29話『キミはボクのもの』
「なに? マギアビーストを逃した?」
転移してから数分後。エーベルトたちはエルフィの現状をヴェローザに伝えた。それを伝えると、目をキッと細め、少し怒っていたような気がした。
「逃したというのはどういうことだ?」
「突然帰るとか言い出して、追いかけようとしたんですけど、間に合わなくて⋯⋯」
エーベルトがもごもご言うと、それにイラッとしたのかヴェローザが怒鳴った。
「そこで引き止めるのが男だろうが! 逃げられました、なんて甘ったるい言い訳があるか!」
「で、でもマギアビーストと人間じゃいくらなんでも⋯⋯」
「うるせぇ! 連れてこれなかったなら今日はもう終わりだ! 解散!」
そう言ってヴェローザは怒って地下室を出ていってしまった。残された者たちはヴェローザがキレるのを初めて見たためぽかんとしていた。
「俺が、悪いのか⋯⋯」
「エーベルト、そんなことはない。エーベルトの言ってた通り、マギアビーストと人間じゃマギアビーストに部がある」
「そうよ。さすがに無理があるわ」
「⋯⋯そうですよ。エーベルトさんは悪くありません」
3人は俯いてしまったエーベルトを慰めた。しかし、エーベルトは言った。
「ありがとうなみんな。だがな、どう考えても俺が悪いんだ。だから頼む、もう一度俺を転移させてくれ」
そう言って土下座をするエーベルト。いきなりの行為に3人は戸惑ったが、フュールがやがてエーベルトの意思を悟り、言った。
「分かった。転移させる。だけど条件。私を連れていくこと」
「ちょっと! 私は!?」
「⋯⋯私もどうすればいいいんですか?」
フュールの返答に、驚いて反論する2人。しかし、フュールは言った。
「あなたたちは留守をお願い。これは私とエーベルトの仕事にしたい、だから」
そう言って頭を下げるフュールに2人は戸惑ったが、やがて決心したように言った。
「分かったわよ。好きにしてちょうだい。ただし無茶はしちゃダメよ? また暴れる可能性だってあるんだから」
「⋯⋯そうですよ。気をつけてくださいね」
「2人ともありがとう。エーベルト」
「ああ、行こう。エルフィの元に」
そう言った途端、エーベルトたちの足元が光り輝き次の瞬間消えてしまった。
「無茶したら許さないんだからね」
「⋯⋯頑張ってください」
そう言い残し、フェミリーとカミラは地下室を出ていってしまった。
▲
「ん⋯⋯」
転移してから何分倒れていただろう。エーベルトが目を覚ますとそこは前に転移したときと同じ場所だった。街の方を見やると、エルフィに壊された部分に人が集まっているのが分かった。
「⋯⋯おい、何してんだお前」
エーベルトが目を覚まして上を見ると、至近距離で顔を覗くフュールの顔があった。キスまで残り数センチのところだ。
「何もしてない」
「本当かよ⋯⋯」
「⋯⋯」
「また答えないぃぃ!?」
本日2回目のやり取りをしてから、エーベルトはハッとした。今ここにいるのはこんなことをするためじゃなく、エルフィを探すために来たのだと。
「フュール、早速だがエルフィを探そう」
「それはいい。けど、どうやって?」
「そーだな⋯⋯」
そう。大変なのが、封印よりも探すことなのだ。大陸にいると言われるマギアビーストを探すとなると、見つけられる可能性はかなり低くなる。しかし、今回はエルフィの顔を確認出来ているため、比較的楽なのかもしれない。
「とりあえずエルフィが走って行ってしまった方向を探そう」
「分かった」
フュールが短い返事をして探索はスタートした。
それから数分後。
どれくらい探しただろうか。雨が降ってきて探索の邪魔をしている。
「フュール、雨が降ってきた。一度探索は止めて、雨宿りできる場所を探そう」
「分かった」
エーベルトとフュールは雨宿り場所を探すために再び歩き出した。
――5分後
「あった! よし、ここなら雨宿り出来るだろう」
「雨宿り出来ている。良かった」
走りながら探していたため2人とも息が荒かった。そのまま長椅子に腰掛ける。
2人の間に沈黙が流れる。エーベルトからしたらとても気まづかったが、フュールはそうでもないらしかった。
「エーベルト」
「ん? なんだ?」
先に沈黙を破り話しかけたのはフュールだった。エーベルトは名前を呼ばれると下を向いたままそれに返事をした。
「私にお兄ちゃんっていると思う?」
「フュールのお兄ちゃん? んー。いる、かな?」
エーベルトが答えると、無表情のままフュールは言った。
「半分正解で半分不正解」
「? どういうことだ?」
「私のお兄ちゃんは小さい頃死んだ。何者かに連れられて殺された」
「⋯⋯そう、だったのか。なんかわるいな」
エーベルトが頭を下げると、フュールは首を振った。
「お兄ちゃんは優しかった。とても。お兄ちゃんと一緒ならいつも笑ってた。笑顔になれた」
フュールの表情こそ変わっていないが、そのときの声はとても楽しそうだった。いつものフュールよりも何倍も輝いていた。エーベルトはその雰囲気を崩さぬよう黙って聞いているしかなかった。
「でも、もう会えない。何があっても」
エーベルトにはフュールの目が少し潤んでいたように思えた。
「こんな話してわるかった。それにしても雨は止まない」
「あ、ああ。そうだな」
と、そのときだった。
どーんという音が近くでしたのだ。
「なんだ今のは!」
「とにかく行ってみた方がいい」
そうしてエーベルトとフュールは出ていって――そこで足を止めた。
理由は単純。何者かの集団がこちらに歩いてくるからだ。
「あ、あいつらは⋯⋯」
エーベルトにはその集団に見覚えがあった。
「おや? 君は確か⋯⋯そう、エーベルトだね。久しぶりだね」
水色の髪――ラエティティアが手を振りながらそう言ってくる。
その周りには、赤髪の男――エルガー。
紫色のだるそうな男――ディスフォード。
金髪の幼女――ラスティマス。
物静かそうな女性――ヴィーヴェルがいた。
そう。この集団は以前フュールを封印するときに突然現れた四天王、鬼怒哀楽だったのだ。
「お前ら⋯⋯」
「エーベルト、あの人たちは?」
「四天王の鬼怒哀楽だ。⋯⋯何をしに来たんだこんなところに⋯⋯」
ヒソヒソと話していると随分と距離が近くなってきて、遂に目の前まで迫っていた。
「⋯⋯お前ら。今日は何しに来た?」
エーベルトが問うと、突然横から怒鳴り声が聞こえてきた。その方向を見やると、鋭い双眸をした赤髪の男――エルガーがエーベルトに向かって怒鳴り込んでいた。
「テメェ!まだ生きていやがったか!」
「エルガー、少し黙ってて」
そう言ってラエティティアが指をパチンと鳴らす。すると、エルガーの動きが止まったかと思うと、次の瞬間倒れてしまった。
「なっ⋯⋯。一体何をしたんだ?」
「まぁいいじゃないか。――それでキミが聞きたかったのって何しに来たか、だったよね?」
「あ、ああ。そうだ」
答えると、ラエティティアはなにやら後ろにいた者に合図して1人の少女を抱えた。少女の身体には生々しい傷がいくつもあった。
「ま、さか! ⋯⋯エルフィなのか?」
すると、ラエティティアはニコリと笑って言った。
「ふーん。エルフィという名前なんだね。覚えておこう」
「お前ら、エルフィに何をした!」
「安心して。眠っているだけだよ」
「眠っている? そんな傷が眠っているだけでできるか!」
エーベルトが怒鳴ると、その隣にいた金髪の少女――ラスティマスが続けた。
「この子がちょーっとうるさかったからー! 制裁加えただけだよっ!」
「マギアビーストをどうする気」
エーベルトがそれ以上言おうとしたが、フュールがそれを静止し、問うた。
「この子をどうする、か。そうだね。少し実験をするかな」
「実験?」
フュールが怪訝な顔をしながら聞く。すると、ラエティティアはくすくすと笑いながら言った。
「そう、実験。詳しいことは言えないけど、実験するんだ。でもこの子じゃもうダメかな
? なら――」
そう言ってエルフィを地面に放り投げ、指をパチンと鳴らす。
「何をする気だ!」
「――ちょっとね。《インビテーション》」
ラエティティアがそう唱えた瞬間フュールが固まり、次にはラエティティアの方へ歩き出していき、ラエティティアの横で止まる。
「よく来てくれたね。《リリース》」
「フュール! どういうつもりだ!」
エーベルトが声をかけると、寝て起きたようにハッとして言った。
「分からない⋯⋯! 気づいたらここに」
「なんだって!? ――お前、フュールに一体何をした!」
「少し誘ってみただけさ。そしたらここへ来てくれた。感謝するよ」
「ふざけんな! フュール戻ってこい!」
「分かっ――」
そこでフュールは気づいた。自分の身体が動かないことを。
「どうしたフュール! 早く戻ってこい!」
「身体が、動かない⋯⋯!」
「ダメだよ。どこへも行かせない。キミはボクのものさ」
「くっ――。一体どうしたら!」
エーベルトがそう言ったときだった。
「残念だけど時間切れ。今回はこの子で実験しよう。またねエーベルト。次会うのは――ふふっ、きっと近いね」
「エーベルト!」
「フュール! 待て!」
そう言って鬼怒哀楽は風を纏ったのち、一瞬にして、フュールごと消えてしまった。
「そ、んな⋯⋯」
エーベルトは膝から崩れ落ちた。
「くそっ!!」
そう言って地面を叩く。右手に衝撃が走るが、今のエーベルトには感じていない。
「フュールがいなくなった⋯⋯? うそ、だろ⋯⋯?」
フュールが鬼怒哀楽に連れていかれた。そして実験すると言っていた。つまりそれは死を意味する。
「あ、そうだ! おい! エルフィ! 大丈夫か!?」
立ち上がり、エルフィの元へと駆けつける。
「ん⋯⋯」
「気づいたか! 俺だ! 分かるか!?」
「⋯⋯エー、ベルト?」
掠れた声でその名を呼ぶ。
「そうだ俺だ。一体何があったんだ?」
エーベルトが問うと、エルフィは起き上がりながら口を開いた。
「⋯⋯あいつら、私がマギアビーストというのを気づいて襲ってきたっす。それでボコボコにやられたっす」
「そうだったのか。それよりも大変だ! フュールが! フュールが奴らに連れてかれた!」
「奴らに? 大変じゃないっすか! あいつら、確かマギアビーストを殺してマギノなんとかがどうのこうのって言ってたっす!」
「なっ⋯⋯」
エーベルトの狼狽が口から漏れる。"殺す"という単語に以上に反応し、鼓動が早くなる。
「まずい、まずいまずいまずいまずいまずいまずい!!」
「落ち着けっす! まだ助かる可能性だってあるっすよ!」
エルフィが諌めるように言うが、エーベルトの耳には届いていないようだった。
と、そのとき。
「おーい! エーベルト君、エルフィ!」
遠くの方から女性の声が響いてくる。その方向を見やると、見覚えのある顔2つがこっちに手を振りながら走ってきていた。恐らく転移してきたのだろう。
「探したわよ。エーベルト君、エルフィ。あれ? フュールは?」
フェミリーがキョロキョロしながら聞いてくる。エーベルトは思い口を無理やり開いて言った。
「⋯⋯連れてかれた」
「なんですって?」
「⋯⋯だから、鬼怒哀楽に連れてかれたんだ。そのままどこかに消えてった。俺のせいで、俺のせいで!」
「お、落ち着きなさい! とにかくこの話はあとよ! 雨が降っているし、学院に転移するわ!」
「アタシもっすか!?」
「そうよ! 当たり前じゃない! 転移魔法!」
そう言ってフェミリーは学院へと転移するため魔法を唱えた。すると、足元が光り輝き、次にはもう姿が無くなっていた。




