
「……今はスマホのアプリとか、色々あんだろ」
「うむ。私もその線が濃厚だと思うよ」
「愉快犯か何かの悪戯じゃねーのか」
「うーん、どうだろうねぇ……」
聞き込みを終えた三人が江里子の自宅に戻れば、江里子は台所で何かを作っていたようだ。
「あ、皆さんおかえりさない。外は熱かったですよね? よければ一休みしてください」
「あぁ、すみません。お気遣いありがとうございます」
冷えた麦茶と、江里子が作ったのだという餡蜜をご馳走になりながら、玲衣夜は聞き込みで何の成果も得られなかったことを正直に話した。
「そうですか……」
「はい。なので鈴木さん、よければこのまま、此処で張り込みをさせていただいてもよろしいですか? また今夜も、その人物が訪ねてくる可能性が高いでしょうから」
「はい、むしろ私は心強いですけど……そこまでしていただいていいんですか?」
不安そうな面持ちで視線を下げる江里子だったが、玲衣夜にそっと肩を叩かれて顔を上げる。
「一度依頼を受けたからには、謎が解明できるまで、そして鈴木さんの安全が確認できるまでお付き合いします。犯人と銃声の謎を必ず突き止めますから、私たちを信じてください」
「……はい。ありがとうございます」
玲衣夜の真摯な言葉に、江里子の強張っていた身体からふっと力が抜けたのが分かる。
そんなやりとりを見ていた千晴と悠叶は、
「「(はぁ、やっぱりこの人は(コイツは)天性の誑しだな)」」
なんてことを考えていたのだが――呆れたような溜息とは裏腹に、そのまなざしには、玲衣夜に対する確かな敬愛がにじんでいた。
***
「あっ、そうだ。ねぇ玲衣さん」
「ん? 何だい千晴」
「このこと、一ノ瀬さんには言わないの?」
「どうして理くんに?」
「だって、本当に拳銃を持った人が出てきたら、さすがに危ないだろうし……こういうことは一ノ瀬さんたちにも相談してみた方がいいんじゃない?」
「うーん、そうだねぇ……。今夜様子を見て、進展がなければ相談してみようか」
「え、でもそれじゃあ遅くない? 今夜何かあったらどうするのさ」
いつだって無茶ばかりする玲衣夜の身を案じた千晴は、理に相談した方がいいと食い下がる。しかしそれを聞いていた悠叶が、話に割り込んできた。
「別にあんなおっさん、いてもいなくても変わんねーだろ」
「悠斗くん……」
「はは、悠叶は理くんのことになると過剰に反応するけど……もしかして、これがツンデレってやつなのかな?」
「……おい。今すぐオレにヤられんのと、好き勝手されんの、どっちか選べよ」
「……うーん、それはどちらも似たような意味の気がするのだけど……って、悠叶? じょ、冗談だから、その手を離して…ちょ、どこ触って「うるせぇ」
「っ、あぁもう! 悠叶くんも玲衣さんも、此処が人様の家だってこと、分かってる!?」
玲衣夜のおちょくりに完全にキレたらしい悠叶が暴走し始めたことにより、結局千晴の提案は流されてしまった。
そして、インターホンが鳴るという二十時から二十二時辺りの時間になるまで、玲衣夜たちは江里子の家でまったりと寛いで過ごすことになったのだ。




