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静の姫君と嘘つきの王  作者: うぃすた
夜会に向けて
33/67

刺繍の担い手

王の執務室の扉を開けて、主の様子を目にしたユージィーンは、笑うべきかおそれるべきか判断に迷った。

「…これは…どうしたの?」

部屋に溢れるのは、沢山の蒼い布と煌めく輝石。

そして、縫い針を手にした王の姿だった。

(す、すごいシュールな絵面なんですが…)

「…茉莉花に最後くらいは手伝え、と」

その眉間の皺は深いが、手元は素早く機械的なまでの精確な所作で布に輝石(ビーズ)を縫い止めていく王に。

「はぁ…それはまた…適材適所で」

結局、笑いに軍配が上がったらしいユージィーンが、ゆるゆると笑みの形に唇をあげると。

「…お前の分もあるぞ」

王から告げられた驚愕(きょうがく)の事実に、ユージィーンの笑みはかき消えた。

「え?マジで??」

「…これからは刺繍もできる器用男子がモテる…そうだ」

淡々と茉莉花のものらしい言葉を伝える王に、ユージィーンは詰め寄る。

「…それホントにホントにホントだな?違ったら…泣くぞ」

「…泣くなよ」

本気で迷惑がる主に、恨めしげな目を向けて、ユージィーンは自分の机に置かれた布に向き合った。

「これ、(ちな)みに…残りは誰がやってるの?」

ユージィーンの素朴な疑問に、事も無げにジークは答えた。

「ヒルダと王妃とクリスと梔子(シシ)だ。茉莉花(ジャスミン)に言わせると、残りは壊滅的(かいめつてき)な腕前だそうだ」

その言葉に、ユージィーンがのけぞる。

「女子率低っ…!つかまさか赤毛の護衛さんもやったの?」

その問いはスルーして、ジークが(まと)めた。

「…まぁそう言うわけで、人が足らんらしい」

「いや…侍女とか侍女とか侍女とか、いたでしょ探せば…」

ユージィーンのボヤきに、華麗に針をさばきながら、ジークが一刀両断する。

「これは彼らの職務外だからな。(わずら)わせたくない」

「コレダカラヤダナー…真面目ナ王様ッテ…」

ショックの余り、片言気味に呟きながらも、観念してユージィーンは縫い針を手に持ち、チクチクと縫い付けはじめた。

ジークほど華麗ではないものの、それなりにそつなく刺繍を(ほどこ)していく。

(に、憎い…この器用貧乏な性が!)

しかし不思議なのは、その刺繍の内容だ。

パターンがあるようで、見当たらない不思議な図形に、ユージィーンは首をかしげる。

「ところで、これ何の模様な訳?」

ユージィーンの疑問に、ジークはつと視線を逸らした。

「…俺も知らん」

「いや!いまの絶対、なんか知ってるリアクションだよね??」

「…俺も知らん」

「え!隠されると余計、気になるんだけど!」

「…とりあえず手を動かせ」

こうして、主従はじゃれあいながらも、大量の刺繍を完成させたのは、既に月も上りきった深夜になった頃だった。

単に、ユージィーンとジークのじゃれあいを書きたくなっただけでした。



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