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刑徒の恩送り  作者: 鯖欄
第一章

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8/13

8話 恨まれて当然

登場人物

元囚人女性、洗脳の使い手 主人公 セーレ

無職の青年 マーク

敵対者 ビィシャア

怪物たち

 セーレとマークは、最牡(さいおす)の正面入り口へ到着。にこにこ顔の整備士のコーンと再会を果たした。

「おぅ、マーク。バイクを派手に壊したみたいだな」

「すみません、おやっさん」

 マーク思わずスライディング、土下座。

「構うことはねぇ、頭上げろ。バイクは壊れるもんだ。壊れたらまた修理すればいい」

「おやっさん! さすがです」

 男同士のやり取りを見て、セーレも「少しバイクの話を聞いてみよう」と耳を傾けた。

「いいか、バイク乗りに必要なのは心だ」

「はい、勉強になります」

 聞き取ったことを、マークは日記帳に書き留めた。

「それでな、バイクは風と一体化することが大事でな」

「それは、自分も体験しました」

「それでよ……」

 ちんぷんかんぷんだ、付いていけん。やっぱり好きになれなかった。

「……あのぅ、バイク乗りの心得とか、どうでもいいので。さっさと、私たちのバイクの引き渡しを済ませてください」

 セーレの指摘を受け、コーンがサイドカー付きのバイクを工場から持ってきた。

「おやっさん、ありがとうございます」

 サーメスとの戦闘で転倒した際の傷は補修され、表面は丁寧に研磨されていた。

「いいってことよ」

 二人は握手を交わした。

 その間にセーレは、バイザー付きヘルメットを頭に被る。立ち止まることなく、サイドカーへ乗り込んだ。そして、二人の話し込む姿を見ながら、縁に肘を置き頬杖をついた。

「では、お世話になりました」

「バイクを頼んだぜ」

「はい、おやっさん」

 マークはバイクのエンジンをかけ、最牡の正面入り口から外へ走り出した。アスファルトを走るバイクは、太陽の光を受けて表面が反射し、輝いて見えた。

 

 しばらく走ると、アスファルトの道から砂漠地帯へ変わる。ガタガタ揺れる長い距離を走行し、道とは呼べない道となった。

「さぁ、次は私の神器探しよ」

 セーレはより一層元気になっていた。

「なぁ」

 マークは気になることを尋ねた。

「何よ」

「君の神器はどんな形をしているんだ?」

 彼女は即答した。

「うーん、見た目は槍ね」

「槍?」

「そう。穂は十文字、柄は赤色、石突には獅子がついているわ」

 ぽん、ぽん、ちーん。マーク、閃く。女神アテーナーみたいだ。

「そうか、わかった。クライさんから貰った探査機に、反応はあるかい?」

「全くないわね」

 眼鏡がよく似合うセーレを周囲を見回した。その間にも砂漠をバイクで走らせる。しかし、一向に神器の反応は掴むことができなかった。気がつけば、夕刻の時間であった。


「今日は、もうこれくらいにしよう。そろそろ野営の準備をしよう」

 マークはバイクを止め、パーキングブレーキレバーを引き、エンジンキーを抜いた。

「えぇ、そうね」

 セーレは、マークの鞄から四角い小さな箱を手に取った。

「それは何?」

「クライからもらった物」

 セーレが箱を地面に置き、蓋を開ける。風船のように膨らんでいく。

 やがて風船は四角形となり、二十畳くらいの大きさになった。そして、外観の表面は石と見間違えるほど硬くなった。何とも立派な簡易施設が完成した。

「これは、もはや凄過ぎて、クライさんの発明は何でもありだな」

「さすが、天才ね。これなら、朝方の炎天下でも快適に寝られるわね」

 セーレは、施設のドアに手をかけ、中に入る。

 室内のドアは四つあり、各々の部屋が構成されていた。一つの部屋を開けると、食材がびっしり入っていた。それもほとんどが固形食料だ。

「今日は、これ食べたら、さっさと寝ましょう」

 セーレは固形食料を手渡した。

「そうだな」

 マークが取った袋に入った食料の見た目は、ビスケットに近い形だ。一枚手に取り、食べてみる。その味は、苺そのもの。

「何だこれ、見た目はビスケットなのに。まるで生の苺を食べているようだ」

「美味しいわね、気にせず、どんどん食べちゃって」

 暴食女、セーレの大食漢が止まらない。

「こんなペースで食べていたら、食料はあっという間に無くなるんじゃないか? 今後のためを考えて、食料の節約も必要なんじゃないか」

「大丈夫よ」

 彼女は食料庫から小さな冷蔵庫を持ってきた。中を開けると、袋詰めにされた固形食料がこれでもか、とびっしり敷き詰められていた。

「クライが定期的に補充してくれるから。これで食料に困ることはないわね」

「そうだった。大総統でもあったな。うん、ところで……ワープって、どんな技術なんだ?」

 夜な夜な耳元で説明された、セーレの嫌な記憶は即座にシャットダウン。

「ほら、そんなこと気にせず、明日の活力のために食べな」

 セーレは、彼の口にビスケットを投げ入れた。

 投げ入れた当人は大笑いした。男心としては「もう少し、あーん」の可愛げぐらいほしい、とマークは反抗心をもった。

「じゃあ、私寝るから。アンタもいつまでも、起きてるんじゃないわよ」

「あぁ、おやすみ」

 彼女が簡易施設のノブに手をかけようとした瞬間、その手が止まった。周囲には深い霧が発生し、何やら不気味な呻(うめ)き声が響いた。

「声が聞こえる……誰かしら?」

「どこにいるんだ? セーレ! また優勢思考の連中かもしれない。警戒を!」

 マークの声は近くに聞こえる。

『ぎぃー、がぁー』という声が周囲を包み込む。しかし、誰がどこにいるかは判断できない。

「ふふふ……やっと見つけた」

 霧舞う中、薄ら見えた黒髪で若めの女性の声だ。

「また優勢思考かしら?」セーレは問う。

「いいえ、違うわ」

「なら誰よ!」

 黒髪のボサボサ女が、殺意を露わにした。

「私はビィシャア=エドモンド! あなたを絶対に許さない。あの戦争でパパを殺した、殺人鬼をこの手で仕留めてやる!」

 セーレは、戦争の夢を思い出し、少し引きつった顔になった。

「エドモンド!? まさか、あなたの父親は私達の補助をしてくれた」

「えぇ、そうよ。殺人鬼セーレ! 無関係な人間を巻き込んだ、あなたを私は絶対に許さない。覚悟しろ!」

「エドモンド!? そんな、彼の娘だなんて……」

「パパの敵だ。死ね!」

 ビィシャアは手に持った鎌の先端をセーレの胸にめがけて振り下ろした――と同時に、ガキィン、と金属音がした。

「何やってるんだ。早く洗脳の力を!」

 先端を二本のトンファーで、受け流したのはマークだった。

「何だお前は! 邪魔をするな! 我がクリチャーよ、そいつをやっちゃえ!」

 ボサボサ頭のビィシャアの後方から、霧を跳ね除け二体のクリチャーが姿を現した。その魔物はインプとオークと呼ばれていた。

 インプは頭に四本の角があり、耳が長く、やや小振りな羽を持つ。約三メートル宙に浮いていた。オークは豚の顔をしたゴリマッチョで、棍棒を振り回している。二体とも身長は二メートルはありそうだ。現実には見たことのない生物だった。

「何だ、こいつらは?」

 マークは戸惑うが、敵対者の女性には関係なかった。

「さぁ、やっちゃえ」

 霧の中から飛び出し、セーレだけを狙い襲いかかってきた。

「先にお前だけでも倒す!」

 マークは、ビィシャアの鎌にトンファーをぶつけて、電流のボタンを押した。けれど、オークの棍棒で殴られて引き離されてしまった。

「あれ? 思ったより、痛くない?」

 マークは攻撃を受けたが怪我ひとつない。

 衣服が汚れる程度だった。クライが開発した服の防御陣が効力を発揮しているようだ。

「おい、何をしているんだ」

 マークは声を張り上げる。セーレには届かない。放心状態で追い詰められていた。

「ごめんなさい……ごめんなさい」

 彼女の瞳から涙が溢れ出ていた。

「涙? ふざけんな、殺人鬼! お前がいくら泣こうが事実は変わらないんだよ!」

「ごめんなさい……」

「どうしたんだ、早く力を使ってくれ」

 血走った目のビィシャアの鎌がセーレに向かう。マークはインプとオークの足止めを受け、フォローできない。

「こいつら、邪魔をするな!」

 マークの言葉を聞いたセーレは、我に返りビィシャアを見つめた。鎌の先端が目に近いが、軽い足さばきでかわした。怒った彼女は鎌を乱暴にブンブン振り回すが、髪の毛先すら当たらない。

「あなたの父親、エドモンドの遺言があるの」

「そんな作り話、信じる訳ないでしょう!」

 ビィシャアは、強張った表情で叫んだ。

「お願い、私の話を聞いて」

「殺人鬼の話なんて、どうでもいい!」

 説得が失敗したセーレの髪は白から銀へと変わった。

 ビィシャアは、鎌を投げるがセーレは右側へ走り、避ける。そこを狙い彼女の腰に突進。両手で掴みかかった。

 セーレは、背中から倒れ込んだ。流れる動作で、ビィシャアの腰にぶら下げた短剣を掴む。

「死ね、セーレ!!」

 振り上げた短剣。セーレの動きを封じるようにマウントを取った。迷うことなく、頭に剣を突き立てようとした。

「ごめんなさい。動きを止めよ。Freeze!」

 セーレの力で短剣が静止した。動きを止めた敵対者は、目が充血し、顔全体が赤く興奮している。

「クリチャーよ。私を巻き添えにしても構わない。セーレを攻撃しろ!」ビィシャアも血気盛んだった。

 その頃、マークはオークの顔面をトンファーで殴り、電流を流した。六五〇Vの電撃を浴び、怪物は気絶した。

 続けて、インプを止めようと走り出したが、飛行能力には追いつけない。

「やれ! 我がクリチャー!」ビィシャアの指示にインプは口から火を吐いた。

 危険を察知したセーレは、拘束力で二体の生物を縛った。しかし、火の攻撃を止める手段がない。やるしかない。

「弾け飛べ! Punishment of sin」

「終わりだ! 地獄に落ちろ」

 失神したオークと火を吐くインプの体はみるみる膨れ上がり、風船のように爆散した。

「後は、あなただけよ」

 セーレは体を揺らしたが、ビィシャアの関節技により、逃げ出すことができない。

「お前はここで、私と死ぬんだ」

 ならばとセーレは、右手の黒グローブを前に突き出した。青い光が溢れる。その光が螺旋状となり、二人が光に包まれていく。

 マークも慌てて、その光に入ろうとする。

 一歩遅れて、二人はどこかへワープしてしまった。

「セーレ〜! 俺を置いて行くなよ! 絶対、見つけ出すからな」

 その声は砂漠の風にかき消されていった。


 青い螺旋状の光が、オアシスの水面の上に現れた。その光から、二人の影が落下。その人物は、セーレとビィシャアだった。

「ぶはっ――」

 水の上から、銀髪のセーレが顔を覗かせた。水は浅めだが、足がつかない深さだった。キョロキョロし、異変に気付く。慌てた様子で水の中に顔をつこんだ。

 なんと、ビィシャアが洗脳の力で拘束されたまま泳げずに沈んでいた。慌てた様子で彼女を救出し、腰を抱えて陸へ引き上げた。

「ごほ、ごほ……なぜ、助けた?」

「あなた、本当に死にたかったの?」

 ビィシャアは嫌味に聞こえたため、観念したふりをした。

「眷属は潰され、武器はない。お前の拘束も解けない。これでは、何もできない」頭を伏せ、反省した仕草がワザとらしかった。その様子を見たセーレは拘束を解こうとする手を止めた。なぜなら、左手に短剣が握り締められていたからだ。

「こんな拘束意味がない、すぐに解け!」

「解いたら、私の話を聞いてくれる?」とセーレは言ったが、それに対してビィシャアは即座に反論した。

「聞くものか、今度こそ止めを刺してやる」

「なら、あなたの拘束を続けるわ」

 ビィシャアは濡れた黒髪の裏に狂気を隠している。そう、標的が油断を晒したら牙を立てるつもりだ。準備は万全だが、月の光に照らされ、今の彼女は蹲(うずくま)っている。

「くそ、お前が憎い!」

 セーレの顔を長く見るだけで、復讐心が煮え繰り返る。

「そうよね、憎いわよね……でも私はエドモンドに本当に感謝している。そして、あなたの父親を助けられなくて、ごめんなさい」

 セーレはビィシャアを拘束したまま、エドモンドとの出会いや戦争の話を始めた。

あなたの評価を星で欲しいけれども、それは読者が決めること。支えてくださり、応援よろしくお願いします。

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