JD-070.「街での5人デート」
ご飯時にはまだ早いけども、討伐後の冒険者たちがあちこちの店に顔を出しているのだろう。
あちらこちらで騒ぎの音が聞こえ、店先でも元気な声が聞こえる。
俺達はというと、おじいさんおすすめのとある店に来ていた。
「おおお……」
「じゅーじゅーいってるのです」
髪が燃えてしまいますわよ、とラピスが慌てて2人を引きもどすほど、ジルちゃんとニーナは身を乗り出していた。
何に、と言えば網の上で焼ける海産物を見るためにである。
地球で見たような物とほとんど変わらず、若干見た目が何か変だなと感じる程度。それでもどう見てもサザエだとかには変わりない。
匂いは暴力的なまでの物だけど、俺達の網だけじゃなく同じ店先にある網からは同じような匂いが漂っているはずだ。
(魚醤ってやつかな)
お店の人に言われるまま、陶器製の器からたらす液体は醤油のように見えて違うものであり、臭いも違う。
だけど、網の上に垂れてから立ち上る物は心に響く。特に和食派といったわけじゃあないけれども、自分の体となった食事の記憶という物はやはり、強い。
「ご主人様、煙たかった?」
「あ、うん。大丈夫」
少しばかり、ツーンとしてしまった。
それが望郷の想いなのか、それとも別の何かなのか。明確な言葉にはならないけれど、大事な事だろうなと思った。
元の世界に戻りたいという気持ちは、全くないわけじゃあないけれども今戻りたいかと言われたら、間違いなくこのままでいいと答えると思う。
(戻ったところで代り映えしない生活が待っている)
心のつぶやき通り、仮にそうなったとしても失う物の方が多いように思えた。
軽めとはいえオタク、そうなれば新しい作品に出会えない、アニメやゲームも無いということに悲しいと思うところもあるけれども。
でもね、この世界は……一人じゃない。
ちらりと横を見れば、焼きあがった海産物に向けてふーふーと息を吹きながら食べ始めているジルちゃんたち。
こんなかわいい子達と密着とも言っていいぐらいの生活をして、誰もがうらやむような経験をしているのだ。そこに命の不安はあっても、不満は全くない。
「? ご主人様、食べないの?」
「マスターがこの二枚貝はおいしそうだって頼んだんですもの、ほら」
俺がみんなを見ているだけで食べていないことに気が付いたのか、皿にのせられる焼けたイカのようなもの、そしてホタテっぽいもの。
どちらも魚醤がかけられ、香ばしい香りを放っている。
「ううん。みんな楽しそうだなって。それと、食べてる姿も可愛いなあってね」
「はわわっ、トール様が褒めてくれたのです」
「もう、とーるったら。これが食べたいならそう言いなよー」
もしジルちゃんたちが、貴石解放後の姿だったならば周囲からはやっかみの視線や、場合によっては舌打ちまでもあったかもしれない。
そう思えるほどには、その後のみんなは何かにつけて俺に焼けた物を差し出してくるし、あーんとかやってきた。
嬉しいけれど、焼けた直後の物を差し出すのは勘弁してほしい。
さすがに熱すぎるよ……うん。
それでも火傷にならないというチートな肉体に感謝すべきか、熱さは感じるのでどうにかしてほしいと思うべきか。無駄に悩んでしまう俺。
お店の人がまだ食べるんですか?と驚いてくるぐらいの量を5人で食べ、気が付けば積みあがっていた貝殻の量などに自分で内心驚きつつも食事を終える。
「ほら、ジルちゃん。はしたないですわよ」
「だって、おなかいっぱい」
街の通りを歩きながら、お腹がいっぱいなことを隠そうともせずに撫でているジルちゃん。
可愛い姿ではあるけれど、女の子らしいかと言われるとラピスの指摘するように少し違うのかもしれない。
ニーナとフローラも同じぐらい食べているが、余り気にしていないようだった。
この中ではラピスが一番背丈があるから、少し気になるのかもしれないね。
「ははっ、その分腹ごなしに歩こうか」
「マスター、どちらまで?」
問いかける彼女に曖昧に笑みを浮かべたまま答えず、その手を取る。
まるでデートの時のエスコートシーンの様だけど、女の子側の人数が4人というだけで現状はデートとそう変わらない。
左右に2人ずつ侍らせるようにしているという状況は普通ではないけれども。
自分とのお散歩が楽しい、なんていうことを言ってくれるのはジルちゃんで、お荷物は自分が持つと言ってくれるのはニーナ。
フローラは飛んでいこうか?なんて言ってくれる。ラピスも俺が手を握ったままでも歩きやすいようにか姿勢を変えているぐらいだ。
本当、もったいないぐらいの子達だよね。
そしてやってきたのは、いろんな防具を扱っているお店。当然、買うべきは防具だ。
おじいさんに報告に行った時に言われたんだ。
今日できて、明日できることは今日やろう、と。
明日には明日じゃないとできないことがやってくるかもしれないんだからね、と。
「靴とか、よさそうなのを買おうかなって思ってさ」
「よーし、選ぶぞー!」
「自分は踏ん張りがきくのがいいのです」
お店の人にとってはちょっとしたサプライズだろうか?
急に防具を身に着けていない子供が4人も入ってきて、商品を見始めるのだからね。
その後に俺が入ってきて、ようやく落ち着いた顔になったように思える。
やはり男性用が多いのか、比較的サイズが大きい物が多い。
それでも女性の冒険者だっていないわけじゃないし、激しい戦闘は別として、外に出歩く人のための装備はあるようだ。
しばらくして、それぞれが靴を選んでくる。
「ご主人様、これがいい」
「私はこれですわ」
同じようにフローラやニーナも選んできた靴をまとめて購入することを決め、俺は店内を見渡して他の装備も確認していく。
サイズ的には大きいけど、腕輪とか装飾品の類はどうだろうかと思ったのだ。
「おじさん、この辺のは貴石術使いの人が装備する奴であってる?」
「ああ。はまってる石が術を増幅するらしい。俺が使えないから詳しい解説は無理だぞ」
正直に自分ではわからないと言ってくるぐらいなので、逆に信用できると思う俺。
靴と同じように選んでもらい、少なくないお金を支払う。
そうしてお店を出て歩き出した時のことだ。
「トール様、急に装備を買い込んでどうしたんです?」
「うーん、いざというときに後悔したくないからかな」
ニーナたちは人間ではない。これは女神様にも言われたことだし、恐らく間違いはないんだと思う。
だけど、だからといって人間じゃない対応をするというのは俺自身が許せないなと思っているのだ。
そのための、買い物。
女神様はそんなつもりはなかったと思うけど、皆の事を作ったって言っていた。
出来れば産んだと言って欲しかったんだと自分では思っている。
俺だけでも、みんなを女の子としてちゃんと扱ってあげたい。
そのために武具を買い込むというのはちょっとずれてる気がしないでもないけれど。
そして、別のお店にたどり着く。
今度は防具じゃなく、いわゆる洋服店。
中古の服も見えるし、お店の奥の方には新品のような物も見える。
街が大きいからこその規模のお店だと思う。
「いくらマナで交換できるって言っても、着替えは嫌じゃないでしょ?」
期待に満ちた瞳になっているみんなにそう笑いかけると、店員さんが何事かとこちらを見るぐらいには喜んでくれた。
来てよかったかな……うん。
そうしてジルちゃんたちの買い物が始まり、俺はお店の片隅で彼女たちの相手を……相手を始める。
前の買い物の時にも思ったけどさ、なんというか……ね。
ただでさえ女の子の買い物は長いというけど、それが4人だ。
いつまでたっても終わらない。
どれが似合う?って、どれも似合うよみんな可愛いもの!
だけど、そうじゃないんだろうね。さっきもそう言った、なんて膨れるジルちゃんも可愛いけれど、ちょっと疲れる。
女神様にもらった肉体に頑張って耐えてもらうしかないのだ。
買い物はお店が日暮れだから終わりだよと言われるその時間まで続いたのだった。
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