惚気るリア充は爆ぜればいいが、変人の恋バナはちょっと聞きたい
今回ちょっと短めです。
「初めまして、レビの嫁のハルカでーす!」
レビの陰をカバーするような陽の人だ。
「ユリカちゃんが、私の話聞きたいって言ってたってレビから聞いて、来ましたっ」
椅子が足りないことに気付いて秀人が慌てて立ち上がり、隣の応接セットから一人掛けのソファを運んできた。秀人が軽々と持ち上げられるほど軽いソファらしい。
「え、軽っ」
持ち上げておいて、秀人本人がびっくりしていた。
「ユリカちゃん、初日にゴメン。ちょっと予想してなさすぎて、パニクっちゃった」
秀人の運んだ椅子に座りながら、大牙ががっくりと項垂れた。
「私は遠目でしか見たことなかったけど、ソフィアって明らかタイガ狙いだったじゃん。タイガのいる日しか来なかったし」
由梨香の対面の一人掛けソファに座りながら、ハルカが大牙をじろりと睨んだ。
「いや、いつ来てたかなんて知らないよ。8か9つも年下だよ?考えもしないって」
「8か9なんて誤差じゃん。ウチなんか30差だよ?」
ハルカの一言一言のパンチが強い。
「ねえ?8つ差くらいあるよね、普通に」
初対面のハルカから急に話を振られ、由梨香が一瞬びしっと背筋を正した。が、小さく「ああ」と息をついて
「…8つ、確かに普通ですね。学校の先生にキャーキャー言ってる女子なんか結構いましたし。なんならリアコ勢も少数派だけど確かにいました。先生が結婚したってガチ泣きしてる子とか」
何かを思い出すように下の方を見ながら、由梨香も同意した。大牙もため息をつきつつ頭を抱える。
「あー…わー…。確かにあったよ、俺の中学生時代とかもそういう話。あー、そういう系もあるかぁ。近い年齢ばっか警戒してたわ。完全に油断してた」
「はっ、モテる男は苦労するねえ」
皮肉たっぷりにハルカが笑った。
「まあ、向こうが勝手に惚れたんだし、タイガが悪いわけじゃないけどさ。…10も年下の子に任せて逃げんのはひどいわ」
「いや、それに関してはホント、全面的に俺が悪い。ユリカちゃんごめん!」
160cmもなさそうな小柄なハルカにチクチクと刺されまくって、大牙が平身低頭謝っている。
「もういいですよ、かなりきつめのクエストでしたけど。あ、そうそう、私も『ちゃん』いらないっす。呼び捨てでお願いします」
由梨香はソファの背もたれにどっかりと倒れこみ、足を組んだ。
「お詫びと言っては何ですが、今度彼女の話聞かせてください。ノロケ話とか大好物なんで」
悪そうな顔で、由梨香がにやりと笑った。
大嘘だ、大体いつも口を開くと「リア充爆ぜろ」とか叫んでいるのを知っている。恋バナが好きなんて聞いたことがない。お詫びと称して情報を引き出そうとしている。
先程知りたい、知りたくないと揺れていたソフィアに対して、その情報をゲットしてどう使うつもりだろうか、想像するだけでも怖い。由梨香のあまりの強かさに、湊太は白目をむきそうだった。
「でも、あの慰め方とか、なかなか見事な手腕でしたよ、うちのユリカ嬢は」
秀人もうちのブレーンの発言にニヤニヤしている。
「うん、俺も思わず姐さん!って言っちゃいそうだった、まじで」
湊太もそこには激しく同意した。
「はあ~。それはちょっと見たかったな。…さて、じゃここで一回ソフィアの話は置いといて…質問受け付けるよ~!何でも聞いてね」
両手を広げて、ハルカが笑顔で全員を見回した。
「じゃあ、俺から。あ、神木湊太です。いきなり失礼な質問かもしれませんけど、ハルカさんっておいくつなんでしょう。30年前に攫われたはずなのに、20代真ん中くらいにしか見えなくて、ちょっと混乱してます…」
湊太が入れ替えた紅茶のポットの茶葉を蒸らしながら、質問した。
なんだか多いと感じた今日のティーカップは、ハルカが来て丁度の数だった。クレアの手腕が正直凄すぎる。
「やだ、失礼とか言いながらお上手ね~!私はもうすぐ30…あ、地球年齢では31歳だね、攫われたときは0歳だったの」
あっけらかんと話すハルカを真正面に見たまま、由梨香がとんでもなく悲惨な表情をしていた。
「そんな顔しないで。今現在楽しいし、何にも問題ないんだよ。そりゃ攫われた経緯聞いたときはちょっと複雑だったけど…私自身記憶もない頃の話だしね…あ、ありがと」
ハルカは湊太から紅茶を受け取ると、一口飲んで
「ざっくり言うと、実の母親が私を殺そうとしてたんだって。寒空の下、橋の真ん中から川に向かって落そうとしてたらしいの」
「…まじですか、初耳です」
同じく紅茶を受け取った大牙が、ハルカの話を聞いて固まってしまった。
「分かる、引くよねー!なんか未婚の母だったらしくて。偶然見かけた誘拐犯が、殺すより後味悪くなくて良いだろって言って、合意のもと攫ってきたんだって」
秀人も目を見開いたまま、半分口が開いたような状態で止まっている。
「だから…こっちがシュートくんだね?この星に移住考えてるっていう。こんな感じだから、移住方法の参考にはならないと思うけど…ごめんなさいね」
「いえ…なんかすみません、興味本位で聞いちゃいけない内容でした…」
しょんぼりと俯いてしまった秀人に、ハルカは明るく笑いかける。
「だから気にしないでよ~!私自身全然記憶のない頃の話なんだから~!」
なんだか大物感がすごいな、とハルカを見つめていると、由梨香が元気に挙手した。
「はいはい!私からも質問です!何でレビさんと結婚したんですか?」
―――うわ、分かる、ちょっとそれは俺も聞きたい!
レビ相手なんて、リア充どうこうとかじゃなくて、もう全然違う次元で興味がある。
由梨香にグッジョブと言いたくなった。
「ええー、それ聞いちゃう?」
ふふふ、とハルカは意味ありげに笑った。
「育ての親と暮らしはじめるまで、私はこの家の経営してる孤児院にいたんだけどね…うーん、そだね、色々分かりにくいか。最初から話そうか」
ハルカがふわりと左手を広げると、腕のブレスレットが光った。
ちょうどテーブルの真上あたりに、アステリアの『惑星儀』が浮かび上がった。
―――そうか、これ、ブレスレットがガジェットなんだ!
「まずは簡単にこの星の概要から。多分そこ分からないと、話が分かりにくいと思うから…」
そう言うと、世界樹のあるあたりを中心に星が拡大していき、地図が部屋中に広がっていく。
ストーリーテラーというにはスケールの大きすぎる、ガジェットを活用したまるで「劇場」のような、ハルカの昔話が始まった。




