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デッド・オア・キス  作者: 夕凪渚
4章 ヴェルマット大陸〜第4のマギアビーストと囚われのマギアビースト〜
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29話『キミはボクのもの』

「なに? マギアビーストを逃した?」


転移してから数分後。エーベルトたちはエルフィの現状をヴェローザに伝えた。それを伝えると、目をキッと細め、少し怒っていたような気がした。


「逃したというのはどういうことだ?」


「突然帰るとか言い出して、追いかけようとしたんですけど、間に合わなくて⋯⋯」


エーベルトがもごもご言うと、それにイラッとしたのかヴェローザが怒鳴った。


「そこで引き止めるのが男だろうが! 逃げられました、なんて甘ったるい言い訳があるか!」


「で、でもマギアビーストと人間じゃいくらなんでも⋯⋯」


「うるせぇ! 連れてこれなかったなら今日はもう終わりだ! 解散!」


そう言ってヴェローザは怒って地下室を出ていってしまった。残された者たちはヴェローザがキレるのを初めて見たためぽかんとしていた。


「俺が、悪いのか⋯⋯」


「エーベルト、そんなことはない。エーベルトの言ってた通り、マギアビーストと人間じゃマギアビーストに部がある」


「そうよ。さすがに無理があるわ」


「⋯⋯そうですよ。エーベルトさんは悪くありません」


3人は俯いてしまったエーベルトを慰めた。しかし、エーベルトは言った。


「ありがとうなみんな。だがな、どう考えても俺が悪いんだ。だから頼む、もう一度俺を転移させてくれ」


そう言って土下座をするエーベルト。いきなりの行為に3人は戸惑ったが、フュールがやがてエーベルトの意思を悟り、言った。


「分かった。転移させる。だけど条件。私を連れていくこと」


「ちょっと! 私は!?」


「⋯⋯私もどうすればいいいんですか?」


フュールの返答に、驚いて反論する2人。しかし、フュールは言った。


「あなたたちは留守をお願い。これは私とエーベルトの仕事にしたい、だから」


そう言って頭を下げるフュールに2人は戸惑ったが、やがて決心したように言った。


「分かったわよ。好きにしてちょうだい。ただし無茶はしちゃダメよ? また暴れる可能性だってあるんだから」


「⋯⋯そうですよ。気をつけてくださいね」


「2人ともありがとう。エーベルト」


「ああ、行こう。エルフィの元に」


そう言った途端、エーベルトたちの足元が光り輝き次の瞬間消えてしまった。


「無茶したら許さないんだからね」


「⋯⋯頑張ってください」


そう言い残し、フェミリーとカミラは地下室を出ていってしまった。







「ん⋯⋯」


転移してから何分倒れていただろう。エーベルトが目を覚ますとそこは前に転移したときと同じ場所だった。街の方を見やると、エルフィに壊された部分に人が集まっているのが分かった。


「⋯⋯おい、何してんだお前」


エーベルトが目を覚まして上を見ると、至近距離で顔を覗くフュールの顔があった。キスまで残り数センチのところだ。


「何もしてない」


「本当かよ⋯⋯」


「⋯⋯」


「また答えないぃぃ!?」


本日2回目のやり取りをしてから、エーベルトはハッとした。今ここにいるのはこんなことをするためじゃなく、エルフィを探すために来たのだと。


「フュール、早速だがエルフィを探そう」


「それはいい。けど、どうやって?」


「そーだな⋯⋯」


そう。大変なのが、封印よりも探すことなのだ。大陸にいると言われるマギアビーストを探すとなると、見つけられる可能性はかなり低くなる。しかし、今回はエルフィの顔を確認出来ているため、比較的楽なのかもしれない。


「とりあえずエルフィが走って行ってしまった方向を探そう」


「分かった」


フュールが短い返事をして探索はスタートした。


それから数分後。

どれくらい探しただろうか。雨が降ってきて探索の邪魔をしている。


「フュール、雨が降ってきた。一度探索は止めて、雨宿りできる場所を探そう」


「分かった」


エーベルトとフュールは雨宿り場所を探すために再び歩き出した。


――5分後


「あった! よし、ここなら雨宿り出来るだろう」


「雨宿り出来ている。良かった」


走りながら探していたため2人とも息が荒かった。そのまま長椅子に腰掛ける。

2人の間に沈黙が流れる。エーベルトからしたらとても気まづかったが、フュールはそうでもないらしかった。


「エーベルト」


「ん? なんだ?」


先に沈黙を破り話しかけたのはフュールだった。エーベルトは名前を呼ばれると下を向いたままそれに返事をした。


「私にお兄ちゃんっていると思う?」


「フュールのお兄ちゃん? んー。いる、かな?」


エーベルトが答えると、無表情のままフュールは言った。


「半分正解で半分不正解」


「? どういうことだ?」


「私のお兄ちゃんは小さい頃死んだ。何者かに連れられて殺された」


「⋯⋯そう、だったのか。なんかわるいな」


エーベルトが頭を下げると、フュールは首を振った。


「お兄ちゃんは優しかった。とても。お兄ちゃんと一緒ならいつも笑ってた。笑顔になれた」


フュールの表情こそ変わっていないが、そのときの声はとても楽しそうだった。いつものフュールよりも何倍も輝いていた。エーベルトはその雰囲気を崩さぬよう黙って聞いているしかなかった。


「でも、もう会えない。何があっても」


エーベルトにはフュールの目が少し潤んでいたように思えた。


「こんな話してわるかった。それにしても雨は止まない」


「あ、ああ。そうだな」


と、そのときだった。


どーんという音が近くでしたのだ。


「なんだ今のは!」


「とにかく行ってみた方がいい」


そうしてエーベルトとフュールは出ていって――そこで足を止めた。

理由は単純。何者かの集団がこちらに歩いてくるからだ。


「あ、あいつらは⋯⋯」


エーベルトにはその集団に見覚えがあった。


「おや? 君は確か⋯⋯そう、エーベルトだね。久しぶりだね」


水色の髪――ラエティティアが手を振りながらそう言ってくる。


その周りには、赤髪の男――エルガー。


紫色のだるそうな男――ディスフォード。


金髪の幼女――ラスティマス。


物静かそうな女性――ヴィーヴェルがいた。


そう。この集団は以前フュールを封印するときに突然現れた四天王、鬼怒哀楽だったのだ。


「お前ら⋯⋯」


「エーベルト、あの人たちは?」


「四天王の鬼怒哀楽だ。⋯⋯何をしに来たんだこんなところに⋯⋯」


ヒソヒソと話していると随分と距離が近くなってきて、遂に目の前まで迫っていた。


「⋯⋯お前ら。今日は何しに来た?」


エーベルトが問うと、突然横から怒鳴り声が聞こえてきた。その方向を見やると、鋭い双眸をした赤髪の男――エルガーがエーベルトに向かって怒鳴り込んでいた。


「テメェ!まだ生きていやがったか!」


「エルガー、少し黙ってて」


そう言ってラエティティアが指をパチンと鳴らす。すると、エルガーの動きが止まったかと思うと、次の瞬間倒れてしまった。


「なっ⋯⋯。一体何をしたんだ?」


「まぁいいじゃないか。――それでキミが聞きたかったのって何しに来たか、だったよね?」


「あ、ああ。そうだ」


答えると、ラエティティアはなにやら後ろにいた者に合図して1人の少女を抱えた。少女の身体には生々しい傷がいくつもあった。


「ま、さか! ⋯⋯エルフィなのか?」


すると、ラエティティアはニコリと笑って言った。


「ふーん。エルフィという名前なんだね。覚えておこう」


「お前ら、エルフィに何をした!」


「安心して。眠っているだけだよ」


「眠っている? そんな傷が眠っているだけでできるか!」


エーベルトが怒鳴ると、その隣にいた金髪の少女――ラスティマスが続けた。


「この子がちょーっとうるさかったからー! 制裁加えただけだよっ!」


「マギアビーストをどうする気」


エーベルトがそれ以上言おうとしたが、フュールがそれを静止し、問うた。


「この子をどうする、か。そうだね。少し実験をするかな」


「実験?」


フュールが怪訝な顔をしながら聞く。すると、ラエティティアはくすくすと笑いながら言った。


「そう、実験。詳しいことは言えないけど、実験するんだ。でもこの子じゃもうダメかな

? なら――」


そう言ってエルフィを地面に放り投げ、指をパチンと鳴らす。


「何をする気だ!」


「――ちょっとね。《インビテーション》」


ラエティティアがそう唱えた瞬間フュールが固まり、次にはラエティティアの方へ歩き出していき、ラエティティアの横で止まる。


「よく来てくれたね。《リリース》」


「フュール! どういうつもりだ!」


エーベルトが声をかけると、寝て起きたようにハッとして言った。


「分からない⋯⋯! 気づいたらここに」


「なんだって!? ――お前、フュールに一体何をした!」


「少し誘ってみただけさ。そしたらここへ来てくれた。感謝するよ」


「ふざけんな! フュール戻ってこい!」


「分かっ――」


そこでフュールは気づいた。自分の身体が動かないことを。


「どうしたフュール! 早く戻ってこい!」


「身体が、動かない⋯⋯!」


「ダメだよ。どこへも行かせない。キミはボクのものさ」


「くっ――。一体どうしたら!」


エーベルトがそう言ったときだった。


「残念だけど時間切れ。今回はこの子で実験しよう。またねエーベルト。次会うのは――ふふっ、きっと近いね」


「エーベルト!」


「フュール! 待て!」


そう言って鬼怒哀楽は風を纏ったのち、一瞬にして、フュールごと消えてしまった。


「そ、んな⋯⋯」


エーベルトは膝から崩れ落ちた。


「くそっ!!」


そう言って地面を叩く。右手に衝撃が走るが、今のエーベルトには感じていない。


「フュールがいなくなった⋯⋯? うそ、だろ⋯⋯?」


フュールが鬼怒哀楽に連れていかれた。そして実験すると言っていた。つまりそれは死を意味する。


「あ、そうだ! おい! エルフィ! 大丈夫か!?」


立ち上がり、エルフィの元へと駆けつける。


「ん⋯⋯」


「気づいたか! 俺だ! 分かるか!?」


「⋯⋯エー、ベルト?」


掠れた声でその名を呼ぶ。


「そうだ俺だ。一体何があったんだ?」


エーベルトが問うと、エルフィは起き上がりながら口を開いた。


「⋯⋯あいつら、私がマギアビーストというのを気づいて襲ってきたっす。それでボコボコにやられたっす」


「そうだったのか。それよりも大変だ! フュールが! フュールが奴らに連れてかれた!」


「奴らに? 大変じゃないっすか! あいつら、確かマギアビーストを殺してマギノなんとかがどうのこうのって言ってたっす!」


「なっ⋯⋯」


エーベルトの狼狽が口から漏れる。"殺す"という単語に以上に反応し、鼓動が早くなる。


「まずい、まずいまずいまずいまずいまずいまずい!!」


「落ち着けっす! まだ助かる可能性だってあるっすよ!」


エルフィが諌めるように言うが、エーベルトの耳には届いていないようだった。


と、そのとき。


「おーい! エーベルト君、エルフィ!」


遠くの方から女性の声が響いてくる。その方向を見やると、見覚えのある顔2つがこっちに手を振りながら走ってきていた。恐らく転移してきたのだろう。


「探したわよ。エーベルト君、エルフィ。あれ? フュールは?」


フェミリーがキョロキョロしながら聞いてくる。エーベルトは思い口を無理やり開いて言った。


「⋯⋯連れてかれた」


「なんですって?」


「⋯⋯だから、鬼怒哀楽に連れてかれたんだ。そのままどこかに消えてった。俺のせいで、俺のせいで!」


「お、落ち着きなさい! とにかくこの話はあとよ! 雨が降っているし、学院に転移するわ!」


「アタシもっすか!?」


「そうよ! 当たり前じゃない! 転移魔法!」


そう言ってフェミリーは学院へと転移するため魔法を唱えた。すると、足元が光り輝き、次にはもう姿が無くなっていた。


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