15話 『ユリアンネの思い』
教室に戻り、エーベルトたちはしばらく授業を受け、今は休み時間に入っていた。
「ちょっと」
と、エーベルトがいきなり後ろから話しかけられた。振り返るとそこにはピンク髪ツインテール――ユリアンネが立っていた。
「おう、ユリアンネかどうした?」
エーベルトが軽い調子で言うと、ユリアンネは少し不満そうな顔をして言った。
「あなた、最近ちょくちょくどこかに行くわよね? それに前だって授業に出てなかったし」
「そ、それは⋯⋯」
マギアビーストの保護に行っていた、なんてことは口が避けても言えない。いきなりそんなこと言われたもんだからエーベルトは戸惑い考えた。
「ほら、あれだよ、俺魔法試験で最下位取っただろ? それで先生から呼ばれてたんだ」
「ふーん」
「な、なんだよ」
エーベルトが言うと、半目を作り見てきた。
「いや、なんでもないわ。⋯⋯でも」
「でも?」
エーベルトがリピートすると、ユリアンネは少し顔を赤らめて言った。
「ああとにかく! できるだけどこかに行かないでちょうだい!」
「え、なんで?」
「察しが悪いわね! いいっていったらいいの! じゃあね!」
そう言って走って教室から出ていってしまった。
「ああおい!もうすぐ授業始まるぞ!」
エーベルトが大声を出して呼んだが返事はなかった。
「⋯⋯」
教室を出たユリアンネは小走りで廊下を進み、ひとけのない場所に至ってから、背を壁につけてヘナヘナとその場にしゃがみ込んだ。
「⋯⋯ああああああああああああ」
顔を両手で覆い、のどを震わせる。
手のひらに伝わる体温。鏡を見たわけではないが、自分の顔が真っ赤に染まっているであろうことは容易に予想できた。
「私、なんであんなことを」
震える声で呟いて、ユリアンネは髪をくしゃくしゃと掻き毟った。
ユリアンネは友達がいない。貴族だからと言って敬遠して、近づいて来る者がいないからだ。故に、ユリアンネも強い態度を取っている。――本当は強い態度なんて取りたくないのだ。だから唯一の話し相手のエーベルトにどこかに行かれると困るのだ。そう伝えたかったのだが。
「あれじゃあもう、『私の側にいて』って言ってるようなもんじゃない⋯⋯」
ユリアンネがため息交じりに呟くと、それに合わせたように、キーンコーンカーンコーン、と辺りに予鈴が鳴り響いた。
「あ⋯⋯早く行かなくちゃ」
いつまでもこうしてはいられない。ユリアンネは乱してしまった髪を手櫛で簡単に整えると、膝に手をついて立ち上がった。
が、ユリアンネが廊下の角を曲がったところで、ぼすん、と誰かにぶつかってしまう。
「きゃっ」
「あ、ごめん⋯⋯ってユリアンネ?」
そこにいたのは、先ほど教室で別れたはずのエーベルトだった。
「ここにいたのか。っていうか今の声は⋯⋯」
「な、なんでもないわよ! それより、エーベルトはなんでここにいるのよ」
ユリアンネが問うと、エーベルトは指で頬をかきながら答えてきた。
「いや⋯⋯なんだか様子がおかしいみたいだったから、どうしたのかと思って様子を見に⋯⋯」
「⋯⋯!」
ユリアンネは心臓がトクンと鳴るのを感じた。エーベルトがユリアンネのことを気遣ってくれていた。それを思うだけで、なぜか心がほんのり温かくなる。
「そ、そう。別に私は大丈夫よ! それよりも早く行かなきゃ間に合わないわよ」
「そうだな。急ごう」
そして2人はギリギリの所で教室に滑り込み授業を受けることができた。




