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8 勇者Lv1−3

 黒耀城の訓練場。


 高い天井。黒い石の床。

 魔素が濃い。呼吸するだけで肺が焼ける。


「立て」


 短い命令。


 女勇者――いや、武官見習いは、膝をついたまま歯を食いしばる。


 立つ。


 全身が痛む。

 剣を握る手が震えている。


 その前に立つのは、ヴァイレン。


 黒の中でもひときわ濃い角。

 真っ直ぐで、長く、歪みがない。


 偶然ではない。




 強さは、形に出る


 魔族は、強いほど美しい。


 飾りではない。

 筋肉の付き方。骨格。姿勢。

 そして――魔素の流れ。


 無駄がない。

 体内を巡る魔素が最短で循環し、肉体を最適な形へと整える。


 ヴァイレンとレイゼンは、その極みに近い。


 見れば分かる。


 格が違う。




「剣を持て」


 ヴァイレンが木剣を投げる。


 受け取れず、床に落ちる。


「拾え」


 拾う。

 握る。

 構える。


 甘い。


 次の瞬間、衝撃。


 腹に一撃。


 視界が揺れ、空気が抜ける。


「遅い」


 怒鳴らない。

 叱らない。


 ただ、事実だけを告げる。


 何度打たれたか、もう分からない。


 数える余裕は、とっくにない。


 拾う。

 構える。

 打たれる。


 また拾う。

 構える。

 叩き落とされる。


「……っ、は……」


 息が浅い。


 胸がうまく広がらない。


 それでも倒れない。


 ――倒れさせてもらえない。


「……なぁ」


 息の合間に、絞り出す。


「……魔界って……」


「なんだ」


「……空気、薄い……?」


 ヴァイレンは一瞬だけ目を細めた。


「今さらか」


 それだけ。


 説明はない。


 だが、答えにはなっていた。




「慣れろ」


 ヴァイレンが木剣を構える。


「吸いすぎるな」


「吐きすぎるな」


「……どっちもダメってこと……?」


「そうだ」


 即答。


 一歩、踏み込む。


「だから慣れろ」


 振り下ろされる木剣。


 今度は――


 かろうじて受けた。


 乾いた音。


 腕が痺れる。


(……受けた……)


 ほんの一瞬、目が合う。


 ヴァイレンは何も言わない。


 もう一度、剣を振るうだけだ。




 気づけば、床に座り込んでいた。


 全身が痛い。


 息をするだけで軋む。


「……もう……」


 声にならない。


 ヴァイレンが近づく。


「今日はここまでだ」


 その一言で、力が抜けた。


「……殺されるかと思った……」


「殺す気はねぇ」


「……ほんとに……?」


「死なせる気もねぇ」


 背を向ける。


 そして、振り返らずに言う。


「だが甘やかす気もない」


 足音が遠ざかる。


 一人残され、黒い石の床に仰向けになる。


 天井が遠い。


 息は浅い。


 それでも。


(……生きてる)


 昨日より、少しだけ。


 そう思えた。

ここまで読んでくださり、ありがとうございます!

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