35 3人寄れば?
魔王本陣天幕。
夜も更けていた。
外の火は落ち着き、兵の声も遠い。
その静けさを裂くように、リュミエラが駆け込んできた。
「レイゼン様に緊急の報告を!」
護衛が一歩前に出る。
「もうお休みになられる時間だ」
「構わない」
奥から、レイゼンの声が落ちた。
リュミエラが天幕へ入る。
その顔色は悪い。
目だけが異様に冴えている。
天幕の中には双子がいた。
「セレン様だけでも、すぐに魔界へお戻しください!」
ヴァイレンが顔を上げた。
「……あ?」
レイゼンが静かに言う。
「続けろ」
リュミエラは息を整えた。
「勇者が複数、同じ戦場に揃う事例を洗いました」
「記録上、確認できたのは一度だけです」
一拍。
「敗れた側が悪とされ、勇者と分からず、見落とされていました」
天幕の空気が冷える。
「今から五百年前」
「山岳王国にて、傭兵王の勇者が」
「敵対する王子から、黒い心臓を引き抜き。その直後、大破壊が発生しました」
レイゼンとヴァイレンの目が細まる。
二人とも全くそっくりな仕草、表情になる。
懸念だ。
リュミエラは続けた。
「その山岳王国は」
「今は盆地になっています」
「とても危険です」
ヴァイレンが低く吐いた。
「……マジかよ」
レイゼンは差し出された古い絵図へ目を落とす。
そこには、黒い心臓を掲げる人影が描かれていた。
心臓の中心には、光。
リュミエラが早口で言う。
「セレン様だけでも、転移門で返した方がよいです」
天幕の空気だけが重くなる。
「……これを写しておけ」
「はい!」
リュミエラがすぐに頷く。
ヴァイレンが苛立った声を出す。
「で、どうすんだよ」
レイゼンは絵図から目を離さない。
「二人でこれなら」
「三人なら、大陸が割れるやもしれぬ」
ヴァイレンが舌打ちした。
「クソが」
レイゼンが目を向ける。
「ヴァイレン」
「あ?」
「セレンを暴走させるな」
ヴァイレンが眉をひそめる。
「どうやんだよ」
「いつも通りでよい」
「なだめろ」
ヴァイレンの顔が露骨に歪む。
(今、喧嘩中なんだよ!)
だが、言わない。
いや、言ってもどうにもならないと思っている顔だった。
隅に控えていた参謀が、慎重に口を開く。
「陛下」
「ジャスティスを強制転移させるのは」
レイゼンが問う。
「どこへ」
「それこそ、魔界へ」
「勇者は追い詰めなければよいのなら」
「黒なら、人族の扱いをセレン様で慣れています」
「客、もしくは避難民として送りましょう」
ヴァイレンが顔をしかめる。
レイゼンは即答した。
「ジャスティスは、セレンほどおとなしくない」
「魔界で暴れぬ保証がない」
参謀が黙る。
レイゼンは立体図へ視線を戻した。
「ジャスティスは盾兵で囲む」
「バニングに近寄らせるな」
ヴァイレンが思わず声を上げる。
「こっちが守んのかよ!」
レイゼンは淡々と答えた。
「そうなるな」
沈黙。
勇者三人。
共鳴。
暴走。
そして、大陸が割れるかもしれない明日。
夜はまだ深かった。
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