23話『新たな転入生(無垢)』
「はーい。終わりですよー」
翌日の早朝。白衣を着た女性が針を持って血を採っている――いわゆる採決をしている。マギアビーストの定期採決だ。今はフュールがちょうど終わったところだ。
「カミラ。何を怯えてるの? 注射なんて痛くも痒くもない」
「そ、そんなこと言われたって怖いものは怖いんですよぅ〜」
怯えているカミラに対し、辛辣なフュール。顔は無表情に彩られているため、本当は痛いのかもしれないが、今の言動を聞いているとそうでもないらしい。
「はい、次フェミリーちゃん」
「はーい」
女性の呼ぶ声に軽く返事をしながら採決へ向かう。
そして腕の上の方を縛り、血を集中させ、関節部分の血管へと針を刺し血を抜く。それを素早く済ませフェミリーの番は終了した。
「ふんっ。全く怖くなかったわ」
「フェミリー。足を震わせながら言っても説得力はない」
「そ、そんなことないわよ! ていうかカミラ。次あなたの番なんだから頑張りなさいよ?」
いきなり話しかけられビクッと肩を揺らしフェミリーの方を涙目で見つめる。
「はーい、次はカミラちゃんね」
「ヒッ!」
針を持った女性に呼ばれ、カミラは肩を大きく揺らした。それを見た女性は苦笑した。そしてカミラはガチガチになりながらも椅子に座り手を出した。
「あのーカミラちゃん? そんなに緊張すると筋肉が強ばって出来ないんだけど⋯⋯」
女性が苦笑しながら言うと、目を強く瞑って歯を食いしばっていたカミラは「えっ?」と拍子抜けした顔で女性を見た。おそらくもう終わったと勘違いしたのだろう。
「はーい、力抜いてねー」
「は、はい⋯⋯」
カミラは明らかに顔色が悪かった。真っ青で今にも倒れそうである。注射系はとことん苦手なのだろう。
「はーい、じゃあ手を軽く握ってねー。チクッとしますよー」
「⋯⋯ヒィィ!」
女性が言いながら針をカミラの腕へと近づけていく。カミラの顔色はどんどん悪さを増し、一段と青くなっていき、文字通りの顔面蒼白だった。
そしてカミラの腕に針が刺さる。小さな悲鳴こそ漏らしたものの、歯を食いしばり必死に耐え、無事採決を終えることが出来た。
「はーい、もう終わりですよー。よく頑張ったねカミラちゃん」
「⋯⋯は、はい」
女性に言われ力なく返事をするカミラ。そしてフュールとフェミリーの元へと歩いていく。
「2人とも⋯⋯。や、やりまし――」
『カミラ!』
と、そこまで言いかけた時、カミラはふぅっと綺麗にうつ伏せに倒れてしまった。
▲
「なぁエーベルトぉ。この前あのでかい竜に乗ってどこかに行っちまったけどよ、どこに行ったんだ?」
早朝の学院の教室で。
エーベルトが教室で読書をしていると、後ろから両肩を掴みながらヨルクがそんなことを言ってきた。
エーベルトは内心答え方が分からなかった。竜と会話して、しかも戦う約束までしたなんて言ったところで信じてもらえるはずがない。エーベルトはテキトーに答えた。
「あー、あれか? あれは怖いもの見たさの俺が竜に乗りたくて乗ったんだ。そしたらいきなり飛び始めて巣に連れてかれたんだよ」
「へぇ〜! そいつはすげ〜な! で、どんなことされたんだ?」
「そ、それでよ、なんか父親的な竜がいてそいつと話してたんだよ。その後に俺は顔を舐められて連れ戻されたって感じだな」
「すげー!! お前は竜の使いじゃんか!」
なかなかテキトーすぎる話ではあったが、信じてくれたので良しとしよう。ヨルクはロリコンなため、ロリ以外はテキトーにしても怒らないはずだ。実際、前にフュールのことを話したらすんごい勢いで怒られたためだ。
「おっ、もうこんな時間か。そろそろHR始まるな。またあとで話せたら話そうぜ!」
そう言って俺の後ろの席に座る。適当に返事をしたあと、エーベルトが読者を続けていると、いかつい顔をした女教師が入ってきた。そして出席と健康診断を済ませたあとこんなことを言った。
「今日はお前らに転入生を紹介する」
女教師――ヴェローザが言うと、生徒からは「えーまたー?」「可愛い子だといいなぁ」などと色々な声が上がった。その声を遮るようにヴェローザは軽く咳払いをし、転入生を呼んだ。
「ほら、入ってこい」
「し、失礼します⋯⋯」
そう言って入ってきた転入生は、長い黒色髪をした女の子で、顔は人形のように綺麗な顔をしていたが、随分と顔色が悪かった。生徒からは最初は絶賛の声が上がったが、その顔色の悪さに徐々に心配の声の方が多くなっていった。
「ほら、自己紹介をしろ」
「⋯⋯は、はい。私はカミラ・シドニエルと申します。よろしくお願いします」
言って震える指先でチョークを掴み黒板に名前を書いていく。その字は手が震えているせいでかなり雑な字に思えた。
「カミラ、お前の席はフェミリーの後ろだ」
「は、はい⋯⋯」
今にも消えそうな声で返事をしたカミラはのそのそと自分の席へと歩いていく。そしてエーベルトの前で立ち止まる。
「ど、どうしたカミラ?」
エーベルトが声をかけた瞬間、カミラはそのまま前に倒れてしまった。エーベルトがぎりぎりの所で身体を抑えた。その横でその光景をする見ていたユリアンネは少しムッとしていた。




