74、アルバート=ドラギール
ドラギールは自身の胸を貫いた剣を見て、悟り、諦め、顔を上げる、その表情は死が決まっているにも関わらず、どこか晴れやかであった
「ここまでしても、俺はお前には勝てないのか、、簡単には死ねぬか、直ぐに首を跳ねたい所だろうが、最後に話せないかランギール?」
ドラギールは握る剣を、引き抜き放り捨てると、自身を貫く剣を抜く為に、少し後退りした後、その場に座り込んだ
ランギールは警戒しながら、回復薬を傷口、痛めた箇所に振り掛け、更に回復薬を飲み、全快させる
その様子をじっと見詰めるドラギールが
「俺の傷を見ろ、さしもの体も心臓を貫かれては、死を免れん様だ、最後に話がしたい、首に刃を当てた状態でも構わん、好きな時に首を落とせば良い」
全快させ、立ち上がったランギールは、剣を握ったまま
「良いだろう、最後だ、言い残す事があるのな聞こう」
「感謝する、もう一つだけ頼みがある」
「何だ?」
「個人的な話だ、以前の様に、ユリアと呼んで謂いか?」
「構わん、私もアルバートと呼ぼう」
アルバートは微かに微笑むと話始める
「王立学院での事を覚えているか?」
「ああ、覚えているとも」
「俺は学院で個の武では、最強だった」
「ああ、そうだな」
「ユリア、唯一お前だけが、俺と満足に戦えた、そして、部隊を率いての集団戦は、お前が勝っていた」
「微々たる差だろう、それもどちらが上かも定かでは無かった」
「武では俺に劣るものの、指揮においては、俺に勝る存在、周りの者が俺の顔色を伺う中で、お前だけは違った、美しく、強く、慕われ、信念を持ち、対等な存在、俺は様々な事に恵まれたが、本当の意味で慕われた事など無かった、だがそんな事はどうでもよかった、俺は、ユリアと対等な存在である事に、喜びと誇りを感じていたのだ、ユリア、俺はお前の事を、人間として、一人の女としても好きだったよ」
「私は家を継がねばならなかったからな、アルバート、お前を男して見たことは無かったが、王国の未来を共に担う同志として見ていたよ、だからこそ卒業を前に、互いに王国の歴史に名を残す騎士になろうと誓い合った筈だ」
「そうだ、俺は歓喜した、お前に認められた気がしてな」
「当時はお前の事を認めていたさ、いや、卒業後互いに家を継いだ後も、能力は認めていたよ、本当にお前は何処で道を踏み外したのだ?」
「道を踏み外すか、、卒業が間近に迫り、俺は実家に戻っていたが、贔屓の商会との顔合わせの為に、街へ出た帰りだった、ふと学園に足が向いてな、学園の裏庭で鍛練に励むユリア、お前がいた、俺は目を奪われたよ、その力強く、美しい、洗練された動きにな、同時に気付いたのだ、俺では勝てぬとな、その武があって、俺に負ける筈がないと、俺は手加減されていた訳だ、対等な存在だと思っていたのは俺の思い違いだった、ユリア、お前から見て俺は、さぞ哀れで滑稽だっただろう、逆に聞こう、何故手を抜いていた? 俺が公爵の息子だったからか? 高位の傲慢なドラ息子を、叩きのめせば面倒な事になると思ったか?」
「それは違うぞ、アルバート」
「違わんだろう、偽りだらけの世で、俺にとってお前だけは、特別な、唯一対等に向き合える相手だと思っていたのだ、道を踏み外した瞬間と言う事なら、そこからだろう俺が狂ったのは」
「聞けアルバート、私は確かに手加減をしていたが、それはお前以外の者達にだ」
「直に死ぬ身だ、つまらん情は止めろ」
「情では無い、事実だ、集団戦は相手陣営の旗を落とす目的な上、指揮者は直接戦闘に加わらないが、一対一では、そうはいかん、アルバート、お前以外は手加減をして勝敗を決する事は容易かったが、お前相手ではそうはいかん、我々が活躍する場は演習では無い、演習などで怪我を負わす事も、負わされる事も、我々に取っても、国に取っても、損失になるだけだ、だからお前との模擬戦は、防御に重きを置いた、結果負けたがな、学院とは勝敗を決する為にあるので無い、互いに競い、高め合う場な筈だ」
ユリアの目を見つめたまま、じっと話を聞くアルバート
「ユリア、お前はあの頃から変わらぬ、真っ直ぐな目をしているな、俺の勘違い、、いや一人相撲か、俺の濁った目にはお前は眩しすぎる、だからこそ皆お前を慕うのだろうな、俺にも真に慕ってくれる者がいれば、、いや止めよう、そんな者など」
「私からも一つ聞こう、私の顔に似せた侍女、彼女も王の様に傀儡としていたのか?」
「奴等から買った高価な薬を、侍女相手に使用する訳があるまい、顔を変化させた魔法とは訳が違う、王は状態異常や、精神操作に高い耐性のある秘宝を付けている、知らぬお前ではあるまい、誓って言うが侍女には、精神操作系の魔法も使用していない、大方、、」
「だからお前は馬鹿者な上に、目が曇っているのだ、大方、金や地位目当てとでも、続けるつもりだろうが、それならば尚更、自身の命を投げ出し助ける事などする筈が無い、お前を真に慕う者は確かにいたのだ、今のお前の何処を見て慕っていたか、私には検討も付かないが、慈愛に満ちた聖母の様な女性だったのは確かだな」
「そうか、、こんな俺にも、、そうだと言うのに俺は、彼女の名前すら知らん、、最後に二つ願いがある、彼女の墓を建ててやってくれ、俺の私財は没収される事は分かっているが、出来ればそこから、それと彼女の家族に暮らしに困らぬ金品を、虫のいい話だが頼む」
「約束しよう」
「最後にユリア、お前の手でこの首を」
座り込んでいたアルバートだが、正座し、手を後ろに組むと、頭を垂れて、首を差し出す
ユリアはその側に歩み出ると、剣を振り上げる
「さらばだアルバート」
「さらばだユリア、もし互いに生まれ変わったならば、俺はお前の騎士になり、生涯お前を護る盾となろう」
謁見の間に、ヒュンと剣を振る音が鳴り、遅れてアルバートの頭が転がる音が続いた
ブリュッセル家の邸宅
応接室を出た廊下は、赤と黒の大量の血溜まりと、兵士達の死体が無数に転がっていた
剣で切り裂かれた者、まるでトロールに叩き潰されたかの様に、不自然にひしゃげた者、その中でも異様なのは、鎖骨を引き抜かれ、くびが綺麗に外された者や、同様に手足を外された者だった
「お前で最後だ、どうせ逃げる事は出来ん、さっさと来い」
錯乱気味の最後に残った騎士は剣を振り上げると、男へ襲い掛かる
男は左手で、その振り上げる剣を持つ手首を掴み止めると、内側に捻るように捻り、それと同時に、右手を貫手にして騎士の肩へ突き入れると、捻る左手と連動する様に、右手を動かすと、人形の腕を外すかの如く、簡単に取り外される
次の瞬間、声なき声を上げる騎士の首は、いつの間にか男の握る剣により、床に転がっていた
男は廊下を戻り、応接室へと入ると
「終わったぞ、後は城へ行ったソフィア達を待つとするか」
「はいなの!」
「グワァ!」
元気の良い返事をする、シアとガーちゃんに、へたり込む夫人、室内を確認すると、突入してきた時に始末したよりも多くの死体が転がっている上に、窓も破損している
「外からも入り込んでいたか」
「そうなの、でもガーちゃんもがんばってくれたの!」
「グワァグワァ!」
最初の突入時、無数の魔法を打ち込まれ、夫人の壁になろうとした時だ、魔法は俺に着弾することなく、青白い障壁によって全て阻まれ、更に反射させていた、転生したてとはいえ、腐っても神龍、その特性は健在の様だ、シアとガーちゃんに夫人を任せ、俺は廊下へと出て、侵入者を片付けて来た所だった
侵入者には気の毒だが、俺の知的好奇心を満たさせてもらった
圧倒的ステータス差による解体だ、例えば鰯の様な身の脆い魚は、素手で骨を外し、開く事が出来る、ウズラの様な小さな鳥もまた、皮や筋を軽く切ってやることで、モモ肉など簡単に取り外せる
今の俺のステータスならば、皮も筋も、素手で簡単に絶つ事が出来ると仮定して、素手での解体を試してみたが、最初は数匹無駄にしたが、以後は我ながら見事な手際だったな、地球では絶対に満たせぬ知的好奇心を、少し位異世界で満たして問題無いだろう、まして相手は此方を殺しに来ているのだからな
そんな事をソファーに腰掛け考えていると、扉が開きソフィアが入ってくる
「そちらも終わった様だな」
「はい、レオン様、問題無く」
「ママ、おかえりなの!」
と俺の前を抜けて、ソフィアの元へ行くシアを、ソフィアは膝を付いて迎える何時もの光景だ
「ただいま、シア」
と手を広げシアを抱き締めるソフィア
俺は抱き付くシアの頭の上から、ソフィアの顔を目掛け剣を突き出した




