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しらないところで  作者: 南 紅夏
春休み編

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34/132

食べる時間は、作る時間の何分の一か

 楽しみにしていた金曜日がやってきた。

 秀人は午前中真面目に宿題をし、早めに家を出てバスに乗った。


 いくつかの停留所と通過し、次に停まったところで由梨香が乗ってきた。

 お互い

「おー」

 と言うだけの、短い挨拶を交わす。

 そのまま由梨香は秀人のすぐ後ろの座席に座ると

「うふふー、楽しみだね」

 と笑った。


「うち、まあまあの割合でお母さん仕事でいなくてさ。長期休みは、昼間のカップ麺率高いのよ」

 と由梨香は言ったが、実は、秀人は家でカップ麺を食べたことがない。

 初めて食べたカップ麺は、ほんの何か月か前、引っ越したばかりの湊太の家でだった。まだ湊太が料理を始める前の話である。その時秀人は、カップ麺はこんなに美味しいものなのかと感動したのだ。


「いや、ユリカは作んないのかよ?…いいじゃん、カップ麺旨いじゃん」

 秀人が返すと

「いや、美味しいのはそうなんだけどさ。連日は飽きるのよぉ…」

 と、由梨香はげんなりした顔をした。




 湊太の家に着きチャイムを鳴らすと、出てきたのは妹の朝海だった。

「いらっしゃいませー!どうぞどうぞ」

 満面の笑みで迎えてくれて、そのまま突き当りのリビングに通される。

 ダイニングの方に案内されると、奥の方から湊太が

「いらっしゃーい。すぐ出すけどいい?」

 と、何だか自信満々の笑顔で現れた。


「ああうー!にゃんこだ、にゃんこいるー!モフりたいー!」

 と叫ぶ由梨香を押し止めて、朝海はぐいぐいと席に着くよう二人を促す。

 そして横で素早くエプロンを着ると、卓上におしぼりのトレイを並べた。

「ありがと。え?何だか本格的?」

 由梨香が猫をあきらめ、ワクワク顔で席に座る。


 秀人もここ何回かこのダイニングで昼食を頂いたことがあるが、回を重ねるごとに少しずつランクアップしている食事に、何か物凄く期待してしまう。

「そもそもゴメン、俺良くカフェランチが分かってないんだけどね」

 と秀人が言うと、朝海がにやける口元を押さえきれない顔で

「もーね、ちょっとオトナって感じだよ!さっき食べたけど美味しかった!」

 と、まったく内容の分からない説明をしてくれた。


 大き目な木のトレイを湊太と朝海が運んできて二人の目の前に置くと、由梨香が目を見開いて、湊太と秀人と朝海の顔をきょろきょろと見回した。

「うん…これはちょっとびっくりしたした」

 秀人に至っては、声も出せずに固まっている。

「えー、ごめん、写真撮って良い?まじでちょっと感激してる」

 と言いながら、由梨香はスマホを出す。

「いいよ~!」

 湊太は自分用のトレイも持ってくると、二人の目の前に座った。


 小鉢が3つくっついたような横長の皿に、ほうれん草の白和え、枝豆と大豆の合わせた何か、半透明の…なんだかわからないものときゅうりの和え物が並んでいる。

 そこに、小さめな味噌汁と、梅とひじきの入ったピンク色のごはん。メインの鶏の香草焼きに、サラダが添えられている。


「実際、一番時間かかったのは小鉢って話で」

 と湊太が笑った。

 秀人も

「はじめて、ネットに写真あげたくなる気持ちが分かったかも」

 と言いながら、写真を撮った。


 朝海はウエイトレスごっこに満足すると、友達と遊ぶと言って夕湖に車を出してもらって出掛けて行った。

「いただきまーす」

 3人だけになり、撮影も終わったところでようやく食事を始めた。

「え、すごい美味しい。これ金取れるレベルだって!」

 と由梨香は感動しっぱなしだ。


「そのキュウリのやつ、クラゲね。小鉢のやつは全部初挑戦」

 湊太は、秀人が不思議そうに見ていた小鉢の説明をすると、秀人は安心したようにクラゲに箸を伸ばした。

「うん、小鉢も全部うまい…」


「あー、もう、どうするよ?今後誰か友達がご飯作ってくれたとして、これを超すのが出てくる気がしないわ」

 由梨香の言葉に、湊太は満足げに笑った。

「いや友達って。自分では作らんのかい」

 秀人は由梨香に普通にツッコんだ。


「まあ、俺ももう当分こんなの作んないけどね?丸3日構想と準備と試食作成で、宿題もなーんも進んでない。ゲートも1回も使ってない」

「お…おう…」

「それはちょっと…」

 湊太のこの3日間の状況を聞くと、由梨香も秀人も言葉に詰まってしまった。


「みんなが喜ぶかなーって思いながらメニュー考えるのは楽しかったけど、やっぱ素人が作るのって手順とか、いまいち効率悪いんだよ、慣れとかもあるんだろうけどさ。また気が向いたらやるかもだけど、もう春休み中は時間的に無理。でも、大体イメージ通りになったから、今回は満足です!

 …あ、締めにデザートあるんだけど。ちょっと手抜きのババロア風牛乳ゼリー」

 そう言って、湊太が笑って立ち上がった。

「もう、普通に湊太嫁に欲しいわ」

 由梨香が呟くと、秀人は「ちょっと分かるわ」と笑いながら同意した。




 食後、3人でぞろぞろと湊太の部屋に移動した。

 いつも通りアステリアに行くのかと思うと、湊太が

「時差があるから、どうする?場合によっては先にゲームのがいいかも」

 と言い出した。

「時差?」

 と由梨香が聞き返すと、

「そう、1日あたり30分、アステリアの方が長いんだってさ。月曜がちょうどお昼が一緒位だったから、今は多分向こうはまだ午前中。11時くらいかな」

 と湊太が説明してくれた。


「あー、公転もちょっと向こうのが長いんだったよな。30年で約1年分差が出るってグノメさんが言ってたやつ。ややこしくて良く分かんなかったんだけど」

 秀人がやや考えを放棄したように言いつつ、初号機の電源を入れた。


「まあ、地球と全く同じわけないよね。まだそれくらいの差で良かったって事か」

 と由梨香が言うと

「逆に丸一日長いくらいのが助かったかもよ?計算楽だし。30分ずつズレると、単純計算で24日で昼夜逆転しちゃうから」

 と湊太もPCの電源を入れながら言う。


「あー…じゃあ、4月真ん中あたりで、この時間向こう行くと真夜中ってなっちゃうの?そりゃ色々難しいなぁ…。逆に、もう少しでソフィアたちのが活動しやすい日が来るって事か」

 と由梨香も言いつつ、PCの電源を入れた。

 考えを放棄したままの秀人は

「じゃあ、次は何時頃昼時間が合うんだ?」

「少しは計算しろー!ホントにシュートは数字出るとやる気ゼロだな。24日で逆転なら、戻るの48日後だろ!」

「あー、そっか」

 と湊太の言葉に、秀人は頭が痛そうに頷いた。


「なら、春休み開けはもう遊びに行きづらくなっちゃうね。まあ、部活始まったら多分ゲーム漬けだけどさ。単位考えたら勉強も今以上にまじめにやんなきゃだしね…あ、今日はまずスコアタで」

 由梨香の指示で、ハンターモードをチョイスした。


『ロビーで待機中』


 ゲーム開始前の画面を確認すると、秀人が重々しく口を開いた。

「それより、例の湿地帯。あれ、実装されたら、どう考えてもユリカが全然活かせなくなるんだよ」

「うん…それは薄々気付いてた」

 ちょっと由梨香の声が力ない。


 高台がない、身長より背の高い、生い茂る葦だらけで視界も悪い。圧倒的に遠距離の狙撃が難しいステージだ。まあ、リリースまでに変更があるかもしれないのだが。


「接近戦も鍛えて行って、ほどほど全員がオールラウンダーになっとく必要があるんじゃないかって。まあ、全員が遠距離射撃できる必要はないけど、新規のステージ考えたら、うちで一番方針考える必要があるのはユリカだ」

「うわー、わかったよぉ。今日はじゃあ私も近距離練習する…でももう、今回は初期長物選んじゃったから次からで」


 由梨香の初期装備は、いつも長物と言われる銃身の長い銃ばかりをチョイスしている。遠距離攻撃を得意とする由梨香には合った銃だ。

「いや、今回もそのまま長物で近距離戦行ってみて。まず湊太の後ろから援護メインで。ユリカならいけそうな気がする。やってみて難しかったら、次から考えよう」

「ふえーん」

 そんな感じで、秀人の指示で、しばらく由梨香の近距離戦練習をすることになった。




「まあまあ行けたね」

 湊太がぼんやりと感想を述べる。

「まあまあ行けちゃいました…ちょっとマシンガンも楽しかった…」

 由梨香も、思った以上に近接が行けたことに驚いていた。


「ランダムステージだから、何にしてもユリカの初期装備は長物のままでOK。狙撃の無理なステージに出会ったら、残りの2枠をうまく使って良いの拾い当てるしかないかな」

 と今後の方針を秀人がまとめた後

「まあでも、やっぱユリカは上手いわ」

 と言うと、由梨香は笑いをかみ殺しながら

「ええ、私も、ちょっと天才じゃないかって自分で思っちゃいました」

 と言いながら、顔を隠した。


 湊太はそんな由梨香を見てちょっと笑った後、

「さーて、ゲート開くかぁ」

 とわざとらしく白けた顔で、PCの電源を落とした。


「あ、そうだ、明日土曜か。大牙さんがユリカの進路相談聞くって言ってたけど、時差の事考えてなかったわ。時間の相談しないと」

 湊太がゲートを起動しながら思い出したように言うと

「え?明日?私それ聞いてないよ」

 と言いながら由梨香が口を尖らせた。

「あー、あれだ。あの話の時、ソフィアに拉致られたから」

 秀人が目を閉じて、先週末の記憶を引っ張り出すと、湊太も由梨香も「あーあ」という表情になった。






「久々のグノメさんだー!久しぶりー」

 と由梨香がラムダを装着する。湊太も秀人も同じように装着すると、それぞれにメッセージが1件ずつ入っていた。

 秀人にはレビからのメッセージが入っていて

『何か気付いた事はないか!?』

 と入っていたので、秀人は

「定期」

 と言って、とりあえず真顔で閉じた。

「ひどい」

 と言いつつ、湊太は笑っていた。




 由梨香には大牙からのメッセージが入っていた。

「明日の件かな?」

 と言いながら開くと

『明日、こっちの13時くらい、日本では15時半過ぎかな、それぐらいでどう?それと、いつでもいいので一回連絡ください』


「…いつでもいいって、ホントに大牙さんこっちに住んでるんだね」

 と言いながら、由梨香は大牙に連絡をした。

『ああ、ごめんごめん。明日進路相談とやら、大丈夫?』

「はい、むしろお願いします、ありがとうございます」

 休みの日に、わざわざ時間を割いてくれるのだ。由梨香としては覚えていてくれただけでも有難かった。


『で、相談なんだけど、俺と女の子二人きりはやめた方がいい、非常識だの何だのと研究所の皆さんがまー煩くて。進路の話だからあんまり他人に聞かれたくないかもだけど、誰かひとり立会人を選んで欲しいんだけど。誰がいい?』

「誰…誰か、かぁ…」


『湊太かシュートか、あと動けそうなのはクレアと、メイドさんもいけるか?うちの研究所のお兄さん方も妙に行きたがってたけど、なんかキモいから俺から断っといた。それと、暇そうなのはレビ』

 横で聞いていて、秀人と湊太は吹き出した。みんなしてレビの扱いがひどい。


「わかりました、明日シュートか湊太どっちか連れて行きます。クレアさんとかメイドさんにご迷惑かけるのも悪いし」

 由梨香はそう返答した後、ものすごく小声で

「何となくレビは面倒くさそうだし」

 と付け足した。




「湊太のメッセージも、気になる名前出てたよな」

 秀人の言葉で、由梨香がばっと湊太の方を振り返った。

「そう、トルテからって!」

「もー!面白がんなよー…グノメさん、開封して」

 湊太は二人を睨みながら、トルテからのメッセージを開封した。


『父さーん、時間があるとき、うちでバイトしない~?お友達が一緒でもOKだし、就職も歓迎だよ~』

 レビと同じ顔なのに、人懐っこい笑顔で、のんびりした喋りのメッセージだった。


「もうツッコむ気も起きない…いや、二人とも何?その生あったかい目は?やめて、いっそ笑ってくれよー」

 秀人も由梨香も、何とも言い難い同情するような表情で湊太を見ていた。

 湊太は大きなため息をつく。


「悔しいけど、ケーキ屋のバイトはちょっと興味あるんだよなあ…。グノメさん、返信…テキストで。『気が向いたらお願いします』で」

 と、含みを持たせた回答をしておいた。

銃の「長物」の判断は人によって色々割れるらしいです。ので、細かいツッコミはナシで!

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