12 思惑
闇の中央に、ひとつの星が浮かんでいた。
惑星アウレリオス。
音はない。
だが、圧がある。
上下も分からない空間に、ただ世界だけが在る。
「……これは」
セレンの声が、かすれた。
レイゼンは動かない。
「世界だ」
それだけ。
誇張も、演出もない。
「これが……世界……」
巨大すぎる。
美しすぎる。
思考が追いつかない。
「ここが魔界だ」
星は断面のように透け、内部構造が見える。
レイゼンが指した先――はるか下方の空洞。
地表と地底の距離は、想像を超えていた。
「……遠い」
思わず、呟く。
「教会からは転移門を使って来たな」
「はい」
「我らが同じことをすれば、宣戦布告となる」
転移は移動ではない。
侵入だ。
セレンは息を呑む。
「焦るな」
わずかに声が柔らぐ。
レイゼンは星の一点を指す。
地殻の中央。
淡い光が、いくつも明滅している。
「見えるか」
「……はい」
「ダンジョンだ」
「ダンジョン……」
迷宮。試練。死地。
「実際は、地上へ繋がる短縮門だ」
喉が鳴る。
──帰れる。
レイゼンが歩み寄る。
一歩ごとに、空気が張り詰める。
整いすぎた顔立ち。
だがそれ以上に、王の気配。
「鍵はある」
セレンは顔を上げた。
「……本当ですか」
「あるとも」
目の前で止まる。
「だが」
低く。
「お前の働き次第だ」
逃げ場はない。
拒否もできない。
セレンは視線を逸らさなかった。
「……働きます」
即答だった。
レイゼンの口元が、わずかに上がる。
「よい」
許可。
そして、試練の開始。
星は静かに回り続ける。
勇者は、もう“勇者”ではない。
ここから先は──
魔界の武官見習いの物語だ。




