↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
刑徒の恩送り  作者: 鯖欄
第二章

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

11/13

十一話 この者を処刑する

登場人物

元囚人女性、洗脳の使い手 主人公 セーレ

セーレの仲間 マーク、ビィシャア

過去の仲間、顔だけの男 ルーサー

他

「私はあなたが憎いし、一生恨むかもしれません」ビィシャアは少し真剣な目でセーレを見つめたが、それを気にせず彼女は返答した。

「好きなだけ憎みなさい」

「ふふふ、あははは――――」

 お互いに笑い合った。

 ビィシャアは、セーレより若い印象。ボサボサの黒髪から見える目は、くりくりで愛らしい。セーレが抱き寄せた彼女の体が大人しくなり、少しだけ距離を取った。

「せっかくの砂漠のオアシスだし、水でも飲みましょうか」

「はい、飲みたいです」

 二人とも喉が渇いていたのか、オアシスの水をがぶ飲みした。思わず、二人の間に笑みが溢れた。

「はっ……気が緩み過ぎました」

「いいじゃない、お互い喉が渇いていたんだし」

 少し頬を赤らめたビィシャアが、恐る恐るセーレの顔を窺う。まるで、子供が悪いことをして、叱られまいと隠しているようだ。その様子に「ふふふ」とセーレは笑いを堪えた。

「あなたに聞きたいことがあるわ」

「……何が聞きたいですか?」

 突然の質問に、ビィシャアは心の準備ができていなかった。

「あなたの使役していたオークとインプについてよ」

「あれですか」

 少し安堵の表情で、彼女の話を聞いた。

「私はあの類の生き物を見たことがあるわ。もしかして、無駄に顔が良い男から何か渡されていないかしら?」

「どうして、それを知っているの。そう、これをもらいました」

 ビィシャアのポーチから黒の石を取り出した。

 丸くて、三角のマークが中心に刻み込まれていた。セーレは「それを貸してくれ」と頼んだ。

「こんなものは、こうしてやる」

 足を上げる。

 マサカリを振るうように、オアシスの水へ投げ入れた。ぽちゃんと沈み、水の気泡がぶくぶくと泡立った。

 何かが勢いよく、浮上した。「その生き物はネズミ?」

「間違いない、これは奴が眷属としたネズミだわ」

「このネズミは、何なの?」ビィシャアは驚くしかなかった。

 オアシスから這い上がり、チュー、と愛嬌を振りまき、近寄ってくる。

「こいつらは、ある男に魅了されているの」

「魅了?」

「そうよ、顔だけが取り柄のクズ男。魅力の男爵ルーサー」

 ルーサーの驚くべき『クズの所業』をセーレは話し出した。

 まず、女を泣かせる。

 格好をつけて女を口説く。他に可(・)愛(・)い(・)子(・)がいれば、すぐ乗り換える。

 次に、仲間以外の男は絶対覚えない。

 戦時中、支援班を労うのも女性だけ。男性は目の前から「消えろ」という。

 最後に、アイツは女垂らし。

 気に入った女性は、地の果てだろうが、どこまでも追いかける。

「そうでしょう? 眷属を操るクズヤロー、ルーサー!!」

「いやいや、久しぶりに会ったのに、酷いじゃないか、セーレちゃん」ネズミが目を青く光らせていた。

「残念だな。せっかく、セーレちゃんを口説くチャンスだったのに」

「えっ、キモい」

「その発言酷くない」

「いやらしい」

「えっ……言葉遊びしてる?」

「…」

「黙らないでよ、セーレちゃん!」

 眷属ネズミ(ルーサー)とのやり取りに思わず、セーレはため息が出た。このルーサーという男の言動は、まるでチャラ男そのものだ。引いても、めげずに押してくる。

 大抵の女性は、整った顔立ちにメロメロになるが、セーレはこのクズ男の本質を知っている。だからこそ、できれば関わりたくなかった。敢えていうならひとつ。「キモい」

「えっ……二回も言う? 酷くない?」

「あの……」

 ビィシャアがしびれを切らし、ネズミとセーレの会話に割って入った。

「あなたは、私に黒の石を託しました。その力で、オークとインプの眷属を得ました。なぜ、お力を貸してくれたのですか?」

「……それはがっかりするから……聞かない方が」セーレは二人の間に割って入るが、遅かった。

「良くぞ、聞いてくれた。では説明しよう」

「うわぁ、キモい」

 セーレは、露骨に嫌そうな顔をした。

 その姿はペットの異常行動に、同情するような哀れみの表情だ。それとは相反し、ネズミは悠長に喋り始めた。

「私と初めて会った君は、セーレに深い恨みを持っていた。説得しようにも止めることが出来ず、監視の名目で、この黒い石を託したんだ。直接セーレと対面すれば誤解が解けるんじゃないか、と思ってね」

「えっ……まともな返答……」

「騙されないで。なら、なぜ、もっと早く助けに入らなかったのよ」

 眷属ネズミにかけられる圧がより一層強くなった。傍から見れば、動物虐待をしているのでは、と疑われてもおかしくないほどだった。

 さて、ルーサーの助けに入らなかった返答はいかに。

「実は、君がピン……」

「何よ、聞こえないじゃない。もっと大きな声で言いなさいよ」

「だから、君がピンチにな……」

「言いたいことは、はっきりと言いなさい」

「あーも、君がピンチになるのを待っていたんだよ。もうシチュエーションは考えていたんだ。そう、ラブロマンス作戦さ」

「もういいわ」

「君が追い詰められて、石から……」

「もういいって、言ってるでしょう!」

 セーレの髪色が白髪から銀髪へと変わり、眷属ネズミに洗脳の術を施した。

 あなたは「クズからの指令を受けず自由よ。さぁ、野生に帰りなさい」と。

 ルーサーの声は聞こえなくなり、ネズミは茂みの中へと消えていた。一悶着解決し、何やらバイクのエンジン音がこちらへ近づいてきた。

 マークだった。

「やっと見つけた……無事だったかって……お前はビィシャア=エドモンド!」

「あら、彼女は敵ではないわ。一時休戦中」

「そういうことにしました」

「へっ……どういうことなの……?」

 バイクの排気筒には爽やかな空気が流れ出た。電流音もせず、静寂と調停が混じり合う。青年が安堵する中、彼女たちの反応は平静だった。

 マークは、セーレとビィシャアのそばまで、バイクを徐行し近寄った。

「とりあえず、どこかで体を休めたいわ」

「それなら、セーレ。私の村へ招待するわ」

 ビィシャア、ぐっと身を寄せてきた。

「……村か、ありがたいわね。それなら、あなたに案内をお願いしましょうかしら」

「えーと、ビィシャアさん。バイクは二人乗りなんだが、君の村はここから遠いのか?」

「遠くはないわ、それに私にも移動手段ならあるわ」

 ビィシャアのポーチから石を取り出した。石が勢いよく火柱を上げた。

「中二病でも発症したのか」とセーレは心配になった。

 ビィシャアは火が消えると、握った手を開いた。赤い石が輝いていた。その石を上空に投げる。

「何をしたんだ?」食い入る様にマークは見つめた。

「今からよ、見てなさい」

 砕けた石は、地面に落ちた。

 触手みたいに柔らかくなり周囲のオアシスの水、地面の土、草花を吸収していく。やがて、石だったものは"馬の姿"に変化した。赤い鉱石でできた、ガラス細工のような美しい鉱石に見えた

「私はこれに乗っていくわ」

「凄いな、これは何なんだ?」

「これはね、このブレスレットのおかげなの」

「そのブレスレットは宝飾や飾りが施されているな。かなり高価なものなのか」

 ビィシャアは少し考えて、返答した。

「高価かどうかは知らないわ。けど、このブレスレットには特殊な魔力が込められているようです」

 ビィシャアとマークがブレスレットの話をしてる様子をセーレは、黙って静観していた。

 セーレは、そのブレスレットに見覚えがあった。

 かつて、召喚術師を輩出し戦時下に参加した一族があった

 その名は『ネイサン』。

 彼らは鉱石を自在に操るという。

「さぁ、セーレ。案内するわ、私の後についてきてね」

 やけにビィシャアに、懐かれてるのは気のせいだろうか。私を憎むといった気持ちは、なくなったのか。そんな気持ちとは、裏腹に彼女は足早に村への道を案内するのであった。


「何か、薄暗い村だな」

 マークが見た村の入り口には、何やら異様な雰囲気が漂っていた。家の外壁が全て黒。怪しげな薬を売っている老婆も黒ローブを着用。子供もいるが、笑い声が聞こえない。

「やけに静かだ」

 空気が重い。雨上がりのような、じめじめとした湿気を感じ取るマークだった。

「私の家はあれよ」

 ビィシャアが指を指した家は、木組みで外壁はやはり黒。もはや、この村のしきたり的なものなんだろう。

「ただいま、ママ」

 彼女が玄関ドアを開ける。

 開けた先には四十歳そこらの女性がトマトを包丁で切り、サラダを作っていた。彼女は母親に駆け寄り、セーレとマークを紹介した。

「お母様、初めまして。私はセーレと申します」

 家の中は、黒で統一はされていない、普通の住居だった。マークは胸を撫で下ろした。どうやら黒一色ではないらしい。

 ビィシャアの母親は、料理をする手を止めた。

 二人に近づき、挨拶をした。セーレは自己紹介の後に、膝をついて頭を下げた。

「私は、あなた方家族に許しがたい行いをしてしまいました」

「えっ……急に何をなさるんですか」

 その行動に彼女の母親は驚いた。

「エドモンド家のご主人は、私たち『言論の自由』の活動メンバー。その方は、偵察部隊リーダーで情報のためなら、命を投げ出すことを厭わない勇敢な人でした」

「知っています。主人は仕事一筋でしたから」

 頷きながら、またゆっくりと口を開いた。

「私は、自分の弱さと未熟さで、守るべき人達が殺される姿をただ傍観するしかありませんでした。全て私が不甲斐ないからです。申し訳ございません」

 セーレは、頭を深々と下げた。

 ビィシャアの母親は、セーレの肩へ優しく手を置き、静かに首を横へ振った。

「あなただけが悪い訳ではありません。私も主人が亡くなって驚きはしましたが、彼も本望だったんだと思います」

「ですが、私が……」

「セーレさん、あなたはお優しいのですね。こうして、一兵士の家族にまで律儀に謝罪してくれる。そのお気持ちだけ、いただいておきますね。どうか自分を責めすぎないでください」

 瞳に涙が溢れ、ビィシャアの母親の両手を掴み深々と頭を下げた。

「ありがとう……」

 

 ビィシャアの母親は料理に戻る。

 娘に対し「この村の紹介をして」とお願いをした。

 セーレとマークは、ビィシャアの案内で村を見学して回る。ある場所が目に止まる。そこは、一際大きな歓声が上がる集団がいた。

「これは、巨大なモニター?」

「そうよ、凄い技術でしょう。なんでも天才発明家が作ったそうよ」

「あぁ、クライか」

 どうやら、どこかの内政放送を生中継しているようだ。

「この者を処刑する!!」

 セーレは、処刑される罪人の顔を見た途端、急に頭を抑え苦しみ出した。何か記憶の重要なピース。しかし、記憶を封じられているような感覚に襲われた。

 あの男を見ると胸が苦しく、張り裂けそうだった。

 マークとビィシャアが「どうした?」と心配そうにセーレに近寄る。モニターの音声放送が続く。

「この者は、不敬にもセーレ様の恋人を名乗った。よって罪人は死刑との判決をアーネス様が下された」

 モニターには刑の執行を待つ、囚人の前に王城から一人の男が現れた。胸には数々の勲章と白マントを携えていた。

「あなたなの、アーネス? どうして、あなたに何があったの」

 彼と彼女のすれ違わない視線。古き面影に仲間の月は困惑した。優しき中にある影の情報を伝達し、理解が及ばない二人の距離は架空となっていた。

あなたの評価を星で欲しいけれども、それは読者が決めること。支えてくださり、応援よろしくお願いします。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。