7話 『新たな転入生(変態)』
翌日の朝。小鳥のさえずりが聞こえる静かな朝のはずだが、いつもと違いエーベルトが所属する学年は賑わっていた。
「新しくここへ入ることになった、フュール・ヘルミーネです。よろしく」
そう。先日エーベルトが魔力封印に成功したマギアビースト――フュールが新しく転入してきたからだ。男子からはその可愛さから歓声が上がった。
「なぁエーベルト! あの子すごい可愛くないか!?」
「あ、ああ」
突然後から声をかけられ、振り向くとヨルクが興奮した様子で言っていた。ロリコンのヨルクのことだからきっといけないことを考えてるに違いない。エーベルトは苦笑で返した。
「それと、昨日そこにいるエーベルトという男性とキスをした。それも舌を絡めるディープキス」
いきなりフュールが衝撃告白をし、教室が静まり返る。無表情で指さしてくるフュールに対し、エーベルトは至極焦っていた。まさか、このままバレるのではないか、そう思ったエーベルトだが、その焦りはなくなった。
「そ、そんなことあるわけないでしょ!!」
突然、エーベルトの隣の席に座るピンク髪ツインテールの女の子――ユリアンネが大声で怒鳴った。なぜユリアンネが激昴するのかエーベルトにはさっぱり分からなかったが、注目を集める人物がエーベルトからユリアンネに変わり内心ホッとしていた。
「あなたは誰?」
「私は貴族アレクシア家の令嬢のユリアンネよ! あなたはエーベルトと、その⋯⋯キ、キスをしたなんて、嘘つかないでちょうだい!」
ユリアンネが怒鳴ると、フュールは首を傾げた。
「どうしてあなたが怒るの? それにエーベルトとキスをしたのは本当のこと。気持ちよかった」
一斉にエーベルトに視線が集まる。その視線は驚きの視線とドン引きの視線が合わさったような感じでとても痛かった。
――何言ってんだコイツはぁぁぁ!?
そう叫びたい気持ちを抑えエーベルトは額に汗を滲ませながら下を向いていた。
「あなた本気!? 分かったわ! 直接エーベルトに聞けば早いわ! エーベルト! 本当にあなたはあの変態とキスをしたの!?」
――はい! しました! すごく唇柔らかくて、気持ちよかっです!
なんて言えるわけがない。エーベルトはもちろん否定した。
「そ、そんなことあるわけないだろ? 口から出任せだって」
「ほら見なさい! 本人が否定してるのよ! あなたもそろそろ――」
「もういいユリアンネ、フュール。自己紹介はもう終わりだ。席につけ」
言いかけたとき、ヴェローザが後ろからため息をつきながら言ってきた。ユリアンネも悔しそうだったが、仕方なく席についた。
「フュール、お前の席はユリアンネの後ろだ」
そう言われたフュールはその席にすわ――らずに、ユリアンネの前に立った。
「な、なによ?」
「私はエーベルトと隣がいい。そこをどいて」
いきなりの言い分にムッとしたユリアンネは机を勢いよく叩きながら立ち上がった。
「あなたふざけてるの!? なぜ私がどかなきゃいけないの!?」
エーベルトはユリアンネが怒る気持ちがよく分かった。確かに今まで座っていた席に転入生がいきなり、どけと言ってきたらそれは怒っても仕方ない。
「ユリアンネ。悪いがそこをどいてやってくれ」
「な、なぜですか!?」
ユリアンネが言うと、ヴェローザがキッと睨んだ。睨まれたユリアンネは拳を握り再び悔しそうにしながら、「分かったわよ! どけばいいんでしょどけば!」といってひとつ後ろの席に腰を下ろした。フュールも無表情のままエーベルトの隣に腰掛けた。
「さ、授業を始めるぞー」
それから至極当然のように授業が始まった。
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「俺がメリエース大陸に行くんですか!?」
放課後。フュールと一緒に呼ばれ、対策本部にいたエーベルトの声は室内に響いた。
「ああ、そうだ。明日からフュールと一緒にメリエース大陸へと行ってもらう」
「そんな簡単に言ってますけど、上手くいきます?」
すると、ヴェローザがギロっと睨んできた。
「大丈夫だと言っているだろう? ライムントがいるんだ。ピンポイントで飛ばしてくれるだろう」
「確かに、兄貴なら信用できますね」
「そういうことだ。お前の次のターゲットはメリエース大陸のマギアビーストだ。頑張れよ」
そう言いながら背中を叩き、ヴェローザは対策本部から出ていってしまった。フュールとエーベルト、2人だけになり、何とも気まずい空気を紛らわそうとエーベルトは口を開いた。
「あ、あのさフュール。さっきはなんであんなこと言ったんだ?」
「あんなこと?」
フュールは首を傾げた。
「その、俺と昨日キスしたことだよ」
「私とエーベルトの関係をみんなに紹介したかったから」
「関係って魔力封印のためにキスしただけだよね!? 昨日あったばかりじゃないか!」
「そうなの?」
「そうだよ!」
エーベルトはため息をつきながらフュールに背を向けた。
「待って」
「な、なにすんだよ!?」
すると、フュールはエーベルトを呼び止め、後から抱きついた。
「また昨日みたいにキスして。気持ちよかった」
「誰かぁぁぁぁ! この変態なんとかしてくれぇぇぇぇ!」
エーベルトの声は部屋に響き渡ったが、誰も助けには来なかった。




