表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
しらないところで  作者: 南 紅夏
高校入学編

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

46/163

部室行ってみる?

 入学式は淡々と終わり、学生たちは教室に戻ってきた。

 担任はぱっとしない感じの、若いのか年なのか分からない男性教諭だ。もじゃもじゃの髪がやたらと目を引く。

「改めて、4組の担任の大岩輝久です。生物教師です。独身、趣味は釣りです。何か質問は?ないね」

 質問など受け付ける気もない勢いで一気に話を進める様子に、一部生徒がクスクスと笑う声が聞こえる。


「え、質問あります!大岩先生は何歳ですか?」

 窓際の席の、前の方の席の男子が手を挙げた。

「33歳です。誕生日は7月です、前後半年プレゼントは受け付けています。

 じゃあ順に軽く自己紹介してもらおうか。で、ちゃちゃっとクラス委員決めちゃおう。名前と出身校と中学時代の部活と趣味くらいかな。…うーん、このクラスは持ち上がりが多いな。32人?入試組は8人だけか。じゃあ、持ち上がり組は出身どこ小か言って。受験組はどこ中出身か。はい、出席番号1番からどうぞ」


「相沢翔平です、港南中出身、バスケ部でした。趣味はスニーカー収集です。よろしく」

 1番の奴は受験組だったようだ。その後の2~5まで全部持ち上がり組で、自己紹介の間は誰かががツッコミを入れたりして少しざわつく。


 湊太の番が来て立ち上がると、見知らぬ者相手の情報を得るためなのか、周囲はまた静かになった。

「神木湊太、磯浜第一中出身です、剣道部でした。趣味はゲームです」

 由梨香がこそっと横から

「料理もゆっとけよー」

 と言ったので、周りが少々ざわついた。湊太はニヤニヤしている由梨香を軽く睨むと

「あと、料理も少々。よろしく」

 と言って座った。


 受験組の自己紹介は静かに聞く、持ち上がり組の自己紹介は誰かが突っ込むを繰り返し、由梨香の番が来た。

「白石由梨香、磯浜第一小出身です、化学部でした。趣味はゲームです、よろしく」

 誰かが

「黒百合様~!」

 と茶化した。由梨香は余裕の笑顔で手を振りつつ、席に座った。


「辻井早紀です。磯浜第一中出身、帰宅部でした。趣味はアイドルの推し活です」

「早瀬蓮、磯浜西小出身、高校も継続予定の生物部です。趣味は爬虫類、恐竜の化石とかも好きです」

「宮原なのは、磯浜第一小でっす。美術部でした。趣味は…メイクの研究かな?」

 趣味が湊太達同様ゲームと言う奴もいたし、何だか変わったことを言う奴もいた。

 しかし湊太にとってはこの3人以外は初顔合わせばかりで、全部記憶するのは難しかった。




「じゃあ、クラス委員決めちゃおう。まず委員長ね。立候補する人いない?」

 大岩がそう言って教室を見回すが、誰も挙手する人はいない。くるりと生徒に背を向けると、黒板の「入学おめでとう」と入学式次第を一気に消し、委員長、副委員長、委員と書いて、

「誰かいないかー」

 ともう一度教室を見るが、皆固まったように動かない。1度名簿に目を落とし、顔を上げるとまっすぐに蓮の方を見ていた。

「蓮、お前やらない?」

「やですよ」

 蓮はご指名をバッサリ断った。


 大岩の目線は、そのまま廊下側へ移動した。

「じゃあユリカは?」

「知ってる子に片っ端から声かけるのやめてくださいよ」

 由梨香も口を尖らせて拒否の姿勢だった。

 確かに蓮は生物部で、高校のとはいえ生物の教師とは面識があったのだろう。由梨香は化学部だったはずだが、知り合いだったのだろうか。

「内申、よくなるかもよ?」

「やります」


 簡単に釣られた由梨香に、教室のあちこちから

「チョロっ」

「チョロいな~」

 と笑い声が上がる。


「じゃあ、副委員長は?」

 黒板の『委員長』の文字の下に『白石』と書いた後、再び担任がクラスを見回す。

 誰も挙手しない状況で由梨香が

「指名して良いですか?」

 と悪そうな笑みを浮かべた。もう、湊太にはイヤな予感しかしない。


「さっさと決まるならいいぞー。あと、平の委員も二人決めて。あ、ユリカ前出て、もう仕切って。俺は座る」

 由梨香は席を立ち、前に出ていく。それと入れ替わるように、肩を押さえつつ首をコキコキ鳴らしながら大岩は窓際に移動し、座った。

 教壇側に向かいつつ、由梨香は担任に質問を投げかける。

「副委員長は分かるんですけど、平の委員って何ですか?」

「お前がボス、副委員長は補佐、平は…使い魔だな。あ、任期は半年、10月にまた改選するから」

「なーる。…じゃ、湊太、副委員長ね」

 黒板前で振り返ると、由梨香はまっすぐに湊太を見た。

「いっ」

 イヤな予感は当たった。打診もなく決められてしまった。


「湊太、前に出て」

 由梨香は湊太を手招きすると、『副委員長』の下に『神木』と書き込む。しぶしぶと湊太が前に出ると、

「書記よろしく」

 とチョークを渡された。

「他に委員やりたい人いませんか~?いなきゃランダムに名簿から選びます」

 由梨香が教卓に手をつきつつ教室内を見回すと、同時に二人が手を挙げた。

「はい、じゃあ決定ね」

 挙手したのは、蓮と早紀だった。




「明日から春休みの課題のテストです。いきなりで悪いけど、昼からもあるので弁当持参でよろしく。あーっと…食堂は明日から開きます。明後日は身体測定とか部活紹介とか。体操服持ってくるように。当面の予定表も配るんで、それに合わせて準備をお願いします。んー…連絡事項はこんなもんかな」


 周囲の教室も初めてのホームルームが終わったのか、にわかに廊下が騒がしくなってきた。

「今日提出物忘れたヤツは、明日には提出すること。じゃあ、今日はここまで。はい委員長、初仕事」

「起立―」

 由梨香の号令で、皆がガタガタと席を立つ。

「礼」

 皆が軽く頭を下げると、その後はそのまま解散だ。さっさと教室から出ていく生徒はおらず、皆何となく腹の探り合いのように教室に残っていた。

「湊太どうする?部室行ってみる?」

 由梨香が卓上のプリント類をカバンに片付けると、スマホの電源を入れていた。

「あ、行ってみたい。それよりも、時間あるんだったら全体的に学校見てみたいな」


 そう言いつつ湊太もスマホの電源を入れる。すると、すぐに夕湖からのメッセージを受信した。

『終わった?朝海と先に帰った方が良い?』

 と書かれていたので

『ちょっと残る、先に帰ってて 昼飯もいらん』

 と返信した。


「そだね、シュートも時間大丈夫かな。…あ、なのは。今から湊太とシュート学校案内するけど、一緒に行く?」

 近づいてきたなのはに、由梨香が声を掛ける。

「行く。…行くけど」

 なのはが声のトーンを最小に落とす。

「なに、あの恐怖のクラス委員編成は!…いや、ちょっと教室離れて話そーぜ。もう怖すぎるわ」


 他クラスの子もやって来て、教室はごちゃまぜの状態だ。3人は手近な教室の後ろの扉から出て、秀人のいる隣の教室に向かう。そのわずかな間にも、由梨香やなのはに話しかけてくる人間は多い。

「え?何組?」

「そっかー、離れたね」

 などと簡単な挨拶をしていたが

「あ、湊太くんだ、ゲームの試合見たよ~!」

 などといった感じで、湊太に話しかけてくる人間もいた。


 3組の後ろの扉から中を覗くと、秀人は座ったまま、4人の男女に囲まれていた。見覚えのない顔ばかりで、少なくとも同じ中学校の出身でない人たちだという事は分かった。

「ありゃ、シュートが大人気」

 由梨香が呑気に呟くと、続いて覗き込んだなのはが慌てて3組に飛び込んだ。

「うぉーい、中田!シュートいじめんなー!」

「い、いじめてねーし」

 中田、と呼ばれたがっしり体形の男子が飛びのいた。


「アイナとリリコも!リリコ5組じゃんか。何でもうここいんだよ!」

「えー?取材?かな」

「サラサラヘアーの男子って、ちょっと気になるじゃん~?」

 どっちがアイナでどっちがリリコか分からないが、おっとりした感じの女子二人が意味ありげにうふふふ、と笑いながら秀人をじっくり眺めていた。しかし廊下から覗き込む由梨香と湊太に気付くと、ぱっと目の色が変わり、二人共がものすごい勢いで近づいてきた。

「ユリカ、これ、例の湊太くんだよね?」

「これ言うな」

 由梨香が苦笑しつつ発言を咎めるが、彼女たちはお構いなしだ。

「え、お肌キレイ」

「やば、配信で見たのより可愛くない?」

 ぐいぐいと距離を詰められ、湊太が一歩後ずさった時、由梨香が湊太の腕を取り

「なのは、先に行っとくね」

 と言い残すと、そのまま湊太を引っ張ってその場を離れた。


「なんか怖かった…今の子たち、何?」

 長い渡り廊下を抜け、やや人がまばらな理科棟と呼ばれる建物に逃げ込んだ。

「うーん…説明ムズいな、奴らは。いろんな意味で危険」

「なに、そんなにヤバい子たちなん?」

「うん、あいつらの脳内で、何させられてるか分かったもんじゃないよ」

 由梨香が遠い目をした。

「うー…あー…うん、もういいや、何となくわかった」

 湊太も、何かを察して軽い悪寒と共に考える事を放棄した。


「あ、ここ理科棟ね。一階に調理実習室とか技術室とかもあるけど、上の階に理科の各教室がございまーす」

 同じように校内ツアーをしているらしい新入生がちらほら見える程度で、理科棟はかなり静かだ。

 由梨香の案内でその建物を抜けると、他の校舎よりもやや小さめな2階建ての建物があった。

「ここが、文化部の部室棟。茶道部とか英語部とか写真部とかのちゃんとした部もあるんだけど、漫研とか謎の同好会もちょいちょいあるんだよ」

 真新しい、手書きの「eスポーツ部」プレートの掲げられた部屋を、由梨香がノックした。

「はーい」

 中から男性の声の返事があり、由梨香が

「失礼しまーす」

 と言いながら扉を開けた。


 中では、ちょっと気だるそうな眼鏡の男子生徒がソファに横たわっていた。寝っ転がったまま、スマホでゲームをしていたらしい。

「おー、ユリカちゃんいらっさーい。お、ぽるぽるさんだ。見たよ、年末の。剣でパリィガンガンかましてた方の子だよな?」

 ゲームの手を止めず、その男子生徒は起き上がってソファに座りなおした。

「神木湊太です、よろしくお願いします」

「湊太くんね、ウチに入るんだよね?よろしくー。うちの部は先輩後輩とかナシね。上下あるとしたら、ゲーム強い奴が上だから。俺は村上彰斗。あっきーって呼んでね」

 彰斗が座っているのは、部屋に不似合いな花柄のカバーの掛かったソファだった。向かいにも同じようなソファがあったので、由梨香と湊太はそちらに座った。


「去年までここ、オカルト研究部だったんだ。最後の3年生が卒業して廃部になったから、備品丸ごと頂いちゃったってワケ。ソファもね」

 ゲームが一区切りついたらしく、彰斗はスマホをソファに置くと、部屋の説明を始めた。

「あんまりボロいソファだったから、でも買い直す金もないしさ。ガムテープで補修して、もう一人の部員の和美って子が自宅から布持って来てくれたんだけど…結果がコレよ」

 教室の半分くらいの広さの部屋だ。壁際の棚にはぎっしりと本が詰まっている。確かに、中は幽霊や怪奇現象、UMAやUFOの本だらけだ。湊太の目線を追うと、彰斗は補足説明をしてくれた。

「ああ、この本ね。先輩が卒業しても、なかなか部屋の鍵渡してくんなくてね~。新入生がオカ研引き継いでくれるかもって言って、処分せずに全部置いて行っちゃって」


「図書館に寄贈したらどうですか?」

 由梨香が建設的な意見を出すと

「え、運ぶのめんどい」

 と残念な一言で拒否されて話が終わってしまった。


「和美せんぱ…和美ちゃんは?」

 敬称を変更しつつ由梨香が尋ねた。本当に上下関係がおかしな部のようだ。

「買い出し。すぐ戻ってくると思うよ。なんかユリカちゃん来るかもって張り切ってたから」


 それよりも、湊太には気になっている事があった。この部屋には、あるべきものがない。

「パソコンとか、ゲーム機ってあるんですか?」

 その質問で、さっきまでへらへらと話をしていた彰斗は、急にがっくりと肩を落とした。

「昨日今日出来た、何の実績もない部に予算付くわけないだろ~?」

「…そりゃ、そうですよね…」

「え、じゃあここでゲーム三昧って無理じゃないですか」

 由梨香が、彰斗よりもさらにがっかり顔をした。

「…えー…入部やめよっかな」

「え、ちょまっ…ユリカちゃん?まずは落ち着こうか?」


 ドアがノックされて、なのはと秀人、そしてもう一人、コンビニ袋を持った女生徒が入ってきた。

「そこで会ったから連れて来たよ、ザクギリ君とカノジョ」

「あ、和美先輩、お邪魔してます」

「和美ちゃん、でしょ!…あー、ぽるぽるさんだー!大剣パリィ見たい、あれカッケーよ」


「神木湊太です」

「湊太くんね、柳原和美だよ、よろしくねー!」

 湊太と和美が自己紹介した後、みんなの視線は秀人となのはに集まった。

「あ、ウチは宮原なのは、入部する気はなくって、ただの…道案内?入りたいのはこっち」

 ぐいっと秀人を前に押し出し、なのはは一歩下がった。壁際にあった折りたたみ椅子を見つけて広げると、勝手に座る。


「えと、吉沢秀人、シュートって呼ばれてます」

「ヒデトなのにシュート?どんな字書くの、ここに書いてみて」

 すっとペンとバインダーを差し出した彰斗から、由梨香が素早くそのバインダーをもぎ取った。

「あっぶねー、入部届じゃないですか!だめです、ちょっと入部は考えさせてもらいます!」

 失敗した彰斗のへっぽこ策士ぶりと、由梨香の動きの鋭さに、思わず湊太は笑ってしまった。


「え…?入らないの?」

 逆にきょとんとしてしまっているのは秀人の方だ。

「パソコンも何もないんだって。あるのはこの教室だけ。環境だけ言ったら、湊太ん家行った方が格段に良いって事だよ」

 ぷんすこ怒っている由梨香の話を受けて、秀人が教室をきょろきょろ見回した。

「ああ…そうか、出来たばっかって言ってましたもんね。元はオカルト研究部とかそういうヤツだった感じですかね?そりゃ環境整ってなくて当然か…」

「一人一台タブレットは配布されるけど、ゲームするにはスペックザコだよ」

 和美は彰斗の隣に座りながら、申し訳なさそうな顔で言った。

「いや、学校の支給品でゲームすんなし」

 素早く彰斗が突っ込んだ。


 秀人は湊太の隣に座ると急にカバンを開け、配られたプリントのうち一枚を引っ張り出すと、ざっと目を通しはじめた。部活の名称と顧問の書かれているリストだ。

「パソコンをメインに使う部活って特にないですよね?理科棟にコンピューター室ありましたよね、部活動の時だけ、あそこ借りれませんか?」

「あー、なるほどね!いけるかも。あそこのもそこまで高スペックじゃないけどさ」

 彰斗が目を見開いて、感心したように秀人を見た。


 ぼんやりしている時と、好きな事でスイッチが入った時の秀人の落差は別人並みに違っていて、本当に面白い。湊太は饒舌早口状態の秀人を、にやにやと眺めていた。

「うわ、お前ほんとにシュートか?めっちゃ喋るじゃん!」

 なのははこの状態の秀人を初めて見たのか、若干引き気味に驚いていた。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ