4話 『マギアビースト現る』
「マギアビーストが出現しました。直ちに地下シェルターへ逃げてください」
エーベルトが説明を受けた翌日の朝。
学院で授業を受けていた時にそのサイレンはなった。突然、けたたましい音がなり、なったと同時にこのアナウンスが流れた。
生徒達は悲鳴を上げながら一斉に地下シェルターへと逃げ込むが大勢いるためなかなか入れないものもいた。
しかし今、1人だけ地下シェルターとは逆の方向へ走っている者がいた。
「遅れてすみません! 保護隊に加わったエーベルト・カールマーです!」
学院の地下室――MB対策本部の部屋をくぐり、息を切らしながらエーベルトはいった。
そう。昨日エーベルトはヴェローザに説得され、MB保護隊に任命されたのだ。マギアビーストが現れた今、保護隊はここへ招集される。
「初出勤だなエーベルト。調子はどうだ?」
タバコをふかしながら薄い赤色の髪をした女――ヴェローザがいってくる。
ヴェローザはこのような態度をしているが、先生兼MB対策本部司令官だ。もっとしっかりとするべきだと思うエーベルトであった。ヴェローザの他に端の方で書類を眺めているライムントの姿があった。
「マギアビーストは今どこに?」
「これを見ろ」
言ってヴェローザがタバコを咥え、マウスを動かす。すると大きなモニターに映像が映し出された。それをみたエーベルトは言葉を失った。
「⋯⋯ほ、本当に、女の子⋯⋯」
その画面に映し出されていたのは、学院方面へと歩いてきている女の子――マギアビーストであった。白のワンピースをきた裸足の女の子で、髪は肩をくすぐるくらいの白色で、顔は整っているが、そこには表情が無かった。
エーベルトはマギアビーストが女の子とは聞いていた。しかし、事実心のどこかで違うと思っていたのかもしれない。その分衝撃が大きかった。
「これがマギアビーストだ。見るのは初めてか?」
「は、はい。⋯⋯まさか本当に女の子とは思いませんでした」
エーベルトがそういうと、ヴェローザは鼻で笑った。
「何をいまさら。お前はあいつとキスしてもらう」
「あの、子と⋯⋯」
エーベルトの顔に緊張の色が走る。それも当然である。キスする相手がマギアビーストということもあるが、なによりエーベルトはキスをしたことがないのだ。緊張しても仕方がない。
「先生、マギアビーストは今どこに向かっているんですか?」
エーベルトが尋ねると、ヴェローザは肩をすくめながらいった。
「学院方面だな。完璧に攻撃しようとしてるな」
「ど、どうするんですか?」
「安心しろ。万一の時があったらこっちにも怪物はいる」
言ってヴェローザは、端の方へと目を向ける。そこには、エーベルトの兄――ライムントがいた。ライムントはヴェローザに怪物と言われたことに気付き、エーベルトの方へに歩いてきながら言った。
「怪物とは聞き捨てなりませんね。マギアビーストの方がよっぽどの怪物だ」
「はっ。よくいうなお前も。自分の強大すぎる魔力を抑えきれずに片目を失うやつのどこが怪物じゃないっていうんだか」
そう言って、再びタバコを吸い始めるヴェローザ。
そう。ライムントは昔、自分の魔力を抑えきれずに片目を失っている。そのため左目には眼帯を常にしている。周りからはその優秀さと合わせ、「隻眼のザーヴェラー」と呼ばれている。
「それは過去の話です。それよりも」
言ってライムントはモニターに目を移す。
「ああ。そろそろだな」
「何がそろそろなんですか?」
訳が分からず戸惑うエーベルト。それを落ち着かせるようにヴェローザが言った。
「いいかエーベルト。お前にかかっている。ここで仕留めろ。出撃だ」
「いきなりすぎる!?」
「大丈夫だ。何かあったらお前の自慢の兄がすぐに飛んでいく。念の為にお前には結界も張った。1回や2回の攻撃を受けても大丈夫だ」
「そ、そうですか。でもどうやって近づいていけば?」
「普通に近づいていけ。下手に隠れでもしたらバレて攻撃対象と見なされる。堂々といって話しかけろ」
「分かりました。では、行ってきます」
「エーベルト」
エーベルトが扉をくぐろうとしたとき、ライムントに呼び止められた。
「なに? 兄貴」
「健闘を祈ってるぞ、大事な弟よ」
そう言って手をぐっと握るライムント。それに合わせるようにエーベルトも胸の前でぐっと握り言った。
「任せといて兄貴! ダメな弟が活躍するところを!」
そう言ってエーベルトは走って地下室を出ていった。




