1-8 『カルロフ家の主』
ヴォルガード の 回し蹴り! プロット は 999 の ダメージを受けた! 作者 は ひんしだ!
『主』とは、何をもって主足り得るのか。
人の上に立つ者は、それ相応の資格を持つことが求められる。足りなければ人を従えさせることもできず、大きすぎれば独裁となってしまう。
先代カルロフ家当主は独裁を貫いた結果、町に貧困をもたらし、人を恐怖で縛り上げた。その最後は孤独死だと広まっているが、一部の獣人には何者かによって殺されたという噂が広まっている。
『主』とは、何を以て主足り得るのか。
カルロフ・ヴォルガードは示す。
「強さに対し責任を持ち、賢きを持って民を守ること」
現代日本ならばノブレス・オブリージュとも言えるような考え。持つ者が持たざる者を助ける、という単純で分かりやすいマニフェストは、端的に言って大勢に受け入れられるものとなった。民からの名声を得て信頼となり、グラシルという大きな街において揺るぐことのない確固たる地位となる。今の今までカルロフ・ヴォルガードを支えてきた全てと言っても過言ではないものだった。
その強さを知らぬものなどいない。そも、グラシルーーこの世界の住人は、皆異様なほどの肉体強度と能力を持っている。獣が人の身になった影響なのか、人の身にまで拡張された獣自身の能力なのかは定かではない。
一つだけ、明らかな事実として言えることは、人間と比較して並外れた反射神経や五感などは、戦うために作られたものなのだろう。
だが、本人が争いを望むとは限らないものだ。
「さっきぶりだな、巫女ーーいや、ムニン。」
ヴォルガードは苦虫を嚙み潰したかのような顔でそう言った。目の前にいる女は顔にかけたベールを上げる。
いわゆる美形と呼ばれる顔立ち、とぐろを巻いている角は彼女の高慢さを示すかのようにとても巨大。ここまで来ると何の種族なのかすら分からないほどだ。
「こんにちは【白狼】のヴォルガードさん?私の気持ちがこもったラブレター(ルビ;神託)、届いたかしら?」
彼女は口角を上げるが、どこかわざとらしさを感じるその笑みに嫌悪感を覚える。
「捨てた」
「よくそんな噓をつけるわねぇ。お姉さんじゃなくても君の嘘なんてバレバレよ?それにーー」
ヴォルフガードの肩に手を置き、腕からもう一度肩、そして頭を、まるで愛でるかのように撫でてくる。その愛玩動物を見るかのようなその扱いが、ヴォルガードが彼女を苦手とする理由の一端だ。
「急に何をーーっっ!」
彼女はヴォルガードの肩を掴み、強引に彼女の傍に近づける。無理矢理近づけたせいか、抵抗したからなのか、抱きかかえるような形になる。
こぼれるように笑いが耳元で聞こえる。
「捨てることのできないはずよ。あなたの手元にあるのは、あの紙切れ1つしかないんだから」
「ーー相変わらず、何が言いたい?」
「またか」と言いたそうな顔でヴォルガードは睨む。だがそれにムニンは怯むことなく笑顔を作り続けながら、まるで「全てを知っていますよ」とでも言いたそうな顔で言葉を返していく。
「どんなに取り繕っても無駄。だってこちら側の者なんだから、頭で否定しても心はどこか否定できない」
「『こちら側』か。さっきから仰々しく言って、誰にも伝わらなければ意味はないぞ」
ムニンにとってヴォルガードとは、1人の獣人というだけの存在でしかない。強いて言うなら他人より多く知っているだけの差だ。だからこそ歯に衣着せぬ物言いをし、関心など一切も持たない。
「……へぇ、君がそんなことを言うのか。善意で人を助けたいと思っている者を声がとどかないような場所に置いたのは、どこの誰だっけ?」
その言葉に彼女は顔を暗くする。しかし、誰かに見られることもない。手から力が抜けたのをヴォルガードは感じ、そっと抜ける。
「もっと自分という存在が何のためにあるのか考えてみたら?その大層お堅い頭でさ」
「私はカルロフ家の主だ。この命は民の守るためにある」
「ーーっっふふ。はははは!!」
その笑い声は二人以外誰もいない礼拝堂の中をこだまする。その声に乗った感情は、何なのかーー哀れみなのか思いやりなのか、愛憎か無関心からなのか、それは今は分からない。
「何が面白いんだ?」
「面白い? 君が可笑しいのよ! あの内容を見ておいてしらばっくれる所がね! 歌劇でこんなシーン見たことがあるわ。全てを忘れて欲に任せた結果、身を滅す哀れな男を! ああーーああ。勢いに任せて色々しゃべりすぎたわね。ごめんなさい。
気づいてない訳がない、気づかない訳がない。『純白の狼が町を滅ぼす』そう神託は示した。じゃあ、純白の狼は誰を指してるのかしら??」
彼女の目の前に立つのは、その身を青と黒色の服で身にまとい、自身の長髪をまとめ上げ後ろに垂らし、そしてーー誰よりも美しい白で彩られた見て呉れの狼。
「あなたは歌劇の男と同じ。彼は背中を刺され死んだけど、君の場合はどうかしらね?例えばーー」
彼女の目に映るのは、想像した未来。それはヴォルガードが考えたものと同じ結末を描き、そして終わる物語。それを暗示するかのように、彼女は右手をヴォルガードを指すように人差し指を出し、中指・薬指・小指を内側に曲げ、親指は天高く上を指す。
「人狼を打ち倒す、銀の弾丸とかね?」
「……結局、聞いたとしても荒唐無稽な事を言うだけか」
ムニンは神託を聞き、それを他の人に伝える【巫女】の役割を持つ。そして、彼女を閉じ込めたのは誰でもない、ヴォルガードが行ったことだ。
巫女は代々短命だと言われているが、その実態は神託のことを良く思わない獣人が殺そうとしている事が大きい。それらから守るためにこういった方法を取っているのだ。
「守るため、と言ったとしてあいつが跳ね除けることは尻尾を見るより明らかなことだ」
曲がりなりにも彼女が持つその信念を、ヴォルガードは否定することはない。一番の理由としては現状対立していないことが大きいが、その中には多少なりとも信頼があることを理解はしなくとも知っているのだ。
『あなたは危うい。今まさに弾かれたコインのように、その先は表にも裏にもなる。ーーだから、だから! 私の全部を賭ける、あなたの行く先を見させて』
ヴォルガードはこの言葉にどう答えたのか、今となってはもう憶えてなどいなかった。
その笑みを私以外に見せないでほしい。その想いを私以外に言わないでほしい。私以外の言葉を聞かないでほしい。だって、あなたが本当に欲しいものはーーーー




