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最終話

楽しかった学校が急につまらなくなった。たった一年の付き合いだったスミレの存在が大きいことに今更ながら感じた。休み時間は机に突っ伏して寝る毎日。就職も決まったし、学校なんて卒業出来ればいいだけの場所になった。


オレにはもう紗季との時間しか楽しみはなかった。高校生の彼女を夜まで連れ回した。

あるとき、映画館の前を通ると紗季が映画のポスターを指差した。


「あ…この映画面白そう。」


「あ~、これ見たよ。」


「見たんですか?誰と?」


「あ…スミレっつー女友達…」


「二人で?」


「…ウン」


と言うと彼女はなぜか速足でスタスタと歩き出した。


「どした?」


と言っても無言のままだ。彼女の後ろについて3kmほど歩きとおした。

疲れたのか彼女は路傍のベンチにトサッと座り込んだ。


「えと…」


「私はあなたの彼女ですよね?」


見ると、見たこともない大粒の涙がポタポタとこぼれ、地面を濡らしていた。


「……そうだよ…。」


「なんで他の子と映画見たりするんですか!二人っきりで…」


「…そだよね…ごめん…」


「私は…私しか…あなたを幸せにはできませんから!」


「ハイ…そうです…ごめんなさい…」


「もう、二度としないでくださいね!」


「ハイ…。」


今まで、自分が紗季の上に優位に立っていると思っていたが…逆転された瞬間だった。

無神経だった俺は、異性と二人きりでなにかするっていうのに特別な意味があることに気づいていなかった。


このことがサキとスミレを深く傷つけたに違いない。


スミレが初めて二人だけの映画を誘ってきたことに気づくことができなかった。

どういう意味かもわからなかった。

いつもの休み時間の延長だったんだ。



◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇



久しぶりに京一郎に会った。彼女とは上手く行っているらしかった。そのラブラブさがうらやましかった。そして流れでスミレの話しに及んで行った。


「スミレちゃんのこと…どうしたかった…?」


「…ずっと…友達でいたかった…。」


「相手が女なら、ずっとは無理じゃん…。」


「ウン…そうだよ…そうなんだよ…。」


「お前は頭のいいやつだと思ってたけど…。」


「…ウン…。」


「キョーコちゃんから聞いたんだけど…。」


「…ウン…。」


「4人でカラオケ行ったときあったじゃん。あん時、大好きな人に…みたいなこといったじゃん?」


「…冗談でな~…。誰にあててってわけじゃないんだけど…。」


「あれが、前の恋から俺が立ち直らさせてあげる…的な歌詞なんだって。…それで、二人とも勘違いっつーか、まータケノリの決意的な風にとったみたい…。」


「え?…あの…オフコースの歌か…そういう意味だったのか…。」


「それで、スミレちゃん、めちゃくちゃあの歌のこと調べてたらしい…。」


「そうなんだ…。」


「でもまー…。オマエが悪いわけじゃないけどな…。向こうが勝手に勘違いしたっつーかさ…。…キョーコちゃんに言うなよ?」


「…目も合わしてくれねーよ…。」


「そか…もうすぐ卒業か…卒業式までに仲直りできればいいなぁ…」


「…ウン…。」


しかし、時間だけは無情に通り過ぎた。


2年制の専門学校だったので、みんな就活で忙しくなり、スミレと学校で会う機会もほぼなくなった。


電話も2回ほどしたが、取られることはなかった。



◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇



そして卒業式になった。


思えば、俺の学生生活はスミレがいたから楽しかったし、スミレにむらがるきらびやかな連中もスミレとともに去って行ってしまったのだ。


とても寂しく、空しい卒業式だった。

式典も終わり、会場から出て来る人の波から目でスミレをさがしている自分がいた。


 おっと!サキと約束したろう…!

 何も見ないように帰ろう…。


うつむいて、会場をでようとすると、懐かしい声


「ターケちゃーーーん!!!!!」


振り返ると…階段の上に…いた。


スミレだった。


階段を駆け下りるスミレ。


休み時間のあのお互いを探して見つけたときの、あの笑顔!


俺も、あの時のように大きく手を振る!


話さなかった一月半が一気に縮まったような気がした。


「タケちゃん!タケちゃん!タケちゃん!灯台みたいだからすぐ分かったよ~!」


「スミレ!スミレ、はかまだったの?すげー!似合ってるよ!」


「タケちゃん、なにそれ。その頭。牛にでもなめられたの?」


「そう?自分はキマってると思ったんだけど…。式典だからさ。」


「ベゴさなめられたんず?」


「なんで同じこと2回言った??」


「タケちゃん、標準語じゃわかんないと思ったからサ~。」


「いや、答えた。答えたよねぇ…??ハハ!」


「アッハッハッハ!」


二人は“いつものように”肩を寄せ合って笑った。気付くと花魁のようにかんざしを何本も挿している京子がオレたち二人の姿を見ていた。


「…あ…キョーコ…。」


「…スミレがどうしてもケジメとりたいっつーからさ…。」


「ありがとう…。ゴメン…。」


オレとスミレは互いに向かい合った。


「うふ!タケちゃん変わんないね。そのやさしさつーか…素直さっつーか…


ごめんね。ずっと避けてて。あって話したら…


…泣い……ちゃ……う……かも……しれな…い……と……





………ぅわァーーァァァーーン………!!




ぅわァーーァァァーーン………!!



エッ…!エッ…!エッ…!エッ…!………!!」




「…スミレ…大丈夫??」



卒業式が終わっての人垣だ。当然、スミレの号泣の声で観客が「なんだなんだ??」と集まってきた。

「タケノリがスミレ泣かせてるってよ!」と野次馬根性丸出しでニヤニヤ顏だったが、京子が「ギロ!」と睨むと小さく「ヒィ…!」と唸って黙った。


スミレはハンカチで何度も何度も目元を吹いて空を見上げた。


「……………


…ごめんね…!…卒業式だから……!


…泣いちゃって…エヘ…。タケちゃん…嫌いでしょ…??


そ…ゆ…の…元気な…スミレが…好きなんだもんね…。



アハ…!…友達としてね!………グス……!



もしも…さ…。もしも……彼女さんより…先…




……んんんーーーー!あーーーー!!なんでもない!!」



そう言って、顔をこちらに向けた。


「元気でね。」


「うん…。スミレも…。」


「あたし…青森に帰ります。」


「そうか…。あ!そうだ!もしも…スミレと会ったらって…“写ルンです”買ってきてたんだ!一緒に写真とろうよ」


「だめだよう…。そういうのよくない!あたしが彼女さんだったら許さないぞ!」


「…あ…そうか…」


「タケちゃんは、ずっと、ずーーーっと“鈍感”でした!」


「ほんとだなぁ」


「ふふふ…」


「じゃぁ…握手。さよならの。」


「うん…そうだね…。なんか…いろんな汁がついてるけど…。」


「ふふ。いいじゃん。最後なんだから。」




「じゃぁ…さようなら…。」



オレたちは大きく手を振って別れた。

別々の道に。


二人の人生が、二つに分かれてゆく。その道は真っ直ぐに…。





[おしまい]

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