初顔合わせ
金曜の放課後、eスポーツ部は全員が集まり、初顔合わせをした。
この時間、運動部は体育館に集まって結団式をやっているらしい。
eスポーツ部が運動部か文化部か教師の間で若干の議論があったらしいが、文化部扱いという事になり、湊太達が結団式に出席する必要はなくなった。
しかし11人集まると、さすがにこの部室も狭く感じる。
ソファと折りたたみ椅子を使って何とか全員が座った状態で、彰斗がまず自己紹介した。
「皆さん、入部してくれてありがとうございます。部長の村上彰斗です。あっきーって呼んでね。メイクの俺に騙された一年生、ごめんなさい。イベント時は今後もメイクしますのでよろしく」
「…って言いながら、今うっすら目元シャドウ入ってんじゃん!」
なのはが遠慮なくツッコんだ。
「あ、ばれた?実はあれからちょっと目覚めた、美容に。今日はたれ目っぽくしてみた」
彰斗は、目元をピースサインで囲んでポーズを取った。
「え…いいと思います」
新しく入った一年女子が良い笑顔で反応した。
「…何の会話だよ」
由梨香がたまらず止めた。
その後、副部長の和美の仕切りで、順に自己紹介を始めた。
彰斗を褒めた一年は受験組の子だった。
「1年2組、梅原若菜、浜の台中学校出身です。ゲーム全般好きです。落ちもの系はパニックになって叫びますが、気にしないでください」
「1年6組、安本恵麻、同じく浜の台中学校出身です。ランファイメインでやってます、そこの3人さんが準優勝した大会、見てました!私はランキングの足切りで予選まで行けませんでした…」
「1年3組、中田武流、附属中出身。得意なのは音ゲーです。ランファイはあんま強くないけどずっとやってます。俺も大会見てました」
初日に中田が秀人の所へ行っていたのは、どうやらあの大会の話をしたかったようだ。
「あー…入学式の日…なんかごめん」
なのはが勘違いに気付き、中田に謝った。
「いや、別にいいし」
大きな体の中田は、特に表情を変えることなくそう返した。
「3年6組、西林凛空。2年間帰宅部だったけど、放課後学校のパソコンでゲームができると聞いて」
「3年4組、田尻蒼空。基本一人でゲームするのが好きだけど、最近友達なしだと出来ないゲーム多くて…」
受験生だというのにわざわざこの部を選んだあたり、この3年生二人は変わり者の匂いがぷんぷんする。
「りくとそら!コンビみたいで素敵ですね!」
若菜が3年の二人を見て目を輝かせた。
「でも、漢字はどっちも空が入ってるんだ…」
部員名簿を見ながら、彰斗が興味深そうに二人を見比べた。
「ちなみに…先輩方、受験とか進路とか大丈夫なんですか?うち、部活紹介でも部長が言ったと思いますが、多分内申とかにプラスにならないと思いますよ?」
和美の質問に、湊太は心の中で「ナイス!」と叫んでいた。この二人が何を思ってこの部に入ってきたのか、進路が未だ闇の湊太にはまたとないサンプルである。
凛空の方は
「あー、全然へーき。後輩の部活の立ち上げに協力したとかなんとか、上手い事言うから!進学も就職もまだなーんも決めてないけどねー」
と、何ともお気楽発言だ。
蒼空の方は
「多分…その辺は何とでも…まあ、最終行けるとこ行くんじゃないの?」
ぼそぼそっと小声で、でもどこか余裕のありそうな発言をした。
「俺と違って、こいつ成績いいのよ。どこでも狙ったら行けるんじゃね?部活でも入れば、唯一問題ある協調性とか、ワンチャンある風に見られるんじゃねーの」
凛空が唯一の同級生に対して、若干毒がある言い方をした。
「お二人、仲いいんですか?」
和美が首を傾げると、二人は顔を見合わせて
「全然?」
と答えた。
「俺ら二人附属からずっと一緒だけど、こいつ全然喋んないし、話しかけても反応薄いし、そこまで話したことないもん」
凛空が本人の目の前で、遠慮なく蒼空の悪口を言ってしまう。
言われた蒼空の方も、別にイヤな顔をするでもなく、けろっとした無表情だ。
「なんか…対極っすね」
なのはが二人を見ながら苦笑した。
「じゃあそろそろパソコン室移動して、まずは学生らしく大会に向けて、ランファイのチーム戦でもやってみますかぁ」
彰斗が部長らしく仕切ったところで部室の扉が開き、バインダーを手にした顧問の大岩が現れた。
「あー、遅くなってすまん。もう自己紹介とかやっちゃった?」
「とっくに」
和美が苦笑した。
「あー!先生昨日!予算どうでした!?」
由梨香が勢い良く立ち上がり、大岩の手元を見たそうにつま先立ちした。
「ふっふっふ、先生頑張ったぞー!?」
そう言うと、大岩はパンっとバインダーをテーブルの中心に置いた。
「おー!」
全員が一斉にその予算の決定金額の一覧を覗き込んだ。
「eスポーツ部…どこだ」
「あ。下から2番目」
「お…おお…?」
その項目には、『22,000』と書かれていた。
「2万…2千円…?」
湊太が、希望よりゼロが二つ足りない金額を読み上げた。
「えー!?」
由梨香と和美が、不満爆発の声で叫びつつ、大岩を見た。
「いや…ひどいっすね。ちゃんとした部活なのに、英語部とか8千円って」
表の他の部の金額を見ながら、なのはがため息をついた。
「この学校、文化部の扱いひどすぎません!?」
若菜が叫んだ。
「ちくしょー、昨日の結団式、運動部のフリして出とけばよかったか!?」
のけぞりつつ、彰斗が今更の後悔を口にした。
「11人で2万2千って、チームTシャツ作っておしまいじゃん」
凛空がため息をついた。
「おーその通り!その金額だけだね、認められたのは」
満足そうに笑顔を浮かべつつ、大岩は凛空に拍手を送った。
「だめじゃん!!!!」
由梨香が頭を抱えた。
「昨日この数字出しといて、よくもまあ今日一日フツーに授業出来たなあ!?」
「黒百合さん、抑えて!」
教師に食って掛かった由梨香を、若菜が宥めてくれている。
「分かる、分かるけど落ち着け」
秀人も半笑いだ。
「パソコン室にパソコンはあるし、部室もある。交通費は文化部なんてほぼ元々自腹だし、他に何がいるの?みたいに言われちゃってさぁ」
なぜか大岩は照れたように笑った。
「せめてコントローラー買いたかったなぁ…」
湊太はしょんぼりと肩を落とした。
その後、大岩も交えて12人でパソコン室でチーム戦をしてみた。
「3人チームが4つ作れるから、これで一回やってみます」
前衛タイプ、後衛タイプなど考えずに、ランダムに組んだ4チームで潰し合いだ。
湊太がやってみた感じでは、一番やりやすかったのは中田だ。組んでみると器用で、仲間に合わせるのが上手いオールラウンダーだった。
「なのはは…後ろから殺される。前衛に持って行くしかないなあ…」
「ご、ごめん…まじでウチこの手ダメだわ…」
申し訳なさそうになのはが謝った。
ふむ、と和美が少し考えたような顔をすると
「よし分かった、なのはちゃんは私と別のゲームをやってみようか。先生ももう抜けていいですよ」
そう言うと、和美はなのはを連れて少し離れたパソコンへ移動した。
「面白い!」
突然叫んだのは、普段は無口なはずの蒼空だった。
「あああ、色々湧いてくる!組み合わせ誰と誰組んだら面白いとか、これが5人になったらどうなるかとか!考えたい、組み合わせ考えたいー!」
「…やってみれば?」
面白いものを見る目で凛空がそう言いつつ、確認するように部長である彰斗の方を見た。
「いいんじゃないですか?対外的に勝てるチーム作りたいんで」
部長もそう言って頷いたので、蒼空は大急ぎでノートを開いた。
離れた席で、なのはは和美と格闘ゲームを始めていた。
「5×5とか、想像しただけでも楽しい!」
「…お前、変なスイッチ入るんだな」
おかしなテンションになっている蒼空に対し、凛空が若干異物でも見るように引き気味だ。
「でも、まだ一般へのリリースは先だし、明日でしたっけ?ベータ版とか。まずはスリーマン考えて下さいよぉ」
彰斗が暴走3年生にお願いした。
「明日、見て来るんだよな?入場できそう?」
秀人が由梨香に向かって尋ねた。
「事前枠外れた…当日枠は、その日の電気屋のレシート3000円以上で抽選だって…」
由梨香がしょんぼりしている。
「モバ充買って抽選する!…でも、シュートも配信でリアタイ出来るじゃん」
「俺は…サボりまくった塾のツケが明日…」
今度は、秀人がしゅんと肩を落とした。
「あ、今日も塾じゃん!?」
「うん、だからもう今日は帰る…塾の枠、時間遅めに変えてもらうかなぁ…」
そう言いながら、秀人は席を立った。
「湊太頼むな」
秀人は小声で由梨香に耳打ちし
「塾なんでお先でーす」
と言って先に帰って行った。
「人数減った…」
ノートに名前を書きだしていた蒼空が、途方に暮れた顔をしている。
「じゃあ、3×3、見学者ありで考えて下さい。外で見てるのも色々分かって面白いと思うんで」
いつもボケ側の彰斗が、クセ強な先輩のせいで真面目キャラに見えてしまう。
「色々実験したい」
という蒼空のリクエストに応え、前衛特化型×遠距離射撃特化型をやってみたが、先鋭特化型の湊太、恵麻、凛空は由梨香と蒼空、中田からハチの巣にされて一瞬で終わった。
泣きの一回で同じ組み合わせでもう一度やってみたが、着地地点がたまたま近かったため恵麻が蒼空を刈り、途中で慣れない長物を凛空が拾って狙撃してみたが返り討ちにされ、湊太が剣パリィで中田を刈ったが、結局由梨香に仕留められた。
ひと段落したところで、若菜が元気よく手を挙げた。
「はいはーい!ザクギリさん帰っちゃったけど、私一回『イスイメッカ』と戦ってみたいです!」
湊太達のチームとの対戦を希望してきた。湊太達のチームは「以水滅火」という名前なのだが、一発変換できなかったり、読み方を聞かれて面倒だったのでカタカナ表記にしている。
「んじゃ、ザクギリさんの代わりに誰入れる?」
彰斗に振られ、由梨香と湊太は顔を見合わせた。
「中田!」
由梨香と湊太が同時に体の大きなオールラウンダーを指名した。
「え、俺?」
中田は驚きつつも、嬉しそうに口元を緩めた。
「うん、すっげーやり易かったし」
湊太がうんうんと頷いた。
「中田、名前に『流れる』入ってるじゃん。うち、水タイプチームだからOK」
由梨香は満足そうに説明している。
「水?」
「シュートは苗字に『沢』、湊太は『湊』、私は『梨』」
「梨…は違うくないか?むしろ草タイプ…いや、分かるけど!」
「それより、何で彼だけ苗字呼びなんだよー!たけるくんって呼べよ!年齢の上下関係なし、チームは名前呼びって言ったでしょー!」
部長が久々にあっきー節を炸裂させた。
「いや…今まで3年間中田呼びだったし、今更名前とか…」
由梨香が困った顔でなのはの方を見たが、格闘ゲームが意外に楽しかったらしく、全然こっちの会話を聞いていない。
「ん、俺はまだ全然初対面に近いからへーき。じゃあ今から武流呼びで」
なのはや由梨香が中田と呼んでいたからそう呼んでいただけで、呼び方を変えることについて湊太には特段の違和感はなかった。
しかし「武流」と呼ばれ、当人は心なしか顔が赤い。
意外に可愛い、と思っていたら若菜が
「武流、よろしくー!」
と叫んだので、武流の顔が分かり易く真っ赤になった。
その瞬間、由梨香の口角がにやりと上がったのが分かった。
―――あーあ、Sのスイッチが入った。
「よーし、じゃあよろしくね、タケルくんっ!」
散々嫌がっていたくせに、由梨香は一瞬で武流呼びに切り替えて来た。
「なんだこの可愛い生き物は」
照れた武流を見て、若菜も大喜びだった。
湊太、武流、由梨香の「ネオ・イスイメッカ」対「即席混成チーム」は、即席の方が何度かメンバーを入れ替えながら戦ってみたが、やはり圧倒的に湊太達が強かった。
「えー…このチーム楽しいな」
武流は、何度か途中でそのセリフを口にした。
「うーん、色々見えて来たぞ…来週、本物の『イスイメッカ』に、武流入れたチームでぶつけてみよう。あと、ポジションも変えてやってみるともっと得意なところが見つかるかもしれない。ユリカ除くと俺しか狙撃手いないのはチーム作るのに厳しいわ」
「あ、私他のポジションもやってみたいです」
若菜が静かに手を挙げた。
「うん、なんかいい部になりそーだね」
大岩が笑顔で、遠巻きに部員たちを見ていた。
帰りは、若菜と恵麻、凛空が同じ方向だったので一緒に駅へ向かった。
「明日、アンドラダイトの配信、現地なんだよね?いいなあ」
「まだ入場できるか分かんないけどね」
良く喋るタイプの若菜が、由梨香に積極的に話しかけている。
「それよりデートっすよ、二人でお出かけ初じゃね?」
なぜかなのはが一番ウキウキしている。
そんな女子から離れて歩いていた凛空が、ちょいちょいと後ろに湊太を引っ張った。
「湊太、コインロッカーの幽霊って、お前待ってるってホント?」
「うっ…」
とても小声でこそっと聞いてきたのだが、後ろにいた恵麻が
「私もその噂聞きました…」
と言いながら近づいてきた。
「みんな何で知ってるんですか…」
湊太は思いっきりイヤな顔をしてしまった。
「いや、毎日あそこに居りゃ誰だって気になるだろ」
「電車通学の子で、知らない人いないんじゃないですか」
凛空と恵麻が、当たり前のように返した。
「いつも同じメンバーでかばって歩いてるって聞いたぜ?でもすぐばれてずっと後ろついて歩いてるって。今日は俺と…恵麻、二人でブロックしてやるよ」
「…ちょっと面白がってません?…でも、今日はもう遅いし居ないかも知れないっすよ」
「まあ、いーからいーから」
駅が目の前になると、前を歩く由梨香がちらりと後ろを振り返ってこちらを見たが、凛空が頷いて由梨香を先に行かせた。
「なにげにアイコンタクトしてるし」
「おまえ、頭の色目立つんだよ。あ、そっか。無意味にカバン肩に載せちゃお」
湊太を左側に隠し、凛空は背負っていたリュックを左肩に引っ張り上げた。無意味ではない、湊太の髪が隠れるように調整してくれたのだ。そして凛空の斜め後ろに恵麻が移動し、立体的に隠すように動いた。
「歩くペース変えるなよ。うわ、当事者になると怖えぇ」
そう言いつつ、面倒見のいい先輩は少し楽しそうに笑う。
コインロッカーを過ぎると同時に、凛空は少しずつ移動して湊太の後ろへ移動し、一列になって改札を抜けた。
「…いました?俺からは全然見えなかったけど」
「いたよ、でも全然気づいてなかったみたい」
恵麻が無表情で答えた。
「でも、俺が見えなかったって事は、あいつずっとあそこで待ち続けんのかな…」
「馬鹿かお前は、そこはお前が心配することじゃねーっつーの」
凛空の肘が、湊太の右肩にヒットした。
「湊太さんは、お人よし行き過ぎてただのアホなんですか。そーゆートコなんじゃないんですか?」
散々な言われようだ。あまり表情の変わらない女子に淡々と言われると、ものずごく刺さる。そして何も言い返せない。
「あの…恵麻さん、怒る時敬語やめて。なんか怖い」
とりあえず心のダメージを深くするところだけ、改善をお願いした。
電車が来て乗り込み、早紀が追ってこないまま無事に電車が動き出した。
「あ…」
車窓の向こうで、他ホームへの階段から走って降りて来た女性に見覚えがあった。
「知り合いでもいた?」
「いや…あいつの母親…だったと思います」
「はぁー…」
安心した表情を見せた湊太に向かい、恵麻が眉間を押さえながらため息をついた。
「だからお前、そういうトコだぞ…」
凛空も、ものすごく残念な生き物を見る目で湊太を見ていた。
次はようやく里菜子の元へ。




