49.交錯する想い
胸の奥に渦巻く感情を、もう押し殺せなかった。
翌日、翔汰はいつもより早く家を飛び出し、昨日陽咲を見かけた公園へと足を向けた。
――きっと、また来るはずだ。
そう確信していた。根拠なんてなかった。ただ、あのときの陽咲の顔が、まだ頭から離れなかったのだ。
不安げで、でもどこか救われたような笑顔。
自分には見せてくれなかったその表情を思い出すだけで、心臓が張り裂けそうになる。
昼下がりの公園のベンチに腰掛ける陽咲の姿があった。やはり、隣にはあの男――施設関係者らしき人物がいる。
翔汰の足は自然と駆け出していた。
「陽咲!」
突然の声に、二人が同時に振り返る。
陽咲の目が大きく揺れた。
「翔汰……どうしてここに。」
「どうしても、話さなきゃいけないと思った。」
声は震えていたが、視線だけは逸らさなかった。
男が静かに立ち上がる。
「彼が……翔汰くん、かな?」
落ち着いた声音に一瞬たじろぐが、翔汰は負けじと口を開いた。
「すみません。でも、これは俺と陽咲の問題です。」
その一言に、陽咲の肩がびくりと震えた。
「昨日、見たんだ。」
翔汰は息を整えながら続ける。
「……あの人と話してる陽咲を。
正直、すごく怖かった。
俺じゃなくても、陽咲を支えられるんじゃないかって。」
吐き出すように言葉が溢れる。
陽咲は唇を噛み、目を逸らした。
「翔汰、違うの。私はただ……」
「分かってる。リハビリが必要なのも、今のままじゃ未来が描けないのも。」
翔汰の声が強くなる。
「でも、だからって俺を置いて行こうとするな!」
その叫びに、陽咲の瞳から涙が零れ落ちた。
「私は……翔汰に迷惑をかけたくないの。」
「迷惑?そんなもんじゃない!」
翔汰は一歩踏み出し、震える陽咲の手を掴んだ。
「一緒に生きたいんだ。
どんな不安も、痛みも、全部背負ってでも。」
沈黙を破ったのは、男のため息だった。
「……なるほど。二人の覚悟は、本物のようだね。」
静かに鞄を持ち上げ、翔汰に視線を向ける。
「彼女を支えるのは、君の役目だろう。
私はただ、選択肢を示しただけだ。」
そう言い残して、男は去っていった。
二人きりになった公園で、陽咲は震える声を漏らす。
「どうして……そこまで。」
翔汰は強く手を握り返した。
「決まってる。俺の未来には、陽咲がいるからだ。」
涙に濡れた瞳が、初めて真正面から翔汰を見た。
揺れる想いが、ようやく重なり合う。




