41話『操る者』
「さて、どう殺してくれようか。一撃で殺すか、じわじわと殺すか。特別に貴様に選ばせてやる」
エーベルトは、ラエティティアに嘘をつくやつは全員殺してきた。その力に抗える者などいなかった。
「ひとつだけ教えてほしい⋯⋯」
「なんだ?」
「⋯⋯キミは本当にエーベルトなのかい…? その人間を遥かに超えた能力、どう見てもエーベルトには思えない⋯⋯」
ラエティティアが青ざめた顔訊ねる。
ラエティティアの言う通り、エーベルトの今までしてきたことは人間の成せる技ではない。仮に人間でなかったらエーベルトを操っているのは誰なのか。それがラエティティアが知りたい一番のことだった。
「俺の正体が知りたいということか」
エーベルトは少し考えるそぶりを見せた。そして、顔から笑みをなくし、真剣な表情でこう言った。
「俺の名は冥王神・ハデスだ」
「冥王神・ハデス⋯⋯!?」
みなの狼狽が口から漏れる。しかし、それも無理はない。
冥王神・ハデス。冥界を支配するする神。その存在は地獄を具現化した者であるとされている。
「なぜそれほどのお方が、その人間の身体を操るのですか⋯⋯」
自然と敬語になるラエティティア。しかしそれも無理はない。見た目こそエーベルトだが、中身は神なのだから。
ラエティティアが問うと、ハデスは首を傾げた。
「何故だろうな。⋯⋯妙に居心地が良い」
そう言うとハデスは地上にゆっくりと降りてきてラエティティアの元へと歩み寄った。
「気が変わった。この嘘つきの馬鹿者は冥界に連れていっていたぶるが、他の者は見逃してやる」
「め、冥界に連れて行く!?」
ラエティティアが声を裏返して叫ぶ。その表情にはもう先程のような余裕はなかった。そんな様子のラエティティアにハデスは恐ろしい笑みをを浮かべた。
「当たり前だろう? 言ったはずだ。嘘をつく者は殺して来たと」
「お、お許しを! どうか! お許し――」
「戯け」
ハデスがそう言ってラエティティアを消した。冥界に送ったのだろう。
「この身は返す。しかし、この俺に乗っ取られた身体はしばらくは目覚めない。ではまたいつか会おうではないか、人間諸君」
そう言うと、ハデスの気配がが一瞬で無くなり、天空城を覆っていたた闇も消えた。それと、同時にエーベルトの身体が倒れる。
「エーベルト!」
フュールが地面を勢い良く蹴り、エーベルトの元へ駆け寄りその身体を支える。
「よかった⋯⋯、エーベルト⋯⋯」
「どうやら無事みたいっすね〜」
操られている状態から意識が戻ったのか、エルフィがそう言う。
これで戦いは終わり、フュールを無事助けることができた。とーー
「あーあ失敗したぜ。もうちょっとでオレたちの計画の第一歩を踏み出すことができたのによ」
「はぁ⋯⋯。エルガー、キミが好き勝手に動いていなければ勝てたかもしれないな」
「んだとテメェ! ぶっ殺すぞ!
「そうだよディスフォード! あんた人のせいにするのやめなよー! ヴィーヴェルもそう思うでしょ!?」
「⋯⋯私は知らない」
「あなたたち⋯⋯」
フュールがそう呟きながらこちらに歩いてくる人物たちを睨む。
そう。こちらに歩いて来たのはフュールをさらった者たちーー鬼怒哀楽だった。ライムントに治癒魔法をかけられ復活したらしい。その中にはフェミリーの姿もあった。
まあフュール、そう怒ってやるな。もうおまえたちマギアビーストに危害を加えるようなことはしないだろう――な?」
ライムントが軽い調子で聞く。すると、全員が何度も頷いた。
「ま、一見落着よね。とにかく、エーベルト君とフュールが無事で良かったわ」
「私何もしなかったですけど、よかったです⋯⋯!」
フェミリーとカミラが安心したように言った。
「さてと、ライムント。こいつらはどうする? 学院に連れて帰って縛り付けておくか?」
ヴェローザがエルガーにヘッドロックしながら言う。
「いてててて! いてーよババア!!」
「なっ! 誰がババアじゃこら!」
「はははっ。そうですね、とりあえず学院へと連れて行きましょうか。話はそれからです。」
ライムントがそう言ったときだ。
『少しお待ちを』
突然声がし、その方向を全員が向く。
『あなたたちに、話しておかなければならないことがあります⋯⋯』
そこには先程ライムントに治癒魔法をかけられ眠っていたはずのアゼウロスだった。その声の調子からは何やら真剣な様子が伺えた。
「話か。わかった、教えてくれ」
ライムントがそう言うとアゼウロスは頷いてから話し始めた。
『私は鬼怒哀楽にやられ、そのまま気を失ってしまいました。そこで私はある夢を見たのです』
「夢?」
『はい。元々魔竜の夢はほとんどの確率で正夢になると言われています。そして私がそこで見たものは⋯⋯8人の影です』
「8人の影⋯⋯?」
ライムントが神妙な顔つきで訊ねる。
『はい。しかも、あなたたちはその影と戦っていました。相手の力はそれはとんでもない力です⋯⋯。今考えても恐ろしい』
アゼウロスの声が少し震える。
「⋯⋯そうか。わかった、お前が見た夢がほとんど正夢になるのなら⋯⋯俺たちの新たな敵はその8人の影ということになるな」
「何が何だかしらねェけどよ、そいつらを倒せばいいんだろ? 楽勝じゃねェか」
エルガーがヴェローザにヘッドロックされた状態でそう言う。確かにそれはそうであるが、アゼウロスの様子から伺うと、上手くいくかは分からなかった。
『話は以上です。引き止めてすみませんでした』
「いや、貴重な話を聞かせてくれてありがとう」
『いえ。それでは私は失礼します』
そう言うとアゼウロスはどこかへ飛んでいってしまった。
「さて、俺たちも学院に戻らなければな。――転移魔法」
ライムントがそう言うと、皆の足元に光の輪が現れ、次の瞬間その姿は跡形もなく消えた。




