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しらないところで  作者: 南 紅夏
高校入学編

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わが隊へようこそ

今回ちょっと短めです

 ゲートをくぐった先は、見えていた通り白い壁と、その前に立つ巨体の男性のいる部屋だった。

 病院のゲートの部屋よりかなり広い。よく見ると男性の背後の壁、足元に2つほどかなり小さめのゲートがあった。


「タイガ先生、お久しぶりですな。今日は予定ではなかったと思いますが、稽古をつけて下さるので?」

 ゲートの先に立っていたごつい男性は、嬉しそうに大牙を迎えていた。

 男性の着ている服の上下は迷彩柄、なのだろうか。はっきり言うと、迷彩と言うよりほとんどヒョウ柄に見える。そして彼のガジェットはゴーグルだ。

 大牙の後ろから出て来た湊太と目が合うと、迷彩の男性は興味津々で覗き込んできた。

「おや…そちらは?」

「うーんと、まあ、俺の弟みたいなもん?耕作さんのお孫さんだ」

「おお、地球の発明王さんのお孫さんですか!軍の見学に?」


 ―――軍?ここ、ひょっとして大牙さんのバイト先!?それよりじいちゃんの二つ名の方も引っかかるんですけど!


 弟みたいなもの、と言われると何だか嬉しくてにやけてしまいそうになり、気を引き締める。

「いや、この子の彼女が変な奴に付け回されてるらしくてね。守ってあげたいらしいんだ」

 大牙は少し後ろを向くと、湊太に向かって口元で小さく人差し指を立てた。話を合わせろ、という事らしい。慌てて湊太はうんうんと頭を大きく上下させた。

「はあ~!なるほど。地球も物騒ですなあ。じゃあ、『表』の方ですかね」

「だね、今日は誰かな」

「バルタサールとヴィオレッタの兄妹ですな」

「うわお、暑苦しいなー…うん、じゃあちょっと連れて行ってくるよ」

「はい、ご苦労様です!」




 部屋を出て、広めの通路を大牙について進む。

「ここ…軍の施設、ですか」

「そう。ここは基本事務作業する所。ちょっとしたトレーニングする部屋があるくらいで、軍事演習だの訓練だのはみんな交代で他の星とかの演習地に行ってやってるんだけど、ここでは外向けの『表』の仕事ってのもあって」

「さっき言ってましたね」


 ほとんど人気のない通路だ。すれ違う人もいない。

「一階の道路に面した部屋で、街の人たちに無料で体術を教えたりしてるんだ。人を教える訓練と、地域に愛される軍を目指して?」

「何で疑問形なんですか」

「有能そうな人たちを探す機会でもあるらしいんだ。勧誘だよ」

「あー…なるほどー。…地球と一緒ですね」

 思わず湊太は遠い目をしてしまった。


 まっすぐな通路の突き当りまで進むと、大きな両開きの扉があった。その扉を開いた先は、広めのロビーだ。真正面に外の通りに面したガラスの扉があり、横には受付のようなカウンターがある。

 カウンターには先程の男性と同じようなヒョウ柄の制服の男女が並んで座っていた。男性の方は獣人だ。


「あら、タイガ先生」

 女性の方が嬉しそうに声を掛けてきた。

「可愛い子連れてますねー!お子さんですか?」

 大牙も湊太も、思わずぶっと吹き出してしまった。


「…冗談ですよ。今日はどうされました?」

「この子とちょっと遊びたいんだけど、今どう?お客さん」

「この時間は女性客ばかりです。ヴィオレッタはフル稼働、バルタサールはめっちゃ暇」

「丁度いいや。じゃあちょっと場所借りるね」




 カウンターすぐ横に扉があり、大牙はそちらに向かう。扉の上に何か書いたパネルがあり、湊太がそちらに目を向けると、

『トレーニングルーム 一般人立ち入りOK』

 とグノメが訳してくれた。

 扉を開けると、マットのような床材が敷かれた正方形のエリアが田の字型に4面ほどある、かなり広い部屋だった。うち3面を女性が占めていて、一番奥の一面で男性が一人所在なさげにスクワットを行っていた。

 大牙が部屋に入ると、部屋のあちこちから若干の黄色い声が上がった。気にせず大牙は奥へどんどん進む。


 ―――靴は履いたままで良いのかな?


 大牙がそのままだったので、湊太もそれについて靴のまま部屋に入って行った。


「バルト、ちょっといい?この子湊太って言うんだけど、稽古つけて貰える?」

「ほうほう?どういった仕上がりが好みかい?」

 大牙に声を掛けられ、暇を持て余していたらしいその赤髪の男性は、くるりと湊太に向き直った。

「仕上がり?仕上がりと言うと…刃物向けられても、対処できる感じ…とか、そういうイメージなんですけど」

「ほーう、なるほど?刃物、剣かな、ナイフかな」

 バルトは壁際の棚に行き、籠のような箱の中をがさがさと漁り始めた。

「ナイフかな、短い奴です」

「了解、短剣だな!」

 籠の中から30cm足らずくらいの木の棒を出してきた。


「じゃあ、湊太がどれくらい動けるか見せて貰おうかな。…3mくらいかな、距離取って」

 大牙がそう言うと、マット上に2か所光で線が引かれた。丁度3mくらい離れている。

 開始線だと理解して、湊太は片方の線の外側に立つ。防具も竹刀もない状態で構えるのは不思議な気分だ。若干の心許なさも感じるが、視界の広さが不思議な緊張感を生む。

 反対の線に短い木の棒を持ったバルトが立つ。向かい合ってみると、大牙より少し小さいが近い体格だ。


「はい、始め」

「よろしくお願いします!」

 大牙がぱんと手を打つと、バルトは線の上から大振りで湊太にその棒を突き出してきた。動きが分かりやすい。湊太は軽く避けた。片手で手を伸ばしてくるバルトの動きは、剣道と言うより、やった事はないがフェンシングに近い気がした。


「ほうほう…なるほど。じゃあこれはどうかな」

 バルトの動きの大振りが、少し抑えられた動きになる。先程より鋭い突きが来たが、湊太は余裕でかわす。

 突きだけだったバルトの動きは袈裟切りのように斜めに振り下ろされたり、横一文字に切るような動きになったりと変化した。だが湊太は特に難しいとも思わずに避けた。

「やるねえ」

 今度はフェイントが入り始めた。しかし湊太にはこの程度なら全然余裕で動きが見えた。避けるだけなら全然問題ない。

「あー、そうか、湊太剣道やってたんだっけ。そこまで!」

 大牙は途中で気付いてバルトを止めた。


 ふと後ろを見ると、さっきまでトレーニングをしていた女性陣がみんなこちらのマットの近くに集まって来て二人を見ていた。

「あの子やるわねぇ」

「バルタサール先生ったら、本気出してないのかしら?それともまさかあれが本当の実力って事はないと思うけど」

 年齢層も種別もバラバラな女性陣が、周りで好き勝手言い始めている。


「バルト、ちょっと」

 大牙がバルトを呼んで、何やら打ち合わせを始めた。

「あー」

「はいはい」

 などというバルトの相槌が時々聞こえていたが、くるりと振り返り女性陣に向かって呼びかけた。

「よし、わっかりました!ヴィオラちょっと来て」

 バルトの妹…だったろうか。ギャラリーの中から一人女性が立ち上がった。バルトとよく似た赤髪の女性で、小柄だがタンクトップから伸びる二の腕は、筋肉の線がくっきりと見えている。


 ―――ムッキムキだぁ…


「次は、バルトが彼女を襲うので、それを止めてみて…はじめ」

 再び大牙が手を打った。自由にウロウロと歩き始めたヴィオラに対し、目の前を横切るタイミングでバルトが木の棒をふっと向ける。

「うわっ」

 思わず、棒と女性の間に手の平を差し込んでしまった。手の平に、木の棒ががつっと当たる。


「それじゃダメでしょー!ナイフだったら手に穴開いてたよ?」

 バルトがぷんぷん怒っている。

「すみません、つい」


「えー何これ、守ってもらえるとか、昔話のお姫様になった気分」

 ヴィオラは目をキラキラさせて喜んでいる。

「えー先生いいなあ。私にも代わってよー!」

 ギャラリーの中から、夕湖より年上であろう女性が羨ましそうに叫ぶ。湊太としては、明らかに自分より強そうな女性を守る状況に、変なむずがゆさを感じる。


「湊太、考えろ。どうやったら止めれるか」

 大牙が、壁際から指示を出す。

「えー!?あ、手?手を叩いて落とす!」

「はい、じゃ実践。遠慮するな、思い切り叩いていい」


 ノリノリでそこら辺を踊るように移動するヴィオラと、それを追うバルト。それを追う湊太の図に、ギャラリーたちは大いに盛り上がっている。


 数回バルトの手を叩いて止めたところで、

「今度は叩き落した後は棒を遠くに蹴って」

 と指示が入る。


 それが何回か綺麗に決まったところで、大牙がバルトに剥き身のナイフを渡した。複雑なデザインのサバイバルナイフのようなものだ。


「次はこれで」


 そう言われた瞬間。光る刃が目に入ったその途端。湊太は背中に冷たい何かと、心拍数が跳ね上がるのを感じた。


 その後は全然動けなくなってしまった。ナイフを持つ手を叩こうとすると、変に委縮してしまい叩きが甘すぎてナイフが落ちなかったり、やっと落したナイフを蹴るのも、刃先の向きを気にして躊躇してしまったり。何度も止め損ねヴィオラにナイフが当たりかけたが、そのたびにヴィオラが紙一重で避け、自ら兄の手をひねり上げて止めていた。


「そこまで」


 大牙が二人を止めた。

 その後男3人は壁際に並んで座って休憩&反省会だ。バルトが壁際の自販機のような機械からコップを3つ運んできた。エナドリのような、プロテインのような、いろんな知っているようなものが複雑に混ざった飲み物だ。

「怖いって思うことは大事だぞ。その感覚を忘れないように」

 バルトが元気に笑う。大牙がそこに補足する。

「あと、くれぐれもこの練習は友達同士でやるなよ」

「はい」

 湊太も真面目な顔で返事をした。


「えっと、あとは簡単な関節技と…うん、これはユリカも習った方が良いかな。基本の護身術から」

「あー…大牙さん、俺たちまだこっちのゲート自由に使えないんです」

「え?あ、そうか、まだ1月も経ってないのか…そうだったな。うーんどうしよ」


 ふんふんと横で話を聞いていたバルトが、口を開いた。

「ソータくんはユーコさんのお子さんなのですか?だったら…」

「はいバルト、ちょっと黙ろうか」

 大牙が、何か言いかけた赤髪の男の言葉を笑顔で素早く遮った。


「…えーじゃあ、タイガ先生、ちょっと自分と遊んでくださいよ」

 不完全燃焼気味だったバルトが、大牙に一勝負挑んできた。

「…わかったよ」

 大牙は立ち上がると、近くの小部屋に入って行った。

『更衣室』

 と入り口のプレートの文字をグノメが教えてくれた。

 お掃除ロボットのようなものが2台現れ、マットの上を徘徊し始めた。掃き掃除と拭き掃除をやっているようだ。


「ソータくんは、彼女を守りたいのか!大変だな、頑張れよ!君は動体視力もよさそうだ、自分を守るだけなら問題なく避けれると思う!」

 バルトがドリンクを一口飲むと、とてもいい笑顔を湊太に向けた。

「君の入隊を、歓迎するよ!」

「いえ、結構です」

 申し訳ないが、バルトの勧誘は速攻断らせてもらった。



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