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13 教会本部──勇者が、帰らない

 ──勇者が、帰らない


 西方教会、聖王国本部聖堂。


 白い石の床に、祈りの声が低く反響する。


 だが中央に集まる聖職者たちの顔は、硬い。


「……勇者セレンより、帰還信号なし」


 祈祷長が告げた。


「転移門は維持されている。魔力反応も断絶していない」


「しかし、応答がない」


 ざわめきが広がる。


 黒のヴァーレスが魔界統一を進め、

 自ら“魔王”を名乗ったという報が届いてから、まだ日が浅い。


 だからこそ、勇者を送った。


 地上へ出る前に、討たせるために。


 諸小国からだったが、問題なく転移門は発動した。


「遅延の可能性は?」


「戦闘中では」


「試練の最中かもしれぬ」


 希望的観測が続く。


 だが奥から低い声が落ちた。


「前例がない」


 空気が止まる。


 別の神官が前に出る。


「黒の支配圏近辺で、“勇者らしき存在”の目撃報告が」


「生存しているのか?」


「処刑の情報はありません」


 小さな安堵。


 だが続く言葉がそれを凍らせる。


「捕縛された可能性が高い、と」


「……捕縛?」


「魔王が?」


 静かな動揺が走る。


「レイゼン・ヴァーレスは、王を名乗った」


「統一を進めている」


「勇者を利用し、地上へ圧をかけるつもりではないか」


 否定は出ない。


 さらに小さな声。


「……勇者が、女の姿で目撃されたという噂も」


 即座に否定が飛ぶ。


「虚言だ」


「魔界の瘴気による錯乱だろう」


「神の選びを疑うな」


 だが、完全には消えない。


 結論は一つにまとまる。


「勇者セレンは捕らわれた」


「裏切りではない」


「魔王に利用されている」


 それが教会にとって、最も整った答えだった。


「救出準備を進めよ」


「だが正面衝突は避ける」


「黒の統一はまだ完成していない。赤も抵抗している」


 一人が問う。


「……次の手は?」


 祈祷長が新たな文書を広げる。


 そこに記された、別の名。


「勇者候補は一人ではない」


「魔王が地上へ出る前に、止める」


 誰も疑わなかった。


 誰も、魔界で何が起きているのかを知らない。


 教会は動き出す。


 阻止のために。


 そして気づかぬまま、

 黒の王が敷いた盤面へ、もう一枚の駒を置いた。

最後まで読んでくださりありがとうございます。

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