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サラとリュート  作者: 水曜日のビタミン
第8章 魔大陸
235/239

第235話 最大の難関

 

 【第235-1話 路銀じゃねぇ】


 漆黒の城壁が陽光を吸収し、重厚な輝きを放つティエラ王国の王城ロブスト。

 いかなる魔力も跳ね除ける鉄壁の要塞にドタバタと似つかわしくない音が響き渡る。


「帰って来たばかりだってのに忙しいやつだな」

「なに言ってるんだ!星の危機だよ。星の!

 急がないでどーする。エッスンよ」

「だれがエッスンだ。くしゃみか! 俺の名前はエス!エス・スモークだ!」

「そうか、そうか。えースモーク?」

「そう噛めば噛むほど味が……って俺は燻製肉じゃねぇ!!」


 ユウの辛辣な返しにめげずに、エスは大げさな身振り手振りで応戦。

 いつにも増しての塩対応に気落ちしたエスの視線が、あるものを捉えた。


「お前それ、なに持ってんだ?」

「――えっち。変態」

「ッ!! まて、待て、待てって!! 全くもって意味が分からん」

「――――」


 訳も分からず、容赦ない言葉を浴びせられるもユウの瞳は笑ってなかった。

 その眼は変質者を見る目であり、無言の圧と冷たいそれに耐えきれず、


「……ごめんなさい」

「よろしい!」


 頭を垂れるエスに見えない位置で、ユウの勝ち誇った顔と併せて拳がぐっと握られていた。


「はぁ……ところで、ほんとに行くのか? 魔大陸」

「当たり前だろ。姫が命がけで世界を救おうってのに、騎士のアタシがじっとしてられるわけがない」


 桔梗の瞳を凛と輝かせ前を見つめるユウ・ワンズ。

 その強い眼差しに、エスは頭をかきむしり、


「――だーちくしょう!わかったよ。留守は任せろ! でもよ……くれぐれも無茶はするなよ」

「ん? なに言ってんのさ? 騎士として姫の剣となり、盾となるに決まってるだ……」

「それでもだ!――頼む。無事で戻って来てくれ」


 エスをじっと見つめユウが反論。

 しかし、言い終わる前にエスの気迫が響いた。


「もー。わかったよ。生きて帰って国のために役立てっていうんだろ?

 人使いが荒いなぁ。もう。」

「……あと、これ持っていけ」

「ん?路銀?……にしては形ちがくね?」

「ちげぇよ!守銭奴!!」


 差し出す前から速射されるつっこみに、口荒くつっこみをいれるエス。

「だーちくしょう!!」そう言いながら、差し出されたのは小さなナイフだった。


「なにこれ?アタシ大魔導士だよ! ピッキングとかできないよ?」

「自分で『大』とかいうかふつう?」

「言わなきゃ実現できるわけないだろ!」

「わーったよ。大魔導士様! それは…そのなんだ。護身用だ。一応、名品だからきっと助けになるはずだ」


 エスの説明を聞きながら、まじまじとナイフを観察するユウ。

 柄の部分に埋め揉まれた紫色の宝石を眺め、


「不思議な輝きだねこの石。ほじり獲ったら高く売れるかな?」

「渡した本人の前でいう台詞かそれ!!」

「にひひ。うそうそ!ありがとね。捕まった時の縄抜けにちょうど良さそうだから、隠し持っておくよ」


 唇を尖らせ抗議するエスを雑にいなし、ユウはローブの袖にナイフをしまい込んだ。

「はぁ」というため息が聞こえ、顔を上げるユウ。

 みればエスは唇を噛み肩を震わせていた。


「んじゃ!いってくるよ!!」


 いつも通りの雰囲気を崩すことなくエスの肩を「ポン」と叩くユウ。

 そのまま、後ろ手をヒラヒラさせて簡素な挨拶を残し去って行った。


「ちげぇよ……俺はお前のことが――」

「……だから、お前だけは守る。そのナイフ絶対に手放すなよ」


 そんなエスの震える独り言は、分厚い黒壁だけが聞いていた。



 ◇ ◇ ◇ ◇ ◇


【第235-2話 下着】


「わーすごい!サビーネさん。ほんとに、これどれでも選んでいいの?」

「ええ、もちろんですわ!しっかりと許可は得ていますので」

「しっかし、これをサラ姉が着てたなんてねぇ」


 ぶんぶんと尻尾をふり、翡翠の瞳を輝かせる白い獣。

 セイラがいるのは家ほどの広さの衣裳部屋だ。

 その至る所に煌びやかなドレスや、清楚で可憐な衣装がびっしりと並んでいる。


「しかも、どれも新品だねぇ」

「サラ様は、その……ほとんど着ておられなかったので」

「あは、やっぱり」

「幼い頃は毎日、道着を泥だらけにしておられました」

「だよね!目に浮かぶよ」


 苦笑いを浮かべながら、煌びやかなドレスの前に立つセイラ。

 彼女はユウに押し切られるかたちで、サラたちと同行せずティエラ王国に留まり、護衛を任されていた。


「でも、とっても素敵なドレスばかりでボク目移りしちゃうよ!」

「――にひひ。喜んでくれてなによりだよ。でも、本命はこれ」

「ユウさん!!」


 セイラの背後、扉の影からぴょっこりと顔を出すユウ。

 そのまま、セイラに近づくと、後ろ手に持った手から翡翠色のリボンが巻かれた紙袋が差し出された。


「ユウさん、これなぁに?」

「ドレスもいいんだけどさ、それ着るためには、その……色々大変じゃん」


 肉体を離れ、白い獣の体を仮宿としているセイラ。

 リュートの魔術により作られた服(材料:スライム)を身にまとえば、人の姿に実体化できるが、製作手間を考えると、そうそうなれるものではない。

 大変な身の上に置かれたセイラに掛ける言葉が浮かばず、押し黙るユウ。そんな彼女に、


「うん。ボク体が無いからね!」


 明るい声音が響く。当のセイラに気にする様子はまるでなかった。

 そればかりか、翡翠の瞳をきらりと輝かせ、


「ユウさん! 開けていい?」

「あッ!うん」


 袋が紐解かれ中を覗くとそこには、


「――ん? これほんとになに? 布」

「へへん。ちょーっと違うんだなー」


 中から出てきたのは、薄い桃色をした透明感のある生地だった。


「へへん。リュー君から魔法陣の書き方を聞いてさ、知り合いの魔道具士に頼んでつくらせたんだ! だから、製作者はリュー君じゃないから安心して!」

「あれ?なんで、リュー兄が作っていないと安心なの?」

「それは……。やっぱり男の子には触らせたくないじゃん!」

「それって、どういう――」

「まっ!とにかく、幽魂体(アストラルバディ)に直接あててみれば分かるからさ! とりあえずやってみてよ!」

「もー。強引だなぁ」


 質問の答えを貰えないまま、押し切られるセイラ。

 少しだけ頬を膨らませ抗議の意思をしめすも、幽魂体となり祈るように手を合わせる。

 翡翠の瞳が閉じられた瞬間、セイラの体から透き通った幽体がふわりと飛び出した。

 次いで、ユウの手から差し出された布を手に取ると、足元から風が走り、部屋に掛けられたドレスがふわりと揺れた。

 淡い光の霧があふれだし、セイラを包み込んでいく。


 ――温かい。


 優しく包み込まれる感覚にセイラの意識が委ねられていく。

 ゆりかごに揺られるように静かで心地よい。

 気づけばいつの間にか光は静かに収束し。

 霧が晴れると、そこには一人の少女が立っていた。


「うそ!!ボク……実体化している!」

「良かった!上手く言ったね」

「でも、コレって」


 頬を桃色に染めるセイラ。

 彼女の恰好は、愛らしいフリルのついた愛らしい下着姿だった。


「こんなの作れちゃうんだね。さすがドワーフの国だね!でも……恥ずかしぃ」

「あはは。下着なのは許して。それアタシのオーダーなんだ。

 ドレスはやっぱり、本物を着たいかなって」

「ボク本当に嬉しぃ! ありがとう!」


 下着姿のままくるりと回り、服を選び直すセイラ。

 弾むように手が動き、何枚もの服が手にとられる。


「どっれにしよーかな!」


 ドレス選びに熱が入り、カチャカチャとハンガーが滑る音が響く中、突然背後から声がかかった。


「こんなところにいたんですね!――って、セイラその姿……」

「え?リュー兄? ……キャー!!」


 あられもない下着姿をみられ絶叫するセイラ。

 即座に体を隠すようにしゃがみ込む。


「……リュー君。姫にいいつけるよ!!直ぐに出ていって!」

「ごめんなさい」

「えーん。リュー兄のえっち」


 即座に振り返り部屋を後にするリュート。

 その背中に、女性陣の冷たい視線が向けられるのであった。



 ◇ ◇ ◇ ◇ ◇



【第235-3話 ザイオンの武器選び】


 場面は変わり、ここは宝物庫。

 片刃、両刃、レイピアのみならず鞭のような剣など様々が壁に並び、左右の壁面には無数の盾と鎧が飾られている。そのどれもが魔石や特殊鉱石が惜しみなく使われており、見る者を圧倒する重厚な存在感を放っている。


「やはりドワーフの王国じゃ!すばらしい武具が揃っとる!」

「ザイオン殿にそう言って頂ければ間違いないな」


 鎮座する国宝級の武具に怯むことなく品定めをするザイオン。その後ろをサラとジェイがついて歩く。


「しかし、本当にいいのですか? どれでも持ち帰っていただいて構わないのですが」

「ばかもの! 儂は武具職人じゃぞ! 武具は作るものであって集めるものではないわ。がはは!」


 ザイオンの尽力により生まれたサラの大剣【星龍誕】。世界に唯一無二の大剣の対価として、ティエラ王国が誇る武具を進呈しようとするもザイオンは一蹴し笑い飛ばす。


「ふっ。本当に欲のない人だな。――ん?いかがなされた?」


 豪快なザイオンの笑い声につられサラにも笑みが浮かぶ。しかし、その直後ザイオンの動きが止まり、一つの武器に目を奪われていた。

 ザイオンが目にした武器、それは黒く焼けただれた短刀だった。


「この小刀、作者はルーシアだな」

「お見事。その状態でも見抜くとは。銘を【時雨】といいます。ルーシア殿の息子リュートの自宅から持ってきました。」

「そうか。しかし、なぜ焼け焦げておるんじゃ?」

「魔族がカンディスを襲ったときに、特大のマナ弾を相殺するために使いました」

「そうか……。しっかりと役目を果たしたか」


 サラの説明に目を細めつつ、じっくりと焦げた刃を見つめるザイオン。


「ドワーフの姫よ。前言撤回じゃ。この刀を儂にくれ!」

「もちろん、それは構いません。ですが他の武具ではなく、それでよろしいのですか?」

「……愛弟子の作品をこのままにしておくのは忍びないからな」

「なるほど。……どこまでも欲の無い方だ」


 その言葉に反応することなく、ザイオンは懐から白い布を取り出すと、手際よく包んだ。


「それで、儂に聞きたいことがあるんじゃろ?」

「察しが良くて恐れ入ります。実は、真魔族のことは元よりですが、母について何か手がかりのようなものがあればと」

「手がかり?それはもっと適任者がおるであろう」

「適任者?」

「……お主の父親に決まっておろう」

「ぐっ!! ……それは」


 ザイオンの言葉にサラは言葉を失い、思わずのけ反った。


 サラのことを「サラたん」と呼び、ことあるごとにハグを求めてくる過保護すぎる父親。

 世界の危機よりも厄介な難関が、サラの前に静かに立ちはだかっていた。



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