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第10話 伯爵の罪

「奥様、大変です!」


 広間にベーカーが駆け込んできた。その慌てぶりはエバンスに何かあったようだった。カーラ夫人は驚いて尋ねた。


「どうしたのです?」

「若様がここをすぐに出ていくと。ここには2度と戻ってこないとおっしゃられています。」


 ベーカーは息を切らせながらもそう言った。


「ああ・・・。私のせいで・・・」


 カーラ夫人はあまりのことに顔を伏せた。彼女にはどうしてこうなってしまったのかはわからなかった。だが自分がいたせいだと感じていた。その様子を見ていた老人がおもむろに言った。


「奥様。あまり自分を責めてはいけませんぞ。あなたのやさしい心が伝わっていないだけです。だが賢明な若様ならきっとあなたの思いをわかってくれるはず。今からでも遅くはない。さあ、若様のところに行って話し合ってきたらいかがでしょうか?」


 その老人の言葉にカーラ夫人は頭を上げた。確かに最近はエバンスの方が自分を避けてゆっくり話し合うこともなかった。じっくり話し合えば誤解も解けると彼女には思えた。


「ええ。そうします。」


 カーラ夫人はそう言うと小走りにエバンスの部屋に向かっていった。


 ◇


 ウエンズ伯爵は窓の外から夜の空を見ていた。彼の心は憂鬱だった。そこに、


「トントントン。」


 とドアをノックする音があった。ウエンズ伯爵はヘイズがまた来たと思って、


「入れ。」


 と返したところ、入ってきたのは一人の老人と大男だった。城では見かけぬ顔にウエンズ伯爵は(誰だろう?)と眉をひそめた。それに気づいたようで老人が声をかけた。


「伯爵。儂じゃよ。」


 聞き覚えのある声にウエンズ伯爵はしばらく頭を巡らせた。


(どこかで会っているような・・・。あっ!)


 ウエンズ伯爵ははっと思い出して慌ててその場に膝をついて頭を下げた。


「これはハークレイ法師様。お久しゅうございます。」

「やっと思い出してくれたか。まあ、そんなにかしこまらなくてよい。頭を上げられよ。」

「はっ。」

「ここに来たのは伯爵の息子のエバンスが村で乱暴な行いをしているといううわさを耳にしてな。」


 ハークレイ法師がそう言うと、ウエンズ伯爵は再び頭を深く下げた。


「お恥ずかしき限りでございます。」

「儂の見たところ、エバンスは心のまっすぐなよい青年じゃ。世間ではカーラ夫人が原因と言われておったが・・・」


 それを聞いてウエンズ伯爵は大きく首を横に振った。


「それは違います。カーラには非はございませぬ。」

「そうか。やはりな。」

「もし非があるとすれば私にあります。私の最初の妻はローズでした。ローズは王家の出で気位が高く、この地に来て私の妻になることは望んでおりませんでした。その結婚を無理にまとめてしまったことがいけなかったのか、彼女には不満がたまり私と仲たがいをして、エバンスを生んで3年ほどしてこの地を出て行ってしまいました。そしてそのまま彼女は馬車の事故で亡くなってしまったのです。そんなことがあって、エバンスは生みの母と幼くして別れることになりました。すべてがローズを幸せにしてやれなかった私の罪です。」


 ウエンズ伯爵は悲しそうに言った。それを老人は厳しい顔で聞いていた。


「幼いエバンスをこれからどう育てようかと途方に暮れていたところ、若くして夫に先立たれたカーラがお城に上がって参りました。彼女は献身的にエバンスの世話をし、私を支えてくれました。エバンスがカーラをまるで母のように慕うのを見て私はカーラを後妻に迎えたのです。」

「それがどうしてこんなことになったのじゃ?」


 ウエンズ伯爵は大きく首を振った。


「それはわかりませぬ。いつのころからか、エバンスはカーラに反抗するようになりました。それがエスカレートしてまるで敵を見るような目に・・・。しかしそれでもカーラはエバンスの身を案じて、彼をかばい続けたのです。」

「なるほどのう・・・。だがこれは仕組まれたものじゃ。」

「えっ!」


 ハークレイ法師の思わぬ言葉にウエンズ伯爵は驚いた。


「そうじゃ。この伯爵家を乗っ取るため巧妙にエバンスをそうさせたものがおるのじゃ。それは・・・」


 ハークレイ法師がそう言いかけると、いきなりバタンとドアが開いて3人の男が飛び込んでいた。


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