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30話

 地面が抉れる。


 それだけで分かる。


 踏み込みの重さが違う。


 リヒトが動く。


 一歩。


 ただそれだけ。


 だが。


 次の瞬間には間合いの内側にいる。


「来るぞ!」


 前衛が叫ぶ。


 同時に構える。


 遅い。


 一閃。


 視界から消える。


 気付いた時には。


 一人が吹き飛んでいる。


「……っ!」


 間に合わない。


 反応できない。


「前衛、下がるな!」


 声が飛ぶ。


 レオだ。


 歯を食いしばる。


「ここで崩れたら終わりだ!」


 踏み込む。


 真正面。


 逃げない。


 剣がぶつかる。


 重い。


 圧が違う。


(……強ぇ)


 腕が軋む。


 それでも引かない。


「中衛、右!」


 声に反応する。


 二人が回り込む。


 挟む。


 リヒトが笑う。


「いいね」


 軽い。


 だが。


 その一言で空気が変わる。


 一歩。


 横にズレる。


 それだけで。


 包囲が崩れる。


「……っ!」


 誰も追えない。


「後衛!」


 リナの声。


 風が走る。


 地面すれすれ。


 リヒトの足元へ。


 一瞬。


 軌道がズレる。


(今!)


 レオが踏み込む。


 全力。


 振る。


 当たる。


 だが。


 浅い。


 リヒトは止まらない。


 そのまま回転。


 逆方向。


「ぐっ……!」


 レオが弾かれる。


 数歩下がる。


「……まだ」


 立つ。


 膝はつかない。


 リヒトは止まる。


 少しだけ。


 興味深そうに見る。


「……耐えるね」


 その瞬間。


 後ろから。


 同時に三人が踏み込む。


 連携。


 タイミングは完璧。


 だが。


 リヒトは振り向かない。


 剣が動く。


 一振り。


 二振り。


 三振り。


 すべて弾かれる。


 逆に。


 三人が体勢を崩す。


「……は?」


 誰かが漏らす。


 理解できない。


 何をされたのか分からない。


「前衛、ライン維持!」


 レオが叫ぶ。


 必死に繋ぐ。


 崩さない。


 リナが目を細める。


 風を読む。


(……速い)


 違う。


 速いだけじゃない。


(……無駄がない)


 全部が最短。


「……時間稼ぐ」


 小さく呟く。


 自分に言い聞かせるように。


 風が広がる。


 視界を揺らす。


 足場をずらす。


 少しでも。


 ほんの少しでも。



 リヒトの動きが鈍る。


 わずかに。


 本当にわずかに。



 だが。



「……すごいね」


 リヒトが言う。


 少しだけ。


 楽しそうに。



「一人なら、もう終わってる」


 事実。


 否定できない。



 だが。



「でも」


 一歩踏み出す。


「“止める”っていうのは、こういうことか」



 その瞬間。


 圧が上がる。



 レオが歯を食いしばる。


(……来る!)



 衝撃。


 前衛が一人、崩れる。



 だが。


 残りがすぐに埋める。


 穴を作らない。


「まだだ!」


 レオが叫ぶ。


 リヒトは止まらない。


 だが。


 進めてもいない。


 一歩。


 また一歩。


 確実に押している。


 だが。


 突破できない。


 七人。


 全員が役割を果たしている。


 崩れない。


 繋ぐ。


 耐える。


 時間が流れる。



 リヒトが、ふと止まる。



「……なるほど」


 小さく呟く。



「これがカイルのやり方か」



 視線が一瞬だけ逸れる。


 別の戦場へ。



 その隙を。


 レオは見逃さない。



「押せ!!」



 全員が踏み込む。



 止める。


 ただそれだけのために。

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