高松の困り事……
何やらありそうな気配……
月曜日、高松は事業所に出社した。
夜勤者とヘルパーはサービスで動いているが、社員は誰も来ていない時間、高松はいつも通りパソコンを開き、仕事を始めた。
時間は朝7時30分、9時が始まりの為、社員が居ないのは当然てはある。
事業所の電話が鳴った。
「はい、お電話ありがとうございます。○○事業所高松でございます」
「…高藤です、おはようございます」
「おはようございます、早いですね?」
「はっはっは、高松さん程じゃないですよ!」
「いやいや……私はやる事がありましたから……」
「それより高松さん、9時頃にはそちらに着きますので、少し時間を下さい」
「……大丈夫ですけど、何か厄介事ですか?」
「普通の社員なら、困る事は無いですけど…高松さんには厄介事かもしれませんね……」
「私は普通のつもりなんですけど……とりあえず分かりました、朝礼後に時間を作ります。9時少し過ぎになりますが……」
「大丈夫です。私も朝礼に参加しますので、その後にお願いします」
「承知致しました、よろしくお願い致します」
朝から高藤との面談が入った高松、何やら一波乱ありそうである。
時間が9時に近くなり、社員が出勤して来た。
本日の出勤予定者が全員出勤すると、最後に高藤が来た。
「それでは、朝礼にしましょう」
高松が声を掛け、全員が立ち上がる。
「おはようございます、本日の予定を各自お願いします。田中主任から……」
「はい、自分は10時に契約と担当者会議がありますので、そちらに行きます。帰りにケアマネに報告がてら、挨拶を数件行って来ます」
「次は………………」
全員の予定を聞いた後、
「私はこの後、高藤取締役と話をして……午前中は館内のサービスをやりながら、計画書等を進めます。午後は……とりあえずは予定が無いので、書類のチェック等をします……高藤さん、お願いします」
「はい、みなさん、おはようございます」
『おはようございます』
「これから高松支配人と話をしまして、その後、新潟に行きます。なかなかいい事業所になってきたと本社でも噂になっています。みなさんの頑張りです。ありがとうございます」
高藤は頭を下げた。
「え~、高藤取締役から意外な言葉を頂きました。ボーナスは期待しましょう」
『はい!』
「高松さん、それは別の話ですよ!」
「大丈夫です、今日の出勤者は分かってますよ……」
本日の出勤者は、高松に主任の田中、本田に日給さんが2名であり、高松的には安心のメンバーである。
朝礼が終わり、高松は高藤と相談室に行こうとしたが、
「込み入った話になりますから」
との高藤の一言で外出し、近くの24時間やっているファミレスに行った。
2人はコーヒーを頼む。
「高松さんは、コーヒーは苦手でしたよね?」
「たまに苦手な物を飲むと、改めて苦手だって気付くんですが、それも必要だと思いまして……35を過ぎてから、割と苦手な物や嫌いな事をやる事は多いですね……新たな発見があって、楽しいですよ」
頼んだコーヒーがやって来る。
「成る程……高松さんのその考え方、なかなか楽しいですね!……私もやってみますかね?」
「楽しいですよ、そんなに嫌じゃなかったり苦手じゃなかったりしますからね……時々、若い頃の自分の人間としての小ささを感じますよ……」
「高松さんが言うと、深いですねぇ……」
「そんな事は無いですよ……まぁ、コーヒーが苦手なのは変わりませんがね」
「あっはっはっは、朝から楽しいですね……こんなに楽しい朝は久しぶりです!」
2人は少し談笑をした。
「さて、本題です」
「はい」
「高松さん、北関東支社の支社長をお願いします」
「はい?……どうしたんですか?」
「福島さんを千葉支社に移動させます。千葉の支社長が自分の会社を立ち上げるんで、退職するんです」
「……福島支社長は何て……」
「高松さんなら大丈夫と言ってましたよ、安心だと」
「ここの事業所は、どうなりますか?」
「1名補充して、暫くは高松さんが支社長と兼務ですね……看護や居宅も見て欲しいんですが、どうですか?」
「……私、あんまり仕事は出来ないですよ……」
「大丈夫ですよ、私も協力します!」
「……いつからですか?」
「7月からですね」
「……受けないと、大変そうですよね……」
「それはもう………私は高松さんしか考えてませんしね!」
「…………分かりました……と言わないといけなそうですね………」
「流石高松さん、理解が早くて助かります!」
「……はい、高藤さんが困らない様に、一応は頑張ります……」
「高松さんらしい答えですね……それでは、お願いします」
話が終わり、高松と高藤はファミレスを出た。
高松は事業所に戻り、高藤は新潟に向かった。
事業所に帰った高松は、予定通りに仕事を進める。
館内のサービスを背広を脱いで、ワイシャツの腕を捲り対応している。更には計画書も進め、忙しい業務をこなしている。
「高松さん、高藤取締役と、どんな話をしたんですか?」
「それですか……もう少ししたら、お話します」
「高松さん、私も聞きたいです!」
「本田さん、今は話せない事もあるんですよ」
「高松さんの昇進の話かと思いましたよ!」
「田中さん、どうしてそう思ったのですか?」
「高松さんの功績を見れば、そんな感じですよ……コンプライアンスの件、間違いだったって社内メールで流れてますよ!」
高松は社内メールを確認する。
コンプライアンスでの調査不足と不当な処罰
全社の皆様、この間のコンプライアンス委員会での処罰に対し、調査不足と不当な処罰が発覚致しました。
高松支配人への聞き取りと調査不足の為、高松支配人のボーナスカット及び始末書提出の処罰を与えましたが、再度調査した所、全く事実が無く、更には、高松支配人はコンプライアンス委員会の際に訴えたにも関わらず、誰も耳を貸さずに一方的に処罰をしました。
これにより、高松支配人が受けたカット分の賃金の支払いと、高松支配人を処罰した委員への処罰が決定しました。
決定事項
高松支配人へのボーナスカット分の支払いを、6月の給与にてお支払いする。
高松支配人の処罰を決定した委員を減給処分及び始末書の提出·高松支配人への謝罪。
今回、高藤取締役は出張だった為、これには含まれない。
「なかなか派手にやりましたねぇ……高藤さんらしいですが……」
「でも良かったじゃないですか、無実が証明されたんだし!」
「田中主任、無実でも事実でも、私は変わりませんよ」
「高松さんは変わらなくていいんです。周りは変わらないといけないですけど……」
高松と田中の話を本田は聞きながら、高松がどれだけ部下を大切に仕事をして来たかを感じた。高松は自分で思っている以上に優しい男である。
「しかし、こうなると…………」
高松は高藤との会話を思い出し、大きな溜め息を吐いた。
この日、高松はいつも通りに仕事をしたが、高藤との話が頭をよぎり、終始気が重かった。
仕事終わりのスポーツジムで、高松はその気の重さを振り払うかの様に体を鍛えた。
「高松さん、無理し過ぎです!」
ジムのトレーナーに注意されたのは、言う迄もない。
高松昇進!
本人は複雑……




