間話 写し身
篝火の火が、ぱちりと鳴った。
セレンは訓練場の端に並ぶ兵を見て、首を傾げる。
「……皆さん、少し似ていませんか?」
言ってから、失礼だったかと思った。
だが本当に、体格も角の形も、どこか似通っている。
ヴァイレンは少しだけ黙り、肩をすくめた。
「気づいたか」
「え?」
「雑兵はだいたい写し身だ」
「写し身……?」
「分かりやすく言えば、クローンだ」
あまりにもあっさりしている。
ヴァイレンは火の前に腰を下ろした。
「魔界はずっと戦争してる。
死ぬ数と生まれる数が合わねぇ」
「だから補充する。
ある程度“使える”兵の写し身をな」
セレンは息をのむ。
「……それって……」
「普通のことだ」
短い返答。
「他所も似たようなもんだ。
だから戦が終わらねぇ」
減れば写す。
写して、また減る。
セレンはためらいながら聞いた。
「……ヴァイレン様と、レイゼン様は……?」
ヴァイレンは少し視線を上げる。
「俺と兄貴か」
一拍。
「同じ“初代ヴァーレス”の写し身だ」
「双子って呼ばれてるが、違う。
同じ腹から生まれたわけじゃねぇ」
「別の腹、別の女。
でも元は同一個体だ」
セレンは言葉を失う。
「だから分かる」
ヴァイレンはこめかみを軽く叩いた。
「兄貴が何を考えてるか。
何を感じてるか。
全部じゃねぇが、だいたいな」
「共感能力ってやつだ」
セレンはしばらく黙った。
「……じゃあ」
小さく問いかける。
「ヴァイレン様は……
“あなた”なんですか?」
写し身として。
誰かの代わりとして。
ヴァイレンはまっすぐ見返した。
「俺は俺だ」
短く、はっきりと。
「写し身だろうが関係ねぇ。
俺が決めて、俺がやる」
それだけだった。
セレンは、もう一度息をのんだ。
───
物心ついたときには、放っておかれていた。
それが普通だと思っていた。
兄貴は出来がいい。
頭も回る。魔素の巡りも綺麗だ。
家臣も教師も、皆そっちを見る。
俺は──まあ、暴れればいい。
それで帳尻は合っている。
そう思っていた。
親父が寝台から起き上がれなくなった頃。
屋敷は妙に静かだった。
廊下の奥で、足を止めただけだ。
「再臨は……二人も要らなかった」
掠れた声。
「二人も……妻を亡くした」
「……つらい」
そこで、言葉は途切れた。
俺は動かなかった。
頼んでねぇ。
俺だって。
ヴァーレスだって。
産んでくれなんて、頼んでねぇ。
その日からだ。
機嫌が、戻らなくなったのは。
俺は俺だ。
誰の写しでも、誰の代わりでもねぇ。
だが──
腹の奥には、ずっと火がある。
理由を言葉にするほど賢くもない。
消すつもりもない。
ただ、燃えている。
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