魔王の誘惑
魔王城が見えてきた。
黒々とした巨塔が空を突き刺している。まさに魔王城。ファンタジーの教科書に載せたいほどの見事さだ。
「警戒しろよ。ここが魔族の本拠地だ」
俺が盾を構えると、3人も武器を握り直した。
だが、不思議なことに魔物が全く出てこない。
「出てこないな……」
アキラが周囲を見渡す。
「罠?」
サキが眉をひそめた。
「……いや、来てるみたいです」
ミサキがぽつりと言った。
城の入り口に人影があった。
近づくにつれて輪郭がはっきりする。女だ。しかもとんでもない格好をしている。
「私は水の四天王、ウイーネ。貴方達を迎えに来たわ」
腰をくねらせながら近づいてくる。
(なにその格好)
乳首と大事なところしか隠れてない。小さな水着、いや布切れだ。あれは水着と呼べる代物なのか。むしろ犯罪だろ。
俺は慌てて盾を構える。いつでもカバーガードが発動できるように。
ウイーネが腰を揺らしながら近づいてくる。歩き方もエロい。意識しすぎだろ俺。
「ちょっとケンヤ、見ちゃダメ!」
サキが俺の背中をドンと叩く。
「いや見てないと、みんなを守れないだろ!」
必死に言い訳をする。実際目のやり場に困るのだ。
「必死で仲間を守ろうとして……可愛いわね」
ウイーネがくすくす笑いながら俺に寄ってきた。甘い匂いが鼻をくすぐる。
「どう? お姉さんといい事する?」
耳元で囁かれた。
「ダメー!」
後ろから3人の声が揃った。俺の背中を押す勢いが凄い。
「ケンヤ、一気にやっちゃおう」
アキラが前に出て剣を突き出した。いつになく交戦的だ。
「ふふっ、冗談よ」
ウイーネが手を振った。
「魔王様が呼んでるから、着いて来て」
そう言って後ろを向いて歩き出した。
お尻が丸見えだ。小さな水着のおかげでほとんど隠れていない。
「ケンヤさん、見ないようにしてください。あれは毒です」
ミサキが小声で言う。
(毒っていうか、俺の理性の毒だ)
「どうする?」
アキラが俺を見た。
「行くしかないだろ。魔王の所に案内してくれるって言うなら話が早い」
俺たちはお尻に‥いやウイーネについていった。
* * *
城の中は意外にも豪華だった。赤い絨毯に黄金の装飾。魔王城というよりは貴族の屋敷だ。
案内されたのは謁見の間。天井が高く、ステンドグラスが入っている。
「来たか」
大きな声が響いた。見ると、筋肉隆々の男が立っていた。頭には角が生えている。
「俺は土の四天王、ドシャースだ」
自己紹介してくれた。名前からして土属性なのだろう。
だが、俺の視線はその奥の玉座に向いていた。
そこに1人の男が座っていた。銀髪のイケメンだ。長い髪が背中に流れている。冷たい瞳。それでいてどこか優雅な雰囲気。
「よく来たね、勇者たち。俺が魔王のアルファベートだ」
アルファベートが手を振ると、俺たちの前にテーブルと椅子が現れた。
「座りなよ」
促されて俺は座った。後ろに3人が立っている。
ウイーネが紅茶を淹れてくれた。カップが目の前に置かれる。その時、ウイーネの股間が目の前に来た。小さな水着がほとんど隠していない。
(見るな、見るな俺)
チラチラと視線が行ってしまう。
「気になるなら脱ぐように命令しようか?」
魔王が笑いながら言った。
「ハ……」
「い、いえ!結構です!」
危なかった。危うく「ハイ、魔王様」と答えそうになった。これは罠だ。罠に決まっている。
「紅茶を飲みながら、話そうか」
アルファベートが優雅にカップを口に運んだ。
「君たち、俺の魔石が有れば元の世界に帰してやるとか言われて来たんでしょ」
「……ああ、そうだ」
俺は答えた。隠すことでもない。
「ふーん。人間の王様も相変わらずだな」
アルファベートが鼻で笑った。
「で、俺が聞きたいのはこれだ」
魔王の目が俺を射抜いた。
「俺が元の世界に帰してやる、と言ったらどうする?」
俺は息を呑んだ。
(魔王が元の世界に帰してくれる?)
「……本気か?」
「本気だよ。俺は嘘をつかない」
アルファベートがニヤリと笑った。
「人間の王様は約定の魔法で誓うと言ったよね? 俺も誓えるよ」
「どういう事だ?」
俺が問い返すと、アルファベートが椅子に深くもたれかかった。




