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霊聴探偵一ノ瀬さんの怪傑推理綺譚(かいけつすいりきたん)  作者: 小花衣いろは
Episode8 Whereabouts of the handgun(拳銃の行方)

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03



「それじゃあ、早速聞き込みに行こうか」


 玲衣夜たち三人は近隣の家を訪ね、最近発砲音のようなものが聞こえなかったか、聞き込みをすることにした。

 まずは、江里子の住まう家の右隣に居を構える、笹川さんのお宅からだ。


「――はい、どちら様でしょうか」


 出てきたのは、すらりとした細身の女性だった。年齢的には三十代前半といったところだろう。

 ちょうど昼食の準備をしていたのか、オレンジ色のエプロンをしている。焼きそばを連想するような、香ばしく甘酸っぱいソースの匂いが漂ってきた。


「突然すみません。お尋ねしたいことがあるのですが、少しお時間を頂戴してもよろしいでしょうか?」


 玲衣夜は名刺を手渡しながら、ゆるく微笑む。


「え、えぇ。大丈夫ですよ」


 玲衣夜の麗しいスマイルを目のあたりにした女性の目の奥に、一瞬ハートマークが見えたような気がする。


「ありがとうございます。では早速お聞きしますが……ここ数日、二十時から二十二時前後の時間帯に、発砲音のようなものを耳にした覚えはありませんか?」

「発砲音、ですか?」

「はい。この辺りを通りかかった人で、そのような音を耳にしたという方がいらっしゃったんです。もしかしたら聞き間違いか、あるいは子どもの悪戯か何かかもしれませんが……住民の皆さんの安全を守るためにも、一応確認させていただきたくて」


 玲衣夜の噓八百をコロッと信じてくれた女性は、頬に片手を添えて、ここ数日のことを思い出すように考え込んでいる。


「そうだったんですね。でも、そうですねぇ……特にそんな音を耳にした覚えはないですけど」

「……そうですか。ご協力ありがとうございました。また何か気づいたことがあれば、お渡しした名刺に書いてある番号までご連絡ください」

「一ノ瀬事務所の……玲衣夜さんって仰るんですね」

「はい。今回の件に限らず、何か困ったことがあればいつでもいらっしゃってくださいね」

「は、はい……」

「それでは、お邪魔しました」


 最初から最後まで、うっとりとしたまなざしを女性に向けられていた玲衣夜だったが、そのような視線には慣れっこなのだろう。

 さらりと別れの言葉を口にして、笹川さんのお宅を後にする。


「……玲衣さん、さすがだね」


 玲衣夜の背後で静かに事の成り行きを見守っていた千晴が、ポツリと呟くように言う。


「ん? 何がだい?」

「……この無自覚誑しが」


 千晴に続けて、ボソリと漏らされた悠叶の言葉は、隣にいた千晴の耳にしか届かなかったようだ。証拠に、千晴は同意を示すように小さく頷いている。



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