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しらないところで  作者: 南 紅夏
変動編

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里菜子と脳筋界隈の出会い

 私達と大牙の出会いは、高校一年の入学式の日だった。

 外資系の会社の人間も多い地域だったので、ハーフや髪の色・肌の色の違う人間は珍しくはなかったが、その中でも大牙と美雨は目立っていたと思う。


 大牙の場合は、何せでかい。その当時でもう185くらいあった。身長だけでもう目立っていた。

 しかし妙なツートンの髪色なのに、先生たちは見るなり

「おー、東雲家の末っ子かぁ」

 という程度で、染めて来いだのと咎めるものもいない。

 とにかく一家は近所では知れた存在だったようだ。


 その日私は近所同士で幼馴染の美雨と五月、佳苗の4人で初登校していた。

 校門から入ったとことで、知り合いやクラス分けの紙を探してそこら中を新入生がうろうろして混雑している中、一緒に歩いていた美雨の視線が、異様に大きい大牙の方に動いた。

 その時、大牙もふと立ち止まり、こっちを見たのだ。私は視線を遮りたくて美雨を隠すように動いたが、美雨も身長が高いので、私では何の壁にもならなかった。

「すっげー綺麗…透明…」

 小さな声だったが、その大男がそう言ったのが聞こえた。

 大男の横にいた、長めの髪を一つに束ねた小柄な男が

「大牙が人の外見褒めるとか珍しっ。…あれ?五月じゃん。五月の連れかぁ」

 と言いながらこちらに寄ってきた。


「あー、竜馬。…と大牙」

 名前を呼ばれた五月が間に入った。

「え?五月の知り合い?」

 五月の影から佳苗がひょっこりと顔を出した。

「ああ、私が通ってる道場の息子の東雲大牙。と、そこに入り浸ってる谷沢竜馬」

「誰が入り浸ってるだ。一応通ってんだよ」

 竜馬と呼ばれた男が不服そうに言い返した。


「あと、今月から大牙の家に下宿になったんだっけ?一応同じ中学校だったから知ってるかな…大森航」

 気付かなかったが、大牙の横にもう一人、見覚えのあるごつめな男がいた。

 中2の時だったか、同じクラスだった男だ。確か、柔道で何か賞を取っていた気がする。


「大森君は柔道強かったよね?知ってる!えー、東雲クンすげーイケメンじゃん!」

 佳苗は嬉しそうに大牙をじろじろ見ていた。

 五月がその後私たちの紹介を彼らにしていたが、私は美雨を男たちの視線から守るのに必死で、どう紹介されたのか全然聞いていなかった。


 彼等と別れて、教室に向かって歩いていると

「透明、だって。白いはよく言われるけど、透明は初めてじゃない?」

 美雨は何だか面白そうに笑っていた。


 私の祈りという名の呪いが効いたのか、美雨と同じクラスになれた。

 竜馬という男も同じクラスだったが、こいつは美雨にあまり興味がなさそうだったので、敵視しないでおくことにした。でも、美雨に魅力を感じない男というのもそれはそれで腹が立つ。




 入学の翌日、美雨が生物部に入りたいというので、私も当然くっついて見学に行くことにした。美雨のいくところには、私はついて行って当然なのだ。

 初めて行った生物部活動場所となる生物教室には、なぜか大牙と竜馬がいた。

「え?え?なんであんたたちがいるの?柔道部とかじゃないの?」

「ん-?俺は別にどこでもいいんだよ。大牙と一緒にいる方が面白いもん見れそうな気がしたから」

 竜馬は特にこだわりが無いようで、呑気に笑った。

「俺は…バイオ系とか、そっちに行きたいって思ってるから。別に生物部じゃなくてもいいんだけど、生物の先生とは仲良くしときたい」

 大牙の方は、理由あっての計画的な生物部選択だった。


「そっちは?」

 竜馬が人懐っこい笑顔で聞いてくる。

「私は、美雨の行くところならどこでも行くの」

「え、じゃあ美雨ちゃんは?」

 この男、もうちゃん呼びかよ。イラっとしたが、気付くと美雨がいない。

「あれ、美雨?」


 いつの間にか美雨は窓際に移動していて、棚の上に並んでいる水槽を一つ一つ覗き込んで確認していた。

「カエルはいないんですか!?」

 全水槽を見終わった美雨が、居合わせた先輩に向けて突然質問した。

「あー、今カエルはいないな。ちょっと前までベルツノいたんだけど」

「ベルツノ!!!!」

 先輩部員の言葉に、美雨が素早く反応した。

「ごめん…夏の間室温調整失敗して、死んじゃったんだよ…」

「うああああ!ベルツノ可哀そう~!!!会いたかったぁー…」

 うん、涙目の美雨が可愛い。


「え。まじか、ガチ泣きじゃん」

 竜馬が美雨を見てやや引き気味だ。

「まあ、卒業した先輩が自腹で買って来て、ここで飼ってヤツだったんだけどね」

「え?個人持ち込みOKですか!じゃあ私、今から買ってきます!何にしよう…」

「待て待て、今年は部費がまあまあつくはずだから、ちょっと待とうぜ?」

 部長だという先輩が、今すぐにでも飛び出していきそうな美雨を止めた。


「そんなに飼いたきゃ、家で飼えばいいじゃん?」

 竜馬が眉をハの字にして、美雨に至極当然の提案をした。

「うち…おばあちゃんが絶対イヤって言って、ダメだったの…」

 美雨は不満げに頬を膨らませた。

「ああー…まあ、カエルじゃそう言われてもしゃーないか」


「…変な子だなぁ」

 その時の大牙は、珍獣でも見るような目で美雨を見ていた。




 数日後、その年度初の生物部の活動が行われた。新入生は結局私達4人だけだった。

「昨年、何個か大会でも入賞したので、今年は部費が潤沢です。で何か追加で飼おうと思うんだけど…」

 部長がそう言いながらも、もう目がキラキラしている美雨からの圧が凄すぎて、目が泳ぎまくっていた。

「えーと…早いうちに一年の鈴川さんからカエルを飼いたいとの打診がありました。去年のベルツノの水槽もあるので、他に意見がなければカエルで行こうと思いますが」


 誰からも反対意見が出なかったので、美雨の意見がそのまま通った。

「じゃあ、カエルの選定よろしく」

「もう決めてあるんです!本当はヤドクガエルが良いんですけど…」

「エ゛ッ…」

 その場の全員が、揃って変な声を出した。

「毒ない子もいるんですよ?でもそんな反応されちゃうから、アメフクラちゃんでどうでしょう?」


 大牙がスマホをポケットから取り出し、パパっと検索した。

「アメフクラガエル…?え、あれ、かわいい」

「でしょう!?えーっと…誰だったっけ」

「大牙。東雲大牙だよ」

 全然名前を憶えていない美雨に、大牙が苦笑しつつ、改めて自己紹介した。


「入学式の日に五月が紹介したじゃん」

 竜馬が苦笑した。

「ごめんごめん、もう大丈夫。大牙くんね、カエル好きの同志として覚えたから!」

「いや…別にカエル好きじゃねーし」

 困った顔をしている大牙の傍で、竜馬がずっと息を殺して笑っていた。

「こんなに困った顔の大牙、初めて見た」


「美雨…いきなり名前?東雲君でよくない?」

 私としては美雨と誰かが仲良くするのは阻止したいので、苗字呼びを推奨したい。

「字数が多い」

「一文字差じゃん…」

 真顔で美雨に返され、私は諦めるしかなかった。




 翌部活の活動日に、一年生部員全員でペットショップに行くことになった。

 異様なほど機嫌のいい美雨が可愛すぎて心配だ。

「美雨ちゃんって教室にいる時と別人だね?」

 竜馬が不思議そうに私に聞いてきた。

「え?そんなに違うの?」

 クラスの違う大牙は、部活のハイテンションな美雨しか見ていないので、通常の状態が分からない。

「完全に空気。静か」

「カエル絡むと、ちょっとおかしくなるんだよ」

 竜馬の説明に、仕方なく私からも情報を追加した。


「それ以前に他にも興味持とう?さっき『部活行こうよ』って誘ったら、『えーっと…ごめん、誰だっけ』って言われたよ?さすがに傷つくよ、俺も」

「ごめーん、えっと、竜馬くんだ!」

「やっと覚えてくれた!」

「竜って爬虫類なんだよ?それ思い出したから覚えられました!」

 自慢げに変なことを言う美雨が可愛い。

「爬虫類って…その憶え方ってどうなの…?」

 竜馬が何だかしょんぼりしていた。


 生物教師で、顧問の亀岡というおじさん先生が、車を出してくれることになった。

「生体買いに行って、帰り満員電車とか考えるだけでカエル可哀そう!俺が車出す!」

 白衣を脱ぎ棄てながらそう提案してくれたので、その瞬間野次馬の先輩たちも2名ほど「ついて行く!」と言い出し、7人ででぞろぞろと教師の駐車場へ向かった。

「え?先生これ全員乗れる?」

「なめんな、ファミリー仕様のワンボックスじゃー!」


 ペットショップの場所が分かると言った男の先輩が助手席に乗り込む。

「東雲、お前でかいから絶対真ん中座んなよ!?2列目の真ん中は木原、お前が座れ…うわあ、バックミラー見えねーなくそっ」

 3列目の一番奥に大牙が座り、真ん中を開けて反対の端に竜馬が座った。大牙の前に美雨、隣に私、反対の端に女の先輩が座った。

 車が動き出してから、大牙が変なことを言った。

「車に乗るまで俺たちの事付けてたヤツがいたんだけど。…気のせいかな」




 それからの美雨は、毎日放課後はダッシュで生物室に向かうようになった。部活のない日も構わず行くのだ。下手すると昼休みも生物教室に行ってしまう始末だった。

「アメフクラちゃんは土に潜ってるのも長いから、出てきた時に遭えないと辛い」

 そう言うので、私も付き合ってお弁当を持って生物教室に行くのだった。




 ある日部活に行くと、副顧問の女性教師、「川田ちゃん」と大牙が話し込んでいた。

「あれ、鈴川さん早いね?」

 終鈴直後くらいに生物教室に滑り込んできた美雨に、先生が驚いて声を掛けた。私もぜえぜえ言いつつ美雨に続いて教室に入った。


「今日英会話の日だから。…ちょっとだけフクラちゃん見たら、すぐ帰ります」

「英会話!!」

 なぜか大牙と副顧問の声がハモった。

「どうかしました?」

「いや、大牙と進路の話しててさ。英語は出来る方がいいって話をしてたんだよ」

 中肉中背で喋り方も男っぽいのに、妙な色気があって男子生徒からは人気の先生だ。なぜか彼女が入学間もない大牙の進路相談に乗っていたらしい。


「鈴川さんのとこの塾の先生はどんな感じ?教え方とか」

「基本は雑談です。一応ワークとかテキストもありますけど、毎回先生が何かテーマ持ってきたり、希望があったらこっちから言ったりしてそれについて喋るって言うか。英語塾じゃなくて英会話なので…中学の時は英語の宿題ある日は宿題見ながら、テスト前は教科書見ながら、テスト後は問題用紙見ながらあーだこーだ言ってる感じです」

「ふーむ…大牙と合いそうかな?…お試しとかある?もしくは大牙が行くことによって、お友達紹介特典とか鈴川さんにメリットはないの?」

「お試しはありますよ?特典…というか、今まで生徒二人と先生一人って形態で受けてたんですけど、その相方の一人が3月末で辞めちゃって、私が先生とマンツーマン状態になったので、お月謝上がっちゃったってトコです。一人来てくれればまたお月謝下がるかなって」


 え?大牙と美雨が同じトコに通うの!?しかも今の話だと同じ時間同じ枠、一緒に?

 何でその話、先に私にしてくれなかったの?親に無理言って頼んででも私が入ったのに!


 …いや、美雨に限らず、誰だってそんな話するわけないよね、と思いながらも大牙が羨ましくて憎くてたまらない。


 私が大牙を睨んでいる間に美雨が英会話の先生に連絡を取っていて、いつの間にか今からお試しに大牙を連れて行くことになっていた。

 タイミングよくひょっこり土から出て来たアメフクラを見て、美雨はしばらくニコニコとケースにかじりついていたが、諦めたように

「じゃあ…大牙くん、行こっか。…里菜子、また明日ね」

 と凄く残念そうに教室を出て行った。

「って事で、俺も急遽部活休むんで」

「ほい、了解」

 カバンを掴み、大牙が美雨の後をついて教室を出た。

 川田ちゃんはひらひらと手を振り、二人を見送った。


「先生、大牙くんと知り合いですか?」

 最初から下の名前呼び捨てなんて、関係が気になり過ぎる。誰もいなくなった生物教室で、私は先生に質問した。

「ん?ああ、私昔大牙の家の道場にも通ってたし、実は大学時代は下宿もしてたんだ。彼の一番上の兄貴と私、同級生だったんだよ。大牙なんか小さい頃から見てたから、もう高校生とか時間の流れが怖いわ。…それと卒業しちゃったけど大牙の姉の晴香、あいつからも弟が生物系行きそうだから頼むって言われててさ」

 川田ちゃん、まさかの柔道やってた人だった。


「ああ…!じゃあ五月って知ってます?私、幼馴染なんです」

「うん、五月も知ってるよ。そうそう、あの子大牙の事大好きだったんだよね。見ててものすごく分かり易かったけど…幼馴染なら知ってるか。何か進展あった?」

「…はい?」

 五月の恋バナなんか聞いた事もない。基本私は美雨しか見ていないというのもあったが、惚れっぽい佳苗のコロコロ変わる好きな人の話だってちゃんと覚えている。

「あれ、あいつ誰にも言ってないの?あんなに溢れ出てたのに…やば、ごめん、今の忘れて」

 川田ちゃんは卓上のテキスト類をまとめると、逃げるように教室を出て行った。


 先生と入れ替わるように、竜馬や先輩たちがやってきた。

「おー、今日フクラちゃん出て来てんじゃん」

 誰かのその一言で、みんなが飼育ケースの周りに集まった。

 その隙に、私は誰にも気づかれないように生物教室を後にした。


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