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黒狼の航路(ブラックルート) ― 魔王戦記  作者: 一場れい
第二部 魔王戦争編

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99/100

35 3人寄れば?

  魔王本陣天幕。


 夜も更けていた。

 外の火は落ち着き、兵の声も遠い。


 その静けさを裂くように、リュミエラが駆け込んできた。


「レイゼン様に緊急の報告を!」


 護衛が一歩前に出る。


「もうお休みになられる時間だ」


「構わない」


 奥から、レイゼンの声が落ちた。


 リュミエラが天幕へ入る。

 その顔色は悪い。

 目だけが異様に冴えている。

 

 天幕の中には双子がいた。

 

「セレン様だけでも、すぐに魔界へお戻しください!」


 ヴァイレンが顔を上げた。

「……あ?」


 レイゼンが静かに言う。

「続けろ」


 リュミエラは息を整えた。

「勇者が複数、同じ戦場に揃う事例を洗いました」

「記録上、確認できたのは一度だけです」


 一拍。


「敗れた側が悪とされ、勇者と分からず、見落とされていました」


 天幕の空気が冷える。


「今から五百年前」


「山岳王国にて、傭兵王の勇者が」


「敵対する王子から、黒い心臓を引き抜き。その直後、大破壊が発生しました」


 レイゼンとヴァイレンの目が細まる。

 二人とも全くそっくりな仕草、表情になる。

 懸念だ。


 リュミエラは続けた。


「その山岳王国は」

「今は盆地になっています」


「とても危険です」


 ヴァイレンが低く吐いた。

「……マジかよ」


 レイゼンは差し出された古い絵図へ目を落とす。

 そこには、黒い心臓を掲げる人影が描かれていた。

 心臓の中心には、光。

 

 リュミエラが早口で言う。


「セレン様だけでも、転移門で返した方がよいです」


 天幕の空気だけが重くなる。


「……これを写しておけ」


「はい!」

 リュミエラがすぐに頷く。


 ヴァイレンが苛立った声を出す。

「で、どうすんだよ」


 レイゼンは絵図から目を離さない。


「二人でこれなら」



「三人なら、大陸が割れるやもしれぬ」


 ヴァイレンが舌打ちした。

「クソが」


 レイゼンが目を向ける。

「ヴァイレン」


「あ?」


「セレンを暴走させるな」


 ヴァイレンが眉をひそめる。

「どうやんだよ」


「いつも通りでよい」

「なだめろ」


 ヴァイレンの顔が露骨に歪む。

(今、喧嘩中なんだよ!)


 だが、言わない。

 いや、言ってもどうにもならないと思っている顔だった。


 隅に控えていた参謀が、慎重に口を開く。

「陛下」

「ジャスティスを強制転移させるのは」


 レイゼンが問う。

「どこへ」


「それこそ、魔界へ」


「勇者は追い詰めなければよいのなら」

「黒なら、人族の扱いをセレン様で慣れています」

「客、もしくは避難民として送りましょう」


 ヴァイレンが顔をしかめる。


 レイゼンは即答した。

「ジャスティスは、セレンほどおとなしくない」

「魔界で暴れぬ保証がない」


 参謀が黙る。


 レイゼンは立体図へ視線を戻した。

「ジャスティスは盾兵で囲む」

「バニングに近寄らせるな」


 ヴァイレンが思わず声を上げる。


「こっちが守んのかよ!」


 レイゼンは淡々と答えた。

「そうなるな」


 沈黙。


 勇者三人。

 共鳴。

 暴走。

 そして、大陸が割れるかもしれない明日。


 夜はまだ深かった。


最後まで読んでくださりありがとうございます。

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