75、悪臭とトカゲ
「何をなさるのですか?!」
シアから飛び退き、俺の剣をかわしたソフィアモドキは、慌てた様子で俺に問う
「何故避けた? 俺の攻撃でどうこう出来るとは思えんが」
シアは俺へと振り向くと、両手を広げて
「パパやめてなの! ママになんでそんなことするの!」
「ガウァ、グルル」
シアに加えて、ガーちゃんも俺を威嚇しているが、役立たずの糞龍が
「邪魔だ、どいていろシア、それに主の危機にも気付けぬトカゲは黙れ、次に吠えればトカゲ、貴様から殺す」
「パパ、まってなの! ママはママなの、シアにはわかるの! なんでにせものなんておもうの!」
「シアの言う通りです、レオン様、どうされたと言うのですか?」
「不愉快な奴だ、ソフィアの姿形、ソフィアの声で、俺達に近付いて来るとは、、良いだろう、貴様がソフィアだとして命令だ、其処を動くな、黙って俺に殺されろ、貴様が本物なら易々と死にはしないだろうが、俺の与えた蘇生の指輪もある、最悪死んでも神殿でリスポーンするだけの事だ」
俺が前へ踏み出すと、シアが杖を取り出し俺へと向け、ガーちゃんは翼を大きく広げる
「パパ! シアのことをしんじてほしいの! ほんとにママなの!」
「星読みの能力で、ソフィア本人であると判断したのか?」
「そうなの!」
「そうか、ならば今、俺の心を読んでみろ」
「あっ、ああ、、うそなの、、パパが、、そんな、、」
とペタンとへたり込み、首を左右に小さく振るシアに
「もう一度、俺の心を読んでみろシア」
「え? なんでなの? いつものパパなの、、」
「シア、お前の星読みは、表層的な思考を読むに過ぎない、思考を偽称して強く思い込んだだけでも、俺ですら欺ける、俺同様に星読みの能力を知っていれば難しい事では無い、それが知能を持った悪意ある化物ならば、容易いだろう」
「でも、、パパがママを、、そんなのみたくないの、、」
「レオン様! お止めください!」
俺が一気に、偽ソフィアへと飛び込もうとすると、青白い障壁によって阻まれる、障壁は俺を囲う様に展開されていた
「俺の邪魔をするなと言った筈だ、主の意思を汲んだつもりか? やはりあの場に置いてくるか、始末しておくべきだったか、無能なだけでなく、害となるか、貴様のせいで大損だ、覚悟は出来ているんだろうな?」
「グワァ、、」
小さく鳴くトカゲを、シアは抱き締めると
「ガーちゃんは、わるくないの、シアが、、」
「まぁ良いだろう、どの道直ぐに分かる、その時にそのトカゲは、自分の不始末を呪いたくなるだろう、俺の損失も含めて、どう責任を取るのか、いや所詮魔物の類いでは、罪の意識すら無いか、お前達が、どうしても俺の邪魔をしたいのなら、穏便に化けの皮を剥いでやる」
俺は障壁に囲まれたまま、右手を前へ突き出し
「アブソルトウイナー」
俺が唱えると、偽者の前に二本の剣が現れる
「さぁ、ソフィア、剣を握れ、貴様が本物だと証明して見せろ」
顕現した剣を前に、無言で立ち竦む偽者
「どうしたソフィア? 早く握れ、言うまでもないが、お前の為の魔法だ」
シアはトカゲを抱き抱えたまま、偽者へ向き声を掛ける
「ママ、はやくにぎるの! それでパパも、わかってくれるの!」
暫くの沈黙の後、偽者はニッコリと笑うと、瞬時に剣を避け、シアの前に立つと
「ガッ!!」
振り払う様に、シアの抱えるトカゲを殴り飛ばすと、シアを羽交い締めにする
「ギャンッ」と犬の様な鳴き声を上げて、地にトカゲが転がると同時に、俺を囲う障壁が消える
「ママ!? なんでなの!?」
偽者は、シアを羽交い締めにし口を塞ぎ、不気味に笑うと、その顔、体が歪み、ソフィアの姿から、青白い顔をした男へと変貌する、以前始末した使徒にどことなく雰囲気が似ている
「正解だよ、しかし残念だったね、まさか標的に助けられるとは思わなかったよ、さて怖い奴が来る前に、僕はおいとまするが、最後に聞いておきたいな、何故偽者と分かったんだい? 僕のコピーは、能力はコピー出来ないけど、目視した対象なら、姿形、気配、ある程度の記憶も読み取って、完璧に対象になりきれる物なんだけどな」
「シアとトカゲは騙せた様だが、俺は貴様達の判別が出来るんでな、知りたいなら教えてやる、臭いだ、どぶの様な悪臭だ、少しは体臭に気を使え」
男は顔をしかめると、その背中に二枚一対の黒い翼が現れる
「教える気は無いか、まぁ良いよ、じゃあサヨナラだ」
男がそう言うと、男の足元に魔方陣が発現する
「ああ、サヨナラだ、大損だが仕方無い」
俺は手をヒラヒラと振って答えると
「ハハッ、諦めが良いのか、薄情なのか、じゃあね」
戦神の遣いである男が、次の瞬時見たものは、自身の額に剣を突き刺す、レオンと言う名の敵だった
男は先ず、自身が捕らえた今回の標的である少女を確認しようとするが、少女以前に、体の自由が効かない事に気付き、更に自身が頭だけとなって、地に転がり、額を剣で串刺しにされていると認識する
「嘘だろ? いつの間に、、そんな一瞬で、、こんなことあの化物ですら不可能だ、、」
俺は突き入れた剣を、強引に捻りながら
「良く来てくれたな、予定外の出費だったが、良しとしよう、ではサヨナラだ」
俺が握る剣に更に力を込めた所で、男の頭はドス黒い光の粒子と変わり、頭を失った体も同様に粒子と変わると、直ぐに透き通った光に変わり飛散して行った
呆けるシアの元に行き
「怪我や状態異常は無いか?」
「へいきなの、でもなんでなの、シアでもわからないのに、それにさっきの、とまってたの」
「判別出来たのは只の勘だ、それと止まったのは」
俺が宙に浮く砂時計に目をやると、砂時計は砕け散って消えていく
先ず、何故判別出来たのか、当然勘でもなければ、臭いでもない
なんのことはない、観察からくるソフィアとの違いに気付いただけだ
俺は料理人ではあったが、サービスも学び、経営する中で外に立つことも多かった
サービスにおいて、見るべきは、客の不満に逸早く気付き、それを解消する事だ
それは表情や、仕草、目線等、様々な事から判断し、不満があると見てとれたら、テーブルにある水やワインを注ぎに行き、さりげなく話をふり、不満を聞き出し解消する
要は人を観察する癖が付いている、そしてこの世界に来て、一番観察しているのはソフィアだ
当初は特にだが、不満が死に直結しかねない状況だっただけに、その表情や目には注意をはらっていた
上手く化け、表情も作っていたが、奴の俺に向ける目は、ソフィアが俺に向ける目とは明らかに違う、不満、怒り、憎しみが見て取れた、ここまでなら、無理矢理ランギールに、同行させた事への不満もあるかと思ったが
シアを抱き止めた時の、表情、目、仕草、ソフィアはシアを娘や妹、家族として対応している、対して奴は、狙った標的がその手に飛び込んで来た事で、緩んだのか、家族に送る目とは明らかに違う、イヤらしい視線を送っていた、後はシアと奴に言った通り、万が一俺の勘違いだとしても蘇生の指輪もある
まぁ、剣を突き入れようとした時に、飛び退いた事で確信に変わったが、あの状況ならソフィアは、シアの安全も考えて、俺の突きなど手で止めるか、障壁を張るかの、どちらかだろうからな
そして奴を始末出来たのは、砕け散った砂時計、名は、停止の一撃と言う、相変わらずの酷いネーミングセンスだが
これが、俺の三つの切り札の内の一つだ、効果は、対象の時を止める、この時、対象の攻撃、魔法の一切を無効化する、この効果は使用者が対象にダメージを与えるまで継続し、使用者以外のダメージは受け付けない、但し対象との戦闘から離脱する事でも効果は解除される、だ
本来は創世の像と併用し、対象の動きを止め、その場に拠点を作成し、有無も言わせず、対象を俺の所有物と変える、もし仮に、ソフィアが裏切ったとしても、このコンボで対処するつもりだった物だ
停止の一撃だけでは、効果は薄い、何故なら俺の一撃で、勝負が決する相手にしか効果的とは言えない、ソフィアに渡して使用させれば良いじゃないかって? 万が一自身に使用されたらどうする、最悪知らぬ間に即死だ、永遠に止まったまま、なんて事も有り得ない話じゃない
精神的な揺さぶりに弱いソフィアでは、万が一は有り得るからな
今回はこのアイテムで、奴の時を止め、首を跳ねると同時に心臓にも一突き入れ、飛んだ頭を串刺しにするだけの簡単な作業だったが、出来る事なら使用は控えたかった
「さて、始末を付けるか」
俺は地に転がるトカゲを蹴り上げると、その首を掴む、蹴り上げた事で、意識を取り戻したのか、目を開くトカゲだが、一切騒ぐ事もせず、力を抜いている
「トカゲ、貴様のせいで、シアを危険に晒した、更に俺の切り札を切る羽目になった、貴様に責任が取れるのか? 主を不要な危険に晒し、貴様より遥かに価値の高いアイテムを使用する羽目になった」
トカゲの目から涙が落ち、静かに目を閉じる
力無き者が、指示も聞かず、でしゃばれば、全員を危険に晒す事になる、今回はリカバリー出来たが、今後致命的な弱点になりかねん、ここで殺してやる事が、シアを守る事にも繋がるだろう、安心して死ね
「まってなのパパ!」
「駄目だ、コイツは此処で殺す」
トカゲは目を開き、シアを見つめると
「クワァ」と小さく一つ鳴き、目を閉じる
「なんでなの!? ガーちゃんはおにもつじゃなの! じぶんでそんなこといったらだめなの!」
「トカゲも理解したか、お荷物だということを」
「パパ! おねがいなの! もうぜったい、いうこときかせるの! それがだめなら、おうちにかえすの!」
コイツの能力は戦神に対して有効だ、戦神の強みでもある圧倒的な魔法を制限出来る、利用されれば致命的な事になりかねん、それはあの戦神も撤退した程だ、理解しているだろう、そして今回、その使徒に見られている、このまま連れて行くにはリスクが大きい、家に置いてくるか、、神殿は捕らえ利用されれば最悪、俺の拠点に置いて来れば、利用される心配も無いか、、
そう思案していると「ドサッ」と音が聞こえ、目を向けると、その場に倒れ込むシアがいた
「シア!」
「グワァ!」
俺とガーちゃんは慌てて、シアへと駆け寄った




