16話 『第3のマギアビーストと鬼怒哀楽』
『おはようございます、先生』
翌日の朝。エーベルト、フュール、フェミリーの3人は第3のマギアビーストがいると思われるアーボレス大陸へと行くため、MB対策本部の地下室へと集まっていた。
「来たか3人とも。昨日はよく眠れたか?」
ヴェローザがタバコをふかしながらそんなことを言ってくる。3人はそれぞれ適当に返事をした。
しかし、エーベルトはよく眠れていなかった。その理由はフュールだ。いつの間に侵入したのか、エーベルトの寮のベッドに潜り込んで『おはようエーベルト。今夜はお楽しみ』なんて言うもんだからエーベルトはよく眠れていなかっのだ。もちろん追い出した。
「あ、兄貴おはよう」
と、そんなことを考えていると、ライムントが地下室のドアを潜りエーベルトたちの方へと歩みを進めてきた。
「ああ、おはようエーベルト。2回目の遠征保護だな」
「うん。今回も頑張るよ。でも少し心配なことがあるんだ」
「心配なことか。なんだ、言ってみろ」
ライムントに促され、エーベルトは返事をして言った。
「アーボレス大陸でマギアビーストの確認がされていないということと、スラム街が多いっていうことなんだけど」
「ふむなるほどな。でも心配ない。たとえ治安が悪くてもお前のバックには強力なやつが2人もいる。そこは安心しろ。だが、マギアビーストが確認されていないというのは確かに気がかりだ」
顎に手をあて「ふむ」と唸るライムント。エーベルトは確認されていないということが一番気がかりでならなかった。
「転移の時間までそろそろだ。集まってくれ。ライムントは頼む」
「分かりました」
ライムントは返事をし、地図を見始めた。どこに飛ばすのか考えているのだろう。
3人はヴェローザの所へ集まっていた。
「今回が成功すれば3人のマギアビーストを保護したことになる。そうすれば残りは2人のマギアビーストだ。頼んだぞ」
そう言って3人の頭を順にポンと叩いていく。優しくやったつもりだろうが少し痛かった。
「よし、そろそろだな。ライムント頼む」
「了解です。転移魔法!」
ライムントがそう言うと、3人の足元に光の輪が現れる。
「無事を祈るぞエーベルト。これはお前達の戦いだ」
ライムントがそう言うと、エーベルトは首肯した。
「任せといて兄貴。今回もしっかり封印して連れて帰ってくるよ」
その瞬間、エーベルトたちの足元の光の輪が輝きを増していき、次の瞬間光と共に3人は消えた。
「頼んだぞエーベルト」
元にエーベルトがいた所に向かってそう言い残し、ライムントとヴェローザは地下室をあとにした。
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「ん⋯⋯? こ、ここは⋯⋯?」
エーベルトが目を開けると公園らしき所に倒れていた。しかし、フュールとフェミリーは普通に立っている。
「なぁ。なんでお前らだけ気絶しないでいられるわけ?」
エーベルトが半目を作りながら言うと、フュールが淡々と答えた。
「多分エーベルトは転移する際の魔力に耐えきれてない。だから気絶する」
「俺、そんな耐性ないのか⋯⋯」
エーベルトは自分の弱さに苦笑をこぼした。
「さてと、どうしますか――って、ここ」
「そうだねー」
とフェミリー。
「恐らく」
とフュール。
「これが噂のスラム街っていう所か!」
スラム街。
極貧層が居住する過密化した地区。アーボレス大陸の場合、治安が悪く、麻薬取引なども多い。
「酷い街だな⋯⋯。フュール、フェミリー、それでどこに行くんだ? 聞くあてが――」
「おいテメェ。この辺じゃ見ねー顔だな。どこから来た」
――ない。そう言おうとしたとき、公園のベンチに座り込んだ体格の良い男に絡まれた。頭はコーンロウヘアーで身体中に刺青が入っている。
「い、いやあ、あの⋯⋯」
「ヴァルエスト大陸から来た。マギアビーストを探している」
エーベルトがビビって言えない代わりにフュールが言った。すると、男は顔をしかめて近づいてきた。
「マギアビーストだぁ? 聞いたことあるっちゃあるがな」
「ほ、本当ですか!? どこで目撃したとか分かりませんか?」
エーベルトは興奮した様子で聞いた。すると男は、タバコを吸い始めた。
「そういや、どこかに閉じ込められてるって―――あ、思い出したぞ!」
そう言って男は手をぽんとうった。
「何か分かりましたか?」
「ああ、分かったぜ。そのマギアなんちゃらってのが閉じ込められている場所がな」
「本当ですか!? それはどこですか!?」
「しゃあねぇなぁ案内してやんよ。こっちだ、ついてこい」
男はそう言って歩みを進めていった。エーベルト達も顔を見合わせお互いガッツポーズをしてからあとを追った。
それから数十分間歩き、3人は目的地についた。そこは洞窟になっており、奥に入っていくと、監禁する用の扉がいくつも見受けられた。この中にマギアビーストがいるというのだろうか
「あの、えーと」
「ルードルフだ。ルーちゃんとか色々呼ばれているが好きな呼び名でいいぞ」
エーベルトのことを察したのか名前を言って白い歯を見せてくる男――ルードルフにエーベルトは苦笑した。
「じ、じゃあルードルフさん。本当にここにいるんですか?」
「ああ、いる。ほらそこだ」
そう言ってルードルフが指さしたのは洞窟の最奥の檻だった。奥は暗くて何も見えない。
「ここですか? こんなところに本当にマギアビーストなんか⋯⋯」
そう言ったときだった。
「誰ですか⋯⋯!」
「⋯⋯!?」
突然檻の中から声がし、エーベルトは肩をビクつかせた。その声は女の声で、助けを求めるような声でも無かった。明らかに警戒していた。意を決してエーベルトは話しかけることにした。
「あ、あの。俺たちヴァルエスト大陸から来たんです。顔を見せて欲しいです」
すると、しばらく間を置いたあと、チャリチャリと鎖の音がして、その少女が顔を出した。
「⋯⋯きれいだ」
エーベルトは考えていたことが思わず口から洩れ、必死に口を抑えた。
しかし、エーベルトの言うことは正しかった。夜闇色に染まった綺麗な黒髪につややかな肌、そして顔は閉じ込められているというのに、今咲いたばかりのような花のような生き生きとした美しさだった。
「ちょっと、エーベルト君? セクハラはいけないわよ?」
半目を作りながらフェミリーが言ってくる。
「浮気は許さない」
フェミリーに乗っかり、無表情だがどこか怒りを含んだ表情をしたフュールが言う。
「セクハラなんかしてねーよ!? あとフュール! 浮気ってなんだ! 俺はお前と付き合っても結婚してもないぞ!?」
エーベルトは声を裏返し言った。すると、檻の中にいる少女がくすりと笑っていた。
「あなたたち面白いのですね⋯⋯。それで、私に何の用ですか⋯⋯?」
少女がエーベルトに尋ねてきた。エーベルトは一瞬考えて聞いた。
「あの名前を教えてくれませんか? そうじゃないとなんかやりにくくて⋯⋯」
エーベルトが頬をかきながら苦笑すると、少女は快く教えてくれた。
「カミラ・シドニエルです⋯⋯。敬語は使わなくていいですよ。あなたのお名前は⋯⋯?」
「分かった。俺はエーベルト・カールマーそしてこっちが――」
「フュール・ヘルミーネ」
「私はフェミリー・ローレイラよ」
3人が名前を教えたところで、少女――カミラにエーベルトは聞いた。
「なぁカミラ。カミラはなんでこんな場所にいるんだ?」
エーベルトが問うと、しばらく沈黙したあと、小さい声で答えた。
「⋯⋯エ、エルガー様が」
「エルガー? 誰だそれ?」
「このオレサマのことだよこのクソガキが!」
と、突然エーベルトの背後から声がし、振り返るよりも早く、蹴り飛ばされていた。エーベルトはカミラの入れられている檻の部分に強く頭を打ち付けた。
「⋯⋯いっててて。なんだ今の⋯⋯」
「まだ分かんねーのか? オレがエルガーだっつってんだよ」
エーベルトが顔を上げるとそこにはフュールを封印するときに現れた赤髪の男――エルガーが立っていた。
「あ、あんたは⋯⋯!」
「ようやく分かったようだな。テメェら何しに来た。まさか、この女を封印しに来たわけじゃねェだろうな」
言って鋭い目付きで睨んでくる。エーベルトは怯んだが、しかし、フュールとフェミリーがエーベルトをかばうような形でエルガーの前に立ちはだかった。
「エーベルトには指一本触れさせない」
「あなたが噂の四天王、鬼怒哀楽の1人のエルガーさん? そうだとしても、ここは譲れないわね」
2人が言うと、エルガーは顔を交互に見てから不敵な笑みを浮かべ言った。
「仲がいいこったなァおい。でもよ、いいのか? この俺とやり合うってことは死を意味するぜ?」
「そんなことない。私があなたを止める」
「やってやろうじゃない。あなたの力、存分に見せてちょうだい♡」
そう言って構える2人に、エルガーは「いいだろう」と言って笑い、指をポキポキとならした。
「マギアビーストごときが、このオレサマに歯向かったこと、後悔させてやるよ!! 《ブラスト》!」
言って地面に手を着く、その瞬間地面が激しく爆発し、カミラを含んだ4人が吹き飛ばされた。




