表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
しらないところで  作者: 南 紅夏
春休み編

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

38/163

ドラゴンの食事風景

 翌朝、湊太は早めの朝食を済ませ、8時少し過ぎたところでアステリアに移動した。


 7時過ぎに起きて「朝ごはん~!」と言うと、日曜朝は省エネモードの夕湖にあからさまにイヤな顔をされたので、勝手に食パンをトーストして、昨夜の残り物を添えて一人でささっと済ませたのだが…。


「今日は何?」

 皿を下げているところで、小声で夕湖に聞かれたので

「…ドラゴン見に」

 と言うと、一瞬にして目の覚めた顔になり

「いいなぁ…」

 と言われた。


「来んなよ?大牙さんと一緒なんだし」

 まるで一緒に行きたいとでも言いだしそうな母親の雰囲気に、息子は慌てて制止する。

「ますます行きたいじゃん…でも、私はドラゴンに近寄らない方が良いって言われてんだよなあ」

 そう言いながらしょぼくれた夕湖に対し、やはり腐食属性でもついてるのだろう、とひどい事を想像し、湊太は勝手に納得した。

「念のため、着替えも持って行った方が良いよ~!」

了解(りー)

 夕湖の忠告に返答しつつ、湊太はリビングを出たのだった。




「はいこれ、すぐに設定してね」

 ハルカの迎えで移動し、昨日と同じ農園の管理小屋である。

 10人掛けのダイニングテーブル上に、くすんだ薄茶色のコードで繋がれている小さな透明の輪っか2つと、白いクリップのようなものが2個セットになっているアイテムがあった。

 一緒に分厚い、樹脂のような素材の手袋も置いてある。

「こっちのコードで繋がってるのはイヤーカフね。この輪っかは一応艶消しで反射とかしないけど、髪の毛で隠れる方が良いと思うから…うん、二人ともどっちも耳周りの髪長いから隠せそうだね。髪の色も馴染みそう。白い方は襟首に挟んで使うやつ。どっちもコーサクおじさんが作ってくれてた試作品だけど、役に立ちそうで良かった」


 湊太が白いクリップ状のものを選び、大牙がイヤーカフになった。

 そのクリップを襟に装着したところで、湊太のグノメが

『追加機器(デバイス)の設定をしますか?』

 と聞いてきたので

「イエス!」

 と返答した。


「どっちも会話用の補助アイテムで、とどのつまりマイクとスピーカーだから、単独じゃ使えないのよ。あくまでメインはラムダだから、ラムダもポケットとかに入れて持っといてね」

 ハルカの補足を聞き、二人ともラムダをそれぞれポケットにねじ込んだ。


「何か注意点ありますか?」

 分厚い手袋をはめながら湊太が尋ねると

「とりあえず、果物触るときは手袋は絶対ね。あとは、大声上げない事くらいかな。

 あ、そうそう、遠くへは行かないで。入っちゃいけないエリアに入る前には、グノメが教えて止めてくれる思うけど」


「そうか、それがあったか」

 真面目にそう言った後、大牙は急にキラキラの笑顔になって、

「で…触って良い!?」

 と無邪気な質問を投げた。


「口周りは避けて、草食の子だから食べられちゃうことはないんだけど、食事前後はうっかり噛まれちゃうかもだから。顎の下は喜ぶよ、他はどこ触っても怒らないとは思うけど、鎧部分は固いだけで多分面白くないかも」

「鎧竜なの!?」

 大牙が大喜びだ。

 湊太は、秀人が「逆鱗はあごの下」と言っていたことを思い出していた。


 ―――あごの下OKってことは、逆鱗なんてないのかぁ。


「よし、じゃあ行きますか」

 そのハルカの言葉に二人はぱあっと笑顔になり、扉へと向かった。




 扉の外は、開けた広いグラウンド…と思いきや、まばらに大きな木の生えた、影も多い「やや開けた森の中」といった印象だった。ひときわ大きな木の近くには、かなり大きめな池もある。

「うっわー、いるいる!あれ…?色が」

 大牙が抑え気味に、それでも興奮した声を一瞬上げたが、ドラゴンのビジュアルを見て首を傾げた。

「なんか…ハルカさんの思い出話で見てたのと違う…」


 湊太のドラゴンたちを一目見た感想は「恐竜」だ。

 翼はなく、先日見た「スタードラゴン」に比べると、かなりぽってりした体形に見える。そして、ハルカの映像で見ていた時はオレンジ掛かった濃い黄色だったのだが、実物は赤茶と深緑がまだらになった、お世辞にも綺麗とは言い難いカモフラ柄だった。

 湊太は一応グノメから聞いていたので、ハルカの映像と違う事を前もって理解はしていたが、あまりにも違いすぎる。つるんとした背中を想像してやってきたのに、実際はぼこぼことした固そうな鎧状の皮膚が、規則的に並んでいた。


「あー、あれ、加工済み画像。この子たちのビジュアルは公開禁止なの。撮影禁止でお願いね、こっちの機器で撮っても保存される前に加工入っちゃうけど。…まずあっちの倉庫まで来てもらえるかな?」

 管理小屋を出て右手に、大きな倉庫のような建物があった。


 歩きながら、大牙が嬉しさを押さえた声で話しかけてきた。

「湊太、どう思う?俺の感想『恐竜』なんだけど」

「いや、俺も同じこと思ってました。家に帰ったら恐竜図鑑引っ張り出して見たいです、何か似たのいた気がする」

「え、恐竜図鑑?コーサクおじさんがくれたのが小屋にあるよ?」

 ハルカが嬉しそうに振り返る。

「昔の地球、ときめくよね~!あんなに沢山種類居たら楽しいだろうなぁ」


 木造の倉庫につくと、大きな引き戸をハルカがスライドさせた。中ではアーシャが菜切り包丁のような形の刃物を手に、いくつかの木箱に果物を分けて入れていた。

「おはようございます」

 大牙と湊太が挨拶すると

「おはよう、早速だけど一人ひと箱ずつ持って行ってちょうだい」

 と言って、既に果物の詰まった箱を指し示した。皮の色から推測するに、例の、毒のある洋ナシ型の実だ。しかし全てカットされていて、あの「梨汁ブシャー」が起こることはなさそうだった。


「数の制限はないから、食べたい子には食べたいだけあげていいから」

 アーシャの指示した箱の方へ向かおうと倉庫へ一歩足を踏み入れた途端、思わず湊太は

「寒っ!」

 と声を上げた。

 倉庫の中は、まるで冷蔵庫のような寒さだった。


「あ、タイガはそっちの箱ね?」

 アーシャがクスクス笑いながら指した方向には、カットされていない木の実が4つ並んだ箱があった。

「うわー、そういうことするんですか…」

 と言いながら、それでも大牙は嬉しそうだ。

「よーし、受けて立とうじゃないの」

 にやりと笑うと、大牙は木箱を抱えた。


 カットフルーツの木箱を抱えたハルカの後を、湊太もついて行く。倉庫から20mほど離れたところに、特に柵があるわけでもないが、体高が湊太の目線ほどある大きさのドラゴンたちがざっと10頭くらいだろうか、横一線に並んで待っていた。

「えらくお行儀が良いですね」

「不思議でしょ。彼らなりの人との共存のマナーみたいなものだと思って」

 ハルカの指示で、3人は少し距離を取って、横並びで前に進んだ。

 一番右端のハルカの進む先のドラゴンたちは、彼女の手元の木箱の中の果物しか見ていないが、真ん中を歩く湊太の先にいるドラゴンたちは目線が高く、じっと湊太の顔を見ているのが分かった。


 ―――めっちゃ見られてる~!


 そして、左端の大牙の進む先には、森の木々が間近に迫っているだけでドラゴンはいない。

「おーい、これどんな状況?そういうプレイですかー?」

 大牙は半笑いだ。

 そしてドラゴンの目の前に辿り着くと、ドラゴンたちは一斉に箱の中の木の実にかぶりついた。

「ほわぁ~…食べてる…」

 湊太の目の前のドラゴンたちは、食べてはちょっと湊太の顔を見、そしてまた食べるを繰り返している。

 目の位置的に、湊太の顔を見るときはちょっと首を傾げているような角度になるのが、なんとも可愛い。


 アーシャが円盤型キックボードにおかわりを積んで運んできたので、無くなり次第木箱を入れ替える。

 そんな様子を羨ましそうに眺めていた大牙だったが、気付くといつの間にか目の前に巨大なドラゴンが3頭現れていた。

「う…わ」

 体高は、190cmを越す大牙を優に超え、持ち上げた頭は平屋の建物くらいありそうだった。

 そして、巨体のわりに思ったより口が小さい。絶対にこの実は一口では入らない。

「これ、どうやってもブシャーってなるやつやーん」

 大牙が小さめな声で嘆くと、湊太の背中に隠れるように移動したアーシャが、わくわく顔で

「いいからいいから、みんなに投げちゃって~」

 と無責任にはしゃいでいる。


「わーったよ、やりゃいいんだろ」

 大牙は木箱を左脇に抱え直すと、空いた右手で木の実を素早く3つぽんぽんぽんと投げた。


「お、良い位置」

 ハルカが静かに呟く。上昇から落下に転じるタイミングをすべて綺麗にそろえた投げ方だった。

 一瞬、時が止まったような静寂。そして、同時に3つの梨汁が飛び散った。

「…おー!」

 湊太は思わず歓声を上げた。

 木箱を素早く頭に掲げ、大牙は梨汁を完全に防ぎ切った。


「見たかー!無傷!人間様をなめんなよ~!」

 大牙がとても楽しそうである。しかしアーシャは

「うーん、残念」

 と、にこにこしながらも意地の悪い事を言う。


 ハルカがハッと顔を上げる。

「あ、出た」

 その視線の先、森の奥から一際大きなドラゴンが歩いてくるのが見えた。

 初見なのだが、湊太は何となくわかってしまった。

「あれ、ひょっとして『シルワヌス』ですか?」

「正解!良く分かったね」

 感心した顔でハルカが言った。

「うふふ~!この勝負は見ものね」

 アーシャは子供のように横ではしゃいでいる。昨日上品そうに見えたのは何の幻だったのだろう、と湊太は思う。


 最後の1個の実を手にすると、大牙は木箱の縁を掴んだ。

「出たな、ボス」

 そう言いながら、先程より高めに木の実を投げ上げる。

 シルワヌスは木の実をはくっと口で柔らかくキャッチすると、口を完全に閉じずにゆっくり頭を下げた。

「ん?」

 大きなドラゴンは大牙の顔の高さまで頭を下げたところで、いきなり口を閉じて梨汁をわざと飛び散らせた。確実な顔狙いである。

 すんでのところで、大牙は木箱を盾にして防ぎ切った。

「…っぶねー!お前、そういうことすんのかよ…」


「スゲー…」

 湊太は、厚手の手袋のまま、ぽふぽふと鳴らない拍手を送る。ハルカも横で「おー!」と言いながら拍手している。

「ちぇー、残念」

 アーシャだけは、不服そうに口を尖らせていた。




「あー、惜しいなあ。タイガがこの農園来てくれたらよかったのに~!即戦力だよ」

 木箱で色々と防ぎ切った大牙ではあったが、シルワヌスの真横からの攻撃にデニムのパンツは膝から下が全く守り切れず、ぐしょぐしょだった。

 ついでに木箱を洗ったり、諸々片付けを終わらせた後、小屋へ戻っての会話である。

 毒がある木の実の汁を浴びたので、大牙はシャワーも借りて着替え済みの状態で、今は3人ソファで休憩中だ。


「ソータくんも行けそうだよね、一回シルワヌスとのバトルは経験してもらわなきゃだけど」

 湊太はエサやりの後、小さめのドラゴンの喉をなでたり背中のトゲを触ったりと戯れて、たっぷりドラゴンを堪能した。何匹か湊太の後をついて歩く子もいて、それなりに懐いてもらえそうな気はした。

 しかしハルカの言い方だと、あの梨汁ボス戦を経験しないとここで働けないように聞こえる。


「え?あの梨汁の洗礼必須ですか?」

「必須」

 ハルカは真顔で頷いた。

「私が梨汁スプラッシュ食らった被害者第1号なんだけどね。あれやるとドラゴンたちの懐くスピードがダンチで早かったそうなの。それから、ここで働く人には必須条件になったの」


「んふふー、いい絵が撮れたわぁ。家族の共有フォルダに入れてあるから、後で見てね~」

 アーシャの第一印象とあまりに違うクセの強さに、湊太は若干面食らったままだ。

 外での作業を終えて戻ってきたアーシャは、一人ご機嫌だった。そして撮影禁止など関係なく、彼女は「家族」の記録として撮影しているらしい。


「その映像、他のヤツらに見せてもOKですか?」

 湊太が聞くと

「ウチの子だったら大丈夫よ、アクセスできるから。お友達二人も、もううちの子だから」

 と笑顔で答える。もう、彼女からは湊太も秀人も由梨香も「家族」らしい。


「あ、あと、図鑑見たいけど、どこ?あの棚?」

 大牙が立ち上がり、ゲート部屋との仕切りの壁に向かう。そこには簡素だが扉がガラス張りの本棚らしきものがあった。ハルカがソファから振り返りながら、棚の右端の方を指差した。

「そうそう、そこの棚にあるから勝手に出して」

 そして大牙が棚の扉を開けた直後、ゲート部屋の扉をノックする音が響いた。


「朝食お持ちしました~!」

 カートを押しながら、元気に二人のメイドが入ってきた。

 一人は湊太にも見覚えがあった、獣人のヴェルデだ。もう一人ははじめて見るエルフだ。


「あら、いいタイミングね。ご苦労様」

 アーシャが二人を出迎えた。ハルカも立ち上がり、テーブルの方へ向かう。

 大牙は日本語の図鑑を3冊ほど引っ張り出してソファのテーブルへ運ぶと、

「なに手伝えばいい?」

 と言いながらテーブルの方へ歩き出した。


 皆があまりにも自然に動くので、出遅れてしまった。湊太も慌てて

「俺も手伝います」

 と立ち上がった。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ