↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
しらないところで  作者: 南 紅夏
嵐のゴールデンウィーク編

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

156/173

月のイベント前夜

 部活でのレベリング中に、湊太も由梨香も目的のレベル10まで上がることができた。


「10まで行くと、各街にある魔法陣から転移が可能になるんだよー。今まで行ったことのある街と、明日みたいな、満月の日のイベント時のイベントスペースね」

「イベントスペース?って?」

 神の事ばかり調べていてイベントの情報が疎かだったらしい和美が、ヘカテーの眷属パーティで魔物と戦闘しながら部長の彰人に聞き返した。

「月の地下、って事になってるんだけどさ。そこは満月のイベントごとにごっそりマップが作り替えられて、次のイベントまではそのまま期間限定のマップとして遊べるようになってるんだよー」

 笑顔で説明しつつ、彰人のアバターであるふわふわメイドが、ツルハシをガンガン魔物に打ち込んでいる。


「だったら、私と凛空先輩は明日の夜8時までに10レベに上がってなかったら、イベント参加が無理って事かぁ」

 坊主頭のごつめの男性キャラを操りながら、和美が口を尖らせた。

「そゆこと!武流クンとなのはちゃんもね~!」

「はーい」

 若菜と秀人に引っ張られて順調にレベルを上げていた二人も、部長からの声掛けに素直に返事をした。

「こーゆーゲームだったら、腕とかなくてもイケんじゃん?ウチはランファイみたいなの、ユリカや湊太みたいに出来ねーから、こっちのが全然向いてるわ」

 なのははそう言って、嬉しそうにニカッと笑った。


「あっきー先輩はそろそろジョブチェンジですか?」

 このツキガミに関しては一番ベテランの若菜が、秀人たち一年の駆け出し集団を引っ張りながら、興味津々の目を部長に向けた。

「うん、もう職業レベル20越えてるから転職は可能なんだけどねぇ。掘削士はカンストさせたいから、もうちょっと先だねー」

 職業レベルはどの職でもMAXが24で、20を超せば上位職への転職条件を満たせるらしい。それ以下でも転職は可能だが、後々上位職へ転職したい場合は、戻って20まで上げる必要がある。


 湊太と由梨香は二人だけのチームで、第三の街「ヒッパルコス」へ向かいながらレベリング中だ。

 カーバンクルがいるお陰で、3人パーティのような状態で比較的楽に進めている。

 しかしそこからレベルが上がることはなく、今日の部活時間は終了となった。




 その日の夜、7時を過ぎた頃に早苗からグループチャットの方へテキストで連絡が入った。

『涼くんは会食中のため、私から連絡させていただきます』


 会食。

 その一言で、なぜか悪いイメージが湧いた。なんだか政治家みたいだな、と思ったせいかもしれない。

 勝手な想像だが、湊太には悪だくみをする大人たちの集まりのように思えてしまった。


 既にツキガミにログイン済みのパソコン画面をぼんやりと眺めながらあさってな妄想をしていると、長いカタカナの羅列が送られてきた。

『それがお二人に今から推してもらう神の名前です』

 早苗から来たその名は、聞いてもピンとこない神だった。

『あんまりギリで変更すると、同じように駆け込みで変更する人たちでサーバーが重くなることあるから、ガチのギリは狙わない方が安全』

『10分から15分前に落ち着いて変更することをおススメします』


『了解です』

 由梨香からのリプがついた。


『それと、今涼くんのアカウントから二人にフレンド申請出しました』

『変な記号みたいな名前のヤツから来たら、それです』

『配信直前に名前を変更するので』

『すぐにコイケ&ゆっきぃからもフレンド申請行くと思いますので』

『そっちも承認しといてください』


 ぽんぽんっと早苗からテンポよくメッセージが届く。

「了解です」

 と、今度は湊太からメッセージを入れた。

 記号っぽい名前、という事は、初期値で入っているランダムな文字列のまま、名前を変更せずに始めたという事なのだろうか。


「…ん?」

 早苗が涼のアカウントとパスワードを知っている、という事に気付いて、一瞬変な想像をしてしまった。


 ―――OK、落ち着け俺。独身同士なんだから、二人が付き合っていたとしても問題はない…ハズ。いやいや、涼さんは大牙さんのお姉さんの晴香さんが好きだったはず。でも、晴香さんは年内に涼さんじゃない誰かと結婚するようなこと、大牙さん言ってなかったっけ…?


 でも思い返すと、最初にあのスタジオにゲストとして行った際に、湊太と由梨香もランファイのアカウントをチェック大坪氏に渡していたのだ。客を入れてその目の前でアカウント&パスワードを入れるわけにもいかないので、前もって設定するためだったのだが、そうやって考えるとチームとして管理されていても不思議ではない。


 ―――ゲスな勘繰りしてゴメンナサイ。


 一人色々と勝手な想像をしている間に、由梨香から早苗宛の質問が飛んできた。

『じゃあ、今世間で言われてる涼さんっぽいアカウントって、本人じゃないって事ですね?』

 由梨香は、ネット上で噂になっている「涼さんっぽい名前の人がいる」問題が気になっていたようだ。


『うん、別人』

『ランファイと同じ名前をリリース前から予約してたから。明日キャラも解禁するよ』

『ところで、二人ともレベルどこまで行った?』

 立て続けに早苗からのメッセージが届く。


「ジャスト10です。明日の午前中に11は行けるかと」

 早苗からの問いに、湊太は少し低めに見積もった予測を伝えた。

 部活の終わり間際に辿り着いた第3の街「ヒッパルコス」にあったギルドの職員NPCから、もうわずかでレベルアップすると言われていたのだ。気持ちとしては、本当は今晩中にレベルアップするつもりでいる。


『私も10です。同じく今日中に11行けそうです』

 僅かだが早く始めた湊太を飛び越し、既にレベルアップにリーチが掛かった状態の由梨香が自分ではっきりとリミットを設けた。この成長の差を見るにつけ、推し神との相性というのは、殊の外影響が大きい。


『了解!じゃ、そろそろ推し変の作業に入って下さい』

『最初の街以外にあるギルドの2階に行くと、推し変できます』

『あと、社長から。明日ですが、もし予定がなければランチ一緒にどうですか?との事です』

 早苗からのメッセージを読んだ瞬間、何となく自宅で小躍りしていそうな由梨香の姿を思い浮かべて、湊太は一人ふふっと笑っていた。


「ありがとうございます、俺はOKです」

 先に打ってあげるのが情けというものだ。何となくそう思えて、湊太はさっさと返事を送った。

『私も行けます、大丈夫です!』

 湊太からのレスを待っていたかのように、由梨香からも承諾のメッセージが届いた。


 その後、明日の待ち合わせの場所や時間を共有して、やり取りは終了となった。




「さて、と。推し変は2階か」

 第二の街「デュオニュシオス」にあったギルドとほとんど同じ間取りの第三の街「ヒッパルコス」のギルドに入る。

 真正面の受付の両サイドから2階に上がる階段が伸びている。デュオニュシオスのギルドにも同様に受付の両側に階段があったのだが、昨日は上がってみようとすら思わなかったのだ。


「あ」

 階段を上がろうとした時、メッセージが届いていることを知らせる小さな赤い丸が明滅している事に気付いた。メッセージボックスを開いてみると、聞いた通りのランダム文字列の名前と、ゆっきいとコイケと分かる名前からのフレンド申請が届いていた。

 3つすべての承認ボタンを押し終わると、相手のプロフィールが見えるようになった。

「コイケさんが魔法使い、ゆっきぃさんが鍛冶師か…」

 涼のものらしい名前は、ステータス非表示だった。

 メッセージボックスを閉じ、2階への階段を登りはじめた。聞いていた通り駆け込みで変更するつもりなのか、同様に階段を登っていく人間が多い。

 がっつり見ていたわけではないが、部活中に若菜がやっていたので、推し変中は真っ暗な空間だったことは覚えている。きっとこの先に真っ暗な場所があるはずだ。


 階段を登りきったところで、真正面に扉のない真っ暗な部屋が現れた。部屋、というより空間に近い。

 周囲の人間が次々にその空間に飛び込んでいくのを見て、湊太もアバターをその空間へ進ませた。

『改宗しますか?』

 急に周囲が宇宙空間のような景色に変わり、暗闇の中その文字だけが現れた。

 選択肢から「はい」を選ぶと、『一度改宗すると24時間は次の変更が出来ません。それでもよろしいですか?』と出たので、ここも「はい」を押す。ここでやっと、『どの神の眷属になりますか?』と聞かれ、選択肢が現れた。


 スマホのメッセージをスクロールし、早苗から指定された神の名前を表示させた。

「イシュバランケー…」

 名前を聞いても、全く心当たりのない名前だ。

 パソコンの画面に視線を戻し、選択肢の中からその名前を探す。

「あった」

 見つけた名前を選び、「OK」を押した。


『神ソーマの眷属から神イシュバランケーの眷属へ改宗しますか?』

 最終の確認だ。「はい」のボタンを押すと、ずらずらっと現状の「ぽるぽると」のステータスが表示されていった。左にソーマの眷属だった時の各数値、右にイシュバランケーの眷属に変更後の数値だ。

 かしこさとMPが下がってしまったが、それ以外の体力や力などが軒並み上昇した。そして魔物使いの職業レベルの上がりやすさに僅かながら上向きの補正値がついた。


『ぽるぽるとは、神イシュバランケーの眷属となりました。ここまでの旅の記録を書き込みました。この街の魔法陣に転送します』

 強制的にセーブされ、セーブポイントである魔法陣に飛ばされた。


「推し変終わった?」

 由梨香にメッセージを送ると

『もち。すぐ後ろにいるよ』

 と返事が来た。


 同じ街でセーブして、同じタイミングで推し変の話を聞いたのだ。近くにいても何ら不思議ではない。

 ギルドに向かい移動中だったが、魔法陣の方を振り返ると由梨香のアバターがいた。

『ステータスが軒並み下がったぁ…』

 推し変した由梨香は、ソーマの恩寵がなくなり各数値が下がるばかりだったようだ。


「こっちは体力系が上がったけど」

「かしこさ下がった」

『ww』


 由梨香の返事が来たのとほぼ同時に、夕湖からの『ごはん!』のメッセージが入った。


「うち今からご飯なんだけど」

「あとでレベル上げやんない?」

 取り急ぎ、本来の目的の由梨香の予定を抑えるべく誘ってみる。もう他の部活のメンバーとチームは組めないので、他に頼れるものはいないのだ。

『ステータス下がったからたすかる』

『9時過ぎでいい?』

 その状況はお互いさまで、由梨香も了承してくれた。

「おけ。ではまた後ほど」

 そう返信し、スマホをポケットに放り込んだ。




 湊太が急いで夕食を済ませ、風呂も上がった状態で部屋に戻ると、急にスマホがぶんぶんと煩く鳴り始めた。

「何だぁ?」

 よく見ると、新しいメッセージグループに誘われている。「あんどら月神」という分かりやすい名称のグループだ。

「コイケさんじゃん!」

 慌てて開いてみると、当然のようにゆっきぃと由梨香も誘われていて、すでに通話中だった。


「こんばんはー…?」

 おそるおそる音声通話に飛び込んでみる。

『あー!ぽるぽるさん来たぁ』

 ゆっきぃの声が響いた。


「どういう状況ですか?」

『今からパーティ組んで練習。明日の夕方は実戦あるかどうか知んないけどさ?夜のイベントは配信込みで絶対やるわけじゃん?』

「まあ、そうですね」

 湊太の質問に、コイケはいつも通り淡々と、落ち着いた声で説明を始めた。

『客寄せパンダでも、マシな戦いがしたいワケよ。っつか、正直オレはランキング上位狙いたい』

 口調には出ないが熱い男、コイケが負けず嫌いを静かに爆発させている。


『つまり、私たちの底上げが必須って事ですね?』

『そゆこと。スキルのバランスも見たいし。今ゆっきぃとそっち向かうわ。デュオニュシオスね』

 由梨香に返事をしつつ、スマホの画面に映るコイケはずっとカタカタと操作をし続けている。すぐに湊太のもとにパーティ申請が来たので、承認する。


『今日はボスは不在?』

 風呂上りなのだろう、肩にタオルをかけ、濡れ髪のままパソコンに向かっているゆっきぃが、ちらりとスマホの画面に視線を向けた。すっぴんのせいか、いつも現場で見ている時よりも顔立ちがシンプルに見える。

『なーんか友達とご飯って言ってたわ。変に浮ついてたから女じゃね?…あ、集合場所、ギルドの奥の食材店の前ね』

 コイケは感情のない声で返した。

『じゃあアンジェロか早苗さん呼ぶかぁ?あの辺ならボスのアカウント知ってるっしょ…いや待て。ここはオトナ抜きで色々話そうじゃないの』

 急に悪い顔になってにやりと笑い、ゆっきぃはスマホの画面越しに由梨香と湊太に興味津々の目を向けた。


『あー。だべってても良いけどさ?指示した時はちゃんと聞いてよ?移動はオレがとりあえずやるから』

 暴走しそうなゆっきぃを、コイケがやんわりと制御する。

『分かってるって』

 余計な事を喋りながらも、4人は食材店の前に辿り着いて合流した。普通に体力回復用の食料も売っているが、由梨香の職業「料理人」であれば、ここで売っているものを素材として上級回復アイテムの生成が可能になる。

『うわ!カーバンクル連れてる…かわよっ!』

 コイケが湊太のアバターを見て、急に目を輝かせた。


『まず、最初にあんたたち二人連れて来た背の高いすっげーイケメンのお兄さん!あれボスの幼馴染なんでしょ?彼女いるの?』

 パーティが結成され、移動がコイケ任せになった途端にゆっきぃが雑談という名の質問を開始した。

「あー。いますね…」

『無茶苦茶美人でしたよー』

 湊太の返しに続いて、由梨香が情報を追加すると、画面の向こうで明らかにがっかり顔でゆっきぃが項垂れた。

『やっぱりかー。そりゃそうだよねー!』


「コイケさんが魔法使いで、ゆっきぃさんが鍛冶師ですよね?これ一回転職してるんですか?」

 湊太も良い機会なので、遠慮なく質問モードに入った。

『うん、オレは元は料理人』

『私も掘削士カンストして鍛冶師ー!』

 二人ともレベルが34だ。若菜の更に上を行く存在だった。


 古いスマホを引っ張り出し、「ツキガミ 上位職」と検索してみた。その職の組み合わせで、二人が何を狙っているかを調べてみる。

「コイケさんは…仙人狙い、ゆっきぃさんは…お宝ハンター狙いですかね」

『私らの配信見てねーな?そうだよ!』

「あはは、すいません」

 特に怒っているわけでもなさそうなゆっきぃに軽く謝りつつ、見たことのない強い魔物と対峙する。気付くと、今までにない高レベルの魔物出現エリアに引っ張って行かれていた。


『いいのいたらテイムしときなよ』

 ゆっきーに軽く勧められたが、ドラゴンのような魔物もちらほら混じるエリアだ。欲しい気持ちはあるのだが、どう見ても湊太の職業レベルが追い付いていない。

「無理ですよ、この辺のヤツ高レベルすぎて『テイムする』項目が出もしません!!」

『うえーい、ドラゴン肉ゲットぉ!』

 それに引き換え、由梨香は料理人がスキルを発揮できるレア素材を手に入れて、ご機嫌だ。


『はぁー!カーバンクル、そういう動きするんだー!可愛いー!可愛いなあ…』

『うるせー黙れ!いいからしっかり戦えー!』

 コイケはカーバンクルの動きばかり目で追っているようで、何度もゆっきぃに怒られている。普段は寡黙な銀髪大学生は、カーバンクルが殊の外気に入っているようだ。

『いずれ取るつもりだったけど、次はテイマーにしようかな…』

『馬鹿じゃないの?カーバンクルなんてレア中のレアじゃん?ジョブチェンしたところでなんでゲットできると思ったんだよ!…そうやって考えると、ぽるぽるさん、よくそんなのゲットできたね?たまご?野良ゲット?』

「野良です。知らなきゃ普通に倒すところでしたけど、友達がレアだって教えてくれたので」


『オレだって料理人の時に1回だけ会ったんだよ!当然テイムなんて項目ないから、しゃーないじゃん!捌きました!』

『んふっ』

 コイケの謎の嘆きに、由梨香が短く笑った。


『あー!カーバンクルちゃんが回復してくれた!めっちゃ嬉しい!』

『あーもういいわ。配信の時おもろいから、もうそのキャラでいいよ』

 いつもと違いすぎるコイケのキャラを、ゆっきーはおいしいと判断したらしい。おかしな発言をしても止めることがなくなった。


 話しながらどんどん魔物を倒して行き、終わる頃には湊太と由梨香は二人ともレベル12に上がっていた。


更新が遅くて申し訳ないっす…。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。