刺繍の担い手
王の執務室の扉を開けて、主の様子を目にしたユージィーンは、笑うべきかおそれるべきか判断に迷った。
「…これは…どうしたの?」
部屋に溢れるのは、沢山の蒼い布と煌めく輝石。
そして、縫い針を手にした王の姿だった。
(す、すごいシュールな絵面なんですが…)
「…茉莉花に最後くらいは手伝え、と」
その眉間の皺は深いが、手元は素早く機械的なまでの精確な所作で布に輝石を縫い止めていく王に。
「はぁ…それはまた…適材適所で」
結局、笑いに軍配が上がったらしいユージィーンが、ゆるゆると笑みの形に唇をあげると。
「…お前の分もあるぞ」
王から告げられた驚愕の事実に、ユージィーンの笑みはかき消えた。
「え?マジで??」
「…これからは刺繍もできる器用男子がモテる…そうだ」
淡々と茉莉花のものらしい言葉を伝える王に、ユージィーンは詰め寄る。
「…それホントにホントにホントだな?違ったら…泣くぞ」
「…泣くなよ」
本気で迷惑がる主に、恨めしげな目を向けて、ユージィーンは自分の机に置かれた布に向き合った。
「これ、因みに…残りは誰がやってるの?」
ユージィーンの素朴な疑問に、事も無げにジークは答えた。
「ヒルダと王妃とクリスと梔子だ。茉莉花に言わせると、残りは壊滅的な腕前だそうだ」
その言葉に、ユージィーンがのけぞる。
「女子率低っ…!つかまさか赤毛の護衛さんもやったの?」
その問いはスルーして、ジークが纏めた。
「…まぁそう言うわけで、人が足らんらしい」
「いや…侍女とか侍女とか侍女とか、いたでしょ探せば…」
ユージィーンのボヤきに、華麗に針をさばきながら、ジークが一刀両断する。
「これは彼らの職務外だからな。煩わせたくない」
「コレダカラヤダナー…真面目ナ王様ッテ…」
ショックの余り、片言気味に呟きながらも、観念してユージィーンは縫い針を手に持ち、チクチクと縫い付けはじめた。
ジークほど華麗ではないものの、それなりにそつなく刺繍を施していく。
(に、憎い…この器用貧乏な性が!)
しかし不思議なのは、その刺繍の内容だ。
パターンがあるようで、見当たらない不思議な図形に、ユージィーンは首をかしげる。
「ところで、これ何の模様な訳?」
ユージィーンの疑問に、ジークはつと視線を逸らした。
「…俺も知らん」
「いや!いまの絶対、なんか知ってるリアクションだよね??」
「…俺も知らん」
「え!隠されると余計、気になるんだけど!」
「…とりあえず手を動かせ」
こうして、主従はじゃれあいながらも、大量の刺繍を完成させたのは、既に月も上りきった深夜になった頃だった。
単に、ユージィーンとジークのじゃれあいを書きたくなっただけでした。




