03
「それじゃあ、早速聞き込みに行こうか」
玲衣夜たち三人は近隣の家を訪ね、最近発砲音のようなものが聞こえなかったか、聞き込みをすることにした。
まずは、江里子の住まう家の右隣に居を構える、笹川さんのお宅からだ。
「――はい、どちら様でしょうか」
出てきたのは、すらりとした細身の女性だった。年齢的には三十代前半といったところだろう。
ちょうど昼食の準備をしていたのか、オレンジ色のエプロンをしている。焼きそばを連想するような、香ばしく甘酸っぱいソースの匂いが漂ってきた。
「突然すみません。お尋ねしたいことがあるのですが、少しお時間を頂戴してもよろしいでしょうか?」
玲衣夜は名刺を手渡しながら、ゆるく微笑む。
「え、えぇ。大丈夫ですよ」
玲衣夜の麗しいスマイルを目のあたりにした女性の目の奥に、一瞬ハートマークが見えたような気がする。
「ありがとうございます。では早速お聞きしますが……ここ数日、二十時から二十二時前後の時間帯に、発砲音のようなものを耳にした覚えはありませんか?」
「発砲音、ですか?」
「はい。この辺りを通りかかった人で、そのような音を耳にしたという方がいらっしゃったんです。もしかしたら聞き間違いか、あるいは子どもの悪戯か何かかもしれませんが……住民の皆さんの安全を守るためにも、一応確認させていただきたくて」
玲衣夜の噓八百をコロッと信じてくれた女性は、頬に片手を添えて、ここ数日のことを思い出すように考え込んでいる。
「そうだったんですね。でも、そうですねぇ……特にそんな音を耳にした覚えはないですけど」
「……そうですか。ご協力ありがとうございました。また何か気づいたことがあれば、お渡しした名刺に書いてある番号までご連絡ください」
「一ノ瀬事務所の……玲衣夜さんって仰るんですね」
「はい。今回の件に限らず、何か困ったことがあればいつでもいらっしゃってくださいね」
「は、はい……」
「それでは、お邪魔しました」
最初から最後まで、うっとりとしたまなざしを女性に向けられていた玲衣夜だったが、そのような視線には慣れっこなのだろう。
さらりと別れの言葉を口にして、笹川さんのお宅を後にする。
「……玲衣さん、さすがだね」
玲衣夜の背後で静かに事の成り行きを見守っていた千晴が、ポツリと呟くように言う。
「ん? 何がだい?」
「……この無自覚誑しが」
千晴に続けて、ボソリと漏らされた悠叶の言葉は、隣にいた千晴の耳にしか届かなかったようだ。証拠に、千晴は同意を示すように小さく頷いている。




