↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
PR
2/2

第二話

閉じ込め事故より先に、私の学校生活が終わった。

おそるおそる顔を上げると、先輩はぱちりと目を瞬いたあと、耳までほんのり赤くした。

「……あら」

「あの、いまのは、その」

「嬉しいです」

即死。

「わ、わたくしも」

「え?」

「わたくしも、あやさんのこと、ずっと可愛い後輩以上に見ていました」

資料室の空気が一瞬で砂糖になった。

甘い。

甘すぎる。

吸ったら虫歯になる。

私は口をぱくぱくさせた。

何か言わなきゃ。何か。

でも頭の中にある言葉が全部、「好き」と「かわいい」と「無理」しかない。

「と、とりあえず、脱出してからちゃんと告白しません!?」

「順番を大事にするの、あやさんらしくて好きです」「好きって言った!?」

「言いました」

もうだめだ。資料室が結婚式場に見えてきた。

その時だった。

みしっ。

鈍い音がして、二人同時にドアの方を見た。

古い木枠が少し歪んでいる。

「……ん?」

「このドア、だいぶ傷んでいますね…こじ開け

られるかしら」

先輩は立ち上がると、ほこり一つついていないみたいな優雅さでドアの前に立った。

そして、袖を少しまくる。

白い手首。細い腕。華奢な肩。

どう見ても、ドアと腕力が結びつかない。

「え、先輩?」

「一つ、試してみてもいいですか」

「試すって」

「力技を」

清楚な人の口から出ていい単語じゃない。

「えっ、ちょ、危なくないですか!?」

「大丈夫です。実家でよくやっていたので」

「何を!?」

「米俵運びを」

「なんで!?」

「老舗和菓子屋ですので」

初耳情報が強すぎる。

先輩はドアノブの横に手を添え、深呼吸した。

姿勢が美しい。

無駄がない。

なんだろう、令嬢というより武人の構えだ。

「少し下がっていてくださいね」

「はい……」

私は言われるまま後ろに下がった。

次の瞬間。

「えいっ♡」 

先輩の細腕が、信じられないほど鋭く、速く動いた。

ばきっ。

「……………………えっ?」

ドア枠が軋む音がした。

「もう一回♡えい、えいっ!」

ばきばきっ。

鍵の周辺が露骨にめり込んだ。

「え、え、え」

「もう少しです!」

先輩はとても穏やかな顔で言った。

お茶でも淹れるみたいな口調で言った。

そして三度目。

「とぉりゃ〜!」

どがんっ。

ついにドアが外向きにぶち開いた。

夕方の廊下の空気が、さあっと流れ込んでくる。

 私はぽかんとしたまま、開いたドアと先輩を交互に見た。

先輩は、乱れ一つない制服の袖を整えながら、にこりと笑った。

「開きました」

「開きました、じゃないんですよ!!」

私は思わず叫んだ。

「え!? 先輩、なにその怪力!?」

「怪力ではありません。乙女のたしなみですわ」

「何のたしなみ!?」

「和菓子屋の娘の」

「和菓子屋、そんなバトル漫画みたいな実家なんですか!?」

「お餅をついたり、小豆を運んだりしますから」

「説得力があるようなないような!」

先輩はくすくす笑った。

その笑顔はいつもの清楚な先輩そのままなのに、さっきドアを物理で突破した人と同一人物とは到底思えない。

「……幻滅しましたか?」

「するわけないじゃないですか!」

反射で言っていた。

「むしろ、なんか……すごく好きです」

「なんか、なんですか?」

「すごく、です!ギャップが!かっこよすぎて!」

先輩の目が、少しだけ丸くなった。

それから、やわらかく細められる。

「よかった」

廊下に出ようとした時、私の袖が軽く引かれた。

振り向くと、先輩がほんのり照れた顔で立っていた。

「脱出記念に、一つお願いしてもいいですか」

「は、はい」

「さっきの告白の続き、ちゃんと聞かせてください」「いま!?」

「いまです」

逃がさない、みたいな優しい目だった。

そんな目で見られたら、逃げる理由なんてどこにもない。

私は深呼吸して、言った。

「……好きです、すみれ先輩。きれいで、優しくて、たまにずるくて、あと想像の八倍くらい腕力があるところも含めて」

「最後の比重が大きいですね」

「だって衝撃だったので……」

先輩は唇に手を当てて笑ったあと、そっと私の手を取った。

細い指。

けれど、さっきドアを壊した手だと思うと不思議な気持ちになる。

「私も好きです、あやさん」

「……はい」

「ですから」

「はい」

「次に閉じ込められた時も、安心してくださいね」

「次がある前提なんですか!?」

「今度はもっと静かな場所かもしれません」

「それ、ただのデートのお誘いでは!?」

「そうとも言います」

私は真っ赤になった。

先輩はそんな私の手を、少しだけ強く握る。

「帰りに新作の豆大福、食べていきませんか」

「行きます」

「即答ですね」

「先輩も即ドア破壊でしたけどね」

「うふふ」

こうして私たちは、資料室から脱出した。

たぶん普通の恋は、ドアが開いて、光が差して、それで始まるんだと思う。

でも私たちの場合はたぶん違う。

ドアは清楚系ヒロインが力ずくで開けた。

それでも、いや、だからこそ――こんな恋も、最高にありだと思った。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。