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しらないところで  作者: 南 紅夏
過去の追憶編

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被害者Aの回顧録 その14 帰還

 ロレッタが、みーこの手を引いて耕作たちの部屋にやってきた。

 ずっと着せ替え人形状態だったらしく、みーこはぐったりしている。


 それでも博昭の顔を見つけると、ふわりとした笑顔になってすぐに傍にやってきた。刷り込みのせいだと分かっていても、その笑顔も行動も嬉しくなってしまう。


「ああ、楽しかった!ミーコ様は服に無頓着らしいので、あまり元々お洋服を持っていらっしゃらないとの事。地球に戻ったらこちらの服を届けさせていただきます」

 疲れ顔のみーこに引き換え、ロレッタはいい笑顔で楽しそうに試着の様子を話している。


「普段からデニムのパンツばかりお召しになっているそうで、まあ下船時にはあまり女性がいると分からない方がいいと思いまして、黒いデニムのパンツをご用意しました。全体的に暗めのトーンで目立たないよう仕上げておりますが、帰ってからは私の見繕ったお洋服を着ていただきたいです!」


 色々な服を着たらしいのに、全然見せてもらえなかったのが残念だった。

「なんや…色んな服着たみーこさん見たかったわ…」

 博昭の言葉を聞いて、

「えへへっ。見たかったですか?」

 と嬉しそうにみーこが縋ってきた。もう、いちいち可愛い。


「見たかった、じゃありません!あなたはミーコ様にお洋服くらいプレゼントしなさいな!」

 なぜかロレッタに怒られてしまった。

 横でみーこがくすくすと笑っていた。ああ、可愛い。


 そうか、服に無頓着な子なのか、と初めて知る情報もあった。

 人が絡まないことは話せるのだ。下らない事でもいい、もっとみーこと話そう、と博昭は考えていた。


 その他いくつかの打ち合わせを終えると、ロバートは席を立った。

「明日から2日間、移動中に作戦変更など急を要することがあったらヒロに伝言を残す。地球で待っているぞ。…良い旅を」

「ありがとうございます!」

 しごでき老人に、全員が心からの感謝を伝えた。


「ジョルジュすまない、ロバートが帰るそうだ」

 横でレビが、こっそりとジョルジュを召喚していた。




 その夜の就寝時間。照明をやや落とした状態で、談話室のソファに博昭とみーこは二人並んで座っていた。今夜は、座ったまま眠る検証実験だ。


「みーこさんは、休みの日とか何してましたか?」

 二人で肩から一緒の毛布を掛け、手を繋いた状態で、博昭は他愛のない質問をした。


「バイトと…なんだか海見るのが好きで、バイトない日は海見に行ってました。もう、海ってずっと見てられる。別に泳ぎたいわけじゃなくて、ショッピングモールのフードコートとかに座って、ぼーっと見てるんです。夕日沈むのとか、何か…色んな感情沸き上がて来て、何か良いんです」

「海ですか…またてっきり、ゲームとかしてるのかと思ってました」

「ゲーム好きなんですけど、私RPGばっかなんです。格闘系とか苦手で、もうボッコボコにされちゃいます。パズル系は好きですけど、やっぱりRPGばっかですねー。…発売日に買って一気にやって、終わったらループすることもありますけど…終わると、次が出るまでほとんど触らないかな」


「そうなんですね。…今までやったので、どれが一番好きでした?」

「…聞かないでくださいぃー。思い出しただけで泣く、泣いちゃう。ドラクエ4のエンディング、めっちゃ泣きました。ドット絵の動きだけで泣けるって凄くないですか?主人公男と女で2回やりましたけど…ああ、もう泣きそう」

 そこまで言うと、隣からは鼻をすする音が聞こえて来た。


 ―――あ、ホンマに泣いてはる…。


 肩に寄りかかっている頭を、繋いでいない方の手を毛布から出して撫でた。少しして、みーこの呼吸が寝息に変わったのが分かった。

 どきどきしながら、禁断症状が出ないか息を殺して見守った。

 数分待ち、完全に眠ったと確信が持てた。

「やった…!」

 声にならない声で、博昭は宙に向かって叫んだ。






 翌朝。

 博昭は、昨日同様みーこと医療棟に出向いた。

 今日は簡単な問診だけだったので、ラルフが博昭に何か伝えたそうだったが、ゆっくり話す時間がなかった。


 朝食後に、レビから全員に新しいラムダが配られた。

「船にはこちらの予備を着けて行ってくれ。今使っているものは各部屋のゲート付近に置いておくんだ」

「そうか、船下りる時に外すからか」

 耕作がまず受け取ると、『同期しますか?』とグノメの声が響いた。

「データコピーしてくれるの?じゃお願い」


 ラムダを受け取り、パットが嬉しそうに笑った。

「もう、みんなここにまた帰ってくるのが決まってるみたいだ」

「帰ってくるよ、作りかけのプログラム、あれ大失敗だったじゃん」

 リッキーは不満そうに口をぎゅっと結んだ。

「こっちの方が多分今の地球の言語より出来ることが多い。いつか絶対に使えるようになってやる」


 部屋に戻ると、博昭たちの部屋の飾り暖炉の奥にゲートが一つ置かれていた。

「これで行き来出来るんですね」

 そう言いながら、みーこは今まで使っていた黄色のラムダを飾り暖炉の上に置いた。

 その隣に博昭も自分の茶のラムダを並べた。


「帰っても、誰の顔も分からないかもって思うと、少し…怖いです」

「フォローします、僕だけじゃなくて、みんなでみーこさんの事助けますから」

 そう言って、みーこの肩を抱き寄せた。

「ありがとうございます。心強いです…あ、ノート取ってきます」


 みーこが寝室に向かうとすぐに、部屋のドアがノックされた。

「はーい。…あ、耕作はん」

 外に立っていたのは耕作だった。

 その手にはゲートが握られている。しかも手はゴム手袋着用だ。

「これ、例の相方ですか?でも何でゴム手袋…」

「静電気でも発生して稼働したら、まあ、稼働はいいんだけど途中で切れたらどうなる?」

「…おっそろしい話やないですか…」

「だから、持ち運ぶ際は最初から電気を起こさないに限るんだよ」

「なるほど」


「なんかウチの部屋ゲートがごちゃごちゃ置いてあって、訳わかんなくなったから避難させてきたんだよ。コレで合ってるか一度起動してみるね」

 耕作が持ってきた化繊のようなタオルでフレーム部分をこすっていると、一瞬暗闇になってすぐにもやが掛かったようになり、その後なぜかみーこの姿が見えた。

「うおっ?」

 振り返ると、後ろにみーこがいて、不思議そうにゲートを眺めていた。

「みーこちゃん、一歩下がって」

「え?あ、はい」

 耕作の指示で、みーこが慌ててゲートから2,3歩下がった。

「ほら、彼女に会いに行ってあげて」

 耕作に言われるままに、博昭は這うようにしてゲートを通った。


「すごいすごい!本当にワープできちゃうんだ!」

 目の前で、殊の外嬉しそうにみーこが笑っていた。




 昼食を早めに済ませると、博昭たちは特に何の準備もなく、借りた服のままで外で待っていた。

 間もなく、空からコロンとした丸い形の船が下りて来た。

「レビ、お屋敷の皆さん、本当に色々お世話になりました」

 耕作がゴム手袋をはめ、手にゲートを持った状態で、皆を代表して頭を下げた。


「早めにこちらへ遊びに来てくれ。エルフの伝承的な本があるなら、どんどん持って来てくれて構わない」

 レビが少し寂しそうに笑った。

 メイドやジーク達医師も何人かと、ジョルジュもいた。

 クレアの腕にはハルカが抱かれていた。

「クレアさん、ハルカちゃんを頼みます」

「ああ、コーサクも、日本の菓子を頼む」

 何とも締まらない別れだった。


 博昭はみーこの手を引いて船への階段に乗った。やはりこれも自動で動くもので、宇宙船に向けて昇って行った。



 全員が乗り込むと、女性軍人が6人を部屋に案内してくれた。

「惑星間連盟星団軍、本部星宇宙軍所属のアイナ・シヴォネン曹長です。皆様の案内を任されております。一応こちらは4人部屋ですが、2名はゲートで移動してアステリアでお休みになると聞いております。この部屋でも問題ございませんか?」

 短くて丸い耳の獣人の軍人が少し申し訳なさそうな顔で聞いた。

「ええ、ありがとうございます」

 ラルフが全員を見回し、そう返答した。

「では、間もなく離陸します。えーっと…ちょっとふわっとしますので、気になる方は艦の後方デッキにシートベルトのある椅子がございます。景色もそちらの方が楽しめますが…」

「行きます!」

 耕作は手早くグルーガンで部屋の壁際にゲートを仮止めして、全員で艦後方に向かった。


 案内された艦の後方、外が見えるガラス張りのデッキに、まるでゲーミングチェアのような椅子が等間隔にずらりと並んでいた。

 眼下に屋敷の前の丘のが見え、こちらを見上げているみんなの姿が見える。

 全員が適当に並んで座って、ベルトを装着した。


『離陸します』


 特に何という事もない、路線バスの発車のようなシンプルなアナウンスの後。

 ひゅんっと、一瞬だった。

 嫌なGを感じる暇もなく、もう宇宙空間に出ていた。


「え?え?ボク今一瞬意識飛んでました?瞬きする間にもう宇宙いたんですけど、寝てました?」

 ラルフが呆然と呟いた。

「いや早い早い!Gってどこ行った?ふわっともぎゅーっともしなかったよ!?逆に気持ち悪い!」

「あははははは」

 慌てる耕作と対照的に、パトリック二人とみーこは、なぜか爆笑していた。


「え、もう無重力ですか?」

 博昭が近くに立っていたアイナ曹長に聞くと

「ええ、でも疑似重力が発動してますので、問題なく歩けますよ」

 と笑顔で返された。

 シルビアの動画で見た、あの無重力が体験できなくてちょっと残念だった。


 よく見ると、周りには小型の機体が何機もいた。

「前方スクリーン出しますね。あ、説明遅れました、こちらは中型機でロズマリンと言います。先行している旗艦ウシワカとこのロズマリンのみが、地球の言語データを搭載してます。居住性は当然ウシワカの方がいいのですが、地球の上陸には無駄にでかくて邪魔くさいので、旗艦は大気圏には突入せず、上空での待機になります。上陸作戦時はこのロズマリンが中心になりますので、皆さんにはこちらに乗ってもらいました!」

 ちょくちょく言葉のチョイスが雑な曹長が、分かり易く説明してくれた。

 映し出されたスクリーンには戦艦と呼ぶにふさわしい大型艦が映っていた。だが博昭には旗艦の名前が気になった。一体誰が名前を付けたのだろう。


『ウシワカ、放電開始。ゲート起動を確認』


「太陽系に移動します。うわあ、私も初めて…ていうか、ほとんど全員初めてですよ。太陽系、楽しみですねー!」

 アイナもわくわくと上部のスクリーンを見た。


 ゲート通過後は、ただの暗闇だった。

「え、木星上空だよね?木星どこ」

 耕作がベルトを外して窓に近寄った。後ろに過ぎて行ったゲートらしき靄のかかった空間から、次々に小型機が出てくるのだけが見えた。

 アイナが全方向の映像を上部スクリーンに表示させた。

「えーっと…あ、裏側に出たみたいですね。今から上空を回って一気に地球を目指します」


「ふおぉぉぉ!」

 シートベルトを外し、パトリックたち&みーこが窓に張り付いて目を輝かせている。

「どうする!?こんなとこ飛んでる地球人、きっと俺たちが初めてだよ!」

「いやああ!木星帰りの女とか言われちゃうー!」

 みーこの喜び方が若干おかしい。でも楽しそうで何よりだ。


 体感、ものの数秒で木星の日の当たっている部分が見え始め、

「うわあああああー!」

 と全員が窓に張り付いた。

 しかしそれも数秒もあったか怪しいぐらいで、木星は一気に後ろに消え去った。


「えーっと…あとは多分面白くない絵ですよ。あ、お部屋戻り方分かりますね?私、ミーティング行ってきまーす」

 アイナ曹長はひどいことを言うと、そのまま立ち去った。


「みーこさん、屋敷戻りましょうか」

「うん…そうですね」

 面白くないただの暗い空を見ていても仕方ない。早速ゲートを使って屋敷に戻った。


 そしてなぜか夕食は、全員屋敷に戻って食べていた。

「さっきの見送りは!?」

 レビが下を向き、食堂の机に向かって叫んだ。

「いや、僕たちは2日だけど、乗組員さんは往復だと4日じゃん?食料減らすのも悪いなーって思って」

 耕作がもっともらしいことを言ったが、娯楽データの取れない船内はただ退屈だったのだ。






 2日後。

 船が地球に近づく予定時間の一時間ほど前に、全員が自分の服に、みーこはロレッタから貰った服に屋敷で着替えた。

 更にロレッタから全員に同じようなダークカラーの厚手のパーカーが届いていて、

「地球はもう12月になります」

 というメッセージが添えられていた。

 すっかり時間が経ってしまった実感が湧き、博昭は急に不安になった。


 みーこの服は上下真っ黒で、思いの外ロックな絵の入ったTシャツ姿だった。その上から厚手のフード付きのジャケットを羽織り、

「これで顔を隠せって書いてあります。…皆さんも」

 とフードを目深にかぶって見せた。


 今度こそ本当のお別れだった。

 着替え終わり、ラムダを通してもう一度レビに礼を言って、宇宙船に戻った。

 耕作が手早くゲートを分解し、角のパーツだけを巾着にしまった。フレームの棒部分はまとめて、

「アステリア支部のジョルジュ・メランデル陸軍大将へお渡しください」

 とアイナ曹長に言付けた。


「確かにお預かりしました!」

 軍曹はきりっした顔でと受け取ると

「ここから真面目な話しますねー」

 とぽやぽやした笑顔を見せた。


「アメリカとやらが指定してきた時間に、指定された場所に向かいますが、皆さんは向かいません!近くで様子は見ますが」

「ほう?」

 ラルフの眉間に力が入った。

「22時過ぎに、人気のない港を指定してきたようです。もう、交渉する気がないのが見えてます」

「なんや、待ち伏せされとるみたいやな」

「その可能性が非常に高いです」

 アイナ曹長が大きく頷いた。


 次に、全員の前に地図が浮かんだ。

「で、確実に交渉する気がないことを確認した時点で、イギリスという地の指定された港に向かいます。こちらは地球の協力者からの指定の場所です。夜もそれなりに荷物の動きがある港だそうで、ここに着陸します。

 一般人も一定量いるそうですが、その中に港湾関係者のフリをした協力者がいますので、ゲートの材料をお渡しください。すぐに通報されて、貴方たちの身柄は保護されるという手筈になっています」


 アイナの説明は、事前にロバートから聞いていた流れとほぼ同じだった。

「作戦というか流れは分かった。でも、いいの?その…作戦失敗ってことだよね?そこは問題にならないの?」

 耕作が心配そうに曹長を見た。

「失敗は星団管理局の問題ですからぜーんぜん?私たちは最初から主砲ぶっぱする予定もない戦わない遠征で、まあ言っちゃえば宇宙軍の高速移動訓練と、滅多に使わない宇宙戦艦の錆落としが目的ですから。行って帰ればOKの簡単なお仕事です。まあ、課題も見えましたし」

「課題?」

 興味深そうに耕作が聞き返した。

「小型艇の一機から、塩が足りんのですって連絡ありました。急な出発で準備ミスがあるとか、やれやれって感じですね」

 アイナの話を聞き、博昭の横でみーこが息を殺して笑っていた。

「ま、全機に搭載の連絡用ゲートで、旗艦から補充されて事なきを得ましたけど」




 かくして、オリヴェルが乗り移った小型艇は指定場所に到着したところで、倉庫群の陰に隠れていた軍の包囲にあった。わざと捕捉される位置で移動を始めた博昭たちの乗ったロズマリンは、小型艇何機かを引き連れてイギリスの指定場所へ向かった。


「また星団に遊びに来てくださいな」

「短い間だったけど、色々とありがとう」

 アイナ曹長に出口まで送ってもらい、挨拶をすると耕作がラムダを外して手渡した。

 皆、それに倣って挨拶をしてはラムダを手渡した。


 地上に伸びた動く階段は、うっすら光っていた。

 フードを目深にかぶり、みーこの手を握って博昭も階段に踏み出す。

 港で宇宙船を見上げて騒ぐ地球人からは、宇宙人が光の帯に乗って下りて来たようにしか見えないだろうな、と思うと少し可笑しかった。


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