なのは、ゲームバカのチームに取り込まれる
なのはの目線のお話。
「あとはシナリオだけど…よーし、頼んだぞ恋愛脳」
フードコートの片隅で、ユリカにシナリオ作成の仕事を振られてしまった。それにしても、言い方ひどくない?
まあ、人間得手不得手があるのは分かる。
ユリカに恋愛脳と決めつけられてしまったが、大体ウチらの年齢の女子ってみんな恋愛脳じゃないの?
いや…ユリカは違うな。
自分たちについて、朝から他の人間とどんな会話をしたか、ユリカは聞き取りを始めていた。隣で聞いていると、なんだか取り調べのような雰囲気だ。
「朝、湊太は蓮に対して『別にユリカが誰と付き合おうが俺には関係ない』的な事を言った、と」
「関係ない、とは言ってないな。俺が口出しすることじゃない、みたいに言ったと思う」
「なるほど。それと、さっき追っかけられてる湊太を捕まえた時に…あれ、私何て言ったっけ」
「さっきは変なこと言ってゴメンね、仲直りしよ?みたいなことを、信じられないくらい可愛らしく演じていらっしゃいました」
一瞬、湊太のモノマネを聞いて、ユリカがチッと舌打ちをした。いや、湊太怯えちゃってるじゃん、可愛そうに。
「チョーシこいてすみませんでした…」
あーあ、謝っちゃった。旦那、しっかりしろよ。いきなり尻に敷かれすぎだろ。
「…そっか、じゃあ、もうこの直前までには付き合い始めてる感じになるかな。…うん?さっき付き合い始めていきなり喧嘩した?辻褄合わせんの難しいか…?」
ふーむ、と肘をつき一瞬考えるような顔をした後、ユリカはくるっとウチを見て
「とりあえず、今の情報を踏まえて、齟齬のないように、私と湊太が付き合うことになった理由?ストーリーを壮大に仕上げて。明日の朝までに」
とイイ笑顔で無茶振りしてきた。
いや、分かるよ?これは早ければ早いほどいいさ。早く仕上げて、協力者全員に共有しなきゃいけない。
あれ?なんかウチ、このゲームバカ3人のチームに入れられてない?
「まあこういうのは、絶対なのはが一番上手く出来るもんね。なのはにしか頼めないし」
うわ、ずっるいわ~。あんな笑顔であんな言い方されたら、ちょっとだけ張り切っちゃうじゃんか。
ソフィアの来た日、あの帰り道。
シュートは3人に恋愛感情はない、みたいな事言っていた。それが根底から覆った…いや、シュートは元々人の気持ちとか、憶測でべらべら喋るタイプじゃなかったし?…いや、湊太の気持ちは知らないって言ってたっけ。見てて気づいたとしても、言質の取れてないことを言うヤツじゃなかった。
何にしても、あいつに恋愛事情なんか聞いたウチが浅はかだったさ。周りが色々ユリカの事聞いてくるから、少しでも情報欲しかったのは事実だけども。
年末のゲームの大会、スマホで配信は見てたけど、画面小さかったし画質も荒かったから、顔が良く見えなかったんだよ。
でも、ソフィアが来たあの日。実物の湊太見て、ユリカは間違いなく湊太だって思ったんだよね。
だって顔とか雰囲気とか、何か似てるじゃん、ユリカの推しのプロゲーマー、元読モの人。蓮がしつこく湊太の事気にしてたのが、腑に落ちたっていうか。
自分の気持ちよりも合理性を取るユリカ。
誰よりも人の顔色を気にするくせに、誰にも踏み込まないシュート。
湊太は調和優先、自己犠牲タイプってとこかな。
ユリカは壮大なストーリー仕上げろって言ったけど、ここはそれ違くない?
さっきの1年3組のあの状況。…まあ、アイナとリリコは置いといて。中田だって、ユリカの情報欲しくてシュートに近づいてたんでしょ。
つまりウチが仕上げるストーリーは、「湊太×ユリカ」が正義、邪魔する奴は悪って言う構図になるようにするのが正解じゃない?
でもあの早紀って子、コインロッカーの陰に隠れてたとか、どんだけだよ。これは少々のことじゃ終わらない気がする。
美奈は、あの子のストーカー気質知ってんだろうか。あんまり関わりたくないけど、出来ればあいつも上手い事巻き込みたい。初見のウチらより、付き合い長い奴らの方が話通しやすいだろうし。
あいつは若干性格悪いけど、バカじゃない。犯罪まがいの事する友人には、何らかの手立てを考えてくれると信じたい。
「わかった。ホントの話ベースに、ウソはスパイス程度に。あとは盛る」
女子が推したくなるように仕向けてやんよ。
ついでに、ユリカがデレるのを見たい。…ウチがね!
「こんなの、変に作り込むと失敗するに決まってるっしょ。
部室で先輩と話してて、お互い好きなんじゃない?付き合っちゃえば?的に言われた。ユリカが照れてパニクって、心にもないこと言った。湊太がショック受けて飛び出してって、自分の気持ちに気付いたユリカが追っかけた。…どうよ?」
「おー、綺麗にまとまった。ほとんど嘘もない」
シュートは拍手してくれた。しかし、ユリカはかなり不満顔だ。
「え、私が何か恋する乙女ポジションみたいでキモいんですけど」
「つきましては、校外ではユリカは湊太にべったりでお願いします。校内でも、しばらく休み時間はバカップル並みにいちゃついて下さい」
いかん、自分で言っておきながら、想像つかなすぎて笑える。
「それは…ちょっと…」
ユリカは私の提案に難色を示した。
「周囲の根回しも徹底的にやってやるっつってんの。ユリカが乗らないなら、手伝わねーぞ」
こっちにも旨味がないとね。強情なユリカに、「演技」って口実をあげるんだからさ。
「いや…みんなに迷惑かけて申し訳ない…」
湊太はしょんぼりと謝ったが、少したつと口角がゆるゆると上がっていってて、嬉しいのが隠しきれていない。何だよ、可愛いなこいつ。
「湊太が謝んな。これは何かの外れ引いちゃったみたいなもんだ」
ユリカは冷静っぽく言い放ったけど、さっきから湊太と目を合わせようとしてない気がする。
そして、シュートがずっとニヤニヤ笑ってる。
「…シュート、何か嬉しそうだな」
「いや、早く付き合えばいいのにってずっと思ってたから。まあ受験もあったからしゃーないけど…結果オーライかな」
「今は、便宜上、フリするだけです」
ユリカはむっとした顔で強調する。
「はいはい、分かってますって」
シュートは、本当に嬉しそうに笑っていた。
帰りの電車に乗り、シュートとウチとで周りを警戒しつつ空き座席に移動した。ユリカと湊太は座席に座ってもらって、ウチらはその目の前に立って目線を塞ぐ。なんだかSPにでもなった気分でちょっとわくわくしてしまう。
同じ車両の、ほんの1つ向こうの扉のそばに早紀って子がこっち向いて立ってるのを確認したときは、ちょっと悲鳴上げちゃいそうなくらいビビったけど。
そして、下りる駅はどうやったって一緒な事に変わりがない。そこからウチらは北方向、彼女は西方向のバスのはずだけど、乗り間違いのフリでもして同じのに乗られたらたまったもんじゃない。
ここでゲームバカ3人がささっと簡単な作戦を立てる。
シュートとウチはバス一駅分ほどの歩いて帰れる距離だから、そこまで4人で一緒に歩くことにする。そこからユリカと湊太を同じバスに乗せる。二人を乗せて、私達が見送る方法を取れば、まず駆け込んで乗ってくることは防げるはずだ。
しかし、電車を降りると彼女はあっさりと西方向のバスに乗って帰ってしまった。それを確認した後、4人が一気に大きなため息と共に「助かったぁ~」とか「疲れた~」と叫んでしまったのは、もう仕方のない事だと思う。
その後ユリカたちをバスに乗せ、わずかな距離をシュートと歩いた。
「シュート的には、二人の事は満足だった?」
「まあ、ユリカがまだ素直じゃない以外はね。多分もう湊太は普通の友達のフリとか無理だと思う。しばらく緩みっぱなしかもな。これで操作の腕が落ちたら困るけど…。ガチでフラれるぞ」
シュートが笑う。それにつられて、
「そりゃ困るね」
とウチまで笑ってしまった。
そして今までウチに相談して来ていた片思い男子たちの事を思い出してしまった。
「明日、ユリカ狙ってた男子ども、多分大騒ぎだよ」
「そんなに?」
「前言ったよね、ユリカはモテるって」
「まあ…聞いたけど…」
シュートは不思議そうな顔で薄く微笑んでいる。
「じゃあ…明日、湊太は大変かもな」
そこでふっとシュートの表情が真面目なものに切り替わった。
「けど…怪我の功名ってやつにしても、その怪我の問題がちょっとな…俺たちだけでなんとか出来るかな」
「ウチも色々考えてるから、片っ端から味方引き込んでなんとかやってみるよ」
「頼もしいな」
シュートがまた、いつものように力なく笑った。
「でも、今日の最大の功労者はシュートじゃん。部室でユリカ送り出した時、ちょーカッコよかったぞ」
なるべく変に思われないように、普通の感じで、自然に、今日のシュートを褒めた。
シュートはかなりびっくりしたような顔で一瞬だけ…固まった気がした。
「ふふっ…カッコいいとか言われたの、初めてかもしれない。変なの」
シュートは何だか必死に笑いをこらえている感じだ。
「えーなんだよ、ホントにそう思ったんだよ」
こういうのは、変に照れたりしたらおかしな空気になる。自然に、自然に…あれ…?あ、これあれだ。さっきユリカが怒られてたやつ。
「ぶはははは」
自分で自分がおかしくなって、笑ってしまった。
すんません今ワタクシ、めっちゃいい女のフリしようとしてました!
「ただいまー」
家に帰ると、ママがコーヒーを淹れてることろだった。
「おかえり。なのはも飲む?」
「うん、貰う―」
カバンを部屋に置いて、制服をさっさと脱いで部屋着に着替え、リビングに戻った。
「明日いきなりお弁当、よろしくねー」
「うん、入学式の後体育館で聞いたよ。今日初めましてだったけど、湊太くんのお母さんいい人だねぇ。例のドイツ人の…ソフィアちゃんだっけ?色々パフェとか奢って貰ってた件とかもやっとお礼言えたし。あ、湊太くんって料理するんでしょ?」
ダイニングテーブルの自分の席に座って、コーヒーの入ったマグカップを持ち上げる。いきなり飲むには、ちょっと熱すぎた。
「うん、料理めちゃうまいらしいよ。写真見たけど、すっごいおしゃれなランチ作ってた。あ、ユリカと湊太、今日から付き合うことになったから」
うすら寒いストーカー問題は、今はとりあえずポイだ。とりあえず幸せな話題で心を満たす。
「ありゃ、なのは寂しくなるね~…あ、そうだ。今日久々に秀人君のお母さんに会ったけど、何か聞いてる?小学校の卒業以来かな?あの時よりすっごい痩せてて、なんだか雰囲気怖かったのよ。体調悪いのかと思ったら、なんか変な事言い始めて」
「変な事…?」
心臓がばくんと跳ねた。あの日ソフィアと別れた後、一緒にスーパーに行った時の事が頭をよぎった。
「湊太くんのお母さんに向かって、ウチは自然派食品?なんか体にいいもの?そんなんばかり食べさせてるんです、あまり添加物の多い物をうちの子に食べさせないでくださいね、って」
「え…えー?」
「しょっちゅう湊太くんのお家に遊びに行ってるんでしょ?普通はまず『いつもお邪魔してすみません』とかじゃない?もう、横で聞いててびっくりしちゃって…ごめん、あの場でちょっとキレちゃいました☆」
これかー!?あの時シュートが何かお惣菜買いこんでたのって。
反抗して親の料理食べてないの?それとも、あれだ。美味しくないからお惣菜に走っちゃってたの!?
ほら、何かよく言うじゃん、ほんとに体にいいものは美味しくないとか。
色々分からない。あのシュートの、年齢のそぐわない落ち着いた空気感と、そんなこと言う母親がもう解釈不一致すぎる。…いや、逆に母親がそんな感じだから、今のシュートになったのかもしれない。
入学式、クラス委員問題、ストーカー、カップル爆誕、その上これ?何なの今日、てんこ盛りすぎだろ。
「なんて日だ!」
コーヒーの入ったマグカップを握りしめたまま、心からそう叫んでしまった。
まず、ウチがすべきことは何だ?
ユリカと相談?シュートと話す?…美奈と、話す。…あとは
「明日テストもあるんだよー…」
スマホを握りしめたまま机に突っ伏した。
何から手を付ければいいのか頭の中で羅列して、途方に暮れてしまった。




