5話 『思わぬ乱入者』
「こっち方面か」
地下室を出ていき、エーベルトは既に外履きに履き替え、外に出ていた。今マギアビーストがいる方向へ向かっている。
『聞こえるかエーベルト」
「うわっ! ビックリした! 誰ですか!?」
突然の声に肩をビクッとさせ、辺りを見回すエーベルト。しかし、周りには誰もいない。
『安心しろ、私だ」
「私? あ、先生! 一体どうやって?」
「お前の脳内に直接アドバイスを送ると言っただろ。魔法を使ってお前と話しているんだ」
「そう言えば言ってましたね⋯⋯」
エーベルトは自分の失態に気付き苦笑した。
『お前とマギアビーストの距離はおよそ500メートルくらいだ。そろそろ見えるだろ』
ヴェローザがそう言った時、エーベルトは足を止めた。理由は単純。前方に少女の姿が見受けられたからだ。ゆっくりとした足取りで学院へ近づいている。
「せ、先生⋯⋯」
「落ち着けエーベルト。攻撃されても大丈夫だ。お前はキスすることだけを考えろ」
「は、はい」
エーベルトは再び歩みを進めた。
それから数分後。少女との距離は50メートル弱の所まで近づいた。少女はこちらには気づいていないようだった。
「先生、どうしますか?」
『そうだな⋯⋯』
ヴェローザは少し考えたのち答えを出した。
『よし、話しかけてみろ』
「い、いきなりですか!?」
『ああ、そうだ。なんでもいいから話しかけてみろ、言葉は通じるはずだ」
「わ、分かりました」
エーベルトはヴェローザに言われた通り話しかけることにした。深呼吸をしたあと、少し大きめな声で言った。
「おーい! そこの⋯⋯えーと、女の子ー!」
少し迷いながらも、エーベルトは話しかけた。すると、少女はこちらに気づいた様子で向きを変えた。
「先生! こっちに気付きました!」
『よし、いいだろう。このまま近づいていけ』
「わ、分かりました」
エーベルトはヴェローザに言われたように近づいていった。すると、少女もこちらに近づいてきたと思ったときだった。突然、辺りに突風が巻き起こり、エーベルトは軽々と後方に吹き飛ばされた。
「うわーっ!!!」
『くっ! 攻撃してきたか! エーベルト大丈夫か?」
「いててて⋯⋯。は、はい。辛うじて大丈夫です。でも、マギアビーストが攻撃してきたんですか?」
エーベルトが言うとヴェローザが顔をしかめながらいった。
『恐らくな。ものすごい魔力だ。離れていても感じられる』
「⋯⋯そんなにですか。やっぱり怪物だ」
そう言ってエーベルトは立ち上がった。そして、エーベルトは異変に気付いた。
「あの先生。前に誰かいます」
『なんだと?』
エーベルトが言う通り、煙の中に微かに人影が見受けられる。それも5人ほどの人影だ。
『!! エーベルト!今すぐそこから離れろ!」
「え、なんでですか?」
『いいから逃げろ!そこには――」
ヴェローザがそう言いかけたときだった。
「おいガキ。テメェ何もんだ?」
そこには長身の赤髪の男が立っていた。目はつり上がっていて、いかにも怖そうな顔つきをしている男だった。
「あ、あなたは?」
「あ!? テメェふざけてんのか!」
赤髪の男がそう怒鳴ったとき、後方からまたも人影が出てきた。
「そんな怒っちゃダメだよエルガー。もっと優しく聞かなきゃ」
後から出てきたのは背は赤髪の男――エルガーよりも少し小さく、水色の髪に水色のピアスをした男か女かどちらか分からない者がいた。
「⋯⋯はぁ。エルガー、キミはまた怒っていたのか。ラエティティアに止めてもらわなかったら一向に暴走し続けそうだな⋯⋯」
ため息混じりに出てきた男は、長身で、濃い紫色の髪をしていた。目の下に隈があり猫背でいかにもだるそうな感じだった。
「私もディスフォードの意見にさんせー! エルガーうるさい! ヴィーヴェルもそう思うよね?」
濃い紫の髪の男――ディスフォードの意見に便乗してきたのは低身長で金色の髪で目がクリっとした女の子だった。とてもヨルクが喜びそうな女の子だ。
「⋯⋯ラスティマス、私に振らないで」
金髪の女の子――ラスティマスに振られ、静かに出てきたのは薄い緑色の髪をした、大人の女性だった。目鼻立ちははっきりとしているが、目に覇気がなく、静かそうな印象を与える。
「あ、あなたたちはいったい⋯⋯」
エーベルトがそう問うと、ラエティティアが口を開いた。
「ボク達かい? ボク達は――」
「間に合ったか!」
ラエティティアの言葉を遮り、ヴェローザとライムントが後方から走ってきた。
「おやおや。仲間がいるようだね」
ラエティティアが面白そうに含み笑いをした。
「あの、先生、兄貴。この人たちは?」
エーベルトが問うと、ライムントが5人の方を見据えながら深刻な顔をして言った。
「こいつらは全5大陸中最強のザーヴェラー。「鬼怒哀楽」だ」
「鬼怒哀楽?」
エーベルトが分からずといった様子で、リピートすると、ラエティティアがニコニコしながら口を開いた。
「やはり一流ザーヴェラーのライムントは知っていたか。流石だね」
「お前達を知らないものなんていない。そもそも、お前達は何の用でここにきた」
ライムントがそういうと、エルガーがライムントを睨みつけながら言ってきた。
「オレ達はなァ、マギアビーストを魔力封印するためにここに来たんだ! 文句あんのか!」
「マギアビーストの魔力封印? なぜそれを⋯⋯まさか、お前たちマギノステインが目的か!」
ライムントが怒鳴ると、笑いを堪えきれないといった風に笑ってからラスティマスが言った。
「そうだよー! それを集めて最強の力を手に入れるの! どう!? すごいでしょ!?」
「ねぇ兄貴、いったいどうなってるの?」
エーベルトにはこの状況が分からなかった。ライムントと対立している5人の人たちのこともエーベルトは何も知らない。
エーベルトが問いかけるも、ライムントは答えなかった。
「ふふふ。まぁ今回は引くことにするよ。新たなマギアビーストが現れたとき、ボク達はまたやってくる。その時に会えたら会おうね、おふたりさん。さぁみんな。戻ろう」
そう言ってラエティティア以外の4人がそれぞれ返事をし、眩い光を出しながら、次の瞬間消えていた。
「消え、た?」
「今回は引いたようだな⋯⋯。無事かエーベルト」
そう言って手を差し伸べてくるライムント。座り込んでいたエーベルトはその手を握り立ち上がった。
「ああ、大丈夫だけど。それよりもあの人たちは?」
「あとで説明する。それよりも今はマギアビーストの対応だ」
言ってライムントは視線を前に移す。そこには、ぽつんと立ってこちらを見ている少女――マギアビーストの姿があった。
エーベルトは意を決して近づいていった。それを見送ってライムントとヴェローザは魔法で転移していった。
「や、やぁさっきは大丈夫だったか?」
エーベルトが話しかけると、少女はしばらくしてからこくんと頷いてみせた。それを機にエーベルトはどんどんと話しかけていく。
「君はどこから来たの? 名前は?」
エーベルトが問うと、少女は遠くを指さして言った。
「あっち。名前は⋯⋯フュール」
「フュールか。いい名前だね」
「あなたは何をしに来たの?」
エーベルトはいきなり尋ねられ困惑した。何をしに来たと言われたら――キスをしに来た、と言うべきだろう。しかし、そんなことを素直に言えるものはそういない。エーベルトは考えてから遠回しに言った。
「君としたいことが、あ、あるんだ」
「私としたいこと?」
少女が無表情のまま首を傾げる。エーベルトはそのまま続けた。
「そ、その、キ、キスっていって、唇と唇を重ねるんだけど⋯⋯」
――まずい、いきなり過ぎた!
そう思ったエーベルトだが、次の少女の発言でその心配は打ち消された。
「キス、する。たくさん、あなたと」




