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17 蒼の影

 黒都アトラエ外縁。


 黒の巡回隊が押されていた。


 蒼の偵察兵。


 数は少ない。だが速い。


 黒兵の一人が弾き飛ばされる。


「くっ……!」


 蒼の刃が、喉元へ落ちる。


 その間に――


 割って入った影。


「下がって!」


 セレンだった。


 まだ荒い呼吸。

 それでも剣を構える。


 蒼の兵が一瞬、目を細める。


「……角がない?」


 次の瞬間、刃が走る。


 速い。


 セレンは受けた。


 受けきれない。


 脇腹に熱が走る。


「っ……!」


 赤い線が滲む。


 息が乱れる。


 足が、止まる。


 蒼の兵が踏み込む。


 終わる。


 そう思った瞬間。


 地面が、震えた。


 風が裂ける音。


 ──轟。


 何かが空を穿った。


 蒼の兵の身体が、地面から消える。


 数十歩先。


 石壁に突き刺さった。


 丈八蛇矛。


 壁を貫通して、なお震えている。


 一拍遅れて、衝撃波が来た。


「……間に合わなかったかと思った」


 低い声。


 ヴァイレンが歩いてくる。


 金の瞳が、蒼の残党を射抜く。


 誰も動けない。


 ただ、蛇矛の残響だけが空気を裂いている。


 セレンは膝をついた。


 脇腹を押さえる。


 熱い。


 息が荒い。


「……ごめ……」


 言い切る前に、視界が揺れる。


 ヴァイレンが視線を落とす。


 血。


 深いが、致命ではない。


「前に出るな」


 怒鳴らない。


 だが低い。


「弱ぇなら、後ろにいろ」


 セレンは悔しそうに歯を噛む。


 でも──


 その目は、折れていない。


 蒼の兵はすでに退いていた。


 偵察。


 様子見。


 だが。


 ヴァイレンは壁から蛇矛を引き抜く。


 石が崩れ落ちる。


「……蒼、動きやがったな」


 胸の奥が、静かに波打つ。


 共感、兄の気配。


 盤面が動いた。


 セレンの呼吸はまだ荒い。


 それでも、立とうとする。


 ヴァイレンは一瞬だけ、手を伸ばしかけて――


 やめた。


「歩けるか」


 短い問い。


 セレンは頷く。


「……はい」


 ヴァイレンは振り向く。


「次は、間に合わせる」


 それが誰への言葉かは、言わなかった。


最後まで読んでくださりありがとうございます。

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