24話『マギアビーストの真相』
「ヴェローザ先生、少しお話があります」
その日の放課後、MB対策本部の地下室かるへとヴェローザは呼び出されていた。何の話だろうと軽い調子で来たが、ライムントの顔から察するに深刻な話だということは容易に知れた。
「一体何の用だ? そんな深刻な顔をして、お前らしくないぞ?」
「僕もそんな顔はしたくはないんですが、こればかりは仕方ありません」
「ふん、そうか」
ヴェローザは何か気まずさを紛らわすようにタバコを吸い始めた。
「で? その話はなんだ?」
ヴェローザが促すと、ライムントは「はい」と返事をして話し始めた。
「今回の話はマギアビーストの話なんですが、研究で過去のことが分かりました」
「ほう、それは興味深い話だな」
「ええ。それでマギアビーストの過去のことですが、これを見てください」
そう言って手に折りたたんで持っていた書類をヴェローザに差し出した。左上をクリップで止められていて何枚か重ねられている。
「これは⋯⋯?」
「ええ、それはマギアビーストの詳しいことが書かれている書類です。この部分を読んでください」
そう言って書類に指をなぞらせ促していく。ヴェローザはふんと鼻を鳴らしたあとその文章を読んだ。そして次の瞬間衝撃を受けた。
「な、なんだこれは⋯⋯」
「驚きましたか?」
「あ、ああ。これが研究で分かったというのか?」
ヴェローザがタバコの存在を忘れて口からポロッと落とした。
「ええ。マギアビーストは元々人間で、それに加えて――」
ヴェローザが落としたタバコを屈んで拾い、ぐっと握り火を消したあと、口を開いた。
「――鬼神の血と魔力を有しているということです」
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「ん⋯⋯」
小さなうめき声とともに、カミラは目を覚ました。
すぐに、自分がベットに寝かされていることがわかる。痛む頭を押さえながら、ゆっくりと身体を起こす。
「⋯⋯ここは⋯⋯」
カミラは小さく呟きながら辺りを見回した。白いカーテンで仕切られた空間である。外から夕日が差しているのだろうか、天井が赤く染まっていた。
「お、目が覚めたか」
と、聞き知った声が鼓膜を揺らすと同時、周囲を覆っていたカーテンが開かれる。夕日の光が眩しいくらいに視界に溢れた。
「大丈夫か、カミラ。無理してたみたいだけど」
「エーベルトさん⋯⋯」
そう。そこに立っていたのはエーベルトだった。
目が慣れるに従い、辺りの様子が窺い知れるようになってくる。どうやらここは、学院の保健室らしかった。
「エーベルトさんが⋯⋯運んでくれたんですか?」
「ん⋯⋯ああ、まあな。でも、フュールやフェミリーも手伝ってくれたんだぞ。あとでお礼言っておけよ」
「そ、そうだったのですか⋯⋯」
「あ、そうだそうだ」
そう言ってエーベルトは自分のカバンから何やらものを取り出し、カミラに差し出した。
「⋯⋯パン、ですか?」
そう。エーベルトが差し出したものとはパンだったのだ。パンの中にチョコレートとクリームが入っている美味しいパンだ。
「ああ。お前体調悪いんだろ? だったらちゃんと食わないとなって思ってな」
「エーベルトさん⋯⋯」
カミラは心臓がドクンと鳴るのを感じた。
自分のことを心配してくれた。それだけでカミラは嬉しかったのだ。しかし、何を思ったかカミラはこう言った。
「あ、あのエーベルトさん。もしよろしければ、その⋯⋯あーんをやってほしいんですけど⋯⋯だめ、ですか?」
「あ、あーん!?」
エーベルトがいきなりの言動に驚嘆の声を上げる。
あーん。
それはカップルたちがよくやる行為。1人がもう1人の口に食べ物を運び「あーん♡」といって食べさせるという行為である。カミラはそれがやりたいと言っているのだ。
「だめ、ですか?」
「い、いやいやいや!? 別に嫌じゃないけど⋯⋯なんというかほんとに体調悪いんだな」
「え、どういうことで――」
「⋯⋯ほら、あーん」
カミラが言おうとした言葉を遮り、エーベルトがパンをひとつかみ分取り、カミラに差し出した。恥ずかしいのか、視線は別のところに向いていた。
「え! ど、どうしたらいいんでしょう」
「お前がやりたいって言ったんだよね!?」
本人がやり方が分からないのは論外である。
「⋯⋯ほら、口開けろ」
「は、はい」
言われるままにカミラが口を開く。エーベルトは恥ずかしそうに頬を赤く染めカミラの口の中へとパンを進めていく。そして口と指が触れる距離まで来たところで――止まった。
理由は単純。このままいけば指と唇が触れてしまう。それはエーベルトにとっては避けたかった。
「⋯⋯あ、あの、食べさせてくれないんですか?」
「いや、そういうわけじゃないんだが⋯⋯」
エーベルトの頭の中で渦をまく。唇に指が触れてあわよくば唾液までついてしまう可能性がある。汚いとかではない。年頃の男の子にとって唇が触れるだけでもかなりドキドキしてしまうのだ。
エーベルトは考えて考えてから決断した。
「⋯⋯カミラ、あーん」
「は、はい、あ、あーん」
エーベルトの指はカミラの唇に触れた。エーベルトはその感触にドキッとしてしまった。
「⋯⋯どうだ? あーんの感想は?」
「は、はい。すごく緊張しました⋯⋯」
2人の間に気まずい空気が流れる。それもそのはず。彼氏彼女同士でもない2人がカップルのすることをしたのだから。
エーベルトは気まづさを紛らわすように咳払いをしてから言った。
「じゃ、じゃあ俺保健の先生呼んでくるから。大人しくしてろよ、じゃあな」
そう言うと、エーベルトは颯爽と保健室を出ていってしまった。
その後、色々と念の為身体検査を受けると、心拍数だけ異常な速さという結果が出たカミラだった。




